カテゴリー 32024年採択

一般社団法人 日本スローフード協会

対象者数 35名 | 助成額 400万円

https://slowfood-nippon.jp/

Program次代の食料生産を担う”ガストロノーム”発掘・育成

 食料安全保障の問題に真剣に向き合わなければならない今日、国内外における「食」に関するビビッドな問題意識、たしかな知識、広いネットワークを有した若い食料生産者の養成は喫緊の課題である。

 本プログラムでは、スローフードのネットワークを活用し、国内外・オンライン/オフライン両輪で学びの場をつくることで、持続可能な食に関する総合的な知識を持ちながら食料生産を担うアントレプレナー、”ガストロノーム”を育成していく。

 対象は、高校生およびメンターとして参加する大学1〜2年生。プログラムは①大学生メンター育成、②食料生産に関連する普通科以外の学科に在学する高校生向けのラーニングジャーニー、PBLを通した実践学習③最終発表会の順序で行い、国内外のゲストを招いたオンライン講座のほか、イタリアで開催されるスローフードの世界大会「テッラマードレ」への参加や、全国の参加者が集う「実地研修キャンプ」など、オフラインの学びも重視している。

 特に、都市圏よりも情報へのアクセスが限られている層にアプローチし、地域活躍人材の定着を狙う大学事業と地域内高校との接続を強化し、食に関わる早期の人材発掘・育成を全国規模で行う。

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食のアントレプレナー“ガストロノーム”の輩出を目指して

 食料安全保障の重要性は世界的にますます高まり、フードシステム全体の新たな取組みが世界各国で進行中だ。しかし、日本においては生産の部分で既に大きな問題があると、一般社団法人日本スローフード協会の渡邉めぐみ代表理事は指摘する。「国内農業従事者の平均年齢は68歳を超えており、若い人たちが農業をやりたがらない、あるいはやりたくてもやれない環境にあることが一番の問題です。このプログラムを通じて、食べ物を作ることの素晴らしさを理解し、それをビジネスとして具現化していく、食におけるグローバル・アントレプレナーシップの必要性を、一人でも多くの若者に体感してほしいという思いで活動しています」

  本プログラムは、大学生メンターと高校生が協働しながら、食の未来について学び、行動するという内容だ。高校生の募集に当たっては、プログラム設計当初は、農業・水産高校から参加を予想していたが、実際にはほとんどなかった。しかしその結果を必ずしもネガティブには捉えていないという。応募の状況を見てみると、普通科であっても食や農業に興味を持ち、能動的に学ぶ姿勢を持っている生徒は少なくないと実感したからだ。本プログラムで輩出したいのは必ずしも就農希望者ではなく、生産・流通・消費を通じた、食に関する総合的な知識を持つ人材で、その人材を同協会では“ガストロノーム”と呼んでいる。「ガストロノームとは、目の前の食べ物をおいしく頂くだけでなく、今後も持続的に食べられるように、環境のことや社会的なこと、技術的なことなど、食卓の外に思いを巡らせ、学際的な考えに基づいてスローフードを実践できる人材です」(渡邉代表理事)。

  スローフードとは、速さと効率を重視したファストフードに対抗して、40年ほど前にイタリアで提唱された考え。食の質の向上、地域の食文化の保護、持続可能な農業の推進などさまざまなテーマのもと、現在160カ国以上に草の根運動的な活動の輪が広がっており、同協会はイタリアのスローフード国際本部から正式な承認を受けて活動する国内運営機関だ。

  本プログラムにおいてユニークな点は、まず大学生をメンターとして育成し、その大学生が高校生の学びをサポートするという二層構造の学びの仕組みだ。高校生にとっては心理的な距離が近い大学生には質問や相談がしやすく、専門用語や抽象的な概念も平易な言葉で説明してくれる橋渡し役となる。また大学生にとっても、メンターとして教えることで自身の理解が深まるだけでなく、高校生からの予想外な質問によって思考が刺激される。こうした学び合いを通じて、同じ分野に関心を持つ年齢の近い仲間とのコミュニティを形成していくことも、本プログラムの大きな狙いとなっている。

スローフードの世界的祭典から得られる貴重な体験

  初年度である2024年度のプログラムは、大学生メンターの募集と選考から始まった。選出された8人の大学生は、全4回のオンライン講座を受講した後、9月末に世界最大級のスローフードの祭典「テッラマードレ」への参加や食科学大学への訪問などのイタリア研修を行った。テッラマードレとは、スローフード国際本部の主催でトリノにおいて1年おきに開催される食の祭典。世界中から食に関連するさまざまなプレーヤーが集合し、同協会も生産者や活動家など90名の日本代表団を派遣した。5日間の来場者数は35万人を超え、会期中に実施されるフォーラムやワークショップなどは1000以上。大学生メンターにとって、世界各国の生産者や、日本代表団メンバーとの出会いは大きな財産になったようで、「さまざまな生き方や人生観に触れたことで、より柔軟な視点を持てるようになった」という声も聞かれた。

  一方、約30人を目安とする高校生の募集と選考は、大学生の育成プログラムと並行して進められ、大学生がイタリアから帰国すると、高校生向けのプログラム「ラーニングジャーニー」が始まった。参加する高校生は原則2年生で、4~7人でグループを組み、1グループごとに担当の大学生メンターが割り振られる。4カ月で全7回行われるオンライン講座は、スローフードの理念や世界的な食のトレンド、現在の食の課題など、学校での授業の枠を超えた学際的な知識を学ぶ講義と、自分たちでテーマを設定して行うグループワークで構成され、11月には実地研修キャンプも対面開催された。

  ラーニングジャーニーが終了する3月には、オンラインによる最終発表会を開催した。プログラム内では発表会までに議論しつくせず、大学生メンターを中心に自主的にオンラインでつながるグループも多かったという。

国内実地研修では高校生も伝統農業を体験する

トリノで開催されたTerra Madre Italy 2024での日本の出展ブースの様子

高校生も参加した水俣でのテッラマードレ・ジャパン

  翌2025年度は大学生の育成講座の一環として、9月にイタリア研修が行われ11人が参加した。トリノでのテッラマードレはお休みの年だが、食科学大学での講義に加え、大学周辺地域の有機農法の生産者や伝統的なチーズ職人、地域の食文化を伝える料理人など、スローフードの実践者たちから話を伺った。その後はローマに移動して国連食糧農業機関FAOを訪問。地域に根付いた取組みと、グローバルな食料システムの課題の両極を体験する約1週間の研修で、参加した大学生の視野は大きく広がったという。
協会でプログラムデザインを担当するネマニ蓮美氏は、「参加者の中にイチゴ農家の継承を考えていた大学生がいました。彼は当初、日本のいちご生産の技術力はしっかり評価されないとダメだから高級路線の販売戦略しかないと考えていましたが、この研修をきっかけに、スローフードのアプローチを取り入れることで、持続可能性と経済性の両立という新たな付加価値をつける第三の選択肢に気づくことができたようです」と話す。

  2年目の高校生の募集においては、地方へのリーチをより重点に考え、財団のネットワークを活用するとともに、協会のネットワークを通じて、高校に出前授業を行っている生産者にも協力を依頼。総人数はほぼ変わらないものの、地方からの参加者が多数を占める結果となった。
この年のプログラムの核は、同協会の主催(不知火海ローカルフードネットとの共同主催)によって国内開催された「テッラマードレ・ジャパン」への参加だ。開催地は日本の公害問題を乗り越え、日本初の環境首都となった熊本県水俣市で、11月1日から3日まで開催され、ラーニングジャーニーの一環として、大学生・高校生も参加した。

  初日は全国から集う生産者の声を聞く「生産者会議」として、屋内会場で複数の分科会やワークショップを同時並行で開催。2日目は屋外の大規模会場でマーケットが展開され、全国の生産者たちが持ち寄った商品を目当てに、約4000人の来場者で賑わった。3日目は少人数に分かれたツアー形式で行われ、水俣や周辺地域の取組みを知る機会が設けられた。一般参加者に交じって同様の体験をした高校生は、グループごとにアンケート調査を実施したり、生産者たちにインタビューを行ったり、ワークショップで自ら試作した商品を来場者に試食してもらったりと、自分たちの探究テーマに沿ったチャレンジも行った。

  テッラマードレ・ジャパンで得た経験も十分に反映させた発表会は、参加者が集まりやすいいくつかの都市をサテライト会場としたハイブリッド形式で、水俣で知り合った生産者も招いて、2026年3月に開催される予定だ。

熊本県水俣市で開催されたTerra Madre Japan2025の様子

年々大きくなるガストロノーム・コミュニティの輪

  テッラマードレのトリノ開催の年と国内開催の年という2パターンのプログラムを経験したことで、今後の道筋は見えてきたと渡邉代表理事は語る。大学進学の際に農学部や食品科学系の学部、地域創生に関わる学部を選んだ高校生もおり、「プログラムを通じて、キャリアの選択に影響を与えられているという実感は得ています」(渡邉代表理事)。また、メンター経験者の多くが、協会のネットワークに残り、水俣でのイベントを手伝ったり、イタリアに留学した元メンターが現地でサポート役を務めたりするなど、有機的なつながりが広がっている。

  プログラムの内容や運営のブラッシュアップも常に行われている。探究するテーマを絞り切れない参加者もいたため、自主性に任せていたグループワークのテーマ設定などに関しては、ある程度の枠組みを提示して、参加者の関心に基づいてグループ分けを行うようにした。またインプット中心の講義よりも、アウトプット重視のワークショップの比重を大きくすることで、新しいアイデアを考え実行するアントレプレナーシップを醸成させる土壌も整えている。

  自走に向けた運営面では、大学生メンターから必要最低限の参加費を徴収することで、助成金を使わずに運営できることを実証した。さらに、社会人向けのモニター参加者を募集する実験も行い、イタリア研修には3名の社会人が参加。適切な価格設定と参加人数の管理さえできれば、新たな収益源を得る可能性も見えてきた。

  高校生向けプログラムの持続については、企業協賛を検討中だという。プログラムのテーマ設定を企業のCSR活動や人材育成ニーズと結びつけることができれば、協賛を得られる可能性はあると考え、複数の企業に打診している。

  まだ始まったばかりの取組みだが、日本の食の未来を変える可能性の芽生えを、同協会では感じているという。2026年度はトリノでのテッラマードレ開催年。初年度に受講した高校生が大学生メンターとして参加することも十分に期待できるという。ラーニングジャーニーを中心とした、高校生、大学生、社会人、食料生産者を結ぶコミュニティが、多くのガストロノームを生み出す核となる準備が進んでいる。

高校生による生産者インタビュー

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