カテゴリー 22024年採択

KCJ GROUP 株式会社

対象者数 100名 | 助成額 888万円

https://www.kidzania.jp/corporate/

Program「Future Life Design Lab」
キッザニアとアントレプレナーシップ教育の専門家が創るキャリア教育プログラム

 キッザニアと、アントレプレナーシップ教育の専門家である東京大学・大阪公立大学の教員が協創する、高校生向けキャリア教育プログラム。定員は2コースで計100名、参加費無料で公募により参加者を募る。

 本プログラムは、「未来の自分像を創る」STEP1と、「社会と自分の未来を描く」STEP2の2段階のワークショップ(各4日間)で構成される。

 STEP1では、自己探究をじっくり行いながら自分の興味や好きなことを発掘し、それをZINE(個人雑誌)制作を通じて表現する中で、自分の今と未来の姿を表現することを目指す。

 STEP2では、社会の未来像を参加者同士でアイデアを出し合い、グラフィックレコードに描いて1枚の絵にまとめあげる。その中に自分の未来像を位置付けることで、未来社会での自分のやりたいことや果たしたい役割を見出す。

 東京大学施設や職業体験の場としてキッザニア施設等を活動の場としながら、大学教員、キッザニアのパートナー企業社員やクリエイター、大学生・院生など、立場の異なる多くの大人達と直接関わる機会をふんだんに織り込み、対話を通して学び合うことができるプログラムを提供する。

 本プログラムは、KCJ GROUPが主催する探究×対話型ワークショップシリーズとして展開するコスモポリタンキャンパスの一環として実施する。

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日本の未来を拓く子どもたちに、「社会で生きる力」を育んでもらいたい

 子ども向け職業・社会体験施設として人気を集める「キッザニア(KidZania)」。その施設内では、現実の約3分の2サイズの街並みの中に、多種多様な職業が体験できるパビリオンが用意されている。施設を訪れた子どもたちは、仕事体験によって得られる専用通貨「キッゾ」で、施設内での買い物や預金・引き出しなども体験でき、楽しみながら社会の仕組みを学ぶことができる。

 国内でキッザニアを企画・運営するKCJ GROUPが創設されたのは2004年のこと。そのきっかけは、創設者の住谷栄之資氏が、キッザニア発祥地であるメキシコに面白い施設があると友人から聞き、お孫さんと共にキッザニアを訪れたことだという。言葉も分からない中、「帰りたい」とは言わずに取り組んでいるお孫さんの姿に、住谷氏は「この経験は子どもたちの将来に役立つはず」と直感。ちょうど国内でニートやフリーターの増加が報じられ、若者世代の職業観に危機感を抱いていたこともあり、働く楽しさや意義を体感できる施設が必要になると考え、日本での運営権を取得した。

 同社は現在、「キッザニア東京」「キッザニア甲子園」「キッザニア福岡」と国内3施設を運営。加えて近年では、施設外での職業体験「Out of KidZania」やパソコンやスマートフォンで楽しめる「オンラインカレッジ」など、施設外での新たな価値提供にも注力している。事業開発部でシニアエキスパートを務める木本香苗氏は、その背景を次のように語る。「キッザニアは社会教育的側面の期待から、学校や家庭での教育を補完補強する場としても活用されており、教育効果を検証するため大学や専門家との共同研究も実施しています。その過程で培われた産官学のネットワークを活かし、家庭や学校、地域コミュニティと共に、子どもたちの生きる力を育むエコシステムの一翼を担えると自負しています」

 施設外活動の一環として、2018年から開講しているのが、対話・探究型ワークショップシリーズ「コスモポリタンキャンパス」。2022年からは新規に開業したキッザニア福岡を拠点に、高校生を対象にした事業展開も始めた。「キッザニアは3~15歳が対象で、主にご来場いただいているのは園児や小学生なのですが、キャリア教育という観点では、その上の世代である中高生への働きかけも重要です。教育現場で探究型の学びが重視されてきた背景もあり、中高生に実社会で活躍する専門家・起業家と対話する機会を提供しようと開始したものです」と木本氏は語る。そして三菱みらい育成財団の助成を得て、2024年から同シリーズのラインナップに加わったのが、アントレプレナーシップ教育の専門家との連携による高校生向けプログラム「Future Life Design Lab」だ。

キッザニアは1999年にメキシコで誕生。国・地域別のフランチャイズ制で、世界17カ国に26施設を展開している(2025年12月現在)。KCJ GROUPは2004年に同社設立後、2006年オープンの「キッザニア東京」(東京都江東区)を皮切りに、2009年に「キッザニア甲子園」(兵庫県西宮市)、2022年に「キッザニア福岡」(福岡県福岡市)をオープンし、国内3施設の企画・運営を担っている。

キッザニアがコンセプトに掲げる「エデュテインメント」とは、「エデュケーション(学び)」と「エンターテインメント(楽しさ)」を組み合わせた造語。単に「楽しく学習する」ことではなく、「楽しさの中にこそ、気づきや学びがある」と捉え、子どもたちがキッザニアでの楽しい体験を通じて、自ら気づき、学んでもらえる施設づくりを目指している。

「コスモポリタンキャンパス」は、中高校生を対象に原則無料で実施する対話・探究型のワークショップシリーズ。「半導体・宇宙産業」「アントレプレナーシップ・起業家育成」「SDGs・サステナビリティ」など教科学習とは異なるテーマ設定で、専門家との対話のもと、学校・学年の枠を超えて学び合えることが大きな特徴だ。

「自己探究」と「社会探究」の両軸で、インタラクティブなプログラムを展開

 2024年度からスタートした「Future Life Design Lab」は、東京大学や大阪公立大学などのアントレプレナーシップ教育の専門家や、コスモポリタンキャンパスにおけるキャリア教育の講師陣との協業による、高校生の自律的なライフデザイン力を引き出すキャリア教育プログラムだ。

 本プログラムは、それぞれ約3時間×4コマで実施される2つのコースから構成されている。1つは未来の自分像発掘に軸足を置く「自己探究コース」で、自己探究をじっくりと行い、自分の好きなこと、興味・関心を持つことを発掘し、クリエイティブに表現するワークショップを行う。もう1つは、自分像を未来社会に紐づける「社会探究コース」で、参加者同士でアイデアを出し合いながら社会の未来像を表現し、その未来社会で自分がどんな役割を果たすかを考えるワークショップを行う。「コスモポリタンキャンパスでの経験から、子どもたちが将来のキャリアを考えるためには、社会にどんな仕事があるのかを知る以前に、まず自身を深く見つめることが大切だと感じていました。そこで、自己探究と社会探究の2軸でプログラムを構築しました」と木本氏は意図を説明する。

 本プログラムの大きな特徴が、自己探究ではZINE(ジン)という個人雑誌、社会探究ではグラフィックレコード(以下グラレコ)と、それぞれクリエイティブ要素の強い成果物を参加者が自ら作成すること。「これは協業する先生方からの提案によるものです。コスモポリタンキャンパスでもスライドの作成・発表など参加者自身によるアウトプットを重視していましたが、よりクリエイティビティが高く、新規性のある手法を取り入れることで、参加者が自身の考えをより自由に表現できるようになっています」と語るのは、同じく事業開発部のアシスタントマネージャー、山本紗愛氏だ。

 自己探究コースは、講義によるインプットとグループワークによるアウトプットを繰り返す「Learning」、キッザニアで職業体験を行う「Experience」、自身の将来像を表現するZINEを制作する「Creation」、最後に各自のZINEを発表・評価し合う「Sharing」という流れで行われる。社会探究コースの流れも基本的には同様で、講座や体験での気づきを自分なりに表現し、互いに評価し合うことで理解と思索を深めるというスタイルは共通している。

 両コースとも、重視しているのはインタラクティブ性。起業家などゲスト講師による講義も、ただ聞くだけの一方通行にならないよう、テーブルトーク形式にすることで「なぜその仕事を選んだのか」「その仕事で何が楽しいのか」など、参加者が本当に聞きたいことを聞ける場になっている。成果物の発表についても同様だ。ZINEの発表では、いわゆるコミケ(同人誌即売会)方式を採用。発表側が自身のZINEをプレゼンしているブースの列を、読者側が自由に見て回り、興味を惹かれたZINEを手に取って感想を伝えるという形式のもと、より自由闊達な意見交換が行われている。一方のグラレコでは、最初に講師が社会を表す大きな一枚絵を描き、その中に参加している高校生が自分の未来像を描き込んでいくことで、未来社会における自身の位置づけを表現。それを見ながら参加者同士が対話することで、将来へのイメージを広げ、深めることができる仕組みになっている。

ZINEとは自分が好きなテーマを自由なスタイルで雑誌風にまとめて表現しているもの。多種多様なフォント(書体)をテーマにしたZINEや、幼少期からのキッザニア体験をまとめたZINEなど、参加者それぞれの興味・関心をビジュアル化したZINEが制作・発表された。

コミケ形式での発表にしたことで、ZINEを通じた参加者同士の対話が深まった。参加者からは「自分が好きなモノに関心を示してもらえて自信が持てた」「それぞれ大切にしているものが違うと分かり価値観が広がった」などの声が上がっている。

グラフィックレコードは、グループでの議論内容を一目でわかるよう絵や図式にまとめる表現手法。全体としての世界観を示しつつ、参加者個々の意見も反映しやすいメリットから、近年、ビジネス現場でも活用が広がっている。

最初は絵を描くことに抵抗感を示す高校生もいたというが、アイスブレイクなどを工夫することで、次第に「言葉にできないことも表現できる」魅力が伝わり、講義の後半には参加者個々の将来への思いを自由にビジュアルで表現しながら楽しむ姿が見られたという。

両コースの講義には、アントレプレナーシップ教育の専門家に加え、キッザニアのパートナー企業や起業家ネットワークから招いたゲスト講師が登壇。

「高校生たちにとって、自分の親や親戚、学校の先生以外の大人と出会う機会自体が少ないもの。実際に社会で活躍している大人から、仕事や社会についての話が聞ける場は、本当に貴重なものだということが、高校生たちのキラキラした表情から伝わってきます」と木本氏はプログラムの意義を語る。

参加者から寄せられるポジティブな声を糧に、改善しながら継続していく

 2024年度は、初開催ながら両コースとも定員50名を超える応募があり、参加した高校生からも好評を得たという。参加前後のアンケートでは、「未来の自分に対するイメージは1~10でどの程度ある?」との問いに対し、参加前の5.5から参加後は6.8に向上。「未来の社会に対する見通しは1~10でどの程度ある?」に対しても5.4から7.5に向上するなど、未来に対する解像度が高まっていることが確認できた。

 また、自己探究コースについては、「自分の“好き”を隠さなくて良いと思えた」「ZINE制作を通じて自分の思考の幅が広がった」などポジティブな感想が多く聞かれた。社会探究コースについては、「漠然と医者を志望していたが、それ以外の選択肢もあることに気づけた」「年代や立場を超えた対話によって、将来をより鮮明に描けた」といった声から、キャリア観を深める機会になっていることが見て取れる。

 一方で、初年度だけに試行錯誤の面も強く、課題や反省点などを次年度以降の開催に活かしていくという。課題としてまず挙げられるのが、学校行事や部活動などとの兼ね合いによる欠席者が少なくなかったこと。もちろん週末や夕方以降に開催するなどの配慮をしていたが、開催期間をコンパクトにまとめるとともに、単日だけの参加も可能にするなど、次年度はより参加しやすいプログラムを目指す。もう1つは、プログラムの認知度向上だ。高校生はキッザニアの対象外のため、もともとアプローチ手段が少なく、いかにプログラムを知ってもらうかが課題だった。初年度はキッザニア卒業生へのターゲットメールや、学校を通じたポスター掲示・チラシ配布などで応募者を集めることができたが、今後はSNSでの発信やパートナー企業との連携を強化するなどして、より多くの高校生にプログラムの存在をアピールしていく考えだ。

 今後もプログラムの質を高めながら継続していきたいと口を揃える木本氏と山本氏が特にこだわっていることが、「参加者にとって安全・安心が担保された場にすること」だという。「本プログラムの参加者は学校や学年などの枠を超えて集まっており、参加者同士はほとんど初対面。それだけに、普段の成績やキャラ付けなどを気にすることなく、素のままの自分を出すことができます。お互いをキャンパスネーム(自分でつけたニックネーム)で呼び合うなど、自由闊達な雰囲気づくりの甲斐もあって、打ち解け合う速さには驚かされます。初日こそ緊張が見られるものの、最終日には、気の合う友だち同士で協力し合ったり、将来のビジョンを語り合ったりする姿が見られます。そうした参加者の変化を見て取れるのが、何よりの励みになります」との言葉から、本プログラムに参加した時間は、高校生たちにとってかけがいのない財産になっていることがうかがえる。

【2025年11月取材】

本プログラムには、講師役の先生方からの紹介で、学生起業家も含め多くの大学生がメンターとして協力。参加した高校生たちは、近い世代のメンターに自身の将来を重ね合わせ、大きな刺激を得ていた。一方で、高校生ならではのピュアな感性や発言は、大学生や先生方にも刺激を与えるなど、お互いにとって意義深い時間となっていた。

各コース約50名の参加者は、ほとんどが初対面同士だが、4回のプログラム修了後は、以前からの友人同士のように打ち解け合い、修了後もSNSなどで交流を続けているという。「学校や地域とは異なるコミュニティを作ることは、私たちならではの役割と感じています。今後も子どもたちの可能性を開花させられる機会を提供できるようなプログラムにしていきたいですね」(木本氏)

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