カテゴリー1採択先3校で「人生の選択肢を増やす金融教育」が実施されました

一般社団法人日本金融教育支援機構(カテゴリー2 │ 2023年度)

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東京都立南多摩中等教育学校(カテゴリー1 │ 2022年度)

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岡山県立岡山操山高等学校(カテゴリー1 │ 2024年度)

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新潟県立柏崎高等学校(カテゴリー1 │ 2023年度)

「人生の選択肢を増やす金融教育を」を理念に掲げている一般社団法人 日本金融教育支援機構は、2025年1月~3月にかけて、カテゴリー1の助成先・アルムナイの3校に対して授業を行いました。その3校との取組みをご紹介します。

東京都立南多摩中等教育学校の事例

岡山県立岡山操山高等学校の事例

新潟県立柏崎高等学校の事例

東京都立南多摩中等教育学校:投資と投機の違いをプロから教わる

 2025年1月22日と24日の2日間、東京都立南多摩中等教育学校で、中学3年生約160人を対象に金融教育授業が行われました。この授業は、東京都の「金融経済教育に関する講師派遣事業」を活用したもので、日本金融教育支援機構の認定講師である中園和博氏と大谷明氏が担当しました。公民の教科書で学ぶ「金融の仕組み」や「財政の役割」を、実際のニュースや具体例を交えながら解説し、生徒たちの金融知識を深めることを目的としました。

 前半では、株式市場の仕組みや株価の決まり方について、日経平均株価の動きやニュースの影響を具体例に挙げて解説。クイズ形式の出題に対し、生徒たちは積極的に手を挙げるなど活発な授業となりました。後半では、生徒が冬休みの宿題で取り組んだ「資金200万円で架空の株取引」の振り返りを実施。生徒が選んだ銘柄の動向をグラフ化し、株価変動の背景を分析しながら「投資」と「投機」の違いを学びました。講師は、「投資とは企業をよく知り、長期的に成長を支援すること。一方、投機は短期的な利益を追求するリスクの高い行為」と説明し、ニュースを活用し企業を深く理解する大切さを伝えました。

 

中学3年生を前に金融授業を行う日本金融教育支援機構の認定講師の中園和博氏(中央)と授業を見守る田中駿一先生(右)

認定講師の大谷明氏も別クラスで授業を行った

田中駿一先生  東京都立南多摩中等教育学校 

 私は日本史を専門としていますが、中学3年生の公民の授業も担当しており、その中の金融の仕組みについて専門家の力を借りるため、東京都の制度を活用して日本金融教育支援機構に協力をお願いしました。当日は、生徒たちが宿題で選んだ企業の株価変動について、社会背景や国際的な政治事情を交えて詳しい解説をしていただいたり、「株=お金儲け」と考えていた生徒たちに、理念ある企業を応援するという社会貢献的な側面も伝えてもらいました。生徒たちは好奇心を刺激され、休み時間にも講師に質問するなど積極的な姿勢を見せていました。公民的分野を担当するに当たって、私自身知識不足を感じ、ファイナンシャルプランナー3級を取得していましたが、プロの話を聞いて学ぶことが多く、専門家を招いて良かったと実感しました。

 また、私は同機構の「教員アンバサダー※」として、授業の中に生徒の集中を保つ工夫を提案しました。例えば、15分ごとにディスカッションやグループワークを取り入れたり、ペアで30秒話し合う「30秒ディスカッション」を導入するなど、教員としての視点で授業をサポートしました。授業後のアンケートでは、生徒たちから「楽しかった」という感想が多く寄せられ、宿題で家族と話し合いながら株を選んだという声もありました。この授業をさらに改善しながら、継続的に金融教育を実施していきたいと考えています。

※金融教育に関心を持つ教員の方に、アンバサダーとして自校での金融教育の実施や日本金融教育支援機構が主催するFESコンテストの推進支援などを担っていただく制度。詳細はこちら

 

 中園和博さん  一般社団法人 日本金融教育支援機構 認定講師

 今回の授業は田中先生から「投資と投機の違い」を学び、金融リテラシーを高めるきっかけを提供したいとのご要望を受けて実施しました。田中先生が作成された公民の授業用プリントは非常にレベルが高く、生徒の関心に応えられるよう、一緒に担当した大谷さんと教材や投影資料を工夫しました。当日は、リアルタイムで株の注文状況を見ながら株式市場の仕組みを解説しました。また、クイズやディスカッションを交え、生徒たちが主体的に学べるよう工夫しました。

 特に印象的だったのは、田中先生が普段から取り入れている「30秒ディスカッション」です。クイズを出すとすぐに議論が始まり、30秒後には多くの生徒が手を挙げる姿に感銘を受けました。宿題もしっかりと取り組まれており、生徒から多くの質問が寄せられるなど、非常に活発な授業となりました。

 金融教育はこれからの社会を生き抜く上で重要な知識であり、早い段階で学ぶことが必要だと感じています。授業では「学んだことを家族に伝えてほしい」と伝えることが多いですが、若い世代から意識を変えることで、日本全体の金融リテラシー向上に貢献したいと考えています。今回の授業を通じ、生徒たちが楽しみながら金融を学ぶ姿に希望を感じました。彼らが将来、社会でどのように活躍するのか、とても楽しみです。

岡山県立岡山操山高等学校:「お金を通じて他人の幸せをつくる」高校生が学ぶ金融の本質

  2025年2月19日、岡山県立岡山操山高校の2年生を対象に「金融探究型授業」が開催されました。この授業に繋がる出会いは、2024年6月に開催された一般財団法人活育財団主催のNext Education Awardでした。同イベントで日本金融教育支援機構が大人の部で最優秀賞を受賞し、操山高校の生徒も中高生の部でファイナリストに選出。その際、引率で同行していた武田成弘先生が同機構代表の平井梨沙さんの講演を聞き、金融教育の重要性を感じたことから、コラボレーションが実現しました。

 当日は、同機構理事の阿部奈々さんが「計画的偶発性理論」をテーマに講演。阿部さんは自身の米国・中国への留学経験やキャリアの変遷を語り、偶然の出来事や出会いを柔軟に受け入れることでキャリアを築いてきたと説明しました。また、「年齢や状況に関係なく、自分の可能性を追求すること」「逆境を楽しむ力を持つこと」の重要性を強調し、生徒たちにエールを送りました。

 続いて理事の仲木威雄さんが「お金と己を生かす経営思考」と題して講演。銀行員時代の経験を基に「お金は持っているだけでは価値がなく、社会や他人のために活用することで初めて意味を持つ」と説明しました。また、経営者視点を持ち、「なぜ?」と考える習慣を身につける大切さを説き、レジ横にチョコが置かれる理由を経営目線で考える宿題を出しました。仲木さんは「人生は幸せになるためのゲームのようなもの。楽しみながら他人を幸せにする経営思考を持ってほしい」と締めくくりました。

 放課後には希望者15人が参加する座談会が行われ、当日の講義の宿題であるチョコをテーマにした議論を皮切りに、コンビニの経営戦略や世界経済の動向、キャリア形成における失敗と学びなど幅広い話題が展開されました。仲木さんは具体例やデータを交えながら丁寧に説明し、生徒たちの質問に応答。予定の30分を超える50分間、熱のこもったディスカッションが続きました。

 この授業は、生徒たちに経済や経営の仕組みを学ぶだけでなく、キャリア形成や社会の見方を深める貴重な機会となり、大きな拍手で締めくくられました。

同機構のPRも担当する阿部さん。アメリカに留学した際には、レモネードスタンド(子どもたちがレモネードを売るための屋台)に象徴されるように、幼少のころから「稼ぐ」ことを教えるアメリカ人の姿を見て、日本人とのお金に対する考え方にカルチャーショックを受けたと話しました。

新卒で銀行に入社して以来、転職しながらも金融に携わってきた仲木氏。ある会社に100万出資して得られた数千万のリターンを、経営危機にあったプロバスケットボールチームの支援に回したり、知人が起業した会社に創業資金を出資するなど、自分のためよりも、経営者の情熱や事業に共感した先に使った自身の事例を紹介し、「このお金は自分自身で稼いだお金ではないから、社会に返さないといけない。尊敬する経営者からお金は人のために使ってなんぼやってことを教えてもらった」と話す。

コンビニ経営、節税、投資、為替、USスチール買収、年金問題など、生徒の興味や疑問に応じて、具体例や実体験を交えながら丁寧に説明する仲木さん。高校生たちに「経営や金融の視点を持つこと」の重要性を改めて伝えた。

武田成弘先生  岡山県立岡山操山高等学校

 今回の講演会は、外部からの刺激や新しい視点を提供して、生徒たちに「心のエンジンを駆動する」きっかけにしてもらうこと、また、金融教育というテーマを通じて「お金をどう生かし、人の幸せに繋げるのか」を考えてほしいという狙いのもと企画しました。お金の持つ力や、経営思考の大切さを伝えていただいたことで、生徒たちが社会や自分の未来について考えるきっかけになったと思います。本校は女子生徒の割合が高いという特徴があるため、阿部さんのお話はまさに女性のキャリア形成の具体的な事例であり、生徒たちが「自分らしい生き方」を見つけられるような後押しになったと考えています。

 講演会の後に質疑応答を設けようと思いましたが、より深い学びの場を生徒に提供したいと考え、座談会を設けました。結果予想を超える15人も参加してくれて、とても貴重な、素晴らしい時間を共有できたのではないかと思います。

 今後も、日本金融教育支援機構さんのようなプロの方々にお手伝いいただきながら、学校教育では触れにくい、実践的な内容を取り入れることで、生徒たちの社会や自分の将来を考える力を養っていきたいと考えています。

阿部奈々さん  仲木威雄さん  日本金融教育支援機構 理事

 岡山操山高校さんと事前に打ち合わせをし、「キャリア形成の重要性」と「金融教育を身近に感じてもらうこと」を軸にお話しさせていただきました。キャリア形成については、自身の経験を基に「自分の可能性を広げる好奇心と柔軟性」を持つことの重要性を伝え、特に女性のキャリア形成に焦点を当てて「自分らしい生き方」のヒントを提示させていただきました。生徒の皆さんがこれまでの探究活動や学びを振り返り、それを将来のキャリア形成にどう活かすかを考える「点と点を線にする」きっかけになってもらえたらと考えています。

 金融教育では、「ザ・金融教育」的な内容ではなく、金融を通じて人と人の信頼関係を築き、他人の意思を応援する視点を伝えることに主眼を置きました。さらに、そうしたつながりを生む「経営視点」を持つことの大切さを生徒の皆さんに共有させていただきました。

 生徒さんのアンケート結果を見ても、「とても興味深かった」「興味深かった」との回答が9割以上、また多くの生徒さんから、お金についての理解が深まったという素晴らしいコメントをいただき、非常に嬉しい結果となりました。

※ 役職名は取材当時のものです。

 

新潟県立柏崎高等学校:中学生起業家から学ぶ「アントレプレナーシップ」のマインド

 2025年3月18日、新潟県立柏崎高等学校で高校2年生を対象とした「令和6年度 アントレプレナーシップ講演会」が開催されました。講師は、日本金融教育支援機構の認定講師・野田拓也氏で、サポートとして同じく認定講師の北島諭氏も同行しました。

 講演の前半では「給与と会計」をテーマに、税金や社会保険料を差し引いた手取り収入について学びました。生徒たちは一人暮らしを想定し、家賃や光熱費などの経費を計算するワークに挑戦。野田氏が「自由に使えるお金が足りたか」と問いかけると、生徒たちからは「全然足りなかった」という声が多く挙がり、初任給での生活の現実を実感しました。

 後半では「アントレプレナーシップ」について学び、収入を増やすためには新しい価値を生み出す挑戦する姿勢が重要であると解説。野田氏は自身の息子さんが中学生時代に起業し、株式会社を設立したエピソードを紹介しました。息子さんが新型コロナによる休校期間中に金融を学び、若い世代にその知識を伝える事業を立ち上げた話に、生徒たちは驚きの声を上げました。野田氏は「ビジネスの種は、自分の好きなことや挑戦したいことと、社会のニーズが重なる部分にある」と説明しました。

 最後に、生徒たちは自分の関心事と社会のニーズが重なる部分を考え、自分なりの「ビジネスの種」を書き込むワークに取り組みました。講演は1時間半にわたり、生徒たちに新しい視点を提供し、挑戦する重要性を伝える機会となりました。

「アントレプレナーシップ講演会」の講師を務めた野田拓也氏

ワークショップに取り組む高校2年生の皆さん

吉楽雅典先生  木村貴美子先生  新潟県立柏崎高等学校

 これまで本校では「お金」に関する教育機会が少なく、生徒が社会に出た際に直面する「お金の問題」を乗り越える力の重要性を感じていました。また、本校の探究活動「柏崎サイエンスプロジェクト」の最終目標は「生徒がmy感を持って(自分事と感じて)積極的に新規プロジェクトに挑戦する自立した探究活動」であり、そのためには、「活動資金の調達方法」を知り、「予算の壁」にぶつかっても、それを解決する視点も必要と考えていました。そのような中、2024年9月に三菱みらい育成財団主催の「みらい育成アワード2024」で日本金融教育支援機構の平井さんとディスカッションする機会があり、同機構の協力があれば求めていた金融教育を提供できると確信し、講演を依頼しました。

 講師の野田さんには、生徒が「お金」や生活設計を自分ごととして考えられるワークショップもお願いしました。この実践的な内容は、大学進学や一人暮らしを控えた生徒にとって現実的な学びとなり、特に「中学生で社長になった」という講師の息子さんの実体験は、生徒たちに「自分にもできるかもしれない」という可能性を感じさせたようです。後半のワークショップ「ビジネスの種を見つける」では、生徒たちは初めての経験に戸惑いつつも真剣に取り組み、探究活動につながる学びとなりました。

 今後は、日本金融教育支援機構や地元の起業家、地域活性化に取り組む方々と連携し、生徒たちが社会や将来を考える力「アントレプレナーシップ」を養える機会を継続的に提供し、学びの幅を広げていきたいと考えています。

野田拓也さん  一般社団法人日本金融教育支援機構 認定講師

 今回の講演会では「アントレプレナーシップ」をテーマに、新しい価値を生み出す力や挑戦する姿勢の重要性を伝えることを目指しました。生徒たちが将来どのような道を選んでも、新しい価値を生み出す力や挑戦する姿勢は社会で求められています。そうした視点を持つことが、就職やキャリア形成においても大きな強みになると考えています。

 講演後のアンケートでは、「私たちでも起業できることを知り選択肢が広がった」「考え方次第で行動や選択が変わると感じた」といった前向きな意見が多く寄せられました。また、講演前は起業に対し「才能が必要」「リスクが高い」といった否定的な意見が多かったものの、講演後には「社会貢献に繋がる」「自由な働き方ができる」といった肯定的な意見が増え、生徒たちが自分の未来の可能性を広げる意識を持つきっかけとなったのではないかと考えています。

 私が日本金融教育支援機構の認定講師として活動する理由の一つは、「お金」や「起業」に対する誤解や偏見をなくし、次世代に正しい知識を伝えることです。息子が金融を学んでいた際に偏見を受けた経験から、日本社会に根強く残る金融教育の課題を実感しました。今回の講演を通じ、生徒たちが「お金」や「起業」をポジティブに捉え、自分の未来を切り開く力を身につける一助となれば嬉しく思います。

コラボレーションに関わった皆さん

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