Program女子STEAM生徒の未来チャレンジ
「みらいの扉キャンプ・みらいの扉ビジット」
理工系分野において世界に貢献する女子生徒を発掘・育成することを目標として、D&I改革を先導する東京工業大学、お茶の水女子大学、奈良女子大学が3大学合同で、全国各地より卓越した才能を有する女子高校生1、2年生50名を選抜・招待して、年1回、2泊3日の合宿形式の「みらいの扉キャンプ」を実施して、先端理工系講義、理工学実験・ものづくり実習、社会課題に関する討論と解決のグループワーク・アイデアコンテストなどの理工系の学びを実体験させるとともに、女性科学者・技術者との懇談を通じて、自身の未来のキャリアと社会貢献を想像させて、理工系キャリアの選択を促す。
また、「みらいの扉ビジット」は、各大学のオープンキャンパス等にあわせた通年開催とし、「キャンプ」に参加した女子高校生をはじめとして全国の全ての希望者を対象とし、各大学の研究室見学、特別講演等、参加女子生徒の未来につながる学びを体験できる機会を広く供与する。
さらに、「キャンプ」、「ビジット」ともに、オンラインツールにより全国に内容を発信して、極めて多くの女子生徒とその教育関係者に対して、理工系選択の促進や理工系女性人材の育成に対する啓発活動を行う。
※ 採択時の組織名は「国立大学法人 東京工業大学」



活動レポートReport
国立3大学の理工連携による全国の理系女子高校生のためのプログラム
本プログラムは、東京科学大学、お茶の水女子大学、奈良女子大学の国立3大学の理工分野連携によって実施され、全国の女子高校生に対する理工系キャリア選択の後押しを目的としている。
「以前から高校への出張授業などを開催して、理工系への進学を呼びかける試みは行っていました。本プログラムの助成応募に関しても、もともとは東京科学大学(採択決定当時は東京工業大学)単独で、女子に限らない理工系志望の生徒に向けた実習授業を企画していました」と語るのは岩附信行東京科学大学。しかし2024年2月頃、同校が総合型選抜で女子枠を設定するなど積極的に女子学生の増加を目指し始めたことをきっかけに、女子高校生をターゲットにしたプログラムとしてカリキュラムを設定し直し、奈良女子大学(2022年度に国立女子大学として初めて工学部を創設)、お茶の水女子大学(2024年度に共創工学部を創設)にも呼びかけ、3大学の学長の賛意の下、共同のプログラムへと発展させた。その背景には、理工系分野の女子技術者・研究者の増大が、今後の日本の発展において喫緊の課題であるという共通認識が3校共にあったからだという。
中心となるプログラムは、毎年1回開催される「みらいの扉キャンプ」という合宿形式のイベント。全国の高校から推薦・選抜された1・2年生の女子生徒約50人に、2泊3日で講義や実験・実習などを提供する。宿泊・食事代は無料で、交通費も一定上限額内で補助される。参加生徒に関しては、全国の高校長宛てに取組みの案内と参加生徒の推薦依頼書を郵送し、返送された応募メールの中から選抜している。助成初年度の2024年度は、三菱みらい育成財団からの助成採択決定後の7月から全国約800校に推薦依頼書を郵送し、12月25日~27日に東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで実施された。2年目の25年度は4月から依頼を始め、校長に加えて進路指導教員にも宛てて約900校に送付。実施は夏休み中の8月6日~8日で、会場はお茶の水女子大キャンパス(宿泊は別施設)となった。3大学が輪番制で開催し、26年度は奈良での開催を予定している。
「初年度はプログラムの認知度もまだ少なく、反応が低い地域もありましたが、それでも21都府県から54校54人の参加を得ました。25年度も選抜人数は約50人と変わりませんが、初年度の全プログラムの動画を公式Webサイトで公開したこともあって応募数は増加しました」と岩附特命教授。推薦依頼書を送っていなかった高校からも、Webサイトからダウンロードした依頼書が寄せられるケースもあるという。初年度に参加した生徒の口コミやSNSなどによっても、情報が拡散しているようだ。

全国各校から選抜された約50人の女子高校生が2泊3日の濃密な「理系時間」を過ごす「みらいの扉キャンプ」。3校それぞれの特色が発揮されたカリキュラムが展開される
実験・座学・座談・アイデアコンテストなどが詰め込まれた「みらいの扉キャンプ」
「みらいの扉キャンプ」は大きく5つのカリキュラムから構成されている。その中で最も中心に据えられているのが「実験・実習」。授業時間数や安全面の問題などで、高校の授業で減少傾向にある実験や実習を経験してもらうことで、理工学の楽しさを感じてほしかったからだという。各大学の特色を生かした6つの講義から、各自2つを選択して受講する。理論的な部分に興味がある生徒に向けては、大学進学後に挑戦する最先端知識に触れてもらう「先進理工学講義」を用意した。また、理系選択のモチベーションを醸成するためのメニューとしては、大学・研究所・企業で活躍する女性研究者などのロールモデルを講師とした「キャリアパス講演会・座談会」と、女子大学生TAも加えて生徒同士のコミュニケーションを図る「みらいを語る夕べ」を。そして、3人程度のグループワークによって社会課題解決に挑む「社会課題解決ワークアイデアコンテスト」という幅広い内容となっている。
「アイデアコンテストは2日目の午前中に行いますが、時間的にタイトだったという初年度の反省から、25年度には先進理工学講義の枠を減らして時間を延長するとともに、初日の夕食後に事前のグループ検討時間をとりました」と岩附特命教授。「高校の授業でなかなか経験できない、グループワークでの提案と討論をまず経験してもらうことが重要と考えています。各チームでの検討に基づいた解決策の提案をA4判1ページにまとめてもらったものを審査して、優秀だった4チームに口頭発表してもらっています」と語る。
参加した生徒の感想からは、「想像できずにいた大学での学びに触れ、高校で学ぶことの目的がより明確になりました」「理工学の魅力に触れ、視野が大きく広がりました」「仕事としての女性研究者の環境を知ることができ、進路選択にとても役立ちました」など、濃密な3日間を過ごせた様子が窺える。また、特に地方からの参加者から多く寄せられたのが、「仲間ができた喜び」だったという。周りに理系に進む子があまりいなかったり、学校や家庭から文系を勧められたりする中で、理系進学へのモチベーションが保てない生徒が一定数いることが実感できたと岩附特命教授は語る。
「受験ということを考えると、参加者同士はある意味ライバル関係にあるのではと思っていたのですが、びっくりするほどすぐに仲良くなり、アドレスを交換して連絡を取り合っていました」。それだけ理系に関する生の情報に飢えているということで、こうした状況を踏まえ、今後は参加経験者のコミュニティを構築していきたいと岩附特命教授は考えている。参加した生徒が大学に進学した後、TAとして再び関われる道筋も用意したいという。
また、参加者に1年生が意外と多いことに関しては、高校における文理選択のタイミングが早まっていることも要因の一つと岩附特命教授は考えている。「1年の夏休み明けには選択しなければいけない学校が多くなっていますし、中高一貫校では、高校入学時に文系・理系のクラスに分かれていることも少なくありません」。プログラム参加者には、コース選択に悩む生徒だけでなく、自分の選択に確信を持つために応募した生徒もいるようで、「理系を選んだことに自信が持てなかった子たちから、自身の未来像を具体的に考えるきっかけとなって、モチベーションが上がったという声を聞きました」(岩附特命教授)。

近年、高校の授業で減少傾向にある「実験・実習」によって、「理工学本来の楽しさに目覚めてもらうのが目的のひとつ」と語る岩附特命教授(写真右)

ビジネスコンテストよりもハードルの低い短時間のアイデアコンテストで、グループワークによる討論を体験してもらう
Webサイトをポータルとして各大学へとつなぐ「みらいの扉ビジット」
もう一つのプログラム「みらいの扉ビジット」は、各大学で適宜開催されているオープンキャンパスや各種教育イベントなどへの招待を通して、理工系大学進学後の未来像を描く手助けをするものだ。これらの参加に関しては、公式Webサイト:https://www.e.titech.ac.jp/mirai-challenge/に各大学のイベントサイトにリンクが張られ、各自で申し込みができるようになっている。
「基本的には大学ごとの対応となっていますが、例えば東京科学大学の『一日体験入学』では、本プログラム用の枠を確保して、キャンプへの誘導も試みています」と岩附特命教授。その他、「女性活躍応援フォーラム(東京科学大学)」「リケジョ・未来シンポジウム(お茶の水女子大学)」など、対面とオンラインのハイブリッド開催のイベントもあり、遠方の生徒も気軽に参加できるように配慮されている。また、「みらいの扉キャンプ」最終日には、希望する生徒向けに、各大学の研究室見学ツアーも開催している。
2027年度以降の自走に対しては、より積極的な広報活動に努め、活動趣旨に賛同して資金援助を頂ける企業や自治体を広く募っている。既に複数の協賛企業もあり、他にも研修施設貸出などの協力申し出も受けているという。また参加生徒がTAやメンターとして参加する道筋をつくることで、プログラムの継続的発展も視野に入れている。
「高校までの学びは受験対策が中心となり、理工学の楽しさを教えることや、将来のキャリアパスを想像させることが少なくなっています。特に『工学』に関しては、高校の科目に該当するものがないという問題もあります。本プログラムでは、特に情報の少ない地方の女子生徒をターゲットの中心に置いて、理工系の学びの楽しさと将来の自身の姿を実感してもらい、理工学の女性エンジニア・研究者を育てる一助になればと考えています」と岩附特命教授。高校では実施することが難しい実習や講義を提供するだけでなく、社会で活躍する先輩や大学生、高校生の仲間との出会いによって理系進学のモチベーションをアップさせる本プログラム。特徴ある3大学が連携して実現したプログラムのさらなる進展が期待される。

「みらいの扉キャンプ」で実施された全プログラムの動画を公式Webサイトで公開したことで、プログラムの認知度が高まっている