ProgramWaffle Campホームタウン
~日本全国で女子中高生の理系的経験の格差を解消する~
女子・ノンバイナリーの高校生向け1日完結型ウェブサイト作成コース「Waffle Camp」を日本全国で展開するプログラム。このプログラムを地方在住もしくは都市部でも生活困窮家庭などの「理系的経験」の少ない女子中高生200人に提供し、理系進路の選択支援を行うことで、社会課題をテクノロジーで解決する「テックリーダー」として羽ばたいてもらうことを目指す。
Waffleはこのような地域的理由もしくは経済的理由による理系的経験の格差を埋めるため、「Waffle Campホームタウン」を開催。2024年度は参加者の層を拡大するため、以下3点をアップデートしたWaffle Campを全国10都市で開催し、裾野の拡大につなげたいと考える。
・日本全国どこからでも参加できる理系分野を知ってもらうオンラインイベントを開催
・Waffle Campのカリキュラムを初学者向けにアップデート
・参加者に対し、当日の移動手段(もしくは交通費)や食事を準備
これにより、地域格差や経済的理由により困難を抱える女子生徒が理系進路を選択するための事業のモデルを作り、将来的には地方の企業や教育機関による継続的な活動が実施されることを目指す。

活動レポートReport
「女子は文系、男子は理系」というジェンダーバイアスを乗り越えるために
「小学校では理数系が得意でIT系にも興味を持っていた女子が、高校での文理選択や大学進学時には理系を選ばないケースが少なくありません。その背景の一つには、親や教師の『女子は文系』『IT系は男性の仕事』といったステレオタイプな思い込みの影響が見られます。私たちの活動は、こうしたジェンダーバイアスに対する疑問からスタートしました」と、Waffleのディレクターを務める森田久美子氏は語る。
「Women Affection Logical Empowerment(愛情深く、そして論理的に女性をエンパワーしたい)」という願いと、「難しく捉えられがちなテクノロジーを、お菓子のようにポップに伝えたい」との想いを団体名に込め、2019年に誕生したWaffleは、ITをはじめとしたテクノロジー分野におけるジェンダーギャップ解消に向けて、女子およびノンバイナリーの中高生・大学生にIT教育の機会を提供している。
中でも中核的な取組みが、2020年からスタートした「Waffle Camp」だ。このプログラムは、中高生を対象に、ワークショップ形式の1日教室と事前・事後学習により、ウェブサイト開発のスキルを身に付けてもらいながら、同世代の仲間たちと一緒に将来のキャリアを考える場を無償で提供するもの。当初はコロナ禍のためオンライン形式で実施したが、自治体や教育委員会、学校との連携のもと、次第に対面形式に移行し、2022年度からは「Waffle Campホームタウン」として全国各地で開催している。「各地域での対面開催とすることで、中高生が参加しやすくなるのはもちろん、同じ興味を持った仲間やメンターと直接的なコミュニケーションが、参加者の熱量を高めています。その熱量が保護者や教員の方にも伝わることで、進路選択時のジェンダーバイアス解消にも良い影響を与えているようです」と、プログラムのマネージャーを務める佐々木佳世氏は手ごたえを語る。
Waffleは、米国の教育NPOが主宰する女子中高生向けアプリ開発コンテスト 「Technovation Girls」の公式アンバサダーとして、日本国内からの出場チームの支援も行っている。同コンテストは、次世代の女性IT起業家の育成を目的とした世界最大級のテクノロジー教育プログラムで、2024-2025シーズン(2024年12月〜2025年6月開催)では日本から88チーム(計440名)が参加し、2年連続でファイナリストに選出されるチームが出るなど、大きな活躍を見せている。
2022年4月より、IT系のキャリアに興味がある女子大学生・院生向けのコミュニティ「Waffle College」を運営。プログラミング研修およびキャリアサポートを無償で提供している。同プログラムの受講者や卒業生が「Waffle Campホームタウン」のメンターを務めるケースも増えており、そこからWaffleのインターンシップに参加する学生も出るなど、活動の持続可能性を支える好循環が生まれている。
ロールモデルとなるメンターとの対話を通じて、ITへの興味・関心が深まる
2024年度のWaffle Campホームタウンは、夏休み期間の7月から8月にかけて、千葉(2カ所)、新潟、福井、長野、兵庫と全国6カ所で無償開催。のべ117名が参加し、1回あたりの平均参加者数は19.8人となり、前年度の約2倍に拡大した。
「参加者の拡大には、人材流出に危機感を持つ自治体や教育委員会の後押しはもちろん、小学校でプログラミング学習が普及したことで、興味を持つ中学生が増えたことが影響しています。また、三菱みらい育成財団の助成を得て交通費や食事代を補助したことで、経済的な理由で参加を諦めていた生徒も参加しやすくしました」と佐々木氏は語る。「特に集客に寄与したのがチラシです。これまでも自治体や教育委員会から各学校にメールで告知してもらっていましたが、生徒が直接、手に取れるチラシを配布したことで、自発的に参加してくれる生徒が増えています」(佐々木氏)。
こうして集まった参加者たちは、互いの自己紹介の後、HTML/CSSを使ったオリジナルホームページ作成のワークショップに参加。「『推し』を広めるホームページを作ろう」といった中高生に身近なテーマのもと、初めてのプログラミングに挑戦し、メンターのサポートもあって楽しみながらスキルを身に付けていった。その後は、IT業界で働く女性による講演やトークセッションにより、自身の将来像を描くヒントを得ていた。「女子およびノンバイナリーの大学生がメンター役を務めるのが、本プログラムの大きな特徴です。ロールモデルとの対話を通じて、参加者は『女性もITの世界で活躍できる』『自分もやりたいことを選んでいい』といった気付きを得ています」(佐々木氏)。
実際、アンケートで受講前後の意識の変化を調べたところ、「プログラミングへの興味」は82%から94%、理学部進学への興味も59%から74%へと高まり、IT分野への勉強・就職に関心を持つ生徒は26名から52名と倍増。Waffleの他プログラムで継続して学習した生徒も28名(参加者全体の24%)に達するなど、確かな成果につながっている。「これら定量的なデータもさることながら、ある参加者が『ITを駆使して自分のアイデアをカタチにする楽しさを知ることができ、文理選択の糧になった』と語ってくれたのが、何より嬉しいですね」と佐々木氏は振り返る。
年齢が近い大学生メンターの丁寧なサポートを得て、中高生は初めてのプログラムにもリラックスしながら取り組めている。ワークショップの場だけでなく、昼食時もメンターとの対話が弾む姿が見られ、「文理選択で悩んでいたので、理系を選択した女性の体験談が聞けて参考になりました」との感想も聞こえた。
一般的なプログラミング教室やワークショップは男子生徒の比率が高く、それだけで尻込みする女子生徒も少なくないという。Waffle Campホームタウンは女子とノンバイナリーの中高生限定にすることで、心理的安全性を担保し、参加しやすい機会を作っているのが大きな特徴である。
改善を続けながら、活動の輪を広げていく
Waffle Campホームタウンは2025年度以降も継続的な開催を予定しているが、毎年の成果や課題を踏まえ、常にアップデートを続けている。「内容面での課題は、先端の技術・知見を取り入れていくことも意識しています。技術進化の早い領域だけに、私たちも常に勉強が必要です。例えば、ChatGPTに代表される生成AIの普及を踏まえ、ホームページ制作に生成AIツールを導入。より効率的なコンテンツ作成を可能にする手法を理解するとともに、AIを適切に活用できるよう、AI倫理に関する内容も加えました」(佐々木氏)。
もう1つの課題が、さらなる裾野の拡大だ。そのためには、やはりプログラムの認知度向上が不可欠であり、自治体や教育委員会との連携を深めるとともに、引き続き広報活動を強化。2024年度から開始したチラシ配布の継続はもちろん、公式WebサイトやSNSでの情報発信もさらに充実させていくという。「対象とする女子中高生が親しみやすいデザインはもちろん、過去の活動から参加者がイキイキと取り組んでいる写真を用いるなど、『自分にもできそう』『やってみたい』と感じてもらえるような表現を心掛けています。また、『ITは難しいもの』という印象を与えないよう専門用語を平易な言葉に言い替えるとともに、『リケジョ』などアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を助長しかねない言葉を避けるなど、表現への配慮も徹底しています」と広報担当の辻田健作氏は工夫を語る。
これら取組みによってプログラムの充実・普及を図ると同時に、ジェンダーギャップの解消に向けた社会への働きかけも強化していくという。「日本社会の現状は、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数で153カ国中121位(2019年)であり、IT業界における女性技術者の割合は15%以下、工学部の女子比率も16%にとどまっています。Waffleがミッションに掲げる『女性の可能性を解き放ち、ともに世界に影響を与える』の実現には、女子中高生にテクノロジーと接する機会を与えるだけでなく、こうした社会構造そのものを変革する必要があります」とディレクターの森田氏は語る。「具体的には、同じく三菱みらい育成財団の助成先である一般社団法人Girls Unlimited Programなど、性別による体験格差の解消を図る団体との連携を図るとともに、政府への提言など社会に対する働きかけを強化していきます。これらの活動を通じて、ITなどテクノロジー領域で活躍できる女性が増えれば、人材不足の解消や価値創造力の強化にもつながるでしょう。そうした社会づくりに向けて、ITに興味・関心を持つ女子およびノンバイナリーの中高生・大学生をエンパワーメントし、社会課題をテクノロジーで解決する『テックリーダー』として羽ばたいてもらう、それこそが、私たちWaffleの目指す社会です」(森田氏)。
三菱みらい育成財団の仲介により、同財団の助成先である岡山県立岡山操山高校の修学旅行において、Waffleのワークショップを開催。日本マイクロソフトの品川オフィスにも協力いただき、同社の品川オフィスにおいて実施された。男女問わず興味を持てるカリキュラムを工夫したところ、双方から好反応が得られたという。「地方の高校は共学校が大半で、女子生徒だけを対象にしたプログラムには工夫が求められる場面もあります。今回の取組みを通じて、実情に合わせながらも、女子が自信をもって挑戦できる機会をより多くの場所に広げていきたいと感じました」(佐々木氏)。
テクノロジー分野でのジェンダーギャップ解消のため、2025年4月には赤澤亮正 経済再生担当大臣、平 将明デジタル大臣を訪問し、提言書を提出。2025年9月からWaffleの田中沙弥果理事長(写真左)が文部科学省中央教育審議会の教育課程部会情報・技術ワーキンググループ委員を務めている。「経済財政運営と改革の基本方針(通称:骨太の方針)」に「女性デジタル人材育成」と記載されるなど政策への働きかけを積極的に行っている。