カテゴリー 12021年採択

福島県立磐城高等学校

対象者数 840名 | 助成額 200万円

https://iwaki-h.fcs.ed.jp/

Program地域トップリーダー育成のための探究プログラム

 福島県は2011年に震災と原発事故を経験し、大きな被害を受けた。3年間の探究活動では、震災や原発事故、復興や地域創生に対する理解を深めるとともに、地域の課題を発見し、その課題解決のための活動を行う。

 1年次の活動では津波被災地の見学や語り部の講話、地元企業が抱える課題に触れることなど、直接的な体験を通して、地域の現状を知るとともに、地域の課題を見いだすプログラムとなっている。

 2年次の地域探究では、自分の希望進路や興味・関心のある分野に地域の課題を関連付けて課題を設定し、探究することで、生徒が地域の課題を自分事として捉え、課題解決力を伸ばすプログラムとなっている。 

 また3学年では1、2年次の探究活動の成果を進路に接続する取り組みを行う。 

 さらに希望者を対象とした、大学と連携して行う「磐陽ゼミ」では、大学の学問に触れ、より高度で深い探究活動を目指す取り組みを行う。 

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活動レポートReport

語り部との交流や企業訪問 「地域を知る」から始まる探究

  「浜通り」と呼ばれる福島県の太平洋沿岸部の学校にとって、防災や復興は避けて通れないテーマの一つだ。だが、震災から10年が経過し、生徒たちは当時の記憶の薄い世代に移り変わってきている。同校は防災教育や地域創生教育を、地域の基幹校としての社会的役割と捉え「総合的な探究の時間」で全学年で取り組む。
 1年次では、津波の被災地を視察し、語り部から復興の状況などを聞いたのち、地域の14以上の企業等を訪問し、いわき市の産業や技術を体験的に学ぶ。震災で受けた被害と、世界に誇れる技術力・製品力を持つ先端企業の活躍――そのコントラストが地域課題を「自分事化」する原動力になっていく。

 それらの経験を踏まえ、2年次以降は個人で課題設定し「地域探究」を行う。グループ活動にせずあえて個人探究とし、テーマの深掘りだけでなく調査・取材のスキルや、発表・表現する機会を確保する。内容は必ずしも防災や復興と関連づけなくてもよいこととし、学びに向かう力を自由に発揮させる。小中一貫教育に関心を持ち、県内の学校を取材した生徒もいれば、歩道をでこぼこにしてしまう街路樹の「根上り」の原因を調べ、予防措置を提案した生徒もいる。これまで思っていたことと、調査や体験を経てわかったことを区別し、対象の価値を判断する力がついてくる。
 3年次は進路との接続を意識して、これまでの学びを意義づける「地域理解探究」に取り組む。目指す資質・能力をまとめた「磐城高校ルーブリック」に基づき、探究活動の自己評価をする力を身に付ける。

 「総合的な探究」以外に、希望者を対象とした「知との出会い」のチャンスも積極的につくっている。これまで、大学の研究室と連携し生徒が長期でゼミに参加する「磐陽ゼミ」や、福島第一原子力発電所の廃炉に向けた技術を学ぶ「廃炉ツアー」などを実施。より高度な探究活動に向け、今後も地域連携を進めたい考えだ。
 2年前には、野球部で甲子園に出場し、廃炉ツアーで廃炉やロボットに興味を持った生徒が、東北大学に現役合格するなど、ロールモデルとなるケースも出てきている。研究開発部の志賀和浩教諭は「進学への準備を始めたときに、初めて3年間の探究に意義を見いだす生徒もいるが、一つ一つの取組や行事が、進路選択の手がかりになる実感を持たせる探究にしたい」と、話している。

長尾康子(教育ジャーナリスト)

「地域探究」で発表する2年生。

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