カテゴリー 22020年採択

NPO法人 エティック

対象者数 3000名 | 助成額 550万円

https://www.etic.or.jp/

Programワンダリングチャレンジ
~3人1組で挑み、競う、ゲーミフィケーション型探究学習~

 ワンダリングチャレンジは、3人1組のチームで約2週間、自宅や街などさまざまな場所で用意された30の「ミッション」に挑み、その経験から得た学びや成長、表現力などを競う、ゲーミフィケーション型探究学習プログラム。学校外の学びの場や地域活動に参加する機会の少ない高校生が、自分の枠を超えて最初の一歩を踏み出すことを通して、自分の関心や目的意識に気付き、さらなる行動を起こすきっかけを提供していく。

ミッション例「世界見聞録」
3大陸の出身者を見つけて、その地で今起きていることについて聞いてみよう!

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ゲーム感覚のプログラムで、 課外活動の経験に乏しい高校生の最初の一歩を促す

 2019年1月4日、NPO法人エティックの山崎 光彦さんが旅行先の台湾からオフィスに直行すると、ちょうど一般社団法人ウィルドアの竹田 和広さんが仕事中だった。エティックは若い世代のアントレプレナーシップ人材の支援を行っており、ウィルドアはエティックと連携して特に高校生への支援を実施している。台湾で出合ったワンダリングチャレンジ(ワンチャレ)について竹田さんに相談するつもりだった山崎さんはその場で早速約1時間半ほど話し、「やりましょう」と合意に至った。それがワンチャレの日本での始まりだった。

 ワンチャレは台湾のNGOが2013年に始めたもので、3人1組のチームで約2週間、自宅や街などさまざまな場所で、事務局が用意したミッションに挑み、その経験から得た学びや成長、表現力などを競うプログラムで、アジア各国で1万人以上が参加している。「台湾でNGOの人たちに会った時に、アジアの他の国にも広げていきたいという話があったんです。彼らは、テスト偏重主義がアジア共通の課題と認識していて、かつ学びが教室の中で閉ざされていることに問題意識を持っていました。そこで生み出したのが、街に飛び出してゲーム感覚でミッションをこなしながら、自分の関心や目的意識に気付き、さらなる行動を起こすきっかけとなるワンチャレでした。彼らの思いと取り組みに共感して、日本でやるなら一緒にやりましょうと伝えました。その時から、エティックだけでやるより、高校生を対象に同じ思いを持って活動しているウィルドアと一緒にやった方が面白くなると感じていました」と、山崎さんは話す。

 台湾のNGOと契約を結び、ノウハウを教わるとともにツールなどを和訳しながら急ピッチで準備を進め、2019年10月に神奈川で初めてのワンチャレを実施。周知はサイトでの告知と学校へのチラシだけだったが、90人もの高校生が参加した。人数だけでなく、手応えも予想を超えていたと竹田さんは話す。ある高校生のグループは海岸にゴミ拾いに行くというミッションをするために何も持たずに現地に行き、さてゴミ袋どうしようからのスタートに。しかし地元の方にゴミ袋をもらい、子どもを連れた方も一緒にゴミ拾いをし、さらにその地元の方から500円のお小遣いをもらってコンビニで寄付したという。「これまで学校のキャリア教育のサポートをしている中で、学校外での経験が必要だと感じていた時に、ワンチャレの話を聞いて、教室を飛び出させるのにゲームというやり方があるんだと驚いたんですが、まさにゴミ拾いというミッション一つで、さまざまな人たちと出会い、初めて寄付をするというドラマが生まれたわけです。改めてワンチャレの可能性を感じました」(竹田さん)。参加者のきっかけを見ると、全体の3分の1に当たる30人がチラシや告知を見て参加し、60人はその子に誘われて(3人1組のため)の参加で、その後の会でも同様の傾向だという。「入り口は賞品が欲しいでも、友人に誘われたでも何でもいいんです。“やってみたら楽しい”が最も重要な要素だと思っています」と山崎さんは話す。

 

思わぬドラマが生まれたミッション「ゴミ拾い」。ミッションを達成した際にはPC・スマホで簡単に報告ができるような仕組みとなっている。

7年前に学生起業したウィルドアの竹田さん(左)は、山崎さん(右)が所属するエティックのアントレプレナーシップ支援を受けた卒業生の一人。起業したい高校生を支援するプログラムを実施しており、毎年全国から300人ほどの応募がある。そうした意欲的な子の支援をする一方で、意欲がない子たちへの支援を課題として感じていたという。

空白だった「“普通”の子どもたちへの働き掛け」をどう埋めていくか

 エティックやウィルドアが、「きっかけは何でもいい」「ゲーム感覚や楽しさを重視」している訳には、これまで感じていた「“普通”といわれている子どもたちの層に働き掛けるにはどうしたらよいか」という課題が背景にある。「特定の課題や生きづらさを抱えた層へのアプローチはもちろん重要ですが、表面的には“問題”がない、いわゆる“普通”といわれる子どもたちの層の心のエンジンをかける取り組みは関心が集まりにくい。そうした中で、ワンチャレは興味や関心がなくても、『楽しそう』が入り口になって参加のハードルはぐっと下がりますし、きっかけが何であろうと、響く人には響く」と山崎さんは話す。参加後のアンケート、インタビューなどでは、「これからもっと大きなことに挑戦できる自信が湧いています」「ミッションへの挑戦を通して自分が思った以上にできると思えたので、ちょっとでもできたらここから先の自信にもなるかなと考えました」「コロナによる貧困問題について、自分も何か行動したい」など、マインドや行動の変容が見られたという。

そのため高校生が自然にワンチャレに出合える場として、高校のカリキュラムと接続する形での展開は最初から考えていたという。オンラインでの展開も含め、まずは自分たちが主催団体となってノウハウを蓄積し、2021年度から実験的に学校への出張を始めた。①先生たちに協力してもらいながら基本運営はウィルドア、②事前レクチャーした先生たちで運営、③レクチャーした生徒たちで運営、④自治体と連携し、地域コーディネーターにレクチャーして共に運営、と四つのパターンを実施し、その結果を踏まえスターターパックを開発している。

  ワンチャレの普及に当たってもう一つ課題となっているのが、ワンチャレ後のサポートだ。アンケートでは9割以上の参加者が「地域・NPO・ボランティア」や「プロジェクト型のプログラム」に関心があると回答しているが、今までは情報提供というフォローしかできていなかった。現在取り組んでいるのはワンチャレの後につながるプログラムとの連携だ。例えば、ある自治体の教育委員会との連携にて、中高生を対象にまずワンチャレを実施し、火を付けた状態で、認定NPO法人 カタリバ(2020年度助成先)が展開をサポートするマイプロジェクトに参加してもらう流れをつくろうとしている。参加しやすい、楽しい、また地域・学校の二つを舞台にできるという特徴を持つワンチャレが、入り口・つなぎという役割を担うには適任と言える。台湾から始まったユニークな取り組みは、日本ではエティックとウィルドアがその思いを受け取って普及体制が整いつつある。新型コロナの影響が収まりを見せる中、街中で活動するワンチャレの広がりは今後加速するに違いない。

 

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