カテゴリー 42024年採択

豊橋技術科学大学総合教育院

対象者数 440名 | 助成額 150万円

https://las.tut.ac.jp/

Program異分野対話型リベラルアーツ教育の構築~知的創造の場の創出と体験~

 これからの技術者を取り巻く社会的課題を発見し、解決できる能力を身に付けるための異分野対話型リベラルアーツ教育を実践する授業、「リベラルアーツ入門」を2024年4月から開講する。本授業は、異なる分野を専門とする複数の教員が同時に授業に参加し実施するもので、毎回異なる教員が1人ずつ登壇するオムニバス形式の授業とは全く異なるものである。本プログラムの特徴は文理融合の様々な視点が提供される授業において、教員と学生、学生同士、教員同士の対話によって新しい発想が創出されることである。対象は1年次学生(入学定員80名)で、4クラスを開講し、ジェンダーや文化の本質など、1つの正解がない多様な問題を扱う。学生は、本授業を通してアカデミックライティングなどの自分の考えをアウトプットする技術も学ぶ。

 本学は高等専門学校卒業生を3年次編入生として多く受け入れていることから(入学定員360名)、3年次にもリベラルアーツ科目を多く配置している。本プログラムは、まず1年次対象の「リベラルアーツ入門」を有効で意義あるものとすることを目指し、次に、そのエッセンスを3年次開講科目に活かして本学のリベラルアーツ教育全体の再構築に繋げることを目指す。

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活動レポートReport

教養を重んじる工科大学-高専編入生8割という独自性と「教養教育」への問題意識

 実践的・創造的・指導的な技術者・研究者を育成することを目的に設立された豊橋技術科学大学は、入学者の約8割を高等専門学校(高専)からの3年次の編入生が占めるという特徴を持ち、卒業生の多くが大学院へ進学する学部・大学院一貫教育体制をとっている。そして1976年の開学当初から重視してきたのが「教養教育」だ。同大学の紀要『雲雀野』によれば、開学当初から「実践的・創造的かつ指導的技術者を育成するためには教養教育が不可欠である」という信念と、「高専では教養教育に充てられる時間が少なく、専門外の知識や教養が不足しがちである」という問題意識があった。そこで、3年次に教養科目を多数設置し、さらに大学院修士課程でも教養教育を実施するという独自の方針をとってきた。

 2010年には、社会産業構造の変化に対応し、グローバル化時代に対応した人材育成の社会的要請に応えるために学内再編が行われ、教養教育を担う拠点として「総合教育院」が設立された。人文・社会工学系に自然科学分野の教員も加わり、教養教育は新たな体制で再出発する。2019年には若手教員を中心とした「<リベラルアーツ教育>研究チーム」が発足し、議論と実践が大学全体へと広がっていった。本プロジェクトを牽引する石毛順子教授は、「新たな教養教育の仕組みを検討する中で、文学、工学、経済学、哲学、数学などさまざまな専門の教員がいること、また組織の規模が小さく、日ごろから教員同士のコミュニケーションがしっかり取れているといった点を活かして、同じ教室で複数教員と学生が対話する授業を構想しました」と振り返る。こうして2024年、社会的課題を発見し、解決できる力を育てることを目的として1年次を対象とした新科目「リベラルアーツ入門」が始動した。

多様な視点と哲学対話で育てる、技術者のための教養教育

 同大学ではすでに3年次でもリベラルアーツ科目を多数配置しているが、本プログラムは将来に向けた大学全体のリベラルアーツ教育再構築につなげることを目的としている。まず1年次対象の「リベラルアーツ入門」を有効で意義あるものとすることを目指し、次のステップとしてそのエッセンスを3年次開講科目に活かすことで、段階的に再構築していく構想になっている。 

 1年次を対象として行われる「リベラルアーツ入門」の最大の特徴は「異分野を専門とする教員が複数参加するスタイル」だ。石毛教授はそのスタイルをトーク番組に例える。「責任教員がホストとなり、異分野のゲスト教員と対話します。その後、対話を聞いていた視聴者である学生も混ざって議論することで、学生同士・学生と教員・教員同士とそれぞれの対話が教室内で実現できるのです」と説明する。異分野融合の多様な視点で対話が提供できることについて、石毛教授は「総合大学よりはどうしても他分野と関わる機会が少なくなってしまう単科大学だからこそ、多様な視点に触れるこうした機会は貴重。現代は共創の概念が大切にされ、最先端の課題を解決するためには自分の専門だけでは解決できません。専門分野を大切にしたうえで、多様な視点や価値観が求められるので、リベラルアーツ教育でその部分を育てていきたいと考えています」と話す。

「リベラルアーツ入門」がもたらした教育的成果と波及効果

「リベラルアーツ入門」のクラスは、24・25年度共に、①「つくる」を通して考えるリベラルアーツ、②技術者のための哲学対話、③映像の読解とアカデミック・ライティング、④学生のジェンダー意識を高めるリベラルアーツ教育の4つに分かれて展開された。テーマだけでなくアウトプット手法も、対話やアカデミック・ライティング、プレゼンテーションと異なっており、学生は希望するクラスを選択できるようになっている。「“対話”というと直接言葉で話すものと定義されがちですが、それに限られるものではないと考えています。別の“対話”の方法としてアカデミック・ライティングも取り上げています」(石毛教授)

 必修科目ではないものの、1年次ほぼ全員が履修し、学生からは非常に高い評価を受けたという。アンケートでは「哲学対話を通して、様々な人の意見を聞けていろいろな価値観に触れることができた」「参加している人全員が納得する言葉を考えなければならないから、面白いと思った」「人は皆自分の結論を持っていて、それは他人の持つ自分にない視点で変わることがあるということを知った」など、対話することの意義や面白さを実感したことがうかがえるコメントが並んだ。石毛教授は、あるクラスで20人分のコメントがA4で6ページ分寄せられたことを挙げ、「一般的に授業アンケートの自由記述欄は一言で終わることが多いと思いますが、自分の考えをここまで書いてくれたことに驚き、学生達の成長の証だと感じました」と手応えを語った。

 さらに、授業を経て受講生が学びに対して能動的になったことが分かるエピソードが多数ある。24年度の受講生から「哲学対話を課外活動としてやってみたい」という要望が多く寄せられ、25年度には、「恋」「安心感」の本質をテーマに実施。口コミを通して「リベラルアーツ入門」受講生以外にも参加が広がっている。また、26年度から実施予定の市民参加型哲学対話イベント「対話する図書館」では、24年度にリベラルアーツ入門を受講した学生がファシリテーターを務めることが予定されており、活動は学内外に広がりを見せている。石毛教授は「『リベラルアーツ入門』を受講した1年生が学内で教員に話しかけたり、研究室を訪れたりと、教員との距離も近くなりました。知の探究を学生達が楽しんでくれていることを実感しています」と話す。

 教員も24年度の活動を通して、大きな手ごたえを感じ、さらに盛り上がっていこうとする機運が高まったという。「責任教員の意見交換が活発で、両年度とも授業の分析・改善がスムーズに行われました。3年次への展開検討も行うことができました。この成果を外部に発表すべく、24年度は紀要『雲雀野』に実践報告を掲載し、25年度は初年次教育学会での発表を行いました」(石毛教授)

 多くの成果が表れている一方で、いくつかの課題もあった。両年度に共通して「リベラルアーツ入門」に参加する教員の時間割が他の授業と重なってしまうために人員確保が難しいこと、教室の机と椅子が固定されており、授業内で対話がしにくいことなどが挙げられた。解決策として、複数教員による対話部分を録画して活用したり、2クラスを一部合同で実施したりするなどの措置を講じたほか、助成金でグループワークにもフレキシブルに使える組み合わせ式六角形デスクなどを購入して環境整備を行った。

複数の人々が集まって輪を作り、一つの問いについてゆっくり考えていく「哲学対話」のクラスの様子

「つくる」を通して考えるリベラルアーツのクラスの様子。このクラスは幅広い専門分野から教員が各分野における「つくる」の講義を実施した後、学生はその分野の「つくる」を体験する。分子模型や俳句、英語の詩、裁判で用いられる訴状や答弁書などの作成など、さまざまな「つくる」体験を実施した

「映像の読解とアカデミック・ライティング」のクラスでは、アカデミック・ライティングの他、映像の歴史や図書館の使い方、映像を読む際の手法である「ショット分析」、生成AIの問題点や使い方などを学ぶ

27年度から3年次へ本格展開 大学全体の教養教育構築に向けて

 本プロジェクトでは当初から、学年の8割を占める高専からの編入生向けに3年次での教養教育充実を図ることで、大学全体の教養教育再構築を視野に活動してきたが、27年度にはいよいよ3年次向けに「リベラルアーツ入門」のエッセンスを取り入れた授業を本格始動することが決定した。6科目で異分野横断型の授業を展開する予定で、26年度は具体的な検討に入る。25年度に「リベラルアーツ入門」を受講した1年生が高専からの編入生と合流して教養教育を受講することになるため、石毛教授は「1年次での受講生が、マジョリティである編入生にどのように刺激を与えるのかが非常に楽しみです」と期待をのぞかせる。

 同大学が長年構想してきた新しいリベラルアーツの土台は、ここ数年で確かな輪郭を持ち始めた。今後は取り組みをマジョリティである3年次へと広げることで、大学全体の風土として異分野対話型リベラルアーツ教育の成果が根付いていくことが期待される。

 

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