Program九州工業大学アントレプレナーシップ教育プログラム
~未来思考キャンパスで、自分らしさを探求し、社会に価値を創出するアントレプレナーを目指そう!~
九州工業大学アントレプレナーシップ教育プログラムは、変化が激しく不確実性の高い現代において、自立心・向上心を持って解決すべき課題を探求し、課題解決に取り組みながら、新しい価値創造にチャレンジできるアントレプレナーを育てることを目的として実施するもの。
受講生は、九州工業大学の「未来思考キャンパス」において、アントレプレナーシップマインドを身に付け、それを発揮するために自分自身と対峙し、「自分らしさ」を探求して自己理解を深めた上で、自らと社会との関係性に目を向けて、自分自身が具体的にどのようなアクションを起こせるか、アイデアを創出して、行動に繋げていくことを学習していく。
本プログラムでは、大学内のGYMLABO等の先進的な施設を最大限活用しながら、①自己探求・アントレプレナーシップ醸成ワークショップ、②アイデア創出・デザイン思考ワークショップ、③ビジネスモデル創出ワークショップの3段階からなるワークショップを実施し、最終発表会のピッチでは、受講生が創出した事業アイデアに基づいて、具体的なアクションを起こせるよう、起業家やメンター陣から実践的アドバイスを受ける機会を提供する。
【国立大学法人九州工業大学】_プログラム紹介シート図表-1024x768.jpg)

活動レポートReport
3段階ステップでアントレプレナーシップの醸成を図る
建学から110年以上もの歴史を誇る九州工業大学は、日本の一大産業拠点である北九州市や充実した医療機関を有する飯塚市にあって、多くのエンジニアを輩出してきた国立の工業大学だ。「技術に堪能(かんのう)なる士君子の養成」という理念を掲げて、グローバル社会で活躍する技術者の養成を推進してきた同大学で、2023年からアントレプレナーシップ教育担当として着任した上條由紀子特任教授は、当初、九工大生の気質に関してある特徴を感じ取っていた。「大手企業への就職率が高い大学だけに、学生の起業に対する捉え方がややクールに感じられました」。
しかし、変化が激しく予測が難しい現代社会において、起業家のみならず大企業で働く技術者にとってもアントレプレナー的思考を持つことは必須である。同大学でも、大学院では既に「アントレプレナーシップ教育コース」が開始されており、上條特任教授に課せられたミッションの一つは、大学1・2年生にアントレプレナーシップについて学ぶ機会を提供する教養教育科目の新設であった。そのため、上條特任教授は、プログラム1年目の23年度を「学内でアントレプレナーシップへの関心・興味を醸成するパイロット期間」と位置づけ、学内におけるPRやアントレプレナーの卵たちの発掘、教員向けFDセミナーの実施に注力した。授業は回数を限定した集中セミナーという形でスタート。正課外プログラムだけに遅い時間帯や土日での授業実施となり、多くの学生を集めることは難しかったが、一方で熱意を持った学生が受講してくれた。
セミナーは9月から1月にかけて全3回実施。1回目の「自己探求・アントレプレナーシップ醸成ワークショップ」は、社会に価値を創出する前提として必要となる「自己理解を深めるワーク」であり、ゲスト講師との対話を通じて、失敗を恐れずチャレンジすることの大切さ、逆境をチャンスに変えるマインドセットなどについて学ぶ機会となった。2回目は、九州・沖縄のスタートアップ・エコシステム構築のための大学連携プラットフォームである「PARKS」を活用し、琉球大学にて「アイデア創出・デザイン思考ワークショップ」を開催。琉球大学、千葉大学の学生との対話を通じて、社会課題の解決アイデアについて2日間に渡り討議した。3回目は「ビジネスモデル創出ワークショップ」と発表会を実施。これら3回のセミナーは、自己探求から始まり、アイデア創出、事業創造へと進む3段階ステップで進められた。
「初年度のセミナーを通じて、アントレプレナーの卵たちが10数人集まってくれました。彼らをコアとして、その後の展開に進む道筋が見えてきました」(上條特任教授)。

九工大におけるアントレプレナーシップ教育体制の全体像。本プログラムの対象は学部1・2年次における「入門科目群①」で「自己探求・アントレプレナーシップ入門」「アイデア創出・思考法入門」「事業創造・スタートアップ入門」の3ステップで進められる
教養教育科目を新設してプログラムを本格始動
2年目となる24年度には、1年生を対象とした教養教育科目を二つ新設し、講義の回数も大幅に増加して本格稼働を開始した。
4~6月の第1クォーターに、「自己探求・アントレプレナーシップ入門(全8回)」を教養教育科目として実施。12人のゲスト講師を招き、1年生延べ80人が受講した。10~12月の第3クォーターに、「アイデア創出・思考法入門(全8回)」を実施し、延べ150人の1年生が受講した。また、前年に続く琉球大学でのワークショップを11月に実施。前述の2大学に加え、北海道大学、北海道教育大学、名桜大学の学生も参加し、総勢30人の大学生同士が多様な社会課題解決について討議した。さらに11~12月にかけて、全4回のオープンゼミ「プロジェクト実践ラボ~Kyutech Garage~」を実施した。九工大生6名ほか、他大学(東京大学、九州大学、長崎大学)の学生・卒業生・教員も参加し、複数大学間で技術プロジェクトや起業を目指す学生同士が互いに学ぶ場となった。

戸畑キャンパス内のインタラクティブ学習棟MILAis(ミライズ)での「自己探求・アントレプレナーシップ入門」の講義の様子

沖縄でのワークショップの様子
また25年2月には、同大学の施設GYMLABOで、産官学からの参加者がチームを組み、3日間でアイデア創出からビジネスプラン構築までの起業プロセスを体験できる「Startup Weekend北九州Vol.12」(運営:NPO法人Startup Weekend)を開催。上條特任教授がジャッジとして参画するとともに、九工大生5人がイベントに参加して、実践的な起業プロセスを経験する機会を得た。そして3年目となる25年度には、2年次の教養教育科目「事業創造・スタートアップ入門」がスタート。夏期集中講座として8月に実施予定で、新事業創造の挑戦に必要なマインドセットを学び、ビジネスアイデアや技術シーズに基づいた事業化手法やマーケティング手法等を演習形式で学ぶ内容となる。これで前述の3段階ステップのプログラム構築が完成する。
「1・2年生で本プログラムの教養教育科目を受講した学生は、3年次に『工学倫理/情報技術者倫理』という必修科目の中で、アントレプレナーシップと倫理について学習します。技術者がアントレプレナーシップを発揮するためには、法令を遵守し、安全性・有効性を担保し、不正・欺瞞を許さない高い倫理観を持って社会に価値を創出することが重要であることを学ぶ機会となります」(上條特任教授)。

Startup Weekend北九州Vol.12の様子。Startup Weekendは2007年にアメリカで始まった実践型の事業創造イベント。参加者は54時間のプログラムの中で、仲間づくりをしながらアイデアのプロトタイプを作り上げていく。これまで全世界で7000回以上開催されており、参加者は延べ50万人にものぼる。日本では2009年から開催され、90を超える都市で開催されている
学生コミュニティから大きなムーブメントを
本プログラムの運用を支える要素の一つとして、同大学が「未来思考キャンパス構想」の下に整備を進めてきた各種学内施設がある。同構想はキャンパス内に最先端の未来環境を構築することで、学生や研究者が自由な発想で新たなアイデアを生み出すことを目指した取組みである。22年に竣工した戸畑キャンパス(工学部)の「GYMLABO」、飯塚キャンパス(情報工学部)の「ポルト棟」など、イベント開催も可能な産官学交流・イノベーション創出のための拠点が整備され、現在も拡充が進められている。
また前述したPARKSとの連携も重要な要素である。PARKSは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「大学・エコシステム推進型スタートアップ・エコシステム形成支援」の採択を受けて、22年に発足した大学連携プラットフォームである。PARKSでは同大学と九州大学が主幹機関となり、九州・沖縄圏域18大学及び2社の企業と共に、起業活動支援プログラムの運営やアントレプレナーシップ人材育成プログラムの開発・運営等に取り組んでいる。本プログラムで実施するワークショップやオープンゼミにおいても、PARKSの活動は他大学との連携を実現するきっかけとなっており、「他大学生との交流により受ける刺激は、九工大生のアントレプレナーシップの醸成・発揮において非常に効果的です」と上條特任教授は語る。
本プログラムは、1・2年次の教養教育科目におけるアントレプレナーシップ教育を対象としているが、同大学で実践されているGCE(Global Competency for Engineer)教育との一体化も、本プログラムを進める上で重要視されている。GCE教育とは、グローバル化した社会で活躍する技術者に必要な能力やスキルを養成する同大学の柱となる教育であり、GCE教育と共にアントレプレナーシップ教育を両輪として展開することは、工業大学としての教育活動をより強化・充実させるものと考えられる。
それに伴い、同大学では学内組織の改革も進めており、「教育本部」に「GCE・アントレ教育推進室」を、「社会実装本部」に「未来思考実証センター」を設置し、アントレプレナーシップ教育と実際の起業・大学発スタートアップ支援をそれぞれ専門的に、かつ一体となって行える形に整備した。上條特任教授はその両部門に所属し、両者のシームレスな連携を担っている。
「本プログラム自体は1・2年生が対象ですが、上級生や大学院生がTAとして授業に参加しています。また、オープンゼミやイベントには、他大学の学生、教員、卒業生、起業家なども参加くださいます。授業の枠にとらわれず、関心のある学生が自由に参加できる形で活動を進めています」と上條特任教授。24~25年度にかけて、技術プロジェクトや起業に関心を持つ学生によるコミュニティが立ち上がりつつあり、現在も授業終了後に自主ゼミを実施しているという。「今後は本助成により立ち上げたサイト『Kyutechアントレプレナーシップ教育プログラム』にも連携させて、学生コミュニティを育てていく所存です」(上條特任教授)。
着任当初、学生たちから起業やスタートアップの捉え方にクールさを感じたという上條特任教授も、今は九工大生ならではの強みを感じていると話す。「プロトタイプを自分で作り上げられる技術力や行動力は、何よりも大きな強みです。社会に価値を創り出す手段として、研究室で教授のもとで研究に取り組むもよし、サークルで技術プロジェクトに没頭するもよし、自らのアイデアでスタートアップを起業するもよし。いずれにしても、その中で大きな社会インパクトを生み出すストーリー作りができる学生をたくさん育てたい、寄り添いながら背中を押してあげたい、というビジョンがだんだんと見えてきたところです」(上條特任教授)。

GYMLABO:休眠していた体育館をリノベーションし、開放的なコワーキングエリア(アゴラ)、企業向けシェアオフィス、セミナールーム、カンファレンスルーム、WEB会議ブース、展示スペース、カフェスペースなどを整備した施設。写真は、本プログラム内で実施したセミナーの様子。

ポルト棟:1階部分は産業界を含めた学内外の方の交流の場、2階部分は就職支援事務室を設置した施設。ポルトはラテン語で「港」を表す。写真は、ポルト棟1階でゲスト講師を囲んで授業後に実施した自主ゼミの様子。