
「自分は何が好きだろう?」の問いから始まる、社会実装に繋がる学び
愛媛県立三崎高等学校(カテゴリー1 │ 2025年度)
株式会社 ミエタ(カテゴリー2 │ 2022年度)
2026年2月12日と19日の2日間にわたり、愛媛県立三崎高等学校にて、株式会社ミエタとの合同授業が行われました。ミエタは実社会の先進的な社会テーマを取り上げ、その第一線で活躍する社会人講師による指導のもと、「社会実装(商品の製造販売や動画の配信、イベントの実施など社会行動を実際に起こすこと)」を重視した「MIETANプログラム」を高校に提供。
一方、三崎高校は四国の最西端・佐田岬半島の“先端”に位置する愛媛県伊方町で唯一の県立高校であり、変化の激しい社会を生き抜くため、「生きる力」や「多面的に学び、考える力」の育成を掲げた探究活動「せんたんプロジェクト」を推進しています。同校が2026年度から1年生を対象に教員の「得意」や「好き」を生かしたゼミ形式でのワークショップを実施するに当たり、専門家の授業を参考にしたいと宮﨑涼先生が財団に相談していただいたことで、今回のコラボが実現しました。
同校ではまず、生徒たちから学びたいテーマを募り、ミエタとの相談の上、その中から「マーケティング」を選定。生徒向けの授業を行う前に教員向けの説明会をオンラインで約1時間実施し、今回行う授業内容や探究活動のポイントなどを伝えました。
2月12日にはミエタの探究コーディネーター・渋谷吉孝さん、マーケティングの専門家である塚原怜氏が学校を訪れ、授業6コマを使って2年生の生徒51人が「プロのマーケターの手法を使ってタピオカミルクティーを超えるヒット作を作ろう!」というミッションに取り組みました。5~6人の班に分かれ、ワークシートを使いながら、まずは個人で推したい食料品とその新しいコンセプトとキャッチコピーを考え、今度はグループの中でお互いの推し商品・推しの理由などヒアリング。グループで推したい商品を決めた後は、「ターゲット」や、ハマっているものや流行りなどの「コンセプトの種」、それを基に打ち出す「新コンセプト」のアイデアを整理し、中間発表をしてこの日の授業は終了しました。授業に参加した2年生の川名更紗さんは、「グループの推し商品を一つに絞るために、皆で議論した時が一番盛り上がりました。結果的にアイスのパルムになったんですが、普段パルムをあまり食べない層をターゲットとして、新たな推し商品のコンセプトを練っていきました。これまでマーケティングには興味がなかったのですが、今回学んだ『伝えたいことを絞っていく』という手法は、3年生の探究活動でも役に立つと感じました」と手ごたえを振り返りました。
この授業の狙いについて、渋谷さんは「私たちのプログラムでは、社会実装の中に自分が存在しているか、自分が社会とどのように繋がっているのかを意識してもらうことを重視しています。今回のマーケティングにおいても、急に大人が選んだ商品を持ってきて、『これをバズらせて』と言っても生徒の皆さんにとってはその商品との接続がないので実感がわかないと思います。そこで私たちはまず『自分の好きなものは何か?』という問いかけをもって、自分で自分をマーケティング分析するということを起点にマーケティングの手法を学んでいけるよう、プログラムを設計しました」と話しました。
最終発表は1週間後。生徒の皆さんは休み時間や放課後などを活用して1週間でプレゼンテーションの内容をブラッシュアップさせ、2月19日を迎えました。
「タピオカ超え」に向けた10のアイデアを発表
2月19日は、生徒たちが「提案する新商品」「ターゲット」「パッケージデザイン」「アピールポイント」などを3~4分で発表。その後、オンラインで発表を見ていた塚原怜氏が講評をするという形で発表が進んでいきました。全10班の発表内容を紹介します。
1班:推し商品は「さけるチーズ」。「さける」と「シェア」を掛け合わせ、ターゲットの新入生が周囲とチーズをシェアすることでコミュニケーションを築くというコンセプト。パッケージのQRコードを通じてユーザーからの新入生に向けた応援メッセージが届くシステムと、オリジナルキャラクター「さけちん」のパッケージデザイン案を紹介
2班:推し商品はコンビニ限定の「サメジマは今日もサメている」というグミ。選定理由は、名前とパッケージの面白さに反して知名度が低いこと・美味しさ・可能性の3点。提案プランは①アニメ化による知名度アップと、②姉妹商品の開発と新パッケージデザイン案を提示。アニメポスターとパッケージデザインにはChatGPTを活用。
3班:推し商品はダースチョコレートで、ターゲットを未咲輝(みさき)塾(校内にある公営塾)に通う生徒に設定。塾生が睡魔に悩まされているという課題をヒアリングから導き出した。「やる気ダース・今ダース」というキャッチコピーを考案し、三崎高校の自動販売機での販売を最終目標として設定。
4班:パルムアイスを推し商品とし、ターゲットを「背伸びはしたくないが、おしゃれなものが欲しい女子高校生」と設定し、アサイーボウルを使ったフレーバーを提案。インフルエンサーや女子高生による購買促進効果を出すために、SNS映えさせる戦略を提案。
5班:推し商品はメントスで、平成女子とシール帳の二つのブームを基に、コンセプトを「女子高校生には平成感を楽しんでもらい、大人には懐かしさを感じてもらう」に設定。デザイン案では新フレーバー「ハニーレモンソーダ」を原色を用いた平成特有のビジュアルに仕上げ、キャラクターシールを同封することで、リピート購買を促す戦略を提案。
6班:部活後専用補食として「Boost Rye」という新しいライ麦パン商品を企画。AIDMAモデル(消費者が商品・サービス購入に至るまでのプロセスを5段階で示したもの)に基づき、大会会場での試食配布→ライ麦の特徴説明→試合後の空腹を抑えるメリット提示→体験による記憶定着→帰り道のコンビニ・自販機での購買という導線を設計した。
7班:推し商品は「バニラヨーグルト」で、コンセプトは「アレンジレシピ」、ターゲットはSNSでアレンジレシピ動画や投稿をよく見ている甘党の高校生。トレンドを取り入れたSNSへの継続投稿で知名度向上を図り、ハッシュタグキャンペーンでユーザーがアレンジレシピ写真をSNS投稿すると抽選で景品が当たる仕組みを提案した。
8班:「揚げないチキン南蛮」のテイクアウト専門店を提案。チキンを焼くことで、カロリーを大幅にカット、ギリシャヨーグルトを使用したタルタルソースで、コクを保ちながら低脂質を実現できるレシピを紹介。ダイエット対応・満腹感・インスタ映えという三つのアピールポイントを訴求した。
9班:推し商品は「じゃがりこ・明太チーズもんじゃ味」で、課題はコンビニ限定であることとLサイズのみという制約、辛いというイメージだと分析。「量の多さ」を逆手に取り、食欲旺盛で運動量の多い高校生をターゲットに設定し、じゃがりこのある高校生の生活というVlog(ビデオブログ)を制作、大きな拍手が送られた。
10班:ロングセラー駄菓子「蒲焼さん太郎」の甘辛い味に注目し、海外の人々が和食の魚介・甘辛系の食を好む傾向があることから、海外市場に受け入れられる可能性があると分析。海外の人気菓子「ハリボー」とコラボし、シュガーコーティングによって「外はハリボーの甘さ、中は蒲焼さん太郎の甘辛さ」という不思議な食感・味わいの新商品を提案。
塚原氏は、各班の評価できる点とさらに改善できるといい点について生徒たちと会話しながら講評。全体を通して、生徒全員の情熱・積極性・資料の質・発表の丁寧さを高く評価しました。またマーケティングにおいて最も重要なことは、「ヒアリング(実際のターゲットへの聴取)」であり、話を深掘りして聞くことが差別化の源泉になると強調し、ありきたりではないアイデアを生み出すためには、フレームワークやルールに縛られすぎず、ヒアリングで得られた「面白い言い方・視点」を中心に企画を展開することが効果的であるというアドバイスが送られました。
事前に20分間の発表準備を設けたことで、生徒たちが他班の発表を聞きながら準備をするといったこともなく、ダジャレを使ったフレーズやVLOG映像では爆笑が起きるなど、終始集中し、楽しみながら聞いている様子が見られました。
最後はリフレクションとして、班メンバー全員への「サンクスレター(感謝の手紙)」を付箋に書くアクティビティを実施。渋谷さんからは、「手紙をもらったら、ぜひそこに書かれてることを受け取ってください。謙遜したり、いやいやとか自分なんてまだまだって思ったりするのではなくて、ありがとうって言われたことをちゃんと受け取る。なぜならそれは自分の強みだから。弱みはなくした方がいいのかもしれないけど、なくすのは難しいから、強みを理解して、弱いところは強みを人にギブすることで許してもらうことが重要。流れ作業で渡すのではなく、しっかりと相手に感謝の気持ちと一緒に渡してください」と生徒たちに語りかけました。班全員分のサンクスレターを書き終えた後は、しっかり相手の顔を見て感謝の気持ちと共に手渡しました。全員が各々の役割をしっかり果たせたからこそ贈り合えた感謝の気持ち。中にはその内容に一緒に笑い合ったり、また涙ぐむ生徒もいました。
専門家から学んだマーケティングの知見とさらに強固になったチームワークが、三崎高校の「せんたんプロジェクト」をさらに前進させ、生徒たちの次の挑戦へと確かに繋がっていくことを感じさせる合同授業となりました。
本番直前に発表の練習として20分を取った。生徒の皆さんは、集中しながらもリラックスした雰囲気
9班の「じゃがりこのある生活」Vlogの面白さに、教室は大盛り上がり
先生方も後方で授業の様子を見守る
「サンクスレター」を見ながら生徒と談笑する渋谷さん。教員を経て探究コーディネーターとして多くの学校で探究活動を支援してきた
自分あてのサンクスレターを熱心に読む生徒の皆さん
休み時間に大勢の生徒に囲まれる宮﨑先生(一番右)。「テストでは測れないような協調性や主体性などの非認知能力を探究で育てていきたい」と話す
3班の推し商品はチョコレートのダース、ターゲットは校内の塾に通う塾生。睡魔に勝ち、モチベーションを高めるチョコというコンセプトのもと、苦みのあるカフェインを入れた、甘さが強いホワイトチョコレート、かつ勉強する人へのメッセージが書かれているという新商品を企画。また現在の横向きパッケージのデザインが右利きの人を想定にしていることを指摘。縦にして、アルミホイルで内側を囲いチョコが飛び出さないデザインを提案した。
(左から)重家敦甫さん、河岡亮さん、小尾昂生さん、亀山岬さん、小笠原佑奈さん
皆から出た推し商品やアイデアを基に、商品の魅力は何か、どうやって改善していくか、その内容を皆に興味を持ってもらうためにどのように伝えていくかを皆で話していく過程が楽しかったです。中でもプレゼンの最初で紹介したキャッチコピー「やる気ダース・今ダース」は、プレゼンのインパクトを強めようと最も力を入れたところです。パワーポイントの資料は、この部分の発表は誰がしたら説得力を持たせられるかということも意識しながら作成していました。また最初に決めたコンセプトに対して、意見を出し合って、肉付けしていったのですが、意見を出すのが苦手なメンバーもいました。でも他のメンバーが、思いつきのかけらを拾ってくれたり、まとめてくれたりして意見を出すのに困るということは結果的になかったです。そうやって肉付けしながらも、最初に決めたコンセプトの軸をぶらさずに発表できたところがよかったと自分たち自身で思っています。サンクスレターはやはりもらった時は恥ずかしかったですが、クリアフォルダーに大事に保管しています。
Voice
愛媛県立三崎高等学校 教諭
宮﨑 涼さん
ミエタさんにお願いした最初の授業が終わった後で、来年度の選択科目を「マーケティング」に変えたいと言ってきた生徒がいました。3年生になると「芸術探究」か「マーケティング」のどちらかを選択するのですが、変えたい理由を聞いてみると、「この間の授業がめっちゃ面白くて、マーケットに興味が出た」ということでした。全国の学校が探究活動に取り組んでいますが、学校の特性によって探究の目的も異なってくると思います。普通科の本校では、例えば勉強が苦手な生徒が探究活動を通してちょっとでも学びに興味を持ってもらうということが一つの目標と考えていたので、その生徒の話を聞いたときに、目標が達成できた、ミエタさんにお願いした甲斐があったと心から思いました。
実際の授業の様子を見ていても、グループワークをした場合は、大体役割がない生徒、することがない生徒が出てしまうことが多いのですが、今回は最後まで本当に一人ひとりが考え続けることができていたのを見て、生徒たちも楽しんで取り組んでくれたのだと思います。
教科の授業と探究を繋いだ教育に取り組みたいと以前から考えており、その第一歩として、教員の「得意」や「好き」を活かしたゼミ形式のワークショップを2026年度からスタートする予定です。まだ探究活動に不安を持っている教員もいるため、今回モデルケースとしてミエタさんに授業をお願いしました。探究コーディネーターとして実績を持っている渋谷さんの授業は、教員にとっても勉強になりました。2026年度も引き続き、教員のバックアップをミエタさんにお願いできればと考えています。
今後は三菱みらい育成財団の成果発表動画の中で、同じようにゼミ形式で探究活動を進めている学校さんがあったので、視察に行かせていただくなど、広く知見を集めて、本校の「せんたんプロジェクト」に活かしていきたいと考えています。
株式会社ミエタ 探究コーディネーター
渋谷吉孝さん
今回の授業を通じて、私が最も強く感じたのは、生徒の皆さんがテーマに対して「逃げずに考え抜く」という、真摯で素晴らしい姿勢です。
ワークの過程で、安直な答えや形ばかりの妥協に着地しようとする生徒が一人もいませんでした。納得がいくまで頭を悩ませ続け、自分たちなりの「本質」を掴み取ろうとする姿には、圧倒されるほどのエネルギーを感じました。生徒アンケートでも、「もっとヒアリングのための期間がほしかった」「プレゼンの時間がもっと長ければ、より想いを伝えられた」といった、前のめりでポジティブなリクエストが多数寄せられており、彼らの「もっと深めたい」という純粋な欲求が伝わってきました。
先生方も、想像以上に主体的に取り組む生徒たちの姿に、良い意味で驚きを感じておられたようです。振り返りの場では、授業設計の意図や「何を体得させるための設計か」といった専門的なご質問も頂き、先生方の学ぶ姿勢の高さにも感銘を受けました。なにより、授業実施の際にはたくさんの先生が見学に来られて、生徒の取組みに関心を寄せられていました。
今回、私はスポットでの関わりでしたが、この授業が成立したのは、ひとえに先生方の「日々の積み重ね」があったからこそだと確信しています。宮﨑先生は「何もやっていないですよ(笑)」と謙遜されておりましたが、生徒同士の信頼関係、教室の空気感、そして学ぶことへの誠実な態度は、一朝一夕にできるものではありません。先生方が日々耕してこられた土壌があったからこそ、今回のプログラムが花開いたのだと感じております。
私が印象に残っているのは、授業の最後に行った「サンクスレター」の交換です。仲間の言葉を真正面から受け取り、目が潤んでいる生徒の姿もありました。お互いにベクトルを向け、真っ直ぐにメッセージを伝え合い、それをしっかり受け止める。あの温かくも研ぎ澄まされた空間は、今回の授業のハイライトでした。
改めて、このような貴重な機会を頂き、私自身も教育の持つ可能性を再確認することができました。三崎高校の生徒さん、先生方とあのような空間を一緒に作れたことは本当に楽しかったです。現場に伴走する我々の立場だからこそできること、そのあたりを現場の人ら(先生・生徒含め)と一層協力して進めていくことの可能性も感じることができました。

