カテゴリー 22023年採択

株式会社しくみデザイン

対象者数 240名 | 助成額 690.8万円

https://www.shikumi.co.jp/

Programプログラミングでクリエイトする 探究機会創出+強み発見プログラム
未来をクリエイトする人材を育成するプログラム『みらクリ』

『みらクリ』は、アプリ開発を手段として課題設定から解決の実現までを試みるプログラム。プログラミングツールを活用し、プロトタイプの完成、活用までをゴールとしている。この『みらクリ』での経験が、高校生にとってクリエイティブ人材への一歩となることを目指している。

 このプログラムでは、直感的な操作で誰もがクリエイター体験ができるビジュアルプログラミングツール「スプリンギンクラスルーム」を使用。アジャイルな創作プロセスで試行錯誤を繰り返すことができ、プログラミング的思考を養いながら創造性を解放し、生徒の個性を表出させることができる。成果物はアプリとして完成し、実際に動くプロトタイプとして手軽に他者に体験してもらえることも特徴である。

 最初に、実社会で活躍している起業家を外部講師として招き、実社会での見識や視点を取り入れながら、高校生と共に課題を設定する。設定した課題に対し、クリエイティブシンキングを働かせ、アプリ開発を手段に解決を目指す。このプロセスが、高校生にとって「自分の強み」を発見するきかっけとなり、社会に出てから実用できる経験となることを本プログラムでは目指していく

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直感的なプログラミングツールで、誰もがクリエイター体験を楽しめる

 株式会社しくみデザインが提供する「みらクリ」は、高校生が課題解決につながるアプリ開発を実践しながら、クリエイティブ人材として社会で活躍するための基礎的な力を身に付けていくプログラム。その核となるのが、プログラミングなどの専門知識を必要とせず、直感的な操作だけで誰もがクリエイター体験を楽しめるビジュアルプログラミングツール「Springin’ Classroom(スプリンギン・クラスルーム)」だ。

 このツールは同社が開発したもので、その経緯を、創業者にして代表取締役である中村俊介氏は次のように振り返る。「そもそも当社を起業したきっかけは、大学院時代に開発した、体の動きで音楽を生成できるメディアアート『KAGURA(カグラ)』で特許を取得し、これを活用したビジネスプランが福岡県ヤングベンチャー支援事業に採択されたことでした。『KAGURA』は、私のように楽器を弾けない人でも音楽を楽しめるよう開発したもので、この発想が、後にプログラミングの知識がなくともアプリ開発を楽しめる『Springin’(スプリンギン)』の開発につながっていきます」。

 2017年にフリーソフトとして発表された「スプリンギン」は、プログラミング教育の必修化という変化に直面していた教育現場で注目を集める。文字を使わないビジュアルプログラミングのため、年齢や国籍を問わず楽しめるという利点が、特に低学年の児童にプログラミングの基礎を学んでもらう絶好のツールとして評価されたためだ。意外な用途でダウンロード数が急増したことに驚いていた中村氏のもとに、教育現場のニーズに即した機能追加などの要望が多数寄せられたことを受け、2021年には教育機関向けにアレンジされた「スプリンギン・クラスルーム」をリリース。これを用いた教育プログラム「みらクリ」の構想がスタートしたのは、「クリエイティブな人材を育成するには、創造するためのハードルを下げることが重要」と考えたからだという。

「私自身の経験から、『創造する』という行為は、人間にとって三大欲求に次ぐ第四の欲求であり、そこには本能的な喜びあると感じています。とはいえ現実には、音楽を楽しむには楽器を練習しないといけない、アプリを開発するにはプログラミングを学習しないといけない、といった決して低くないハードルがあり、それが人々をクリエイティブな喜びから遠ざけています。私が『KAGURA』や『スプリンギン』を開発したのは、これらツールによって敷居を下げることで、世界中すべての人に創造の喜びを知ってほしいとの想いからであり、こうした仕組みを次代の担い手である高校生に提供することで、よりクリエイティブな社会づくりに貢献できると考えたからです」(中村氏)。

九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)で情報伝達を専攻。ユーザー同士やユーザーとコンテンツ間での相互作用(インタラクション)に着目したユニバーサルデザインの研究と並行して、メディアアーティストとしても活動し、一時はアート系コンペの賞金稼ぎで生計を立てていたという中村氏。大学発ベンチャーとして2005年にしくみデザインを起業し、インタラクティブ(双方向性)コンテンツのパイオニアとして活躍。すべての人々をクリエイターにするツール開発に注力し、多くのアワード、受賞に輝いている

「スプリンギン・クラスルーム」は、学内のICT端末にインストールするだけで活用できるアプリケーションサービス。アイコンを操作するだけの直感的なプログラミングにより、自分が描いた絵や撮った写真に音をつけたり、動かしたりできる。加えて、プログラムを「つくる画面」と「実行画面」が同一のため。スピーディーな試行錯誤が可能など、手軽にクリエイター体験を楽しめるよう工夫されており、2021年には日本e-ラーニング大賞オンライン指導者支援特別賞を受賞している

自分や誰かの課題をアプリで解決する、その挑戦が創造力と起業家精神を養う

「みらクリ」の最大の特徴は、高校生にとってハードルになりやすいプログラミングの知識を必要とせず、「課題設定」から「企画・設計」「「制作・実装・テスト」(アプリ開発)「プレゼン」まで、一連の工程を約半年という短期間で体験できること。知識やスキルの修得に追われがちな従来の学習とは異なり、課題意識やプログラミング的思考、起業家精神といった、社会で活躍するための素養を養うきっかけづくりに主眼を置いている。

「何よりも大切なのが、高校生に創造する喜びを知ってもらうこと」と中村氏が語るように、本プログラムでは高校生自身による実践と、将来に向けたロールモデルとの対話を重視している。まず「オリエンテーション」では、「スプリンギン・クラスルーム」の使い方を説明するだけでなく、中村氏自身が講師役を務め、自身の経験を踏まえながら、課題解決に必要な思考プロセスについて解説する。

 次のステップが「『問題』と『課題』について学ぶ」。誰のどんな「問題」を解決するために、何が「課題」なのかを見つけ出し、解決に向けた道筋を描く。そうしたプロセスについて、実践者である起業家や社会活動家のリアルな体験談をもとに理解を深めていく。

 ここまでの理解をもとに、「企画・設計」では実際に解決すべき課題をグループディスカッションにより決定し、その解決に向けたアプリの内容を検討。「スプリンギン・クラスルーム」を駆使してアプリ開発に挑む「制作・実装・テスト」のステップに進んでいく。並行して、グループでの検討結果を「中間プレゼン」で発表し、他グループや起業家などのフィードバックをアプリ開発に反映。プロトタイプが完成すると、いよいよ「最終プレゼン」に臨む。実際にプロトタイプを操作してもらい、より具体的なフィードバックが得られるため、これら工程が終了した後も、自主的にブラッシュアップを続ける生徒も少なくないという。

「柔軟な発想を持ち、アプリ活用にも親しんでいる高校生に『スプリンギン・クラスルーム』を活用してもらえば、面白いアプリが生まれるのではと予想していましたが、実際の成果は期待以上のものがありました」と中村氏は語る。一例を挙げれば、キャラクターとの対話を通して起床時間の改善などのミッションに取り組み、少しずつ生活習慣を改善していく「ウェイクアッピー」、質問と回答・リアクションを通じて、仲良くなりたい人との距離を自然に縮める「交換日記」、学校食堂の混雑解消や業務負荷軽減、フードロス削減などのトータルな改善を目指す「JoyJoy」など、身近な課題を無理なく改善できるアプリの数々に、中村氏をはじめとした運営側はもちろん、教員の間でも「生徒たちにこれほどのポテンシャルがあったとは」と驚きの声が上がっている。

「モチベーションを高める早道は、実践者の声を聞いてもらうこと」との考えから、中村氏をはじめ、実社会で活躍する起業家やクリエイター、社会活動家などが講師役を務め、高校生に「創造する喜び」を伝えている。大学生メンターも含めて、ディスカッションの壁打ち相手や、アプリ開発の伴走役、プレゼンの監修役も務めており、そうした大人との対話や、自身の成果に対する評価が、高校生にとって得難い経験になっている

「みらクリ」の一連の工程は、少人数のグループ体制で進められる。グループメンバーは、対話を主導する者や、実際にツール操作を担う者、成果報告を発表する者など、それぞれの得意分野をもとに役割を決めながら、全員で「開発チーム」を運営していく。こうした経験を通じて、高校生一人ひとりが「自分の強み」や、強みの異なる他者と連携する大切さ、仲間と共にアイディアを形にする喜びを体感し、起業家意識を培うきっかけになる

より多くの高校生に「創造する喜び」を経験してもらうべく、運営体制を強化

「みらクリ」初年度となる2023年度は、9月から翌2月にかけて、東京、大阪、福岡の3都市3校、計175名を対象に実施された。注目すべきは、ICTやプログラミング、総合探究といった授業の枠を問わず導入されていること。「近年、ICTビジネスの現場でも、コーディング作業を省いたローコード・ノーコード開発が浸透しつつあるように、開発知識を学ぶ工程をツールによってショートカットし、課題を見つけ出す、解決策を練るといった、より本質的・創造的な工程に注力する時代になっています。このためICT教育やプログラミング教育も、専門知識・技術の習得から、解決に向けた思考プロセスを養う方向にシフトしつつあり、探究教育と軌を一にしつつあると感じています」と中村氏が語るように、「みらクリ」はICT/プログラミング教育と探究教育、どちらの文脈でも高校生に得難い経験を提供できるのが大きな強みと言える。

 実際、実施した各校からの評価は非常に高く、参加した高校生からは「自分の興味・関心に沿って課題を設定できるので、自然とアイディアが膨らんだ」「自分の考えや意見を、周囲に自信を持って伝えられるようになった」「中間プレゼンで起業家の方からの指摘を受けて、視野が広がった」といった感想が多数寄せられている。

「高校生に創造する喜びを伝える」という目的達成に確かな手応えを感じている一方で、運営面では反省点もあったという。「実施校との調整はもちろん、講師役や大学生メンターの募集など、運営面での負担は想像以上に大きく、3校での実施が限界でした。資金面でも、三菱みらい育成財団の支援頼りでは、持続可能なビジネスにしていくのは困難です。このプログラムを広く社会に展開し、より多くの高校生に体験してもらうには、すべてを自分たちでやろうするのでなく、教育現場での経験が豊富なパートナーと連携すべきだと考えました」と中村氏は語る。

 そこで2024年度からは、同じく三菱みらい育成財団の助成先である株式会社ミエタと連携。高校向け探究学習プログラムの企画・運営で豊富な実績を持つ同社がプログラムの運営を行い、中村氏らはオリエンテーションなど要所に参加することで、ツールやカリキュラムの整備に注力できる体制が整備された。準備期間が限られたため、2024年度は増加はしたものの5校の実施にとどまったが、2025年度以降はさらなる拡大が期待できるという。

「先の見えないこれからの時代に求められるのは、自ら課題を見つけ出し、その解決に向けたアイディアを考え、実現していけるクリエイティブな人材です。近年、より便利で身近なものになっているアプリ開発は課題解決のための重要なツールではありますが、あくまでツールであって、その開発自体が目的ではありません。より重要なのは、ツールを駆使して課題解決への道筋を描き、実践し、社会に実装していくスキルであり、その根幹にはアントレプレナーシップ(起業家精神)が求められます。『みらクリ』をより多くの高校生に体験してもらい、より多くのクリエイティブ人材を輩出できるような仕組みをデザインすることが、社名の通り当社の得意分野であり、社会的な使命でもあると考えています」と、中村氏は将来に向けたビジョンを語った。

実施校の教員からは「テーマを与えられるのではなく、自分たちで見つけ出すから、『生徒が主語』の探究活動になりやすい」「1年次で課題発見とアイディア出し、2~3年次でアプリ開発へと繋げていく形もいいかも」など、今後の継続に期待する声が少なくない。また、講師を務めた起業家からも「若い才能に感銘を受け、将来が楽しみ」「やらされている感がなく、楽しんで取り組んでいる姿が印象的」など、プログラムの意義が評価されている

「みらクリ」公式サイトでは、優秀なアプリを発表しており、実際に操作することも可能。自分の持っている服からTPOに合ったコーディネートをAIが提案してくれる「かさね」や、親子それぞれのキャラクターの対話を通じて適切な睡眠習慣を身に付ける「すいみん」など、「使ってみたい」と思わせるアプリが掲載されており、「プロトタイプに終わらせず、面白いアプリは学校が発注して完成させたい」との声も挙がっている

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