カテゴリー 42022年採択

早稲田大学 スポーツ科学学術院

対象者数 800名 | 助成額 296万円

https://www.waseda.jp/fsps/sps/

Program専門領域と融合したアカデミックスキルズ教育
―「共有し、考え、伝え、発信する」

 自然科学・人文社会科学領域にわたる社会課題を「共有し,考え,伝え,発信する」ためのアカデミックスキルズを実践・体得するための教育プログラムを2023年4月から実施する。

 リベラルアーツに根差したアカデミックスキルズである対話、・ライティング・ピアレビュー(査読)・プレゼンテーションのスキルを用いて、スポーツに関連する社会課題を多角的に考える訓練を行う。幅広い専門領域の教員各々の見地からのさまざまな課題を与えることで学生の興味を引き付けつつ、アカデミックスキルズを体得させるる点が本プログラムの特徴である。

 1年次には、対話ツール「えんたくん」を用いた対話を通して幅広い社会課題に取り組むことで、問題を「共有」して一緒に「考える」スキルを修得する。その後、レポート執筆と学生同士のレビューを繰り返すことで、文章で「伝える」スキルを学修する。2年次にはプレゼンテーションの基礎を理解して、「発信する」スキルを学修する。

 2年次以降に学修する専門知を存分に活かして社会で活躍するための、基礎的なスキルを体得するための教育プログラムである。

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アカデミックスキルズにフォーカスした教養教育カリキュラム

 早稲田大学は1882年の創立以来、スポーツにも力を入れ、数多くの選手や指導者、教員、スポーツ団体などの組織運営の専門家を輩出してきた。こうした長年の知見を基に、スポーツそのもの、またスポーツによって生じるさまざまな事象に関する教育と研究を実践する場として、スポーツ科学学術院を設置している。

 同学術院は教養教育を見直し、23年度から1年生前・後期、2年生前期の1年半にわたるカリキュラム「スポーツ教養演習Ⅰ~Ⅲ」をスタートさせた(2年生は24年度から開始)。その特徴は、リベラルアーツの中でも、学んだ知識を言語で共有して、広めるための基本的な技術「文法・修辞・弁証」に源流を持つアカデミックスキルズに特化している点にある。「具体的には、1年生の前期では対話やプレゼンテーション、後期にはライティングと学生同士のピアレビュー、2年生の前期ではリーダーシップの基礎を学びます。社会課題を『共有し、考え、伝え、発信すること』を実践させながら、アカデミックスキルズを体得させるカリキュラムになっています」と、同学術院の林 直亨教授は話す。林教授の専門は運動生理学だが、前任校の東京工業大学でリベラルアーツ教育の立ち上げ・実施に携わった知見を活かし、同学術院で教養教育改革の中心的な役割を担っている。「東工大では美術や文学などの先生たちと共に、リベラルアーツ全般を対象とした教養教育を立ち上げました。しかし、ここでは学術院の特性を踏まえた教養教育にする必要があると考え、先生方にヒアリングをしながら検討を進めてきました。スポーツ科学は、自然科学、社会科学、人文科学など横断的な領域が含まれ、学際的な特徴を持っていることから、どのような分野でも使える、知的作業に必要な最低限のスキルを身に付けさせようという考え方の下、カリキュラムの構築を進めてきました」(林教授)。

 

“雰囲気づくり”が鍵となる

「スポーツ教養演習」は40名の学生×10クラスあり、1クラスにつき教授と准教授などと若手教員の2名がついて授業を進めている。この体制で進めるにあたり、22年度は林教授が先生方へのファカルティ・ディベロップメント(FD)を実施。海外で教養教育の評価が高まっている現状やその背景、アカデミックスキルズの具体的な内容などを伝えるとともに、実際に授業を体験してもらったり、関連する書籍を全教員に配布したという。「専門分野と比べて、教養教育や初年次教育を軽んじる傾向が教員や学生にあるのはどこの大学でも同じだと思います。そのため、事前にFDをしっかり実施し、教育プログラムを改善していくんだという“雰囲気づくり”をしておくことは重要なことです」と林教授は話す。スポーツ科学分野を専門とする先生方にとっては、アカデミックスキルズを教える機会は今回が初めて。そうしたプレッシャーを軽減するためにも、林教授は「私たちはファシリテーターのプロではないので、1期14回の授業の中でも1、2回は必ず失敗します。失敗を気にしないでください」と伝えてきたという。またFDで使った資料や授業で使えそうなツールは、共有するが強制はしないという、各先生方の考え方を尊重した進め方にしている。

 

専門領域の理解を促進しつつ、アカデミックスキルズを定着させる

 もう一つの大きな特徴が、コンテンツにスポーツが内包する現代的な課題を取り入れたことだ。LGBTや人種問題、貧困・格差といったスポーツ界を取り巻く社会問題から、実際に学生が直面しているスポーツの課題など、専門領域と融合させた教養教育になっている。同学術院の約半数の学生は運動部に所属しており、中には世界大会で記録を持つようなトップレベルの選手もいる。身近でリアルなコンテンツにすることで、学生たちの関心・興味を高めるとともに、教員の専門性も活かした指導を行うことができる。

 2024年度の前期に2年生がリーダーシップの基礎を学んだ時点で、一連のプログラムは一巡することになる。その時に、これまで積み重ねてきた対話、ライティング、ピアレビュー、プレゼンテーションのスキルの重要性を改めて総合的に理解してもらい、2年生後期から始まるゼミにつなげていくことを一つの目標としているという。「そのためには、FD研修を繰り返し、プログラムの微調整が重要」と林教授は話す。

 取材時は1年生後期の「スポーツ教養演習Ⅱ」がスタートし、1年間のプログラムの中盤を折り返した時点。授業を担当する宮地元彦教授に生徒の変化について伺うと、「大学生活も半年が過ぎたので、必ずしもこの授業だけの成果ではないと思いますが、学生が自ら学ぼうという意識が高くなっていることが感じられます。それは教師にとっては一番嬉しいこと。この後の3年間の学びに必ずつながる授業だと評価しています」と話す。

 専門領域を活かした教養教育の成果が、来年後期にどのように出ているのか。進展に注目したい。

1年生後期の授業の様子。「社会に出て何がしたいのか。そのためにこの学部で何を学びたいのか」について書いてきたテキストについて、2人一組でピアレビューを行う。お互いに修正案を出しながら書き直していく。学生から修正案について相談を受ける林教授(中央)。

宮地教授の授業では、「部員のふがいなさに怒りを感じたキャプテンが一時チームを離脱、主力であるキャプテンを試合に出すか出さないか」というお題に対し、学生が意見を出し合い、チームとしての結論を出して全員に共有するという内容を実施。対話のツールとして活用しているのが、「えんたくん」という丸い紙。これを中心に輪になって他者の意見などをメモしながら対話していく。対話を促進する機能を評価して、他の授業でも使う教授もいるという。

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