カテゴリー 42025年採択

国際基督教大学

対象者数 400名  | 助成額 340万円

https://www.icu.ac.jp/

Program想定を超える世界にどう応えるのか:「現代 × リベラルアーツ」
-現代の諸課題に立ち向かうための新たな実践型リベラルアーツ教育プログラムの創生-

 経済や情報に牽引されてきたグローバル化は、世界を一つの巨大で複雑に絡み合った有機体として作り上げてきた。そのような世界において、「1つのソリューション」というのはありえない。俯瞰的に世界を見定め、複雑に絡み合った問題のバランスを保ちながら最適な解(あるいは最適な「妥協」かもしれない)を導き出す、複合的な知の体系が必要とされる。そのような世界の複雑性はさらに加速するだろう。その時、1つの学問や考え方だけに焦点を当ててきた既存の”専門性”は無意味になる。わたしたちが目指すものは、このグローバルな現代社会に立ち向かうための新たな知、「現代」に立ち向かうためのリベラルアーツ教育の新しい姿である。
 本プログラムでは人文科学・社会科学・自然科学などの様々な視点から、グローバルな諸問題に溢れた21世紀の世界を俯瞰する授業やワークショップを展開していく。その中で「現代のリベラルアーツ」とは何かを炙り出していく。すなわち、現代社会が抱える諸問題の「核」を顕にし、その解決法を実践から導き出すことができるような「総合知」を探求していく。また学生が授業から得た学びを、「教員の立場」として実践的に使う高校生対象のワークショップを行う。これらのワークショップを通して、知識のさらなる深化を促すと共に、それらを伝え・実践として変革させる新たなリベラルアーツ教育プログラムを創出する。

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平和のための対話型教育としてリベラルアーツを重視

 国際基督教大学(ICU)は、第二次世界大戦への反省の上に、「平和で自由な国際社会に貢献する人材を育てたい」との希望のもと、1952年に設立された。いわば「世界平和に献じられた大学」という意味で、同学は「建学」ではなく「献学」と表現しており、その理念は略称であるI(国際性)、C(キリスト教精神)、U(学問=リベラルアーツ)の三要素に混然一体となって凝縮されている。「本学がリベラルアーツを重視する背景にも、こうした献学の理念があります。世界平和の実現には、言語や文化、価値観の異なる者同士が、対話を通じて相互に理解を深めることが求められます。学問においても、専門や学科の枠を超えて学び合うことが重要であり、それが教養学部アーツ・サイエンス学科のみの単科大学という本学の特徴につながっています」と、教養学部長を務める生駒夏美教授は語る。

 献学以来の取組みから、「日本のリベラルアーツ・カレッジの先駆者」と評価される同学だが、内部では新たな課題意識が生まれていた。学生たちがリベラルアーツ教育に挑んでいる一方で、教員側も必ずしもそうした学びを経験したとも限らないため、学際的な講義を提供することがそんなに容易いことではないケースもある。そうした双方のチャレンジを後押しするために構想されたのが、今回の助成対象となる「実践型リベラルアーツ教育プログラム」だ。

 本プログラムは大きく2つの柱で構成される。1つは多分野の教員がシンクロナス(共時的)に議論を展開し、学生とともに思考を深める一般教育授業(GEL:General Education for Liberal Arts)。もう1つは、GELで得られた学びを今度は大学生がファシリテーターとして実践する高校生向けのリベラルアーツ体験プログラムである。このように、本プログラムは「学ぶ、対話する、社会に向けて実践する」というサイクルを通じて、知を社会に循環させる新たな教育モデルの実現を目指している。

東京ドーム13個分、東京ディズニーランドより広い620,000㎡のキャンパスを持つことから「三鷹の森」と称されるICU。「対話重視」の教育を徹底するため、教員一人あたりの学生数は18人という少人数教育を貫く同校では、教員と学生、学生同士の絶え間ない対話を通じて学びを深めている

教養学部長として全学のカリキュラムを統括する立場から、本プログラムの運営を牽引する生駒夏美教授。「リベラルアーツの目標は、知識を授けることではなく、考える力を身につけること。そうした力を身につけることで、どんな環境変化の中でも解決策を導くことができます」と学びの意義を語る

異分野の視点が交差する「シンクロナス(共時性)」な授業が、新たな発想を生む

 GELの特徴は、専門分野の異なる複数の教員が相互に意見をぶつけ合う「シンクロナス授業」という形式にある。特定の教科書や唯一の正解は存在せず、むしろ教員自身が「専門外の素人」として問いを発し、他分野の教員と対話しながら考える。学生も教員同士の対話を聞くだけでなく、ともに議論に加わることで、知の生成過程を体験できる仕組みになっている。

 その雛形として2023年度に開講されたのが「ポストヒューマン」をテーマとした特別講義だ。そこでは文学、物理学、社会学を専門とする3名の教員が「そもそも人間とは何か」「AIや臓器移植、SNSなどの新技術が人間の定義を変えるのか」といった答えのない問いについて、それぞれの立場から意見を出し合った。物理学の専門として参加した山崎歴舟教授は、その体験を次のように振り返る。「GELにおける教員の役目は2つあります。1つは与えられたテーマについて、自身の専門領域に基づき発案すること。もう1つは、他領域の教員の発案に質問すること。例えばポストヒューマンでは、私はAIや量子力学など物理学の専門知識を披露する一方で、文学や社会学の先生からの意見について『ここが分からない』『物理学ではこう考える』などと質問をぶつける形で議論を進めました。学生たちは、そうした姿を見ることで『専門知識がなくても質問できるんだ』『こういう角度から質問するんだ』といった安心感や気付きを得て、議論に参加してきます。すると今度は学生ならではの視点や発想が加わり、さらに討議が深まるという面白さがありました」。

 こうした成果が教授会で共有されると、多くの教員が興味を持ち、参加希望や他のテーマなどのアイデアが続出。2025年度のテスト実施と開講準備を経て、2026年度から「ポストヒューマン」に「多様性と想像力」(授業を構成する教員の専門は公共政策、生物学、言語学、教育学)「感情」(同じく心理学、歴史学、情報科学)を加えた3講義がスタートする。「本学の教授会は専門分野別でなく、各分野の教員が対面で一堂に会する形で行われるため、“口コミ”で多くの教員を巻き込むことができます。そうしたICUならではのフラットな文化が、リベラルアーツという分野横断的な教育の基盤を支えています」と山崎教授は語る。

約3カ月にわたる特別講義の後半は、学生も含めたディスカッションが主体となり、最終週にはポスターセッション形式で「自分なりのポストヒューマン像」が発表された。「中には『人間とAIが結婚・出産する社会のあり方』といった、大人は思いつかないような発想があり、驚くとともに刺激になりました」と山崎教授は振り返る

教育連携の中心的役割を担う山崎歴舟教授は、自身もアメリカのリベラルアーツカレッジで学んだ経験を持つものの、卒業後は研究者として物理学に没頭しがちだったという。「GELのような他分野の教員と学び合う機会はICUならではの魅力。こうした環境を活かして『総合知』を培っていきたい」と抱負を語る

リベラルアーツで得た学びを、高校生相手のファシリテーターとして実践

 GELを通じて得られた学びを実践すると同時に、社会に還元する試みとして企画されたのが、GEL履修生がファシリテーターを務める高校生向けプログラムだ。

 同学はもともと高大接続にも積極的で、その一環として、2023年夏に高校生がICUキャンパスの寮に宿泊してリベラルアーツの学びを体験するプログラムを実施したところ、サポート役として参加した学生から「教えることで学びが深まった」との感想が得られたという。「高校生を相手に対話型の学びをリードすることが、講義で得た学びを実体験を通して裏付ける機会になります。そうしたメリットが認められたことで、現在はこのプログラムはGELと連携し、多くの履修生が参加しています」と説明するのは、広報・社会連携部の部長として高大接続プログラムを統括する小瀧真利氏だ。

 2025年度は、ポストヒューマンをテーマにした3泊4日の体験プログラム「ICU Global Challenge Forum」とともに、宿泊が難しい高校生のために1日完結型の「ICU Dialogue for Tomorrow on Campus」も開催。参加したGEL履修生に対するアンケートからは「対話力」「場づくり」「自己理解」が大きく伸びたとの実感が見て取れた。高校生からも「ICU生のサポートで対話の楽しさを知り、ICUで学びたい気持ちが強まった」との感想が聞かれるなど、双方に実りの多いプログラムとなった。

2025年8月に開催された「ICU Global Challenge Forum」には、全国から30名の高校生が参加。まだディスカッションに慣れていない高校生を相手に、互いを尊重した対話をリードする経験や、高校生ならではの柔軟な発想に触れることが、ファシリテーション役を務める学生にとっても新たな学びの機会になっていた

2025年10月に開催された「ICU Dialogue for Tomorrow」では、事前にGEL講義動画を視聴した20名の高校生が三鷹キャンパスを訪れ、ICUならではの学びに触れる一日となった。近年では高校からの個別実施依頼も増えており、2025年度には約10校で展開されるなど、高大接続の新たな基盤となりつつあるという

リベラルアーツ教育の持続的な発展と、社会への波及を目指して

 2026年度からの本格導入を経て、同学では現在、助成修了後も見据えた持続性と、学内および社会への波及拡大を視野に、プログラムの拡充と情報発信に注力している。

 学生に対しては、新規科目であるGELの認知度向上と履修促進を図るため、ポスター制作や担当教員によるメッセージ発信などを実施。加えて、講義内容の動画収録や書籍化を進め、高校生向けプログラムへの展開など学外への発信も強化していく考えだ。

 一方で、GELのプログラム拡充に向けて、教員への広報・啓発も強化。教授会構成員で議論できるようにGEL委員会を立ち上げ、多くの教員を巻き込みアイデアを出し合っている。「今回、三菱みらい育成財団から助成を得られたことで、本プログラムの社会的意義が改めて校内でも認知されました。興味を持ってくれる教員も増えましたので、講義内容のさらなる拡充を図っていきたいですね」(山崎教授)。

 同学では、本プログラムの推進がリベラルアーツの可能性を社会に示す好機になると捉えている。「近年、多くの大学でリベラルアーツが重視されつつありますが、その基本となる専門領域をまたいだ対話は、複数の学部・学科に分かれた一般的な大学では容易に実践できないもの。単一の学部・学科で少人数学習を徹底するICUだからこそできるリベラルアーツの成果を広く発信し、その価値を社会に還元する。それこそがリベラルアーツの大学として誕生したICUの使命だと考えています」(生駒教授)。

2025年度には、リベラルアーツの仕組みや履修方法を分かりやすく伝えるべく、カードゲーム「31Majors」を開発。ICUが開講する31のメジャー(専修分野)をモチーフにしたカードを使って、領域横断の対話をゲーム形式で体験できるもので、高校生向けプログラムの導入ツールとしても活用されている。

2023年度に開講された特別講義の内容は、2024年1月に東信堂から「リベラルアーツで学ぶポストヒューマン」として刊行され、学生や高校生にも手に取りやすい構成でリベラルアーツの醍醐味を伝えている。2026年度から加わる2講義についても、シリーズ化に向けて執筆の検討が進められている

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