カテゴリー 42022年採択

公立大学法人 新潟県立大学

対象者数 150名 | 助成額 150万円

https://www.unii.ac.jp/news/22808/

Program調べ、学び、考え、新潟を救え!
〜データに基づく公共政策と自治の実践をオープン・コース・ウェアに〜

 地方創生という掛け声を掛けられても反応できない。地方はそれほどに疲弊しているのである。ただ、そこですべきことは明らかで、急がば回れ。地方で「中間層」を分厚く形成させて社会・経済が自律的に回ることが必要である。その前提となる地方のための人材育成を丁寧に行う教材の素材づくりが本教育プログラムの目的である。

 新型コロナ禍でこれまであまり行われてこなかった映像教材の制作・利用が一般的になった。出張撮影によって映像教材を制作すれば、ゲストスピーカーには対面授業で来校するよりも軽い負担で語ってもらえ、かつ蓄積も容易である。

 そこで立地する新潟県で現在起きている政策課題をその当事者に語ってもらう映像教材の「素材」を多数制作、YouTubeで公開し、新潟県内の大学・高校をはじめ、広く共有する。完結した一コマの授業ではなく、素材として提供することで、利用者の目的によってより幅広い利用が可能となる(地方でその地域を学ぶための高等教育以上での教材は、印刷物としても平成初期以降は作られてこなかった)。

 新潟県立大学においては、全学共通講義科目の新潟県の地方自治、行政学入門、公共政策の3科目において、映像教材の利用と現地見学とを組み合わせ、新潟の歴史と現状を知り、データを活用した分析を行い、政策過程を学ぶ。それにより知識や学びのみならず、誇りを身に付け、地域社会に貢献し、将来、新潟の中核を担う人材を育成することが可能となる。

レポートアイコン
活動レポートReport

普通の学生を良き公共の担い手に育てるためのプログラム

  新潟県立大学で2019年度からスタートした授業「新潟の地方自治」は、新潟の歴史・地誌・政策という三つのアプローチから現在の新潟を探っていくというもの。最初の2年間はオンラインのみの授業となっていたが、2022年度はようやく博物館や記念館、記念碑などの現地見学を実施することができた。「実際訪れてみてわかったのですが、各施設のガイドの説明は、大半が社会科見学に来た小中学生もしくは観光客向けであり、大学生向けとしては内容が不足しているものもありました。今回を機に説明内容のブラッシュアップに取り組んでくれる施設もありましたが、ここでも大学生が地元を学ぶ機会が長年なかったことを改めて感じました」と、この授業を担当する田口一博准教授は話す。授業「新潟の地方自治」の準備に当たった際も、新潟の地方行政・歴史に関する資料は地元図書館や大学に乏しく、古書店などを回って地道に資料を集めたり、キーマンを探し出してヒアリングを行って情報収集せざるをえなくなり、結果として実施までに約10年かかったという。

  もともと田口さんは新潟県の出身ではなく、横須賀市の職員として職務を果たす傍ら、放送大学で議会学や行政学を学び、放送大学大学院卒業後には、東京大学大学院で実務を踏まえて行政について教えていた。その実績を買われ、新潟県に請われて同大学に着任したのは大学設立翌年の2010年のこと。しかし地方行政、地方公立大学の現状を知るにつれ、これまでの国家公務員を目指してきた学生との接し方、指導への考え方を大きく切り替えなければならないと感じたという。「多くの地方公立大学が、“地元にいながらも東京と同じ学問が受けられる”ことを目指してきたため、地元にありながらむしろ地元のことを知る機会が失われていました。そのため地元の歴史や行政に関する資料や知見が蓄積されていないのが現状です。また地方自治体の入庁の倍率が下がり、特に公務員を志望していなかった“普通”の学生が結果的に公務員になっていることが多くなっています。公共の『受け手』としての気分のまま、『担い手』になる学生に対しては、従来の公共政策教育は通用しなくなってきているのです」と田口さんは話す。

  こうした現状の中で試行錯誤しつつ、ようやく3年前に「新潟の地方行政」をスタート。県庁や市役所の建物の構造から見えてくる「市民との向き合い方」の分析、安政の五カ国条約(1858年)で使い勝手の悪い新潟港をわざわざ開港させた江戸幕府の思惑、現在の新潟の基礎をつくった第2代県令・楠木正隆が地元から評価されなかった理由、明治から昭和にかけて財を成した民間人が教育のために尽力した業績など、授業の切り口はユニークで、新潟の歴史を知らない学生でも入りやすい。まずは新潟に関心を持ってもらうとともに、多角的な視点から今の新潟を見つめ直し、今後発展するには、またそのためにはどんな人材が必要かを探っていく内容となっている。22年度の受講者としては中国の留学生が多く参加し、日本に来てもコロナ禍で思うように学習ができなかった時期を取り戻すように積極的に取り組み、図書館での事前・事後学習での資料調査の熱心さは司書が驚くほどだったという。そうした留学生に刺激された日本人の学生も意欲が高まり、切磋琢磨するような雰囲気になったと田口さんは話す。「『留学生に少しは新潟のことを教えられる』と思っていた地元出身の日本人の学生もいたようですが、実際に授業を進めてみると自分が新潟のことを実はよく知らなかったことに驚いていたようでした」。2023年度も引き続き現地見学を実施するとともに、学生に提示している資料や授業の内容を地域関係者に提供し、地域での協力体制を構築していきたいと田口さんは話す。

2022年度の「新潟県の地方自治」の授業でのフィールドワークの様子。北方文化博物館(新潟市江南区沢海)で学芸員に見所の解説をしていただいた

大河津分水路改修事業にとこみえーる館(長岡市寺迫野積)のバーチャル映像展示に驚く中国からの留学生

ビデオインタビューなど授業資料を無償で公開

  “普通”の学生を公共の担い手とするためのプログラムとしてもう一つ、田口さんが2022年度から取り組んでいるのがビデオインタビューだ。これまでに参議院議員、県議会議員、資料館、博物館、北陸地方整備局、新潟県土木部など、さまざまな分野に携わる関係者へのインタビューを撮影してきた。「関係者の方々に実際に大学に来て講義してもらうには、時間的・地理的制約が大きく、なかなか実現が難しいため、映像教材として制作し、オープン・コース・ウェア(OCW:大学や大学院などの高等教育機関で正規に提供された教材を、インターネット上に無償で公開する活動のこと)として発信しています」と田口さん。多様な方々にインタビュー協力をいただけているのも、授業「新潟県の地方自治」の構想を練る中で築いてきた人脈のおかげと言えるだろう。これらの映像は、田口さんが担当する授業「行政学入門」を中心に、「新潟の地方自治」「公共政策」でも取り入れて授業を行っている。「これまで知らなかった行政という世界、そこでは自分を後回しにして人のために働く人たちがいるということを『行政学入門』や『公共政策』で知ってもらい、それを過去にも同じようなことをしていた人たちがいたということを新潟の地方自治史として実物で見せる。そのような狙いのもと、三つの授業を進めています」(田口さん)。

  2023年7月の初めに行われた「行政学入門」では、新潟県警の広報担当者と同大学OGの警察官、自衛官のインタビュービデオを使った授業が行われた。映像を流しっぱなしにするわけではなく、まず事前に知っておいてほしい情報を伝え、映像を途中で止めて補足説明をし、最後にまとめるという形をとっている。この日の授業では、大日本帝国憲法と日本国憲法における警察官の位置づけを比較したり、警察官・自衛官・公務員の宣誓書から公共に携わる者として何が求められているのかを分析。またOGの方に出ていただくことで公務員の存在をより身近に感じてもらうとともに、警察官も自衛官も専門知識・技能とともにコミュニケーション能力が求められることは新潟県立大学の学生の優れている能力の一つだということを田口さんは学生に伝え、将来のキャリアの一つとして具体的にイメージできるような授業とした。「行政学入門」を選択している2年生の木村まり杏さんは、「行政に関するニュースに対して、SNSやネットで批判的なコメントが寄せられることが多いと思うのですが、本当にそうなのかと疑問をもち、行政への正しい知識をもって自分でジャッジしたいと思ったことがこの授業をとったきっかけです。インタビュービデオは、普段絶対に接点がない国会議員・県議会議員の方などが、私たち学生に向けて話をしてくれる貴重な機会ですし、地元のことを話題にしてもらうと見方が変わったりします」と話す。

  インタビュー映像を高校で使ってもらうことも想定し、時間や構成など、使い勝手のいい形式をヒアリングし、制作してきたという。これまで制作した映像は全部で15本。交渉から企画、撮影まで半年かかることもある。

「地方自治を支える人材に対する課題は、どこの地方でも抱えているものと思われます。インタビュービデオなど授業の資料や記録をOCWにし、地方公立大学発信の地方創生のモデルケースを作っていきたい」と田口さんは将来の展望を話す。

授業後、新潟県警・自衛隊の方々がインタビューに応じてくださったときの様子を話す田口准教授(右)と、「行政学入門」を選択している木村まり杏さん(左)

ビデオアイコン
成果発表動画Presentation

一覧に戻る