カテゴリー 42021年採択

愛知県公立大学法人 愛知県立大学

対象者数 710名 | 助成額 736.1万円

http://www.bur.aichi-pu.ac.jp/kyoyokyoiku/2021/index.html

Program愛県大教養教育新カリキュラム:「県大世界あいち学」の始動

 愛知県立大学教養教育センターでは、個性ある公立大学として、教養教育カリキュラムを2021年度に刷新し、グローバル社会と愛知県および近隣地域に根差した教養教育を、文理5学部が連携して、講義・対話・学外実践・成果発表の方法を組み込んだ体制で行っている。

 4年間の積み上げ履修を可能としつつ、教員連携と学生共修の方式で、「県大世界あいち学マイスター」の取得を目標として定めている。没個性的な一般教育や分野限定的な専門教育を超えた、新時代の教養教育プログラムを実施していく。

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県の特徴を生かした教養教育へ刷新

 愛知県立大学は、1966年に愛知県立女子大学を母体として設立、2009年に愛知県立看護大学と統合し、外国語学部・日本文化学部・教育福祉学部・情報科学部・看護学部の5学部を擁する。2021年に教養教育カリキュラムを刷新し、1年次必修の教養コア科目として「多文化社会への招待」「データサイエンスへの招待」、また2年次からの選択授業として「グローバル社会の諸問題」「エリアスタディーズ総論」「ものづくりの現状と課題」「いのちと防災の科学」、3年次以降に選択できる科目として「県大教養ゼミナール」を新設した。

 教養教育カリキュラムを刷新した背景について、久冨木原 玲学長は「グローバル化が進む実社会で役立つ教養を身に付けることを目的に、ものづくり産業や在留外国人が多いなどの愛知県の特性を意識した『地域や企業との連携』『多文化共生』を主軸として、5学部横断的に学ぶ教養教育科目群を『県大世界あいち学』として掲げました。このビジョンに沿って、新プログラムを構築していきました」と話す。

 1年次必修の「多文化社会への招待」「データサイエンスへの招待」は、両科目とも全5学部の教員と学生が参加すること、また講義と少人数に分かれてのグループワークを組み合わせた内容が特徴となっている。教員は各学部から選出、ローテーションを組んで担当してもらう体制となっており、「多文化社会への招待」では、各学部の専門に即した「多文化」への問いをテーマにしている。もともと同大学では外国語学部の規模が大きく、また愛知県は全国で二番目に外国人が多いという地域特性から多様な言語圏の専門家もおり、従来から多文化教育には力を入れてきた。そこに他学部の要素も取り入れ、より視座を広げさせた形となった。

「データサイエンスへの招待」では、同大学の大部分を占める文系の学生たちにも分かりやすく、また興味を持ってもらうような内容にすべく、時間をかけて構成を練っていったという。「古文書解読にもデータ分析が欠かせないという話をすると学生が驚くのですが、自分たちの専門にデータサイエンスの観点は必須であることを認識してもらうことが一番大事なことだと思っています。そのため事例紹介は、5学部の教員からそれぞれの専門分野のテーマを出してもらって、学生の関心を喚起させています。データサイエンスの専門的な講義は情報科学部の教員が行いますが、他の学部の教員も事例紹介だけでなく、グループワーク担当、演習課題担当などの役割を担いながら授業を進めています」と教養教育センター長 梶原克教先生は話す。単に分かりやすさだけを追求するだけでなく、地元のIT企業にも内容を精査してもらい、時代に即した専門的な要素も入れ込むようにしている。

「データサイエンスへの招待」の授業のグループワークの様子。情報科学部の教員(左)と外国語学部の教員(右)が一緒になって授業を進めている。

「多文化社会への招待」のワークショップの様子。約700名を5クラス100チーム(1クラス20チーム)に分けて実施。助成金により入手した1チームあたり1枚のタブレット端末を利用して、グループワーク結果をTeamsにアップロード。他チームのワーク結果を参照し、最終討議に臨む。

愛知県立大学だからできる魅力を改めて見つめなおす

 2022年度には2年次以上が履修できる教養連携科目「グローバル社会の諸問題」「エリアスタディーズ総論」「ものづくりの現状と課題」「いのちと防災の科学」がスタートした。これらの科目では、複数学部の教員が連携するだけでなく、地域企業や行政などの外部のゲストによる講演や産業界の現場演習を取り入れたものになっている。キャリア関連科目の「キャリア実践」においては、地元企業から実際に抱えている経営課題を提示してもらい、学生がグループになって解決策を考え、企業にプレゼンするという流れで行った。「企業からの指摘は、学生たちの甘さを一喝してくれるシビアなものでしたが、それを踏まえて学生たちが再度プレゼンをすると見違えるほど良くなっていました。学生にとっては社会人になる前にその厳しさを知るいい機会になったと思いますし、企業も学生相手だからというレベルではなく真剣に向き合ってくれ、実際に学生の提案を施策に反映いただくなど、これまでにない深い連携が取れたと思っています」と久冨木原学長は話す。

 また教養特別科目である「県大エッセンシャル」は年度ごとにテーマを変える科目としており、2022年度はコミュニケーション関連科目を補強することをテーマとして、劇作家・演出家である平田オリザ氏と劇団関係者による講演とワークショップを実施。履修した学生からは好評だったという。

 こうした刷新は「5学部連携」を強く意識して行われており、グループワークは学部シャッフルで組まれ、学生のアンケートからは「これまで接点がなかった他学部の学生と知り合うことで、違う視点が得られた」等の感想が多く書かれていたという。「特に看護学部の学生は、職業意識が高く、視点や考え方が他の学部とは全く異なります。こうした特徴のある学部の学生も一緒になって勉強するという点は、『県大世界あいち学』ならではだと思います」(梶原先生)。

 また学生だけでなく、教員同士でも連携の効果も出ているという。例えば、「エリアスタディーズ総論」では、外国語学と日本文学部の教員で協働しており、海外を対象にしたエリアスタディーズと日本もしくは東海地域のエリアスタディーズの二つを同時並行で進めるというユニークな科目となっている。カリキュラムの改革だけでなく、かつては学部付置となっていた研究所の予算は他学部との共同研究を必須条件とする等、教員同士の連携強化も推進している。久冨木原学長は、「当大学は、教員は約300人、キャンパスも二つに分かれていますが、距離は近く、顔の見えやすいまとまりやすい規模です。5学部連携で生まれる効果は、新しい愛県大の魅力だと考えています」と話す。

 愛知県立大学の特徴を改めて見つめ直し、そこに愛知県が持つさまざまな強みを取り入れた「県大世界あいち学」は、県立大学の教養教育のあり方の一つのモデルとなるだろう。

愛知県半田市に本社を構えるミツカンとの連携によるPBL(Project Based Learning)。同社からは、「本社のある地域の町づくりと連動したプロジェクト実践」という課題が出された。

ミツカンから課されたテーマに対して、学生たちは解決法を考え、ミツカン社員や学長、副学長に向けてプレゼンテーションを行った。

「シンパシー(同情)からエンパシー(共感)へ」というテーマで、平田オリザ氏による講演会を実施。他者とコンテクストをすりあわせ、イメージを共有することの重要性を、コロナ禍の具体的な状況を例に挙げながらお話しいただいた。

平田オリザ氏の劇団員によるワークショップでは、自分と演じる役柄の共有できる部分を見つけながら、他者と折り合いをつけるすべを学んだ。

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