カテゴリー 22022年採択

特定非営利活動法人 じぶん未来クラブ

対象者数 60名 | 助成額 835万円

https://www.jibunmirai.com

Programやってみよう、が未来をつくる 
自己探求「Yes, And!」プロジェクト

  大切にする精神は、「Yes, And!」=「まずは、やってみよう!」。対象とするのは、高校生活に漠然とした不安や物足りなさを感じていても、動き出せない生徒たち。彼らが、行動をすることで、「自身の興味関心の方向性」「自分で機会を作り出した自信」など、得られるものの多さを体感してもらう。そして、行動へのハードルを下げ、自走できるようになることを目指す。

 

<プログラムの特徴>

・自分で会いたい人を決め、自分でアポイントを取り、3人のインタビューを行う。複数人の社会人と出会うことで、意外な面白さや、より大きな達成感などを狙う。

・異なる地域、異なる興味関心を持つ生徒たちとチームを組んで活動。インタビューの共有など、対話して進めていくことで、視野を広げる機会に。

・学生や若手社会人がメンターとなって伴走。「Yes, And!」のコミュニケーションでアドバイス。安心安全な場づくりで、困難なプロジェクトを完遂させる。

・最後の発表は自分の学校に戻り発表。学内での周囲の生徒への波及効果も狙う。

・学校教員もプログラムに参加。自身が学校で主体的な学びのプログラムの主体者となれるよう、教員向けのワークショップも開催。

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活動レポートReport

「Yes, And!」の精神で、一歩を踏み出す勇気を与える

 年の瀬の匂いが漂い始めた2023年12月17日午後3時。この日の朝に始まった「自分探究Yes, And!プロジェクト」の最終ステップも大詰めを迎えていた。

「私たちにとっての『Yes, And!』とは何か。どう決めたらいいかな…?」

進行役に選ばれた生徒が切り出した。これまで頼みの綱だった大学生のチームメンターはズームの画面をオフして、裏から見守っている。これが最初で最後、高校生だけで進行して答を出さなければならない15分間のワークだ。半年前の初顔合わせ時のような、探り合う空気が漂ったかに見えたその時。

「一人二つずつキーワードを出し合って、みんながいいと思えるものを組み合わせたらどうだろう?」

一人の発言をきっかけに、「いいね、それ!」「そうしよう!」と議論が回り始めた。かたずを飲んで見守っていたメンターたちも、ほっと胸をなでおろした。

 2006年に立ち上げられた「特定非営利活動法人 じぶん未来クラブ」は、設立以来小学生~高校生向けにさまざまな教育プログラムを実施してきた。そうした長年の活動から得られた知見や体験を基に2022年度からスタートしたのが、フルリモートで行われる「自分探究Yes, And!プロジェクト」だ。きっかけさえあれば動き出す潜在能力のある高校1~2年生を対象としたプログラム。「Yes, But(やりたいけれど自分には無理)」が口癖となった生徒たちに、「Yes, And!(とりあえず、やってみよう!)」の精神を養わせる。その他大勢のモブキャラに甘んじる気はないが、矢面に立って駆け出す勇気にも欠ける。教室の中で大半を占めるそんな生徒たちが、自ら、あるいは担任の先生や部活動の顧問などに背中を押されて集まって来た。全国から応募してきた約70名の生徒たちは、2クラス10チームにグルーピングされる。

 「同じ学校の子は必ず別のチーム。性別や部活動、居住地なども考慮し、なるべくバックグラウンドの異なる子同士がチームを組むように調整します。学校では捨てきれないキャラもここなら変えられる。そんな場を提供するためです」と平賀恵美子理事は語る。

 生徒たちを半年間にわたって支え、励まし、伴走してくれるのが、各チームに1人ずつ置かれた10人の大学生チームメンター。その他、大学生メンターのリーダーとしてサポートするプログラムアシスタント2人と若手社会人メンターが6人。これらメンター全体を取りまとめるチーフメンターが1人という陣容でプログラムを進行させる。大学生や社会人のメンターは、過去に同団体が実施したプログラムに参加したメンバーが中心となっている。

「大人が直接関わると、どうしても先生と生徒の関係になってしまう。だから若手メンターたちに運営を任せています」(平賀理事)

STEP4最後の記念撮影。高校生たちが各クラスで決めたYes,And!ポーズをしながら

4つのステップで、さまざまなハードルを設定

  2回目となる2023年度は7月、第1ステップの「出会いを楽しもう」から始まった。これから半年、苦楽を共にする6、7人のチームメイトや大学人・社会人メンターとの顔合わせの2日間だ。各人の自己紹介やメンターの経験談などを聞く中で、見知らぬ人との距離を縮めていく。最初はマイクをミュートにしていた子も、次第に解除したままになっていく。また、プログラムの中では、メンターも含めてニックネームで呼び合うルールだが、最初は照れていた生徒たちも、その後一緒にワークしていくうちに、次第に抵抗もなくなっていく。

  プログラム最大の難所は序盤に早くも訪れる。ステップ2の「会いたい人に会いに行こう!」は、自分が会いたい“大人”を選び出し、その中の2名以上から自分で面会の約束を取り付け、直接あるいはオンラインでインタビューする。その対象は、生徒たちそれぞれの興味や関心によって多種多彩だ。大学教授や自治体の首長、企業の社長や商品開発担当者、スポーツ選手、小説家、消防士等々と範囲が広く、総じて多忙の方が多い。ここで頼りになるのが社会人メンターだ。電話やメール、インタビューにおけるマナーや心得等を、社会人としてアドバイスしてくれる。しかし、どれだけサポートを受けても高校生にとってアポ取りのハードルは高く、次々に断られて心が折れてしまう子も少なくない。そんな時に寄り添って励まし、アドバイスするのもメンターの役割だ。ZoomやSlackを使い、アポが取れていない子に呼びかけて「アポ取り大会」を実施したり、一対一の悩み相談に乗ったりもする。

  こうしたメンターの細やかな対応は、毎週月曜日に行われる「メンター研修」から生まれる。チームビルディングやチアーアップについて何度も話し合い、ロールプレイを繰り返すことで、メンターもまた成長していく。

「研修では、高校生たちの安心安全の場を作るということを第一に、コミュニケーションを取ろうと話しています。相手に興味関心を持って、素直に話しかける。高校生だけじゃなく、大学生のメンターも、活動の中でどんどん成長していくんです」(平賀理事)

  アポ取りからインタビューは、夏休み期間を中心に行われるが、インタビューまでこぎつけてもまだ続きがある。そこで感じたことを新聞にまとめ、取材先にお礼状と共に送るまでがステップ2だ。新聞のフォーマットは、「タイトル」「印象に残った言葉」「編集後記」だけで、あとは他の人が読んで伝わるように、各自自由にまとめていく。PCアプリで作り込む者もいるし、手書きで仕上げる者もいる。皆イラストや写真も使って、個性的に作成し、プロジェクト内のサイトに掲示していく。なかなかまとめらない者は、メンターのアドバイスを受け、仲間の新聞も参考にして、感動や気づきを自分なりに形にしていく。

  ステップ3は「自分なりの挑戦『My Yes, And!』を決めてトライ」。インタビューをきっかけとして実行してみたくなったことでも、これまで言い訳をしてやり残していたことでも何でも良い。一人旅をして様子を動画で収める、ギターで1曲マスターする等、2カ月でできるチャレンジを実行するステップだ。短期間だけに、モチベーションを保って、楽しそうに挑戦している子が多い。アポ取りの苦労に比べればという思いに加え、オンラインで共有し合う仲間たちの頑張りも背中を押してくれる。

  ユニークな例として、クリアせずに放置していたロールプレイングゲームを、英語設定に変更して最初からやり直した子がいた。最初こそ辞書と首っ引きだったものの、日を追うごとに辞書に当たる回数が減って、自身の成長を日々体感できたという。

  そして最後のステップ4は「これからの自分を伝えよう!」。「My Yes, And!」の報告と、半年間の活動を振り返って、どんな変化や気づきがあったかをチーム内で共有。その上で、チームごとに「私たちにとっての『Yes, And!』」というプレゼンテーションをまとめ、5チームが集まるクラスワークで発表する。役割を分担したり、セリフを割り振って発表したり、チームごとに趣向を凝らしたプレゼンテーションが繰り広げられ、成長した生徒たちの姿に思わず涙ぐむメンターもいた。

勇気を出して電話でアポ取り

インタビューではしっかりメモを取って

高校生が制作した新聞。各自工夫を凝らして、気づきや感動を表現している

参加した高校生を中心に広がる「Yes, And!」の輪

  冒頭に紹介した、自分たちだけで考えるワークに関し、「実は少し心配だったんです」と平賀理事は語る。しかし、皆が生き生きと取り組んでいる姿を見て、来年度はもっと早い段階からそういう機会を増やしてみようかとも考え始めているという。

「小さなワークから始めて、“自信の階段”を少しずつ昇ってもらえるような工夫をもっと取り入れてもいいかなと思っています。参加した子が自分から動き出せるようになるというゴールは変わりませんが、そこに至るステップは、今後もいろいろ試していきたいと思います」(平賀理事)

  オフィシャルのプログラムは12月で終了したが、実は生徒たちには1~2月まで活動の続きが残っている。学校に戻って、自身の体験を発表するというアドバンストプログラムがあるからだ。

「クラスでも部活動でも、どんな場でもいいからこの経験を発表してもらう。昨年度は一部の生徒たちしかできませんでしたが、今年度はなるべくみんなに実行してもらおうと思い、各校の先生方にも早くからお願いしています」と平賀理事。

  というのも、昨年度の校内発表が予想以上の反響を呼んだからだ。校内発表を聞いて、今回応募してきた子も少なからずいるし、学校の先生からも、生徒の変化に驚かされたというコメントが多数届いている。

  校内発表をするにも、先生と相談して日取りや場所を決めたり、発表の方法を考えたりと、自分からの働きかけが必要になる。そういう意味でも、プログラムの一環として実行してほしいのだと平賀理事は語る。

  1日がかりで行われたステップ4もいよいよ終わりを迎えた午後4時頃。昨年度の参加生徒から体験談が伝えられた。クラスでも部活動でも自分から話しかけることができず、人と目が合うと思わず視線をそらしてしまうほど内向的な性格で、所属する水球部の顧問の先生に勧められてプログラムに参加した。そんな彼が、半年間のプログラムで自信を得てすっかり積極的になり、日本体育大学のプレゼンテーション型入試に挑戦したいので志望理由書を見てほしいと昨年のメンターに自分から連絡。見事に合格の通知が届いたという。思い当たる節があるのか、話を聞きながら大きくうなずく生徒が何人もいた。

  今年度の生徒たちからも、プログラムを通して「自分を認められるようになった」「社会に対する興味関心が高まった」「困難に直面しても自分なりに頑張れるようになった」「学校では出せない自分を出せた」などの回答が寄せられている。

「Yes, And!」の精神は、プログラムに参加した生徒たちはもちろん、クラスメイト、部活動仲間、学校の先生、メンターなど、周囲にも確実に伝播している。失敗や挫折は若者の特権。避けて通るよりもあえてぶつかり、経験として取り込んでいく。このプログラムを通して、「動き出せない子どもたち」の間に「Yes, And!」の輪が広がっていくことを期待する。

 

この学校では、プログラムに参加した全員が自分のクラスで発表した後、代表者2名が後輩の1学年集会でも発表。500人の生徒の前で堂々と発表する姿に、担任の先生も驚いていた

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