カテゴリー 22024年採択

株式会社トモノカイ

対象者数 500名 | 助成額 500万円

https://tankyu-skill.com/

Program自由すぎる研究EXPOと連動した、
国際映画祭接続型、映像ドキュメンタリー制作プログラム

 今年度3,500作品程度の応募を予定している、中高生向け探究成果発表会『自由すぎる研究EXPO』の入賞作品(最大500作品)を対象に、札幌国際短編映画祭と連携し、短編映像の制作ノウハウを提供し、優秀作品を同映画祭にて公開するプログラム。優れた探究成果を映像制作能力の育成とともに、広く世の中に発信していく。

 35以上の企業・団体が団体賞を用意してそれぞれの目線で称賛をする『自由すぎる研究EXPO』の入賞者を対象に最終選考に向けた映像制作のための学びとして、『LINEヤフー』ならびに『札幌国際短編映画祭』に連携いただいたプログラムを提供することで、高いモチベーションでの参加が可能になると共に、優秀作品は札幌国際短編映画祭の「Micro Docs U18」というカテゴリーで上映する。

 最終的な成果物は、3分半のショートドキュメンタリー映像となり、単なる映像技術だけではなく、中高生の情熱や体験が、世界に向けて発信される機会となる。

『自由すぎる研究EXPO』の入賞者は6月末に決定し、その後、9月中旬に札幌国際短編映画祭にてノミネート作品が決定、上映は10月を予定。

レポートアイコン
活動レポートReport

テーマも自由、賞も自由という、枠にはまらない探究コンテスト

 2024年から札幌国際短編映画祭に「MICRO DOCS U18」という18歳以下の部門が新設された。LINEヤフーとトモノカイが開発した「映像で伝える探究ステップゼロ」講座を受けた中高生が制作する3分30秒のショート・ドキュメンタリーを対象にしたもので、2025年の最優秀賞には「自分が選んだ自分の道」という作品が選ばれた。さまざまな理由で学校に行けなくなり、代わりに好きな音楽をやるために、国立(くにたち)音楽院に通う子どもたちや周りの大人たちにインタビューしたこの作品は、「孤独」を探究テーマとして制作。過去に味わった絶望にも近い「孤独」を振り返り、そこから違う道を見つけた今について、「楽しいというより幸せ」と話す生徒の姿に、同じような生きづらさを感じている子どもだけでなく、大人たちも勇気づけられる内容となっている。トモノカイの未来教育創造室の室長を務める木曽原和之さんは「映像ネイティブの今の子どもたちは、スマホなどほぼ身近なものだけでここまでのクオリティのものが作れるんです」と話す。

 トモノカイは、東京大学家庭教師サークルを母体に2000年に設立。家庭教師や塾講師の紹介事業を軸に、人材派遣や教育機関向けの支援を行ってきた。2019年から学校向けの探究教材を制作しており、その中で聞こえてきたのが、「探究の成果を発表する場がない」という教員の声だったという。単に発表する機会がないということだけでなく、探究テーマがユニークすぎるゆえ、既存のコンテストなどの枠には当てはまらないという悩みも聞こえてきた。そこで2022年に立ち上げたのが全国の中高生を対象にした探究コンテスト「自由すぎる研究®EXPO(以下、EXPO)」だ。特徴的なのは2025年時点で35社に上る「称賛企業」がそれぞれ賞を設け、「称賛」するという点だ。企業名を賞の名前にするものもあれば、鉄道会社は「縁の下のまちづくり賞」、大学からは「地域リーダー賞」「ディスカバ!賞」など、称えたい視点を掲げた賞もある。木曽原さんは「応募してくれる方には自由でいいと言っているので、賞も自由にしようと思い、各企業や団体が称賛したいものを選ぶというスタイルにしました」と話す。

自由すぎる研究Ⓡのメインビジュアル。表紙のみA4サイズを推奨しているが、その他のサイズや枚数は自由で、これまでの探究をまとめたPDFで応募できるようになっている。

 2024年度は3,857件、2025年度は8,352件と着々と応募数が増えてきている。EXPO事務局を務める佐瀬友香さんは、「学校では掲示物で情報共有する場合が多いので、チラシやポスターを制作したり、メディアやSNSでも積極的に情報発信してきました。しかし参加してくれた中高生や教員の皆さんの口コミが一番効果が高かったと感じています」と話す。こうした周知のほか、年度末に最終発表する学校が多いことを配慮し、その成果をそのまま出せるよう4月末を締め切りにするなどの工夫も募集増につながっている。

 また一次審査を通った応募者に送っている「探究達成レポート」というオリジナルのルーブリック評価も応募者からは好評だ。これも「評価をどうしたらいいか」という教員の悩みに対して提案していた教材付属ツールのノウハウを応用している。「このルーブリックは、”絶対解“ではないということをお伝えしたうえでお渡ししており、先生と生徒間でブラッシュアップに向けた目線合わせをするなど、今後の探究の一つの指標として活用いただいています。特に最近は総合型選抜の入試の実績の証明としての用途も多くなってきました」と佐瀬さんはルーブリック活用の広がりについて話す。

「探究達成レポート」のサンプル。好きの強さ・プロセスの精度・伝える力など6つの特性がチャートで一目でわかるようになっており、EXPOの審査員からのコメントも載せている。

探究のまとめや表現の「ありきたり」を外す

 徐々にEXPOの認知度が高まる中、2024年度に札幌国際短編映画祭との取組みをスタートさせた。「探究におけるまとめ・表現においては、論文形式やパワーポイントを使ったプレゼンなどが主流ですが、前々からまとめや表現の手段ももっと自由なもの、例えば映像や音楽という領域もあると考えていました。ただそこに”補助線“を引かないと、自然発生的には新たな表現方法は生まれにくい。そのようなことを考えていた時に出会ったのがLINEヤフー株式会社の方々でした」と木曽原さんは振り返る。同社は「ドキュメンタリーで知るSDGs」の取組みの一環として、中高校に向けてドキュメンタリー映像を用いたアクティブ・ラーニング型の教育プログラムを展開していた。木曽原さんはこのドキュメンタリーの制作過程が探究に適した素材だと感じたという。「探究活動は通常、課題の設定から始まって、情報収集、整理分析、まとめ表現というプロセスで行われることが多いのですが、『課題を設定する』、つまり何かを問いにする前にビックリマーク、驚きがなければ、はてなは生まれないと考えていました。問いを生み出すうえでは心が動いている瞬間を自覚することが重要で、そのビックリマークを生み出すきっかけとしてショート・ドキュメンタリーは非常にパワフルな要素だと感じました」(木曽原さん)。

 そこで同社と共に開発したのが、ドキュメンタリーを用いた探究教育プログラム「ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ」だ。LINEヤフー社が制作した動画を活用しながら、「動画を見て感じたことを言葉にする」「社会課題をテーマにした動画を自分で選んで視聴する」「動画で感じた変えたいことをグループで考える」「他人に伝える表現を自由な形式で考える」「発表で他人を伝える」という5つのフェーズで構成されている。

LINEヤフー社と制作した教材「ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ」(左)と、その別冊として「映像で伝える探究ステップゼロ」も制作。プロと同じような流れで実際にドキュメンタリー映像制作に取り組めるワークブックとなっている。

ドキュメンタリーを制作する過程でぶつかる「現実の壁」

 この教材でビックリマークを手に入れたならば、それをもっと他の人にもビックリマークを広めることはできないかという発想から、LINEヤフー社と共に札幌国際短編映画祭に声をかけ、EXPO入賞者を対象にしたU-18部門が2024年からスタートした。7月の一次審査を通過した入賞者に呼びかけ、希望者に対し、「探究ステップゼロ」の教材を提供するとともに、プロの映像監督が指導するオンライン講座を夏休み中に開催。9月にエントリーを締め切り、映画祭の審査に作品を送り出した。「オンライン講座や映画祭への参加は、学校は関わらず、すべて中高生の意思に任せています。もともとEXPOでは1次審査を通った応募者には称賛企業へのプレゼン用に3分程度の動画を作ってもらっているのでいったんクライマックスを迎えた後で、もう一歩先に行こうという試みはなかなかハードルが高いと思うのですが、その分、ハードルを越えてくれた応募者の熱量はものすごく高いものでした」(木曽原さん)。

  選出された動画は「熱量が高い」高校生たちの動画だけに大人顔負けのクオリティのものもある。伝えたいという力、表現に対する欲望が自分たちの強みになっている作品が年々多くなっていると感じていると木曽原さんは話す。「一方で、撮影の許可が得られなかった、狙い通りのコメントをもらえなかったという、現実とのギャップを実感し、苦労をしていることが多いようです。しかし私はそれ自体が価値ある経験だと思っています。自撮りや仲間内だけでの撮影とは違う、実際に社会に出て味わう現実を目の当たりにしたリアリティが映像に出ていると感じています」

 今後の展開として、木曽原さんは、映画祭のエントリー作品を増やしていくとともに、教育以外の分野に探究について広め、社会と接続するハブとしての役割も果たしていきたいと話す。「EXPOの多くの称賛企業が中高生の探究のレベルの高さに驚かれ、R&Dなど社内の専門部門と会わせたいという声も聞かれます。先日も『魚の刺身はなぜ光る?』という探究をした高校生と、その光のスペクトルを測るために研究施設を訪れたのですが、そこの社員の方と真剣に1時間近く討論していました。企業や団体が教育に協力して当たり前だろうという認識に立つのではなく、お互いにメリットが得られるよう、企業や団体が手伝えることと、学校が社会に発信したり連携をしたいと思っていることをつなげていきたいと考えています」と木曽原さんは話す。木曽原さん自身もトモノカイに入社する前は教育とは全く異なる異業界でキャリアを積んできた。このようなキャリアを持つ木曽原さんだからこそ「自由すぎる研究EXPO」や、LINEヤフー社、札幌国際短編映画祭とのつながりとそれを接続する教材「探究ステップゼロ」を生み出せたと言える。この二つの取組みに次ぐ、学校と社会を結ぶ新たな「補助線」に注目していきたい。

「アート×サイエンスで感性に響くで賞」を受賞した、「魚の刺身はなぜ光る?」の探究。授与した称賛企業はその理由を「食卓に並ぶ魚の刺身から『自然の美』である構造色を見つけ出し、深く掘り下げていくユニークな発想から感じられるアート性。仮説を立てPDCAを適切に回す研究プロセスや、多角的に発色の仕組みの解明に取り組む姿勢からは高いサイエンス性が感じられたことから本研究を選出」としている。のちに同社の研究所に高校生が訪れ、社員と1時間以上討論をしたという。

ビデオアイコン
成果発表動画Presentation

一覧に戻る