Program多文化共創ボランティア・ラーニング
~グローバル・シチズンシップを持てる人材の育成支援~
本教育プログラムでは、大学生・高校生ら若い世代が社会現場でのボランティア活動を通し、多様な人たちと出会い社会の様々な課題を知ることで、学校での教育を実践的な学びに変え、グローバル・シチズンシップを育んでいく機会を提供していく。
外国人住民との日本語交流・防災活動や子どもたちへのものづくり・環境教育などの実践活動に取り組みながら、グローバル化する地域社会で必要とされる自己の存在を知り、年齢・国籍などを問わず多様な人たちが活躍できる多文化共生社会づくりに貢献するもの。多様な人たちが交流する中、身近な自然・生活・歴史・伝統・人柄を改めて学び、地元を世界へ発信し、多様な人たちとのグローバル・コミュニケーションを楽しんでいく。
本プログラムの特徴は、学校の枠を超えて学生・生徒が参加することにある。普段のボランティア活動のノウハウを共有することができ、さらに特色ある社会実践に深化させていく。また、共同で企画計画・準備していく活動発表の場としての「グローバルボランティアフォーラム」(宿泊型、時期:3月、場所:阿蘇)では、広く学生に呼びかけ、グローバル・シチズンシップ教育を進めていく。

活動レポートReport
「人づくり」と「多文化共生」を結び付け、社会のウェルビーイング向上を目指す
熊本市の外郭団体である熊本市国際交流振興事業団(以下、事業団)が、熊本大学や熊本学園大学、日本文理大学など複数の大学と連携して取り組む「多文化共創ボランティア・ラーニング」は、地域社会が直面する課題の解決とともに、若者の人材育成を行う教育プログラムだ。若い世代が、社会現場でのボランティア活動を通じて外国人住民を含めた多様な人たちと出会い、社会のさまざまな課題を知ることで、グローバル・シチズンシップを育んでいくことを目的としている。また社会での実践は、学校での学びを深化されることが期待できる。
事業団が本プログラムを構想するに至った背景の一つには、対面での交流や実体験の場が極端に減少した新型コロナウイルスの影響が落ち着いても、「人との関わり方が分からない」「自分から一歩を踏み出せない」若者が増えているという状況があった。個々人のコミュニケーション力の低下に留まらず、将来的に地域社会を担う人材を育てる観点からも見逃せない問題であり、「若者の人づくり」が喫緊のテーマとなっていた。
加えて、熊本県を取り巻く社会環境の変化も大きな要因だ。2016年の熊本地震後、復興需要に伴って外国人労働者が増加し、さらに少子高齢化・人口減少と2019年の在留資格「特定技能」施行で、外国人受け入れが本格化した。事業団の常務理事を務める八木浩光氏は、「総数こそ大都市には劣りますが、外国人住民増加の伸び率は年間20%を超え日本有数と言われています」と話す。外国人住民が地域と共生していくことが益々必要になる中、今後社会を担っていく若い世代がつなぎ手となることが期待される。一方、そうした変化に十分に対応できていない実態も垣間見られる。「大学の教育学部では、将来教員となる学生たちが在学中に留学生と関わる機会も多文化共生や日本語教育の授業もほとんどなく、学校現場に立って初めて、外国籍の児童生徒が言葉や文化・習慣の違いから学校生活に課題を抱えていることを知るケースも起きています」と八木氏は話す。こうした実情は事業団内でも共有され、ポストコロナ時代の若者の不安や大学で多文化に触れる機会の不足に向き合い、学生が多文化共生の現実を学ぶ機会の必要性が浮き彫りになっていった。そして、大学連携ワークショップやフェアトレード視察をはじめとするさまざまな取組みを通じて、若者が外国人と共に地域課題を体験的に学べるプログラムをつくりあげていった。
複数大学が連携し、学生たちの内発的学びを引き出すための仕組み
2024年度は、事業団の既存事業に加え、各大学との共催事業、助成を機にスタートした新たな取組みなど、9つのプログラムを実施。その中核の一つが、2013年度から同事業団が実施している「グローバルワークキャンプ」だ。参加学生が主体となって企画・運営する宿泊型のワークキャンプを通じて、留学生や海外の若者との国際交流を通じて学生の国際化を図る目的で始まった取組みである。コロナ禍では中止を余儀なくされたが、2024年度には4年ぶりに2泊3日で再開され29人の学生が参加。急激な社会変化に対応する外国人と共に創る共生(多文化共創)社会づくりを目的にし、「ボランティア」と「多文化共生」をテーマとしたグループワークと社会実践活動を行っている学生による活動発表を行い、学生間の情報共有、意見交換の場となった。2025年度は参加者が49人に増加し、宿泊日数を1泊増やして3泊4日のプログラムとした。熊本地震から10年となる一方、最近多発・巨大化する自然災害に対して、外国人住民を含め多様な人のつながりによる災害に強い地域づくりをテーマにして、避難所での外国人被災者対応ワークシップや非常食体験などの取組みを日本語・英語で行った。最初こそ緊張と人前での発表に恥ずかしがっていた学生が、最終日には別人のように堂々と自分の考えを表現する姿を見て、関わる教員や事業団スタッフも大きな手応えを感じているという。「学生たちが自分を表現する活動を通じて自己肯定感を高め、社会に対する責務についても深く考える機会になったと思います」と八木氏は語る。
新規プログラムとしては、連携大学の学生を対象にしたオンラインフォローアップ学習会をスタート。グローバル・シチズンシップやローカルフェアトレード、多文化共生などをテーマに各分野の専門家を講師として招へいし、2024年度には8回実施した。各回90分のうち約1時間を講義に、残りの30分を参加者の主体性を引き出すためのディスカッションに充てるなど、学生同士の交流の活性化を図り、2025年度は15回開催している。
オンラインフォローアップ学習会では、効果的な地域ボランティア活動に向けて、現代社会の課題や解決に対して持つべき視点を学んだ
プログラム全般として、2024年度は各大学と連携し学生が自ら動くことを重視しながらプログラムを進めたものの、企画・運営を学生が行うという面では期待通りには進まなかった。「学生たちはアイデアを持っていても、忙しさや経験不足からなかなか一歩を踏み出せなかったことが大きな原因だと思っています」と八木氏は率直に振り返る。
こうした反省を踏まえ、2025年度にはプログラム設計を大きく見直した。学生の意欲を引き出すために、事業団側と大学から具体的な体験型プログラムを複数提示し、学生が選択できる仕組みを導入した。
熊本大学では、同大学がある黒髪校区でプログラムに取り組んだ。同校区には、留学生が多く居住し、イスラム教のモスクもある。文化交流やまち歩きイベントでは、学生が、高齢化する地域コミュニティと若い外国人住民の間のつなぎ手となった。年齢的なギャップを、大学生が間に入ることによって解消させることを狙いとしたものだ。また、イスラム教のモスクでは、学生が、外国人住民家族との日本語交流会をコーディネートした。事業団が外国人コミュニティのキーパーソンとの関係を築いていたからこそ実現に至ったプログラムという。外国人の生活の場であるモスクを会場とすることで、学生たちは外国人住民のリアルな日常に触れることができ、地域住民にとってもモスクを実際に訪れることで外国人の日常の姿を知る機会となる。また、ラマダンの断食期間にモスクで日没後に開かれるみんなで分かち合って食する食事会(イフタール)に、学生と地域住民が一緒に参加することで、新たな異文化理解と地域交流を発展させる機会となった。
熊本学園大学では、以前から外国人労働者を雇用する農家(多文化共生農家)と外国人住民が経営するエスニックショップやSGDsを推進する企業をつなげるローカルフェアトレードのプログラムを実施していたが、2025年度は日本文理大学から7人の学生が多文化共生農家でのインターンシップ活動に参加し、大学の枠を超えた交流も実現した。
新型コロナの影響で開催できなかったグローバルワークキャンプを4年ぶりに行った、2024年度開催の様子
2025年度のグローバルワークキャンプの様子。避難所訓練ワークを行った。
2025年度のグローバルワークキャンプの参加者
熊本大学が黒髪地区にあるモスクと協働して行うプログラムの前に、学生を含めた関係者に向けた事前学習会が行われた
モスクで行った、節分の時期の交流イベント
モスクでの日本語交流には、子どもたちも参加してくれた
モスクで行われたイフタール(ラマダンの断食期間にモスクで日没後に開かれる食事会)に、学生と地域住民も参加し、交流を深めた
熊本学園大学が行った農家インターンの参加者
熊本学園大学主催の農家インターンのプログラムに日本文理大学の学生も参加
さらなる連携を強め、学びを社会に還元する
この2年間の取組みの成果は徐々に出始めている。例えば、同事業団への学生ボランティア登録者数や、インターンシッププログラムの参加者数は増加傾向にあるという。また、大学間の連携が進んだことで、プログラムに直接関わっていない教員からも学生を参加させたいという声が寄せられるようになった。国内外の大学などからも問い合わせがあり、2025年10月に韓国の大学生との多文化共創研究フォーラムと多文化共生農家の視察を実施、2026年2月には東京の大学とワークショップを行った。
事業団の取組みの特徴は、実社会が抱える課題と大学の学びをつなぐハブとして機能している点にある。モスクでの交流のように、事業団が間に入ることで、これまで大学との接点がなかった外国人コミュニティが大学の活動を受け入れ、協働が成立した事例も生まれている。一方で、連携大学が共同実施しているプログラムは現在、グローバルワークキャンプのみとなっているため、今後は、 各大学の学生が一緒になって企画・運営できるプログラムを増やしていくことが課題だという。
また自走に向けては、各大学に継承するプログラムと事業団が予算を確保して継続するプログラムを明確にしていくという。例えば、ローカルフェアトレードプログラムと多文化共生農家インターンシップ活動は、熊本学園大学フェアトレードサークル及び東アジア共生文化センターに継承し、黒髪校区での多文化交流とモスクでの日本語交流については事業団が継続し、学生に参加してもらう仕組みを構築しているという。特にオンライン学習会については、刻一刻変わる外国人住民の状況を取り上げるなどきめ細かで専門的な内容を扱っていることから高い評価を得ており、事業団が別途予算を確保する方向で検討している。大学のプログラムについては、大学の正規カリキュラムへの組み込んでいく予定だ。日本文理大学では、多文化共生に関する協定締結から寄付講義を実施するという。
「外国人視点から人権や日本語教育を地域づくりと結びつけて多文化共生を考える大学カリキュラムはほとんどありません。今後も外国人住民は増加し永住傾向にあります。世代も高齢者から子どもまで幅広くなり、ライフスタイルも多様化するでしょう。学校では外国につながる子どもたちへの教育が重要になります。また、介護、農業など多様な分野で外国人労働者が必要になってきます。今外国人を管理の対象とみる傾向が強くなってきていますが、お互いの文化や習慣への理解を深め、違いを尊重しながら共創していくことの方が大切です。外国人住民は日本人と比べると若い世代が多く、年齢が近い学生が外国人住民と言語の壁を超えて協働し、一緒に地域づくりに参画することで、地域全体のウェルビーイングが発展させていきたいと考えています」と八木氏は今後の展開を語った。
熊本学園大学で行われた、韓国学生へのローカルフェアトレードの説明会