三菱みらい育成財団では、さまざまな立場の助成先や、3年間の助成を終えたアルムナイの皆さまが集まり、
学び合い、新しいアイデアを生み出す機会として、オンライン/リアルの交流会を年4回実施しています。
11月は12日・21日の2日にわたり、ゲストをお迎えしてオンラインによる交流会を実施しました。
オンライン交流会は、平日の夕方に開催し、職場から気軽に参加いただける場として開催しています。
チェックイン
会の前半は助成先やアルムナイのゲストをお迎えしてのオープンダイアログ、後半は4~5人ずつのグループに分かれてのディスカッションを行いました。ファシリテーターは、当財団の研究員である石黒和己(いしぐろわこ・NPO青春基地創業、理事)が務めました。まずはチェックインとして、参加者の皆さんに「最近のグッドニュースは?」などの質問を投げかけ、Zoomのチャットに書き込んでいただきました。緊張がほぐれたところで、改めて「今年チャレンジングだったこと」「モヤモヤ、ぐるぐるしたこと」などの質問をさせていただき、それに対する回答と、今日投げかけたい問いを文字にして書き出す「ジャーナリング」を実施。自身の問いが明らかになってきたところで、オープンダイアログのスタートです。(以下、敬称略)
11月12日 オープンダイアログ
犬山総合高等学校の奥村教頭から同校での取組みをご紹介いただいた後に、司会の石黒との対話が行われました。
ゲスト
愛知県立犬山総合高等学校
奥村高志
教頭
大学卒業後、システムエンジニアとして働きながら教員免許を取得。犬山高等学校(12年)、岩倉総合高等学校(1年)を経て、2023年に県立高等学校再編将来構想による学科改編で生まれ変わった犬山総合高等学校・総合学科(旧 犬山南高等学校・普通科)に教頭として赴任。
プログラム名
探究学習を軸としたカリキュラムの実践
による「チェンジメーカー」の育成
~ビジネス/デジタルの力で
地域の課題解決に挑む~
プログラムの詳細はこちらから
犬山総合高校での取組み
「教育困難校」と言われ、深刻な定員割れで統廃合を検討されていた犬山南高校が、普通科から総合学科へ改編し、犬山総合高校として生まれ変わったのは2023年だった。新たなスタートに当たって掲げた目標は以下の4つ。
「時代の変化・地域の課題に対応した新たなタイプの学校」
「デジタル社会に必要なDX人材の育成」
「起業家的精神を身につけた人材の育成」
「生徒の新たなチャレンジを全面的に支える学校」
これらを達成するために必要とされる生徒像を「チェンジメーカー:あらゆる課題を自分事としてとらえ、自分や社会を変えてみんなを幸せにする人」と定義し、このビジョンを教職員、生徒、保護者、地域住民と共有している。
ビジネス系やデジタル系の専門科目を増やすなど、生徒一人ひとりの興味関心に対応し、幅広い進路選択が可能なカリキュラムが特徴となっている。1年生は全員で共通科目を履修するが、選択科目の割合は、2年生で約半分、3年生になると約7割と段階的に増えていく。
こうした教科横断型のさまざまな学びを実践する場として機能するのが、「地域探究」と称して、PBLを軸に3年間を通じて系統立てて行われる探究活動だ。1年生は犬山市役所と連携して地域課題の学習を行い、探究活動に必要な一連のステップを体験する。2年生は8テーマ42チームに分かれ、地域の企業や団体と連携して地域密着型プロジェクトを行う。3年生になると生徒自らが自由に企画・調整して行うPBLを展開している。
再編してから3年が経ち、アンケートからは生徒たちの地域課題や社会課題への関心が高まり、地域や学校への帰属意識が向上していることが分かる。また、進路選択の幅も広がり、普通科時代に比べて多様な進路が見られるようになった。校内のリソースだけでは難しい地域連携業務に関しては、外部から募った地域連携コーディネーターを配置し、支援体制の強化を図るなどの対応を進めている。
しかし一方で、必ずしも全員が探究学習に前向きに取り組めているわけではないという課題も存在する。そうした不登校傾向や配慮が必要な生徒への対応として、心理的安全性を重視した環境整備を進めるために導入しているのが「ポジティブ行動支援(SWPBS)」だ。「誰一人取り残さない」を合言葉に、生徒の望ましい行動に焦点を当てた教育文化を醸成することで、生徒が主体的に挑戦できる安心安全な学校づくりを進めている。
ダイアログ(ダイジェスト版)
対談中に続々とチャットに書き込まれた参加者の皆さんのコメントも併せてご紹介します。
石黒 新しい学校づくりをする上で一番効果的だったことは何ですか?
奥村 一番影響があるのは他校の視察ですね。赴任当初に視察に行った際、生徒が自分の将来や実践している活動について夢中でしゃべる姿を見て「これだ!」と思いました。その後、学校づくりにおいて新たな動きが必要だと思うたびに、さまざまな先生と視察を繰り返し、それがいい流れになっています。
視察先はどんな観点で、どんな誘い方をされているのか気になります。
視察先をどのように探してこられるのか教えてもらいたいです。
奥村 視察先はネットで調べて「ここ面白そうだな」と思う学校に電話しています。視察メンバーは、一応行きたい人を募っていますが、あまり関心がなさそうな先生にも声掛けしていることも多いですね。
石黒 他の先生方も積極的に巻き込むことで、生徒だけじゃなく先生方も学習する集団になる。すごく面白い試みですよね。
奥村 活動の中心にいる先生だけではなく、視察するメンバーを次第に広げるようにしています。視察に行くと、何かしらのスイッチが入るんですよ。だから、スイッチをもう少し入れてもらいたいなと思う先生を誘って、道中にもいろいろな話をしながら回るっていうのが、今は楽しみです。
SWPBSについて具体的にどのような行動変化が必要だと感じられていますか?
SWPBSでの行動支援の具体例を伺ってみたいです。
「望ましい行動」の設計においては、学校全体ですんなり合意できましたか?
石黒 ポジティブ行動支援(SWPBS)にと出合ったきっかけは何ですか?
奥村 本校の校長が生徒への支援に大変熱心で、「安心安全な学校を作る」ことを重点目標に置くと常に言われています。特別な配慮が必要な生徒もいるため、「誰一人取り残さない」ためにはどうするかと、皆でリサーチした結果、いくつかのSWPBSのガイド本を見つけ、今はプロジェクトチームのようなものを立ち上げて試しているところです。
石黒 具体的にどんなことをやろうとされているのかという質問が来ています。
奥村 SWPBSについてざっくりと説明すれば、人間は良い行動と悪い行動を同時に行うことはできないというもの。良い行動を増やしていけば、自然と悪い行動が減っていきます。望ましい行動ができた時に教員が褒めたり、認めてあげたりすることで、生徒の意識も変わり、自然と悪い行動をしなくなります。褒めるのも声かけだけじゃなくて、シールを貼ったり、「いいね」カードを渡したりして生徒の頑張りを可視化しています。
石黒 そのような活動で、どういう変化が生まれてくるのでしょう。
奥村 最終的なゴールは学校の文化を変えていくことですが、それはすぐに目に見えるものではなく、徐々に変わっていくものだと思っています。そういう仕掛けを学校全体で作っていくことで、先生一人ひとりが生徒とポジティブに関われるようになる。そうなって初めて、心理的に安全性の保たれた学校が出来上がり、生徒ものびのびと、先生も楽しく働けるようになると考えています。どうしても正解に持っていかなきゃいけない、結果を出してあげなきゃいけないと悩む先生もいます。そういう先生に、一緒に楽しんでできればいい、別に失敗したっていいという気持ちで取り組んでもらいたいと考えています。
地域連携コーディネーターの方はどのように見つけられたのでしょう?
コーディネーターさん、うちも喉から手が出るほど欲しいです。
奥村 人選には苦労しましたが、「地域のことをすごく分かっていて、かつ学校教育に思い入れがあり、キャリア支援のできる方いませんか?」というすごく無茶ぶりに近いオーダーを、市役所から委託を受けている団体にぶつけてみたら、ぴったりの方が見つかったんです。今、週の半分ぐらい来ていただいて、特にフリーテーマで探究活動をしている3年生はすごく助かっています。
石黒 それはまさに運命的な出会いでしたね。最後に皆さんに一言お願いできますか。
奥村 今日のような出会いも含めて、ちょっとしたつながりの中に、学校を変えていくヒントは埋まっていると実感しています。だから、教員がもっと外に出なくてはいけないと心から思っています。
石黒 先生の学校も、視察を受け入れていただけますよね。
奥村 もちろん、行ってばかりはいられませんので、もし本校にいらっしゃっていただけるなら、全校を挙げて歓迎いたします。
11月21日 オープンダイアログ
大島高等学校の中渡瀬将之教諭から同校での取組みをご紹介いただいた後に、司会の石黒と3人での対話が行われました。
ゲスト 鹿児島県立楠隼中学校・高等学校 貴島邦伸 校長
奄美群島高校探究コンソーシアム元会長・鹿児島県立大島高等学校元校長 奄美大島の中学校を卒業後、県本土の高校へ進学。大学卒業後は鹿児島県の教員となる。2023年に40年ぶりに大島に戻り2024年度まで大島高校の校長を務めるとともに、奄美群島高校探究コンソーシアムの設立に尽力。
ゲスト 鹿児島県立大島高等学校 中渡瀬将之 教諭
奄美群島高校探究コンソーシアム事務局長 高校まで鹿児島県に在住。関東の大学を卒業後、横浜市の教員として10年以上勤務。その後、地元鹿児島に戻り、大島高校は最初の赴任地。奄美群島高校探究コンソーシアムの立ち上げ時より事務局長を務める。
プログラム名
【2022年度 プログラム】
奄美から日本へ、奄美から世界へ ~奄美の高校生による課題研究発表会~
プログラムの詳細はこちらから
【2025年度 プログラム】
地域づくりフィールドワーク
プログラムの詳細はこちらから
大島高校での取組み
奄美群島内9つの高校の中核学校として、地域の学びをリードする大島高校。「持続可能な奄美を牽引するリーダーの育成」を目標に掲げ、探究学習にも積極的に取り組んできたが、離島という地理的条件から、「大学との連携が難しい」「発表する機会が限られている」という課題があった。
課題解消の出発点として、2022年度に行ったのが奄美初の探究合同発表会。これまで行われていた校内発表会に群島内から3校を招くとともに、指導助言講師として大学教授を招聘。発表後には交流会も実施した。これにより一定の成果は得られたものの、生徒の多様な研究テーマをサポートするためには専門家による継続的な関わりが必要になるという課題が、改めて見えてきた。
そこで同校が着目したのが「関係人口」というキーワードだった。世界自然遺産として学術的にも注目され、毎年多くの研究者が訪れる奄美群島には、外部から訪れて地域と多様に関わる「関係人口」が多い。早速、島を訪れている大学に連携を相談したところ、「一校ではなく奄美全ての高校が一緒ならば連携も考えられます」という助言を得た。これを基に構想したのが、群島の高校が連携し、島を訪れる研究者や大学と協働して、高校生の探究を支援する「奄美群島高校探究コンソーシアム」だ。その際に貴島校長が掲げたビジョンが、「来島した研究者たちと群島の高校生が共に探究し、その経験を通して、高校生が自ら島の未来を描き出す姿」というものだった。他の8つの高校からもすぐに賛同を得られ、構想がスタートした。群島の高校が一つにまとまったことから、外部の連携・支援してくださる大学・団体等が一気に増え、現在は8つの大学研究機関と研究者を有する地元企業1社が参画している。登録研究者は60人を超え、専門分野や支援可能な内容、来島予定などの情報データベースを各高校で共有した結果、活用事例も順調に増えている。
また、高校間の交流促進を目的に「高校生サミットIN奄美」という研究発表大会も2023年に創設した。群島内の9高校だけでなく、県外のSSH校や大学教授も招待。地域からの支援も広く呼び掛けた結果、2024年度には18団体からの協賛、35団体からの後援を得る一大イベントに成長した。こうした一連の取組みは外部からも高く評価され、独立行政法人 教職員支援機構(NITS・ニッツ)が主催するNITS大賞を受賞。こうした成果により、奄美群島全12市町村で構成される奄美群島広域事務組合からの補助金交付も決定し、研究者のデータベースも全自治体と共有することになった。もともとは、一つの学校の課題解決から始まった取組みが、高校、自治体、研究者が三位一体となった地域ぐるみの人財育成と地域振興の取組みへと発展していった。
2025年度からは、奄美大島各地域のまちづくりに、同校の生徒がさまざまな形で関与していく「地域づくりフィールドワーク」という活動もスタートした。こちらでも必要に応じてコンソーシアムを活用し、研究者や専門家にアドバイザーを依頼していくという。
ダイアログ(ダイジェスト版)
対談中に続々とチャットに書き込まれた参加者の皆さんのコメントも併せてご紹介します。
コンソーシアムを組むのに苦労されたことはありますか?
コンソーシアムを組む際に、特にハードルが高かったことを教えてください。
石黒 コンソーシアムに関する質問が多く来ています。この発想はどうやって生まれたのですか?
奥村 探究学習を進めていく上で、大学との連携は大事ですが奄美には大学がない。さらに言えば、我々は公務員ですので転勤があります。属人的ではなく組織同士として大学とつながることができないかと考え、来島していた東京大学大気海洋研究所に相談してみたところ、「奄美の高校全てがまとまってくれれば」という話になりました。これは必ずできると思って、コンソーシアム構想を企画し、次の日には、中渡瀬先生をはじめ、探究学習の担当者を集めて話をして生まれたのが、研究者のデータベースを作るというアイデアです。校内で話し合った1週間後に、群島全ての高校の校長が集まる会があり、お話ししたところ、ものの5分もしないうちに「それはいい、やろう」と、皆さんが言ってくれました。
これまで奄美群島の高等学校での連携はどうだったのでしょうか?
自治体や地域との連携が具体的にはどのように進めていかれたのか、知りたいです。
中渡瀬 本校と地域とのつながりは、元々深かったと思いますが、広域的な連携となるとやや薄かったと思います。それでも、さまざまな方を巻き込んでいくうちに徐々に体制が整っていくのを感じました。
石黒 さまざまな人を巻き込んでいく上で、必要なことは何でしょう?
貴島 とにかく実際に動いてもらうことですね。何かしらの役割を担当していただき、参加してもらう。島の人たちも高校生と一緒に活動するのは楽しいんですよ。高校生たちと交流したり、高校生の発表を聞いて質問をしたりという場面をたくさん設定しました。
中渡瀬 奄美は、ラジオや新聞、ケーブルテレビなど、地元メディアが結構あるので、そういうメディアには積極的に情報提供しました。またプロモーションビデオを制作するなど、認知度を高める工夫も行いました。
多くの団体から協賛や後援を頂き、地域からの支援につなげられた点がすばらしいと思います。
石黒 資金調達も大きなポイントかと思います。当初から意識して取り組まれたのですか。
貴島 民間からの支援ももちろんですが、全ての高校で取り組む活動ですので、やはり公的支援を頂きたいと思っていました。中でも奄美12市町村からの後援は目標にしていたので、2023年の「第1回高校生サミットin奄美」開催時には、12市町村から後援を頂くとともに、ご招待しました。またユーチューブでサミットの様子を配信しました。できるだけ多くの方々に島の高校生達の島への思いを見ていただこうと考えました。
石黒 高校を超えた取組みだからこそ、全体で使える予算も作ろうという発想だったわけですね。
貴島 そうです。面白かったのは、後援をきっかけに、来島する研究者のデータベースを自治体とも共有したことです。実は市町村も地域課題を解決する上では、研究者の助言も必要で、お互いにウィンウィンの関係になりました。
石黒 貴島校長は他校に転勤となりましたが、影響はありませんか。
中渡瀬 リーダーが変わったのは間違いないのですが、2年間で組織同士のつながりがしっかりできています。今はいかに中身を充実させていくか、具体的に何ができるかということを中心に考えています。
石黒 最後に、お二人が今一番熱意を持って取り組んでいることを教えていただけますか。
貴島 私は他校の校長になりましたが、学校が変わってもさまざまな方々からの支援をいただきながら、連携し続けるということに変わりはありません。いろいろな人とつながる、また人と人とをつなげながら、さまざまなことに取り組んでいきたいと思っています。
中渡瀬 私はとにかく今の取組みが奄美のためになってほしいという思いでいっぱいです。私もいつか異動になりますが、この取組みが地域にとってかけがえのないものになってほしいと願い、皆さんのご意見を伺いながら走っています。
ブレイクアウトルーム
ディスカッション
&クロージング
12・21日ともに、オープンダイアログ終了後は、4~5人のグループに分かれ、ディスカッションを実施。自己紹介に続き、オープンダイアログについての感想や今取り組んでいること、ジャーナリングの内容、また各自が抱えている問いに対する質問や感想などを語り合いました。自身が抱えている課題として、外部機関との連携や生徒のスイッチの入れ方、生成AIの活用状況、助成金の活用やその後の自走策などがテーマとして出され、メンバーから参考となる事例やヒントが共有されました。また21日は、ダイアログに紐づくテーマとして「属人化からの脱却」について話し合うグループが見られ、探究学習や外部連携が特定の教員の熱意や努力に依存している現状や、教員の異動が活動の停滞や消失につながるリスクが指摘されました。それに対して、奄美高校の事例のような「属人」から「属組織」への移行、活動内容のデータベース化など引き継ぎやすい工夫、管理職のより強いリーダーシップなどが必要という意見が出されました。高校、大学、教育事業者などカテゴリーの枠を超えて事例や知見などが共有され、どのグループでも盛り上がりを見せていましたが、ディスカッションの時間はあっという間に終了。「もう少し時間が欲しかった」という声も聞かれましたが、その続きは助成先・アルムナイ向けのSlackで語っていただきました。
最後に当財団の常務理事である妹背正雄より閉会のあいさつをさせていただきました。 平日の夕方にもかかわらず、11月12日は49名、21日には68名の方にご参加いただきました。皆様、お忙しい中、ありがとうございました。次回の交流会にもぜひご参加ください!
ダイアログの記録動画は
こちらから
上記の記事はダイアログのまとめです。11月12日・21日の記録動画は 「助成先・アルムナイ専用ページ」、
もしくは下のQRコード(専用ページへのログインが必要)からご覧いただくことができます。
詳細をご覧になりたい方はぜひアクセスしてください。
※当財団の助成先、もしくは
アルムナイの方のみご覧いた
だけます。