カテゴリー 32024年採択

学校法人麻布獣医学園 麻布大学

対象者数 150名 | 助成額 500万円

https://www.azabu-u.ac.jp/

Program麻布「出る杭を引き伸ばす」プログラム

 麻布大学の強みである「動物共生科学」を基軸とした研究活動を通して、高校生からやりたいことを見つけ、高校-大学の不断な教育体制の中、実践場面を経験し、自らが成長するプログラムを実施し、感染症や地球温暖化、食糧問題に対応できる秀でたアントレプレナーシップをもつ学生を育成する。

 生徒(学生)に、社会課題の解決につながる本物の研究、すなわち「実践の場」を提供することで、自らが社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジし、他者との協働により解決策を探求できる知識・能力・態度を身に付けた「出る杭人材」を育成し、更に引き伸ばすことを目指す。

 本プログラムでは、1)問いの設定、2)問いの理解、3)多面的解決方法の立案、4)研究計画の実施、5)成果発表と振り返り、といったPBL(Project Based Learning)型研究を生徒(学生)と大学教員が共同で実施することを通して、社会問題に対応できうる高いモチベーション、意識及び経験を有するアントレプレナーシップ教育を実施する。

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高校生に「本物の研究」に触れてもらう環境を整え、大学での学びに繋げていく

  1890年に創設され、現在は獣医学・生命科学分野に特化した2学部6学科を擁している麻布大学。獣医系大学として長い歴史を持つ同学が2020年から推進している「麻布『出る杭を引き伸ばす』プログラム」は、高校生や大学1・2年生の時から本物の研究、「実践の場」を提供することで、芽生えた才能を発見し、実践を通じて伸ばしていく取組みだ。

 原点は2019年度に学内で先行した獣医学部 動物応用科学科対象の「実践的ジェネラリスト育成研究プログラム」(ジェネプロ)にある。大学に入学したばかりの1年生を対象に、好きな研究をさせて成長を促すことを目的に実施されたもので、学生・教員からも好評だったことから、全学部全学科で実施することになった。並行して、2020年度の文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択されたことを機に、高校生を対象にした「いのちと共生の研究プログラム」も立ち上げ、これらの取組みを「麻布出る杭プロジェクト」と称して推進している。

 高大接続に関しては、2024年4月に大学教育推進機構内に「高大接続・地域連携プログラム開発センター」を発足。「本学では以前から地域の高校と高大連携事業として、教員の派遣などを行っていましたが、これを機に『連携→接続』に強化すべく、高校から大学、大学院までの学びをシームレスに提供するプロジェクトを同センターが運営することになりました」と、田中秀和副センター長はセンターの役割について話す。高校で本プログラムを修了した生徒には、高大双方の単位認定を行い、2023年度からは「出る杭入試」(指定校型)での受け入れも開始。入学後は優先的に好きなジェネプロを選べる仕組みとした。

2025年5月に行われた”出る杭“の研究成果発表会。前年度の3月に研究プロジェクトを修了した現学部3年次の学生たちが1年間の成果を発表。学部・学科の枠を超えて研究に取り組めるのも、「麻布出る杭」の特徴と言える。

2024年度は連携校を拡大。新たな枠組みで高校生の”背伸び“を支援

  2024年度は連携校10校を目標に掲げ、SSH指定校や中高一貫校、女子校など多様な学校と連携を結ぶことができたという。従来からの出張授業や同学の施設での実習体験などを展開しつつ、桐蔭学園中等教育学校 とは新たな取組みを実施した。同校では、夏休み中に4年生(高校1年生)を対象とする「アカデミックキャンプ」を開催し、複数の大学と連携し教授や大学生と共に最先端の学びを体験するプログラムを実施している。麻布大学は初めてこのキャンプと連携、桐蔭学園だけでなく、その他二つの高校からも高校生34名が参加し、3日間にわたり、「いのちと共生プログラム」を実施した。高校生たちは、初日は座学、2・3日目は大学で12時間以上の実習・分析・発表に取り組んだ。同学は3月の成果発表会まで継続伴走し、修了時には大学単位相当の認定証を授与した。「学校も学年も違う生徒たちが、初日の昼休みには一気に打ち解け、目の色を変えて探究活動に向き合っていました。そうした姿を見て、高校生の先生方は、生徒たちに大学の学びを”背伸び“させることでこれだけ成長するのかと驚かれていましたし、我々も高校生の伸びしろを改めて実感しました」と前田高志センター長は話す。

  また神奈川県立大磯高校とも新たな取組みを実施。鳥獣被害対策に取り組んでいた大磯町と大磯高校に協力を申し出、2025年1月に町と高校、麻布大学の3者で「人と動物と環境の共生に向けた連携と協力に関する協定」を締結。その後、島根県にある麻布大学のフィールドワーク拠点で、高校生が大学生のTAと共に地元が行う害獣対策を体験し、その知見を地元の課題解決へ還流させる枠組みとした。

  高大接続の取組みが進展する一方で、その成果をどう評価するかという課題も出てきた。同学の日ごろの修学成果については、2021年に大学教育推進機構に設置された「教学IRセンター」が、全学で運用する独自の「サイエンスリテラシー・コンピテンシーテスト」によって可視化している。海外で展開されていたテストのライセンスを取得し、同学独自のものに改良したもので、サイエンスリテラシーでは専門学科の土壌となる科学の基礎的な部分を9つのカテゴリーに分けて計測、コンピテンシーについては12のカテゴリーで行動特性を出し、強み・弱み、そして特性の伸ばし方を学生たちにフィードバックしている。「可視化されたデータをもとに、どの時点でどのような教育に力を入れていけばいいのかを検証し、カリキュラムの改善につなげています。今後は高校の時に『いのちと共生の研究プログラム』に参加した学生が入学後、どのような成長を遂げているのかを追って効果検証をしていきたいと考えています」と前田センター長は話す。

桐蔭学園中等教育学校の「アカデミックキャンプ」と「いのちと共生のプログラム」とのコラボの様子。獣医学科のプログラムでは、乳牛の体内では泌乳時にどのような変化が起こっているのかをテーマに研究体験を行った。

島根県にある同大学のフィールドワークの拠点で、獣害対策について学ぶ大磯高校の生徒たち。

プログラムの質の担保と教員の負担軽減に向けた施策

 もう一つ課題となっているのが、提供するプログラムの質の担保と教員の負担軽減だ。同学では“教職協働”をモットーにしており、センターには学科代表の教授陣と事務職員、さらに高等学校実務に通じた客員教授や自治体出身の客員教授が加わり、プログラム開発・橋渡し・第三者的チェックを一体で担っている。また接続校は安易に広げず、年次の効果測定・振り返りで担当教員のアサインを都度見直し、負荷平準化を図っているという。「年間伴走で手厚く、またスポットで体験学習を実施など、高校の要望によってメリハリをつけた対応をしていますが、それらにすべて応えていくとなると我々の負担も大きくなります。こうした課題を解消するヒントを、今回の桐蔭学園との連携で得ることができました。当初は桐蔭学園の『アカデミックキャンプ』という枠組みで高校生向けのプログラムを実施しましたが、今後は本学主導で枠組みを作り、そこに複数の参加高校が乗り入れるスタイルにしていけば、教員負担の軽減と質を担保した規模拡大を図れるのではないかと考えています」と、前田センター長は話す。

 「出る杭プロジェクト」がスタートして5年。新型コロナなどの影響があり、リアル開催が難しい時期もあったが、徐々に学内外での同プロジェクトの認知度も上がり、「出る杭を知って入学した」新入生は4割を超え、また学生全体の認知度は7割に達している。ジェネプロの開始当初は11人だった参加者が、今や学年横断で200人規模となっており、同プログラムが麻布大学の大きな強みに成長したと言えるだろう。

 プログラムのブラッシュアップに向けた次なる挑戦としては、「英語没入型キャンプ」を検討中だという。9月の連休等を活かして高校生も受け入れ、動物・食品分野の探究から発表までをオールイングリッシュで3日間行い、近隣の企業や施設での現地学習も組み込む計画だ。「接続校のグローバルコースからの参加希望も高く、大学主導の乗り入れ型で参加者を広げていきたいと考えています」(前田センター長)

 またプログラム全体の枠組みを深化させる一手として、高校→大学→大学院→社会というシームレスな教育の出口である「社会との接続」の実現化も図っている。その一つとして、地元の銀行と相模原市が立ち上げた自転車を活用したシティプロモーションに学生が参画し、カメラで撮影・編集。環境科学科が先行していたデジタルマッピングの取組みと繋げ、地域の歴史を可視化する取組みへと深化させている。またガス会社とは脱炭素教育で連携し、学生が学んだ内容を小学校や自治会へアウトプットするプログラムも始動する予定だ。大学から社会へと繋ぐ実践の場を在学中に経験する“出る杭の社会連携版”の整備が着々と進んでいる麻布大学。「先が見通せない時代を支える”出る杭人材“育成に向け、高校で芽生えた好奇心を大学の研究で伸ばし、地域と世界でその力を試す環境づくりを目指し、プログラムの自走化と社会実装を加速化させていきます」と前田センター長は今後の展開について語る。

地元の銀行と相模原市が立ち上げた自転車を活用したシティプロモーションに参加した学生たち

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