カテゴリー 52024年採択

認定特定非営利活動法人カタリバ

対象者数 30名 | 助成額 680万円

https://www.katariba.or.jp/

Program高校生に意欲と創造性を届けるための「伴走力向上」と
「校内推進体制づくり」を目指した伴走型研修

 本プログラムは高等学校における総合的な探究の時間のカリキュラム開発に向けて教員による「伴走」と「学校ごとの探究推進チームづくり」をテーマに、全国から高校教員を募り、半年間にわたる全3回の研修と日常の実践〜振り返りに取り組むプログラムである。どの教員も課題を抱える探究学習の「伴走」に対して、全国の先進的な知見をもとにした具体的な伴走手法の獲得と、各校から複数人の参加を条件とし各学校で不可欠な存在である「探究推進チーム」の組成を目指すことで、各校で伴走の環境整備が進むことを目指す。

「探究推進チーム」の組成を実現するために以下4つの特色を設けた。
【1】管理職を含んだ複数人で各校エントリーすることで、意欲ある先生の個人活動になることを防ぎ、チームによる学校改革を目指す。
【2】伴走フレームワークの提供、ケーススタディによる議論を通して、教員一人一人の生徒伴走力を向上させることで探究支援の専門性を高める
【3】先進校での研修を材料に、自校カリキュラムの改善方針をチームで議論することで“現場の課題”と先進的な取り組みを結び付け、実行力ある解決方針を生み出す。
【4】定期的なカリキュラム相談会(オンライン)や年度末振り返りなどを通して、現地研修と日々の実践を往還しながら学びを深める

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活動レポートReport

「総合的な探究の時間」の担当教員が抱える課題に寄り添うために

  2022年4月に高校の授業で「総合的な探究の時間」が必修化されて以来、全国的に探究学習が浸透する一方で、課題や不安を抱えている教員も増えている。「私たちカタリバは、10代の意欲と創造性を育む教育NPOとして、探究学習が必修化される以前から10年以上にわたって活動してきました。新たに探究を担当される先生方に対しても、先進校の授業見学や事例勉強会などのサポートを行っていますが、そこでよく聞かれるのが『自分にもこうした授業運営ができるだろうか』『うちの学校では難しいのでは』といった不安の声でした」と語るのは、本プログラムの開発・推進を担う横山和毅氏だ。

「探究学習を実施する上での課題は、大きく『伴走力の向上』と『校内の推進体制づくり』の2点に集約できると考えられます。探究学習の授業には、いかに生徒一人ひとりの興味・関心に寄り添い、主体的な学びを導いていけるかという難しさがあります。一方で、探究学習に意欲や熱意のある少数の教員だけに負荷が集中し、校内で相談相手もなく孤立しがちという課題もあります」と横山氏は分析する。

  本プログラムは、これらの課題解決に向けて、探究学習を担当する高校教員を対象としたサポートプログラムとして構築され、「探究スタートアップラボ」と命名された。その大きな特徴が、1校につき管理職を含めた3名程度の参加を条件としたことだ。「管理職を含めた複数人が、当ラボへの参加を通じて校内における探究学習のコアチームとなることで、実行力のある推進体制を構築できるようになります」と横山氏は意図を語る。あわせて重視しているのが実践に学ぶ姿勢だという。「そもそも探究学習には教科書も学習単元もなく、各校それぞれゼロからカリキュラム設計を行わねばなりませんが、教員は暗中模索の中、取り組んでいます。そこで、探究学習の先進校が取り組んできた経緯やプロセスを知っていただくことが有効だと考えました」(横山氏)。

  先行事例としたのが、カタリバの連携校である福島県立ふたば未来学園高校だ。同校は2015年の開校以来、震災や原発事故からの復興をテーマとした課題解決型学習「未来創造探究」に注力するなかで、多くの知見を蓄積してきた。「私自身、2019年から同校に学習コーディネーターとして派遣され、カリキュラム開発や学外協力者との連携を担いながら、多くの気付きを得てきました。同校の先生方とともに培った経験は、これから探究学習に取り組む先生方にとって有益なものだと確信しています」と横山氏は語る。

2001年の設立以来、教育分野で活動するNPOとして20年以上にわたる歴史を重ねてきたカタリバ。「どんな環境に生まれ育った10代も、未来をつくりだす意欲と創造性を育める社会」を目指し、居場所づくりや不登校支援、学校横断型の探究プロジェクトなど、幅広い活動を展開。その現場で得られた気付きをもとに、日々、新たなプログラムを創出している。

学生時代からカタリバの教育プログラムに関わり、2011年4月に新卒入職した横山氏。出張授業「カタリ場」の事業リーダーとして全国100校以上の高校で実践した後、コラボ・スクールや学校支援などを担当。そこで得られた経験やノウハウ、人脈などを活かして、2024年度に本プログラムを立ち上げ、主担当として牽引している。

研修と実践を繰り返しながら、探究授業の運営に必要な力を培っていく

「探究スタートアップラボ」」は、小規模のトライアルを経て、2024年度に本格的なスタートを切った。全国から参加校を募集したところ、100校以上から資料請求があり、19校が応募。運営上の観点から採択校を13校に絞って実施した。

  実際のプログラムは、3回の対面研修を軸に半年間にわたって展開される。限られた対面での時間を有効に使えるよう、まずは事前にオンライン交流会を開催。単なる顔合わせではなく、あらかじめ研修内容に関する知識を得て、マインドセットを整えることを目的としたものだ。

  10月には第1回の対面研修として、ふたば未来学園高校で先進校フィールドワークを実施。実際の探究授業を見学した後、同校教員との意見交流会では、生徒との関わり方や、各校の現状のカリキュラム評価などについて活発な議論が交わされた。「ふたば未来学園の授業内容などはオンライン交流会で説明済みのため、当日は質疑応答を主体に議論を深めることができました。参加校の先生方にとっては多くの気付きやヒントを得られるとともに、ふたば未来学園の先生方にとっても、これまでのプロセスを振り返り、ノウハウとして一般化するための貴重な機会になったと評価いただいています」(横山氏)。

  次回研修までの間には、「事後課題」として、目指す生徒像の明確化や、やるべきことの洗い出しなどを各校で行ってもらいつつ、個別のオンライン相談会を実施。振り返りや現場での実践を重ねたのち、11月には都内で第2回の対面研修を開催した。「ここでは、第1回研修後の各校での取組みと取り組みと、その成果、課題などを発表し合いました。互いに刺激を与え合いながら、カリキュラムづくりのヒントを得たり、改善点を指摘し合ったりする姿から、探究学習に取り組む先生方同士が支え合い、ともに成長していくコミュニティが生まれていることが実感できました」(横山氏)。

  3月の第3回研修は半年間の成果発表会として、カタリバ主宰の、つくりたい未来に向けてアクションしてきた全国の高校生たちの学びの祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード2024全国Summit」に合わせて開催された。その狙いを、横山氏は次のように語る。「1つは、できるだけ多く他校の取組みに触れてもらい、自校が目指す“学びのロールモデル”のイメージを持ってもらうため。もう1つは、全国から参加した発表校や、視察や講評のために来場いただいた探究先進校の先生方など、多くの先生方と交流いただくためです。実際、成果発表会にはこうした先生方にも参加いただき、多くの質問や指摘など、質の高いフィードバックが得られました」。

  こうして育まれた教員同士のコミュニティは、プログラム修了後もオープンチャットなどの形で継続されており、交流を深めつつ、悩みや成果を共有し合う場として、探究学習の底上げに貢献しているという。

ふたば未来学園高校でのフィールドワークでは、教員同士の交流に加え、授業見学の最中に探究学習に取り組む生徒とコミュニケーションをとる機会があった。一人ひとりが自律的に活動しながら、しっかりと目的意識を持って取り組んでいる姿に「もっと生徒の学ぶ意欲を信用していいんだと感じた」との感想が聞かれるなど、生徒に伴走する上での大きなヒントが得られた。

成果発表会では各校の発表後に「全国高校生マイプロジェクトアワード2024全国Summit」の参加校やファシリテーターと活発な対話が交わされた。特に、教頭など管理職として参加した方々からは「校長には校長会など他校との交流の機会がありますが、私たちはなかなかそうした機会がないので、貴重な場を与えてもらえて感謝している」との声が聞かれた。

教育現場からの声に応えるべく、改善を加えながら継続的なサポートを提供

 初年度の成果について、横山氏は次のように評価する。「参加者アンケートの回答では『探究の伴走・指導について学びや気づきがあったか』『研修前と比べて、校内での取組みに向けた計画が明確になったか』といった設問に、ほぼ全員から肯定的な回答が得られており、カリキュラムや運用体制の整備に寄与できたことが窺えます。また、学校の組織開発をテーマとする研究者からも好評を得ており、特に、個人でなくチームで学ぶ有効性が確認できたことが今後の自信につながっています」。参加した教員からも、「探究学習は進学校だからできるものと思っていたが、自校でもやれると気付き、モチベーションが上がった」「同じ悩みや同じ熱量を持つ他校の先生方と出会えたことで、自校に戻ってまた頑張ろうと思えた」など、前向きな評価が得られているという。

  こうした評価を糧に、2025年度も同様のプログラムを準備しており、すでに前年度と同程度の応募が寄せられている。「前年度の参加校から、引き続き実践に当たってのサポートを希望する声が多く挙がっていたこともあり、新規参加校のロールモデルとして参加してもらえるよう、継続枠を設けて実施する計画です。それ以外にも、研修で使用した教材をパッケージ化して幅広く提供する、フィールドワークの受入先となる先進校を拡大するなど、将来に向けた展開をいろいろと検討しています。加えて、助成終了後の自走化に向けて、各地の教育委員会との関係強化や、コミュニティの運営についても考えなければなりませんが、一歩ずつ実践を積み重ねながら、参加される先生方と一緒に考えていきたいと思っています」と横山氏が語るように、本プログラムは「チームでの参加」や「先進校の実践に学ぶ」といった独自の特徴を維持しながら、さらなる進化を目指していく。

  これまでの活動を踏まえ、横山氏は探究学習に対する考えをこう語った。「探究の授業を運営する上では、生徒たちにどのような学びを届けたいのかという自分なりの“軸”をぶれずに持ち続けることが大事だと改めて感じました。探究には明確なゴールがないので、探究そのものが目的になってしまうと、先生方も苦しくなってしまいかねません。むしろ、目標とする学びを実現するためのツールとして活用するという心構えで取り組んでいただければ、良いのではないでしょうか」。

公式サイトなどでの告知に対し、資料請求や参加希望など多くの問合せが寄せられたという。「これまであまり接点のなかった学校も多く含まれていることから、全国の高校において、探究学習支援に対する現場ニーズが非常に高いことが窺えます」と横山氏は分析する。

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