カテゴリー 32025年採択

国立大学法人 東京大学
生産技術研究所

対象者数 40名 | 助成額 1,000万円

http://www.designledx.iis.u-tokyo.ac.jp/

Programデザインで未来をつくる:高校生のためのデザイン先導イノベーション教育プログラム

  本プログラムは、デザイン思考と最先端の科学技術を活用し、未来社会を構想・実装できる創造的人材の育成を目指す高校生向けの教育プログラム。

  第1段階では、人間中心デザインや創造的な問題解決手法、プロトタイピングなどの基礎を学ぶ。続く第2段階では、参加者が数名のチームになり、一つの社会課題を選び、解決に挑むプロジェクト型学習「デザインX」に取り組む。
  本プログラムの特徴は3点ある。一つ目に、実際に社会課題に取り組む実践型の学びを通じて、社会に働きかける力を育む点。二つ目に、東京大学生産技術研究所の最先端の研究や技術を活用し、科学とデザインの融合を体験できる点。三つ目に、15カ国の人達が集う国際性あふれるDLX Design Labの環境の中で、多様な価値観に触れながら学ぶ貴重な機会がある点。これらを通じて、参加者は視野を広げ、自らの可能性を拓く力を養う。

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DLXの最先端教育力を高校生にも拡大

 DLXデザインラボ(以下DLX)は、「デザインによる価値創造」というミッションの下、2017年に東京大学生産技術研究所価値創造デザイン推進基盤に設置された国際的なデザインチームだ。バイオ工学からAI、マテリアル科学まで多様な専門家が集まる日本最大級の研究所という環境を活かし、研究者とデザイナーが密接に連携し、分野横断的なコラボレーションを実現してきた。課題を見つけ、解決するためにデザインを用いるだけでなく、最先端の科学技術を社会の発展にどう応用できるかという可能性をデザインを通して考えるという逆算的なアプローチを採用していることが特徴と言える。この独自の視点が、2025年から始まった高校生向けの本プログラムにも色濃く反映されている。

 「これからを生きる高校生たちには、気候変動やAI、社会制度の変化など、一つの専門分野だけでは解決できない複雑な課題が待っています。デザインは、異なる分野や人々をつなぎ、課題を理解し、アイデアを形にしていくための方法です。将来デザイナーになるかどうかに関わらず、若い世代がその考え方に触れ、身につける機会をつくることには大きな意義があります」と、本プログラムの責任者であるマイルス・ペニントン教授は語る。このプログラムでは、デザインスキルの習得ではなく、高校生が最先端の科学技術に触れながら、社会課題を自分ごととして捉え、デザインという思考法を通じて解決策を模索できる人材の育成を目指している。またアイデアだけでなく、プロトタイプ制作まで行う実践型である点も特徴的だ。

 「社会人や大学生向けのプログラムを実践する中で、もっと早い段階でこうした学びに出会う機会があれば、個人や社会全体に与えるインパクトは格段に大きくなるのではないか、という思いを強く持っていました」と立ち上げの経緯を語るのは、本プログラムの立案・運営を担うメンバーの一人である同ラボのロエル朋大デザイナー。「高校生の時にこういう教育を受けていたら、もしかしたら今とは違う道を歩んでいたかもしれない」という実感が、プログラム立案の原動力となったと話す。高校生のメンターなどを務める松尾洋子フレドリカ同ラボデザイナーとワン・ジェンナ同ラボ特任研究員も同様の思いを持ってプログラムに取り組んでいるという。「自分が高校生だったら、どんなヒントやアドバイスを必要とするかを想像しながらメンタリングをしています」(松尾氏)。「過去の自分たち」に届けたかった思いが発端となり、DLXとして初めての高校生向けの教育プログラムがスタートした。

1日8時間にもわたる授業でもリタイアした参加者はなし

 2025年度のプログラムは、デザインの基礎知識をプロのデザイナーから対面で学ぶ講義から始まった。10月の土曜日、4週にわたって東京大学駒場キャンパスの同ラボに集まったのは、都内在住の高校1・2年生24人。「第1段階の基礎プロジェクトはまさに集中講義。土曜日ごと、1日約8時間にもわたって、みっちりとデザインの基本的考え方やプロセスを学んでもらいました」と松尾氏。「新しい図書館をデザインする」というテーマのもと、6チームに分かれてグループワークを実施し、デザインプロセスの全体像を体験的に習得した。

 そして11月からは4カ月にわたる第2段階がスタート。第1段階で習得した知識や経験を基に6つのグループにチームを新たに組み直し、より実践的なプロジェクトに取り組んだ。テーマは「健康&ウェルビーイング」「環境&エコロジー」「テクノロジー&社会」の3つ。各チームはいずれかのテーマに取り組み、リサーチを通してデザイン課題を見つけ、プロジェクトを進めた。対面授業は隔週の土曜日で時間も4時間程度。ただし、プログラムの初めの段階には、授業とは別に各テーマに精通した3人の東京大学教授がオンラインによる特別講義を行い、各テーマの最新のトレンドや社会課題、専門的な視点を学ぶ機会が設けられた。「特別講義は、各人がテーマを決める前のタイミングで行いました。まず全員に全テーマに対するインプットを与え、そこからインスピレーションを得るための授業です」(ロエル氏)。

 さらに隔週水曜日には、オンラインで同ラボのデザイナーや研究者によるメンタリングを実施。アイデアの相談やフィードバック、デザインに関するアドバイスを通してプロジェクトをサポートした。メンタリングのない水曜日には「オフィスアワー」と名づけた松尾氏とワン氏によるオンラインの相談コーナーも設け、4カ月間すき間なくスケジュールが組まれた。参加高校生たちは、チームごとの対話型セッションによってアイデアを具現化させ、実際に手を動かしてプロトタイプを作成。メンターからのフィードバックを得てアイデアをブラッシュアップさせていくというサイクルを何度も繰り返していった。

 2月末のプログラム最終日には、最終発表会として30年後の未来を舞台にしたアイデアとプロトタイプを披露した。衣類の洗濯時に発生するマイクロプラスチック問題に着目したチームは、専用フィルターで微細なプラスチック粒子を収集する洗濯機を提案。収集されたマイクロプラスチックは再利用可能な素材として活用できるという、循環型社会を見据えた提案だ。またあるチームは、AIが人間の脳に埋め込まれることが当たり前になった未来を想定し、あえてAIの介入の切り替えができる指輪型デバイスを考案した。会には約30人の保護者も参加し、子どもたちの発表を見守った。保護者からは、発表の内容への高評価だけでなく、「自ら行動する力がついた」「土曜日は自分できちんと起きてラボに出かけ、新しい友達もできて、とても楽しそうだった」など、子どもたちの変化に対する驚きの声とともに、本プログラムをぜひ継続してほしいという声も多数聞かれた。また、協力いただいたメンターからも「高校生と触れ合うことで、自分自身もモチベーションが上がった。今後もぜひサポートしたい」という感想を得たという。

 また受講した高校生の言葉からは、普段何気なく使っていた“デザイン”という言葉が持つ可能性に対する驚きが感じられる。「デザインというと、ビジュアル的、アート的なイメージが強かったのですが、それだけでなく社会と直接関わるものだと気づきました。身の回りのアイデアや視点、知識、技術などを社会に届ける際に欠かせない過程の一つなのだと理解しました」。

各回の授業では、主体的な参加とグループワークを重視。フィードバックを伝え合う方法を実践する様子

チームで協働する姿勢を学ぶ参加者たち

身近な素材を用いたプロトタイピングを通じて、アイデアを形にし、他者に伝える方法を学ぶ

教室での学びだけでなく、参加者同士のつながりも深まった。多くの生徒が、学校外の仲間と出会えたことへの感謝や、プログラム終了後も交流を続けたいという思いを語った

2026年度は体験+短期・長期のカリキュラム

 2年目となる2026年度は、初年度の成果と課題を踏まえ、プログラムを大幅に刷新。参加機会を日本全国に広げることを目的に、3種のカリキュラムで構成することになった。まず一つ目は、5月に行われる「体験ワークショップ」。オンラインで行われるので、全国どこからでも参加できる。「入口の敷居を低くして、広く参加者を集めたいという狙いです。約3時間のワークショップを4回行うことで150人くらいに初歩のデザイン教育を体験してもらいます。そこで興味を持ち、もっと深く学びたいという参加者には、次のコースに応募してもらうわけです」(ロエル氏)。

 コースの一つが、8月の5日間で行う夏休みの「短期集中コース」。「長期にわたってラボに通うことができない遠方の高校生中心のコースです。参加者は30人から40人で、宿泊のサポートもするので、泊まり込みで5日間みっちりと学びます。高校生同士の対話型セッションだけでなく、メンターからの特別講義も行います」とワン氏。場所は東京大学柏キャンパス(千葉県)を予定している。

 もう一つの「長期プロジェクトコース」は、初年度のプログラムを踏襲したコースだが、2026年度は9月から12月の前期と12月から3月の後期に分け、それぞれ20~25人に参加してもらいたいとしている。

 高校生への幅広い募集だけでなく、企業や自治体への呼び掛けも進めている。「昨年度の活動報告パンフレットを作成して、高校生と一緒にプロジェクトを行ってもらえるパートナーを募集しています。そうすることで、現実の課題に対するプロジェクトの実施や、インタビュ―する相手の提供もできるでしょう」(松尾氏)。

 初年度の2025年度は、プログラム採択のタイミングの関係で、約半年間の活動となったが、それでも参加した高校生たちの変化には、松尾氏、ワン氏共に驚いている。「わずか半年で子どもっぽい顔つきが、自身に満ちた表情に変わりました」(松尾氏)、「人前で話すのが苦手だった子が、堂々とリーダーシップを取れるようになったり、初めから意見を言えた子は、逆に少し引いて相手が話す間を作れるようになったりと、それぞれの成長が見て取れました」(ワン氏)。

「世の中をデザインする」という思考を身につけるとともに、高校生同士での対話やリサーチ、プロトタイピング、プレゼンテーションといった新たな経験を積むことで人間としての成長をも促すプログラム。地域的広がり、参加者数の増加を経て、どのような効果を生み出すか注目される。

2月末に最終発表会として、各チームによる最終プロジェクトの発表が行われた。

発表後には、参加者と約30人の保護者・家族が、お気に入りのプロジェクトに投票した。

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