三菱みらい育成財団では、さまざまな立場の助成先や、3年間の助成を終えたアルムナイの皆さまが集まり、学び合い、新しいアイデアを生み出す機会として、オンライン/リアルの交流会を年4回実施しています。4月は16日・24日の2日にわたり、ゲストをお迎えしてオンラインによる交流会を実施しました。オンライン交流会は、平日の夕方に開催し、職場から気軽に参加いただける場となることを目指しています。
チェックイン
当財団の研究員である石黒和己(いしぐろわこ・NPO青春基地創業、理事)がファシリテーターを務めて会はスタートしました。まずチェックインとして、参加者の皆さんに「何回目の参加?」「最近のグッドニュースは?」など簡単な質問を投げかけ、Zoomのチャットに書き込んでもらいました。その後、みんなで伸びをして一度リラックスしてから、改めて「今回の交流会で目指すこと」などの質問と、それに対する回答、今日投げかけたい問いを文字にして書き出す「ジャーナリング」を実施。自分自身の思考を整えてもらってから、オープンダイアログをスタートさせました。(以下、敬称略)
4月16日 オープンダイアログ
認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの川添華子氏から同法人での取組みをご紹介いただいた後に、司会の石黒との対話が行われました。
ゲスト
認定NPO法人全国
こども食堂支援センター・むすびえ
川添華子
氏
大学卒業後、通信社等で勤務。夫の転勤に伴い海外で子育てを経験したことをきっかけに、日本の「孤育て」環境を少しでもよりよくしたいと、十数年間子育ての頼りあいコミュニティづくりに従事。現在は、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえで、地域学校協働プロジェクト等を担当。
プログラム名
こども食堂・学校架け橋プロジェクト
「こども食堂を通じた地域探究学習」
プログラム
プログラムの詳細はこちらから
こども食堂の支援と地域探究学習を組み合わせた取組み
2012年に産声を上げたとされる「こども食堂※」は、おなかをすかせた子どもへの食事提供から、孤食の解消、滋味豊かな食材による食育、地域交流の場づくり等を目的に急激に広まり、わずか10数年の間に1万2,000カ所以上、公立中学校の数を超えるまでになった。家でも学校でもない「第三の居場所」としての役割も注目され、地域全体で子どもたちの学びや成長を支えるためには、学校とこども食堂の連携強化が求められている。
2018年、「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる。」というビジョンの下に設立された認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえが行っているのは、こども食堂それぞれの運営自体ではなく、全国に400以上もある「こども食堂地域ネットワーク団体」と連携し、各地域のこども食堂の立ち上げ支援や運営者同士のネットワークづくり、行政や関係団体との連携、寄付・物品の仲介、情報提供など、幅広い範囲での中間支援だ。そのむすびえが、こども食堂と学校との協働をテーマに2024年にスタートさせたのが、「こども食堂・学校架け橋プロジェクト」(以下本プロジェクト)だ。2年目の2025年には三菱みらい育成財団の助成を得て5地域で13校・200人以上が参加するプロジェクトにまでなった。
本プロジェクトでは、まず協力してくれる地域ネットワーク団体を募集し、その後学校を募集しながら地域的なマッチングを図る。参加する小中高生などに対しては、「知る」「体験する」「実践する」「振り返る」という4つのステップでプログラムを進めていく。「知る」では、こども食堂についての講義や動画、読書会などを行い、「体験する」では実際にこども食堂に行ってみる。そして「実践する」では、いよいよ自分たちでこども食堂をやってみたり手伝ったり、自分たちが考えた遊びのプログラムを提供したりした後に、そうした体験からどんなことを学んだかを「振り返る」というステップだ。
一口にこども食堂と言っても、地域によって多様な課題があり、それぞれの地域団体の得意分野、学校による活動の規模や特色などを考慮すると、同じ活動は一つとしてない。そのためプログラムの途中には、それぞれの地域をオンラインで結んで、活動を紹介し合うという試みも行われている。
※こども食堂とは 子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂。食事提供だけでなく、孤食の解消や地域交流の場としても機能している。地域住民やボランティアが自発的に運営し、子どもから高齢者まで集う地域の居場所となっている。月1回開催から毎日3食を提供しているところ、数人を対象としているところから毎回数百人が集まるところまで、その活動は実に多様だ。
ダイアログ(ダイジェスト版)
石黒 こども食堂と聞くと、生活に困窮している家庭の子どもに食事を提供する場と考える方が多いかと思います。
川添 プログラムに参加する高校生も、多くはそういうイメージを持っています。でも、こども食堂は決して食べるだけの場ではありません。幅広い世代の人たちが食を通じて交流する居場所なんです。地域のにぎわいづくりや高齢者の生きがいづくり。また子育てで疲れた親御さんが、少しの間子どもを預けてゆっくりとご飯を食べられる場でもあります。フードロスの観点からも、お店に並ばない食材が提供される仕組みがあったり、さまざまな地域の課題の入り口を知ることができる場になっています。
石黒 この教育プログラムは、むすびえさんが特定のプログラムを作って提供しているわけではなくて、地域のこども食堂の皆さんと高校生が協力して行っているわけですよね。
川添 ある高校の探究授業を直接お手伝いした際は、作り込んだプログラムも提供しましたが、本プログラムは全国の地域ネットワーク団体と高校のマッチングが目的ですから、詳細はそれぞれ当事者として考えていただいたほうが、地域にも根付きますし、長く必要とされるケースが多いと感じています。もちろん、プログラムの大枠や教材、ワークショップのツールなどを提供させていただく事例もあります。
石黒 プロジェクトに参加する高校側も、全校的、興味のある生徒さんだけ、課外活動的など、参加の仕方はさまざまなようですね。
川添 どんな取り組み方がそれぞれの学校、こども食堂にとっていい形なのかということを、毎回トライ&エラーを重ねながら模索しています。
石黒 参加された高校生の変化などで、感じられたことはありますか。
川添 あまり関心がなさそうだった子が、「こんなに優しい大人たちが日本中にたくさんいるんだ」ということに驚き、活動にも強い興味を示してくれたことがありました。ただ、活動の中で自分の居場所が見つけられない、子どもたちとうまくコミュニケーションが取れないなど、モヤモヤした気持ちを持つ子も少なからずいるんです。そうしたモヤモヤ感も一緒に受け止めて考えることで、さまざまな気づきが生まれると思っています。
石黒 それこそが生きた学びですね。きっちりと作り込んでいないからこそ自由な余白も生まれる。
川添 こども食堂にとっての日常的な活動に入り込んで役割を見つけたり、与えられたりしながら関わるというのが、高校生にとっても嬉しいのでしょうね。プログラム終了後も、継続して繋がっている例もあるようです。見学だけでは見えてこない、自分がどんな動きをすると喜んでもらえるかを考えながら、自分の価値を提供するという体験は、他では得難いものだと思います。
石黒 さまざまな人を巻き込むのが上手でパワフルな方たちが、各地にいらっしゃるのでしょうね。
川添 全国に1万2,000カ所もあるのですから、学校の近くにも必ずあるはず。「学校とうまく連携が取れない」という悩みも、たくさん伺っています。地域の中の多様な方の居場所ですから、高校生にとっても先生方にとっても大切な居場所。ぜひ教育の場としても積極的に利用していただければ嬉しいですね。
4月24日 オープンダイアログ
東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院の三ツ堀広一郎教授と岡田佐織准教授から同大学での取組みをご紹介いただいた後に、司会の石黒との対話が行われました。
ゲスト
東京科学大学
リベラルアーツ研究教育院
三ツ堀広一郎
教授
早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は現代フランス文学。東京科学大学での教育活動に加え、学会発表や研究ネットワークを通じて、国内外の学術交流にも貢献。訳書に『二十世紀 フランス小説』(ドミニク・ラバテ)などがある。
ゲスト
東京科学大学
リベラルアーツ研究教育院
岡田佐織
准教授
東京大学教育学部教育行政学コース卒業後、地方自治体勤務を経て東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。ベネッセ教育総合研究所等を経て現職。専門は「教育行政学、高等教育」。共著に『「学びと成長の可視化」からその先へ』など。
プログラム名
「志」を育む東京工業大学(東京科学大学)
リベラルアーツ教育プログラムの発展
―専門性をもった文理共創人材の
育成を目指して―
プログラムの詳細はこちらから
理系大学における学び合いの
リベラルアーツ教養教育
2024年に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生した東京科学大学。統合前から両校間で教養教育の融合に向けた協議が進められ、双方の初年次教育の特色を融合した新「立志プロジェクト」を全ての新入生が同一キャンパスで履修することとなった。本プログラムは、新「立志プロジェクト」をはじめとする「教養コア学修科目の強化」、複専攻に準じるインテンシブプログラム「リベラルアーツ探究プログラムの創設」、チューターによるサポート体制やwebサイトでの教材・情報提供等の「学習教育支援体制の構築」という三本柱を掲げている。「教養コア学修科目」とは、旧東京工業大学において実施されていたリベラルアーツの必修科目群で、2028年度のカリキュラムの本格統合に向けて検討が進められているところだ。
「立志プロジェクト」は、1年次の第1クォーターである4・5月に週2回行われる科目。木曜にオンデマンドで講義・対談動画を視聴し、その内容を受けて翌月曜に旧東京工業大学の大岡山キャンパスに全1年生1,500人が集まり、4人ずつの対話によるグループワークが行われる。この少人数の対話によってそれぞれが考えを深め、最終的に各クラスでプレゼンテーションを行うという二段階の学びだ。また、課題図書リストから選んだ本の書評を各人が書く「書評セッション」というワークも行われている。
「教養卒論」は3年次後期に行われる科目で、現時点では理工学系の学生1,200人が対象となっている。こちらも月・木の週2回実施で、木曜は論文執筆のためのライティングスキルの習得に関するオンデマンド講義。月曜は60名規模のピアレビュークラスを作り、学生同士がお互いの論文の原稿を読んで批評し合い、書き手としての自立を促しながら論文を完成させていく。また、そのピアレビューを通じて、創発的な場づくりのスキル獲得も目指している。
「立志プロジェクト」と「教養卒論」の間をつなぐ科目として設定されたプログラムが、1~3年次に履修する「リベラルアーツ探究プログラム」。プログラムの導入科目「リベラルアーツ探究ワークショップ」で自身の関心を掘り下げながら探究の技法を学び、自身で定めたテーマと研究計画に沿って探究活動を進め、3年次には教員の個別指導を受けながら論文を執筆する。
こうした同学のリベラルアーツプログラムは、学生同士の学び合いを大事にしている点が大きな特徴。学部や学科の異なる学生同士がひざを突き合わせて議論するだけでなく、大学院で「ファシリテーション実践」を受講した院生が「立志プロジェクト」にファシリテーターとして参加して1年生をサポートしたり、「ピアレビュー実践」を受講した院生が「教養卒論」にレビューアーとして参加して3年生をサポートしたりする。このように、学年や専門の垣根を越えて学びのコミュニティを構築している点が、本プログラムの特筆すべき点と言える。
ダイアログ(ダイジェスト版)
石黒 このプログラムに関して一番大切にされていることは何ですか。
三ツ堀 「楽しくやる」の一言です。教養科目は「強要」科目で、必修だから仕方なくやっているという学生もいます。でも授業を進めていく中で、「自分の考えを文章化していくのは、思った以上に楽しい」という声を複数の学生からもらったことがあり、その時に「楽しくやる」ことが学問における一番のキーワードだと思い知らされました。
岡田 私は自分の内側から出てくる問いや疑問、怒り、熱中する気持ちなどに対して、一度正面から取り組んでほしいという思いですね。そうすることで自己を知り、他者を知り、世界を知るということを、学問のプロセスの中で体験してほしいと思うんです。
石黒 そもそも専門性の高い大学の学びの中で、教養教育はなぜ必要なのでしょうか。
三ツ堀 専門を極めるのは非常に大事なことですが、それを社会に向かって語りかけるという知的態度を獲得するのも重要なことです。それが教養教育の意味なのかなと思っています。
岡田 極めた専門性を社会につなげていくための素地として、社会を理解し、人や自身に対する信頼を確立するのに必要なのが教養教育ではないかと思っています。
石黒 プログラムはどのような体制で運営されているのでしょう。
三ツ堀 リベラルアーツ研究教育院という、主に人文社会系・文理融合系の教員の集まりが主体となっていて、その教員がほぼ総出で各クラスを担当するという体制です。ただ、それぞれ専門も違いますので、細かな進め方は各教員にお任せしています。
岡田 院内で組織した6~7人のワーキンググループで大枠は作りますが、各先生にはその枠のもとで、個性を存分に発揮してもらうようにしています。教員間・科目間の調整や事務職員の方との連携は、私ともう一人の担当の鈴木健雄先生が担当し、授業の進行や教材制作などクリエイティブな部分に先生方の強みを集中していただけるようにしています。
石黒 高校での探究活動が盛んになっていますが、入学してくる学生の変化は感じられますか。
岡田 ここ数年、プレゼン技術も圧倒的に向上していますし、高校での探究活動の成果はひしひしと感じています。高校での変化は、確実に大学に繋がっています。
石黒 それは今回参加している高校の先生方にとって、とても嬉しいコメントでしょうね。このプログラムをブラッシュアップしていくために、取り組まれていることはありますか。
三ツ堀 同じような取組みをしている他大学の先生方のお話を聞いたり、授業を拝見したりしています。具体的に何が参考になるかということ以上に、まず励みになりますね。もう一つは学生からの学び。授業後に書いてもらうフィードバックシートやコメントから学ぶことは非常に多いです。
岡田 私も学生からの反応が一番大きいですね。「専門科目以外の授業なんていらない」というような声も聞き、ダメージを受けた時期もあったのですが、ある学生にインタビューをした時に「教養卒論が私の転換点になった」というコメントを聞いて立ち直ることができました。
石黒 お二人とも学生たちの声が一番ということですね。ありがとうございました。
ブレイクアウトルーム
ディスカッション
&クロージング
16・24日ともに、オープンダイアログ終了後は、4~5人のグループに分かれ、ディスカッションを実施。自己紹介に続き、オープンダイアログについての感想や今取り組んでいること、ジャーナリングの内容、また各自が抱えている問いに対する質問や感想などを語り合いました。
16日はダイアログのテーマとなった「こども食堂」について話し合うグループが多く見られました。「地域のこども食堂と探究活動に取り組んだが課題が多く、勉強会のみになってしまった。うまく協力する方法を知りたい」「子どもが気軽に集まれる場所が少なくなり、危険な場所に行ってしまうケースもある。こども食堂がその抑止力の一つになれば」「高齢者の孤立化の解決策にもつながる」「高校でファンドレイジングなどを考えてもいい」「学校の食堂でこども食堂を行うこともできる。学校をもっと地域に開く工夫も」といったさまざまな悩みや意見が交わされました。
24日は、オープンダイアログのゲスト・東京科学大学の岡田さんが参加したグループでは、「立志プロジェクト」の設計上のポイントについて質問がなされ、岡田さんは毎回同じスタイル(講師の話+グループ意見交換)を継続すると、学生は何を求められているかが分かってくるので、試行錯誤やチャレンジする場面が増えると感じていると回答。また逆に岡田さんからは「問いを見つけるための工夫」について参加者に問いかけをし、高校や教育支援企業としての立場からの事例を各々紹介した。
その他に取り上げられたテーマではAIに関するものが多く、高校生がAIを使う際のリテラシーについての悩みから、実際問いかけの壁打ちとしてAIを活用している事例の紹介など、AIが当たり前になってきた時代における教育、ひいては教員の価値について話し合うグループが多く見られました。
どのグループも、高校、大学、教育事業者などカテゴリーの枠を超えて事例や知見などが共有され、盛り上がりを見せていました。
最後に当財団の常務理事である妹背正雄より閉会のあいさつをさせていただきました。 4月16日は53名、24日には62名の方にご参加いただきました。皆様、お忙しい中、ありがとうございました。次回の交流会にもぜひご参加ください!
ダイアログの記録動画はこちらから
上記の記事はダイアログのまとめです。4月16日・24日の記録動画は 「助成先・アルムナイ専用ページ」、もしくは下のQRコード(専用ページへのログインが必要)からご覧いただくことができます。詳細をご覧になりたい方はぜひアクセスしてください。
※当財団の助成先、もしくは
アルムナイの方のみご覧いた
だけます。