カテゴリー 12022年採択

鹿児島県立大島高等学校

対象者数 400名 | 助成額 200万円

http://oshima.edu.pref.kagoshima.jp/

Program奄美から日本へ、奄美から世界へ
~奄美の高校生による課題研究発表会~

 自然豊かな奄美群島に住む高校生の多くは、島の自然や人の温かみを大切に思い、奄美群島が持続可能な発展を続けていくために必要なことを常に考え「総合的な探究の時間」に取り組んでいる。しかしお互いの研究を発表し合い、意見を交換する場が設定できていないため、取り組んできた研究を関係者に聞いてもらったり、新たな仲間の輪を広げる機会がほとんどない。

 そこで「奄美群島内課題研究発表会」を開催し、課題研究に取り組んでいる群島内の高校生が一堂に会し(コロナ禍で集まることが難しければオンライン開催)、課題研究を発表する。大学教授や大学院生、それぞれの分野に精通した専門家を評価者として招き、研究をブラッシュアップするための指導助言を頂く。また、高校生が気軽に意見交換できる場を設定し、今奄美大島について考えていることや進路について話すことで、奄美大島の未来を考える仲間づくりを行う。

 離島に住む高校生にとっての「総合的な探究の時間」における問題点は、①大学等との連携が難しいこと、②発表する機会が限られていることである。本発表会や仲間づくりを通して、世界自然遺産に登録された奄美大島に住む高校生が、奄美の抱える課題のみならず、日本や世界に目を向けて、将来を担う人材になってほしいと強く願う。

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活動レポートReport

奄美群島の全高校と大学・研究機関等が参加するコンソーシアムを結成

  鹿児島と沖縄の間に点在する8つの有人島から構成される奄美群島。なかでも最大の面積を持つ奄美大島に位置する大島高等学校では、「持続可能な奄美を牽引するリーダーの育成」を目的とした探究学習に注力している。「⽣徒たちの学ぶ意欲やプレゼンテーション能⼒などを養う貴重な機会と捉え、積極的に取り組んできたものの、離島ならではの課題を抱えていました」と貴島邦伸校長は話す。

  一つは発表の機会が乏しいこと。奄美群島内の各高校は小規模化が進み、校内での発表会だけではモチベーションが高まらず、客観的な意見・批評を得ることも難しい。そこで、三菱みらい育成財団の助成のもと、2023年3月に群島内4校による「課題研究発表会」を開催し、大きな手ごたえを得た。

  もう一つの課題は、外部協力者の確保が難しいこと。「探究学習は生徒それぞれがテーマを設定するため、教員による指導だけでは限界があります。学外専門家の協力をお願いしたいところですが、島内に大学がないのがネックでした。しかし、2023年11月に島内で開催された東京大学大気海洋研究所のシンポジウムに参加したことで可能性を見出せました」と貴島校長は振り返る。世界自然遺産に登録された豊かな自然や、独自の文化・伝統を持つ奄美群島には、多様な分野の研究者の視線が注がれている。離島ゆえに研究員を駐在させるのが難しいため、島内に住む高校生との連携は研究者にとっても大きなメリットがある。そこで、奄美群島を研究フィールドとする研究者に協力を打診するとともに、群島内の各校に参加を呼びかけた。こうした活動に関係者も賛同し、群島内の全9高校と、鹿児島大学・東京大学大気海洋研究所・志學館大学・第一工科大学、1企業で構成された「奄美群島高校探究コンソーシアム」の誕生につながった。

学校や地域の枠を越え、互いに刺激を与え合う機会に

  2024年3月、三菱みらい育成財団や地元企業等からの協賛や後援を受けて開催した「高校生サミットin奄美」は、生徒委員長によるコンソーシアム設置宣言で幕を開けた。奄美群島全12市町村を代表して奄美市長による祝辞の後、奄美民謡のアトラクションや基調講演を経て、各校代表による課題研究発表会が行われた。発表した生徒たちは、経験したことのない規模の聴衆を前に緊張も見られたが、それぞれの成果をしっかりと発表できたことが大きな自信につながったという。また、群島内の各校からユニークな研究成果が発表され、同じ群島内でも異なる課題や視点、発想があることに気付かされた。さらに、島外から参加したスーパーサイエンスハイスクール指定校2校による発表も大きな刺激を与えた。「島外からハイレベルな高校を招待したのは、生徒たちに“井の中の蛙”になって欲しくなかったから。同世代でもこれだけのことができると実感することが、さらなる高みを目指す原動力になります」と、コンソーシアムの事務局長を務める中渡瀬 将之先生は話す。

  発表内容に対しては、研究者から専門的な知見に基づく講評があった。厳しい批評もあったが、生徒たちは「自分たちの成果を多くの大人が真剣に評価してくれている」と前向きに捉えていたという。一方で、発表を聞いた聴衆からは、「高校生がこれだけ真剣に奄美の将来を考えてくれている」という驚きがあり、大人も含めた参加者すべてが刺激を与え合う場となった。また発表会後の生徒交流会では奄美の未来について、生徒たちが真剣に語り合う姿があった。

  今後の課題は、この取組みを持続可能なものにすることだという。現在、オール奄美での支援体制づくりに向けて関係機関に働きかけている。また、個人の意欲・熱意に頼った活動では長続きしないと考え、コンソーシアムには団体として登録いただき、島外研究者とのネットワークをデータベース化するなど属人化させない仕組みも作っている。さらに、今回のサミットの熱気と興奮を、参加できなかった方々や後進にも共有してもらえるよう、映像コンテンツを作成・活用している。そこでは学校の枠を越えた交流を楽しむ生徒たちを見ることができ、「いずれは学校をまたいだグループで探究に取り組む生徒たちが出てきてほしい」との貴島校長の願いが、遠からず実現することを予感させた。

コンソーシアム設置宣言後の記念写真。コンソーシアムやサミットの関係者が一堂に会した。

発表会後の生徒交流会の様子。普段は会えない群島の高校生たちが、奄美の未来について話し合った。

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