カテゴリー 22021年採択

一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム

対象者数 30名 | 助成額 669.4万円

https://c-platform.or.jp/

Program未来の地域・社会をけん引する
グローカルリーダー探究実践プログラム  

 島根の高校に在学する高校生が、自らの探究テーマを見つけ、自分の未来と地域の未来を重ね、実社会の課題にチャレンジするプロジェクト学習プログラムである。

 そのために、島根県を飛び出した大学生・社会人に加えて、「特定非営利活動法人グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」と協働し、海外大学でおのおのの専門性を磨く大学生もメンターとし、島根で活躍する社会人や経営者をパートナーに加えた上で、行政・大学・産業界と連携し“オールしまね”で未来の地域・社会を担うグローカルリーダーを育成していく。

 また、プログラムで生まれたプロジェクトの実行におけるアクション(実践)を下支えする仕組みとして、各種プロジェクトを資金的に支援するチャレンジファンドを産業界と共に立ち上げることを目指す。

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活動レポートReport

高校生の好奇心を起点に、島根の未来を共創していく

「高校生が企画したサロンに高齢者が参加してもらえるのか不安もありましたが、多くの方にお越しいただきました。高校生と高齢者が積極的に交流する、ゆくゆくはそうした枠にとらわれず地域の住民が交流し、誰もがいつまでも安心して生活できる町を、ひいてはそういう日本を目指したいです」「たくさんの方から応援・期待されていることに気づき、これは当たり前ではないことをこのプロジェクトを通して強く実感しました。これからも私たちは海士町だけでなく、隠岐や日本中で活動し、隠岐の活性化に貢献していきます」「島根の高校生がつながり、受けた刺激を共有することで、『高校生のうちにやってみたい』という思いを呼び覚ますきっかけをつくりたいというコンセプトでラジオを始めました」。

 2022年12月17日、島根県松江市・くにびきメッセに集まった29人の高校生たちは、「みらチャレ」として約半年間取り組んできたチャレンジの内容とそこに込めた思いを、5分という短い時間の中で凝縮して伝えた。「みらチャレ」とは、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム主催の「しまね未来共創チャレンジ」の通称で、高校生たちが自らの創りたい未来を描き、「やってみたい」という好奇心や「変えたい」という問題意識をプロジェクトにしてアクションを起こし、島根の未来を共創していくというプログラム。キックオフは2022年7月の1泊2日の合宿で、応募してきた高校生たち、島根県内外で活躍する経営者の「共創サポーター」、そして若手社会人・大学生メンターが一堂に集まり、縦横の絆を深めていった。この場で高校生たちは自分のチャレンジをプレゼン、本来ならば「共創サポーター」によって10プロジェクトに絞る予定だったが、どれも魅力あふれるものだったため選考はせず、15プロジェクトが、メンターのサポート受けながらスタート。10月のオンラインでの中間発表を経て、12月の対面での最終発表に臨んだ。地域の魅力発掘、観光活性化、高齢者との交流イベントの企画、子ども食堂の開催、映画製作、女子サッカー部創設、高校生がパーソナリティーになったラジオなど、15プロジェクトのテーマはさまざまだ。短い発表の中で、「自信が持てるようになった、堂々と意見が言えるように変わった」「周りにこんなにサポートしてくれる人がいるなんて知らなかった」「魅力的な人やモノがたくさんある島根は捨てたものじゃない」という感想と共に今後の展望も語り、最終発表だけで終わらない、その先の展開や可能性を感じさせる会となった。

2022年12月に開催された「みらチャレ」。島根県内の高校生、メンター、共創サポーターが参加して行われた。

発表、受賞が終わった後も、高校生とメンターが組になって、「みらチャレでの思い出の残るエピソード」「みらチャレへ挑戦する2期生に伝えたいこと」といったテーマについて、都度メンバーを変えながら、話し合った。森山さんは「発表がゴールではなく、経験を振り返り、自分たちの学びを言語化することが大事。また横のつながり・コミュニティ形成というところも意図してこの場をつくりました」と話す。

みらチャレAWARD、みらチャレ準AWARD、高校生アワード(プロジェクトに参加した高校生の投票による賞)、特別企業協賛賞の各章の受賞が行われた。「みらチャレAWARD」の選考過程で、共創サポーターの意見が分かれたため、「みらチャレ準AWARD」が当日に急遽設けられた。

地元企業の協賛金を集め、高校生たちのプロジェクトの活動資金に

  一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームは、2006年に代表の岩本 悠さんが隠岐島前高校にて高校の魅力化プロジェクトをスタートして以来、都道府県の枠を越えてさまざまな地域の学校に入学できる制度「地域みらい留学」の推進や高校魅力化コーディネーターの配置・育成支援など、社会と教育環境をつなげるさまざまな事業に取り組んできた。16年間の知見をベースに、新たなプロジェクトとして挑戦したのが、この「みらチャレ」だ。「今までの取り組みと大きく違う点は、島根の人材育成に貢献したいという地元企業からの協賛金を得て、『チャレンジファンド』を立ち上げ、高校生たちの活動資金として提供したことです」と、「みらチャレ」プロジェクトマネージャーである同財団法人の森山裕介さんは話す。「チャレンジファンド」の着想は、森山さんが北欧に視察に行ったときに得たものだ。「若者がやりたいという思うことを行政に申請すると、資金が提供される『チャレンジマネー』という制度がありました。これをきっかけに若者は行動を起こして社会に参画し、行政は制度を通して社会の担い手を育てていく。この仕組みを島根で作ろうと思って3年ぐらい試行錯誤してきたのですが、日本の行政はプログラムの予算は出してくれても活動資金は出しにくいということもあり、民間企業との連携を検討し始めました」。タイミングよく、高校生向けの番組をブラッシュアップさせたいという相談が、地元テレビ局・山陰中央テレビジョン放送(TSK)からあった。そこで共催として「みらチャレ」の企画を進めるとともに、TSKの広告営業先に同行し、「チャレンジファンド」の趣旨を説明して回った。結果、21社が協賛企業となってくれた。高校生たちへの支援金は1グループにつき最大10万円。最低限のルールだけ設け、使い方や計画は本人たちに任せた。限られた資金をどのように効率的に生かしていくか。プロジェクト推進力だけでなく、こうした「お金の使い方」も学ぶ機会にもなっている。

持続可能に向けての課題「資金の確保」

「最終発表を見て、この短期間でよくここまで仕上げてくれたなというのが正直な感想です。最初は高校生たちの心に火がついてエンジン全開になっているのですが、大体途中から停滞してしまうことが多い。そこをうまくメンターがフォローしてくれたんだと思います」と、岩本さんは最終発表を振り返る。一方で、これからの課題として「みらチャレ」の持続可能性の鍵となる「資金の確保」を挙げる。「現状は経営者が思いに共感して出資してくれています。最初のきっかけはそれでいいと思いますが、今後は産業界や企業が『みらチャレ』に価値を感じて『もっと一緒にやっていきたい』と思ってくれるような仕掛けをしていく必要があります」。

 その一つが、メンターの活用だ。「高校生のプロジェクトにメンターとして関わるという経験は社内での部下・後輩育成に応用できるはず。企業の人材育成面で関わっていただく余地もあると考えています」(岩本さん)。今回のメンターは、これまで同法人の取り組みに参加していた「卒業生」が中心になって参加、同法人はメンター向けガイドブックを配布したり、月1回メンターミーティングでメンターへのサポートを行っていた。森山さんも「全般的に精神的なフォローはできていましたが、プロジェクトマネジメント的な面では温度差がありました。プロジェクトテーマに詳しい方、また社会でプロマネを経験した方などにメンターとしてアサインしてもらうことも考えています」と話す。また、「みらチャレ」の卒業生が大学生・社会人になってもメンターや協賛企業として関わってもらえるよう、横のつながりもしっかり築き、アルムナイの組織を作っていきたいと森山さんは話す。

「エネルギー溢れるリーダー資質があればあるほど都会に出て、島根には年に数回戻ってくるというのがこれまでのパターン。島根で活躍している大人との出会い、応援してもらったという実感や経験、一緒にチャレンジした同世代の学校を超えたつながり。この三つがうまく絡み合った時に、島根では成長や挑戦はできないというイメージを壊し、自らが活躍するフィールドとして島根という選択肢が生まれてくるのではという仮説を持っています。そうした狙いをこの『みらチャレ』に込めましたが、手ごたえを感じた高校生も一定数いると思っています」(森山さん)

 また高校生たちだけでなく、大人たちにも変化があったと森山さんは話す。どのような人材を島根で育てていきたいのか、育成をサポートする側として高校生とどう関わっていくか、どのようなメッセージを出すべきか。共創サポーターと同法人メンバーが改めて話し合うきっかけにもなったという。「同法人としてもこれまで付き合いのあったソーシャル分野だけでなく、TSKの紹介によってビジネス分野で活躍する人と交流ができ、違う価値観を持つ人たちとの『共創』ができたと感じています。高校生に向けて取り組んできたことが、ブーメンランとなって大人に返ってきてリフレクションすることになったのは予期せぬ成果でした」(森山さん)。

 人材育成と地域活性化、どちらも経済的な枠組みがなければ持続可能な取り組みとはならない。「みらチャレ」はこの課題解決のモデルとなる可能性を秘めている。

「みらチャレ」の参加者にアドバイスをする岩本氏。廃校寸前だった島根県立隠岐島前高校を立て直し、全国から入学希望者が来る人気校にした実績を持つ。

島根で育った森山さんは一度東京に出て戻ってきた経歴を持つ。「自分のやりたいことに挑戦できる地域・教育魅力化プラットフォームがなければ帰ってこなければ来なかったと思います。そういうフィールドを島根につくっていきたい」と話す。

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