京都市立京都堀川音楽高等学校
対象者数 78名 | 助成額 100万円
Program「人とつながる音楽家」を目指して
~音楽科の特色を活かした探究的な学びの実践~
本プログラムでは「人とつながる音楽家」の育成を目指した学びの場を創出する。音楽を専門的に学ぶ高校生ならではの視点から課題設定・課題解決を進め、その成果を発表会やコンサートのかたちで世に広める。地元・京都の自治会や諸施設、国内外の音楽教育機関との連携のもと、以下の取組を通して、生徒たちは音楽に志す者として「人とつながる」とはいかなることかを体験的に学び、その先に広がる可能性を見通す力を培う。
①学術的な課題探究(リサーチ型):日々の疑問や興味を出発点に、各自が取り組みたい課題を設定し、音楽史、音響学、心理学等の諸分野を切り口に調査・考察をおこなう。その成果を報告・議論し合うなかで多様な思考や発想に触れ、最適解・納得解を考え続ける胆力を養う。
②演奏会の企画・実施(プロジェクト型):演奏会運営にチームとして取り組み、協働的な課題解決を実践する。1年次から2年次の始めにかけては、地元自治会や京都市立図書館各館とコンサートを共催し、2年次の秋にはチェコ共和国のヤナーチェク音楽院において演奏会を開催する。帰国後には、海外で得た学びを地元・京都に還元することを目的とした演奏会を開催し、本プログラムの集大成とする



活動レポートReport
音楽を起点に社会・世界とつながる人材を
音楽科単独の公立高校である京都堀川音楽高等学校では、「『人とつながる音楽家』の育成」という教育目標を掲げ、二つの柱で探究活動を進めている。一つが、生徒の疑問や興味などを学術的なアプローチから調査と考察を進めるというもの。「今年の1年生の問いを見ると『メロディをつけると長い文章も覚えやすくなるのか』『作曲家の自筆譜によって得られるヒントとは』など、目の付け所が面白く、音楽を出発点にしながらも、心理、政治経済、歴史と多様な広がりを見せています」と、同校で本取組を推進する雁木聡先生は話す。そこで、音楽専門外の大学生・大学院生にTAとして伴走してもらう体制をとっている。「他分野の視点を入れることで、音楽の捉え方が多様になっていることを感じます」(雁木先生)。
2年生の前期は秋の海外研修に向け、訪問先のブルノとウィーンの歴史や文化をリサーチ。現地ではコンサートや班別研修等に取り組み、帰国後はその成果を発表する。
もう一つの柱が演奏会企画などのプロジェクト型の活動だ。1年生は、京都市立図書館での「0歳からの絵本コンサート」と、地域の方々を対象にしたひな祭りコンサートを企画する。リハーサルから本番まで、生徒たちが直接図書館の司書や地元自治会の方と打ち合わせをしながら、その場と聴衆に合った、しかし本物の自負を持った演奏を模索していく。この活動を主導する津幡泰子先生は、「絵本コンサートの方はほとんど楽譜がなく、また読み聞かせに合った効果音も必要とされます。ひな祭りコンサートは高齢者のご来場も多いので、その年代に合った選曲や、曲の解説を入れるなどの工夫をしています」と話す。
自分たちのスキルで社会のニーズに応えるためにはどうしたらいいのか。各自が知恵を出し合い、工夫していく。こうした体験を通じて、生徒たちの考察力や実行力の向上が感じられると中村陸子校長は話す。
「外部から公開レッスンの講師がいらしたときの質問力が上がっておりますし、区役所から依頼されたコンサートや学校説明会なども率先して司会をしたり、来校された方々に丁寧に応対したりしている姿を見ると頼もしく、成長が感じられます」
もともと複合型の施設であり、積極的に市民に開放するなど、外部とのつながりを大事にしてきた同校。探究活動を通して生徒たちが社会に自ら出ていく機会を増やすことで、より地域・世界とつながる人材育成を促進している。
生徒たちが、探究の進捗状況を大学生・大学院生のTAに報告し、質問やアドバイスを受けている様子。普段の授業に加えて、授業時間外にも「探究アワー」を設け、1対1でじっくりと対話的指導を受ける機会を持っている。