カテゴリー 12021年採択

山梨県立甲府西高等学校

対象者数 620名 | 助成額 200万円

http://www.nishi.kai.ed.jp/

ProgramIBの手法を基礎とした、「総合的な探究の時間」における課題研究論文の作成 

 本校は公立高校としては山梨県唯一のIB(国際バカロレア)認定校であり、その中で培われたTOK(Theory Of Knowledge)的思考のノウハウを生かし、課題論文の作成に取り組んでいる。その特徴は課題内容を指定せず、純粋に生徒個々人の興味関心に基づく課題(リサーチクエスチョン)の設定にある。生徒たちは政治・経済・文化・スポーツ・ヘルスケア・科学・芸術等、さまざまな分野における課題を自分で作成し、その解決に向けて3年間かけて答えを見つける。そこでは個々人の主体性を最大限に尊重し、個人の思考力・表現力・判断力・課題解決の能力の育成に努めている。

 具体的には、1年次においては、研究手法の研修の目的で、「山梨に生きる」というコンセプトに基づき、県の抱える課題を自ら発掘させ、その解決に向けて先行研究を調べ、実験・調査を進め、試行的な小論文(essay)を作成する。その後生徒は最終論文の作成に向け、各自の課題(リサーチクエスチョン)を自由に決定し、2年次の研究につなげる。2年次では、1年次に高めた研究のスキルを用い、先行研究を調べ、仮説を立て、調査・実験を行い、結果をまとめた上で論文を執筆する。3年次ではそれらをポスターやパワーポイントなどにまとめ、最終的には発表を行って結果を他者と共有する。

 これらの過程において、教職員はSV(スーパーバイザー 監督)として1人当たり5〜6人の生徒を受け持ち、それぞれの課題の設定、実験・観察・論文作成等にサゼッションを行い、その都度の形成的な評価にも関わっていく。

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真の興味関心に基づくリサーチクエスチョン(課題設定)を支援

 県内の公立校における唯一の国際バカロレア(IB)認定校である同校。「自己を知り 自己を深める」の校訓のもと、単位制・65分授業など特色のある教育活動を展開している。グローバル化や教育環境の変化に伴い、教養教育(リベラルアーツ)を基盤に据えた「自分の頭で考えて行動できる人間の育成」を目指している。
 その一環として、「総合的な探究の時間」では、高校3年間をかけて探究活動を行い、結果を論文にまとめ社会に発信することも視野に入れている。批判的思考力を培うIBの科目「TOK」(Theory of Knowledge:知の理論)のノウハウを生かし、生徒は様々な分野における課題を自分で発見し、解決方法を見いだしていく。

 3年間の探究は連続的だ。1年次は、県教育委員会の推奨するテーマである「山梨に生きる」に基づき、県の抱える課題を深める。ここで調査や実験、論文作成や発表といった研究の手法を学ぶ。2年次では、各自が課題「リサーチクエスチョン」を自由に決定し、1年次に身に付けたスキルを活かして研究を進め、論文を執筆する。それを3年次でポスターやパワーポイントにまとめて発表、共有する。
 生徒一人ひとりが、真に興味や関心に基づいたリサーチクエスチョンを設定するには、生徒の視野を広げることが必要だと考え、2021年度は各界の著名人を学校に招いた講演会を計画した。21年2月には生物学者の福岡伸一・青山学院大学教授がオンラインで1・2年生に向けて講演した。事前に福岡氏の著作を読んでいた生徒らからは多くの質問が寄せられた。どの疑問にも明快に回答する福岡氏の姿に、生徒は大いに刺激を受けたという。

 県内有数の進学校でもある同校では、大学入学をゴールとせず、入学後に創造性を発揮する生徒を育てたいと考えている。高校段階での探究活動や、著名人との「出会い」をその原体験と位置付ける。「各界で活躍する方の話を間近で聞き、自分たちももしかしたら何かができるのかも、という気持ちになってくれたら」と、担当の齊藤正樹教諭は話す。
 探究の指導は、校内チームを中心に全教員が担う。あくまで助言や支援をするスーパーバイザーとしての立場を守り、生徒の主体性を最大限に尊重する。IBの指導者資格を持つ教職員15人も協力し、論文作成までの指導ノウハウと全校の「探究」に活かしている。

長尾康子(教育ジャーナリスト)

1年次からポスターセッションなどの発表に慣れる。

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