Program“私の願い”を呼び起こし、探究を駆動させる「CORE」
本プログラムは、全ての学びを生徒の「心からの願い」を起点に創り出す探究学習プログラム。
探究学習の中で、ついつい生徒が「社会側の正解が何か」を調べることになったり、期待されている答えを言い当てることはないだろうか。そうしたことを解決し、真に生徒の興味・関心を起点にして探究学習を駆動させるために開発した。
本プログラムでは、NVC(非暴力コミュニケーション理論)やSEL(社会的・情動的な学び)など最先端の理論に基づき、言語だけでなく情動や身体感覚といった多面的なアプローチを採用したカリキュラムをデザインしている。
そのことで、自分が感じていることを大切に扱い、心からの願いに迫る。例えば、価値観カードを用いて自分の大切にしている価値観を選んでみる活動や、マインドフルネスを通じて内面に意識を向ける時間を設けている。
このように、「CORE」は生徒が自分の内面と向き合う内省的な時間をプログラム内で確保し、自らの願いを呼び起こすことに焦点を当てている。
<本プログラムで起こしたいこと>
・生徒の「心からの願い」を起点にすることで、主体的な学びを実現
・社会の正解ではなく、自分の願いを感じ取り、自分らしい応えを探求する主体を育む

活動レポートReport
頭・心・身体の三層構造が生み出す、言葉にならない気づき
高校教育の現場で探究活動が定着しつつある一方で、「効率よく成果を生み出そうとする“こなし探究”が現れるようになった」と危惧感を抱くのは、教育と探求社で教材開発を担当する佐藤瞬氏だ。探究活動の現場に立つ中で、他者が定めた“答え”に素早く到達しようとするアプローチは真の学びにつながっているのか、という疑問を持つようになったという。そこで、従来の課題解決型学習とは異なる新しい探究の軸として同社が開発したのが内省的探究学習プログラム「MY PURPOSE(申請時プログラム名COREから改称)」だ。
これまで同社は、校外での探究活動を支援する「MIRAIB.」や、日常生活や教科の授業から「問い」や「テーマ」を探す「Question X(現:マイクエスチョン)」などの探究プログラムを開発してきた。これらのプログラムは学校や教員から好評で、同社も普及に努める中で生徒自身から湧き出る問いのパワフルさや、各々が問いを持つことの価値に注目するようになったという。「さまざまな学校の様子を見る中で、外部の課題に取り組むことで何かしらの力を身につける探究だけではなく、自己の内面から湧き出る本質的な“願い”に焦点を当てる探究の軸があってもいいのではと考えました。自分自身の中にある『こうならなければならない』といった思い込みをほぐしていって、本当の”わたし”の願いを明らかにすること。それによって、進路や将来を”自分ごと”として捉え、自ら学びに向かっていける生徒を育む探究です。そこで、これまでの学校外や他教科に繋ぐ・拡張するという方向性から、自分自身を『深める』方向に思い切り舵を切りました」と佐藤氏はプログラムの独自性を語る。
本プログラムを通して高校生たちが出会う願いとは、進路や職業などのように一つの解として言語化されたものではない。むしろ、言葉になり切れていない願いにこそ意識を向ける必要があると佐藤氏は言う。そのための工夫として取り入れたのが、頭・心・身体という3つのアプローチを経て、わたしが意識を向ける部分を徐々に拡張していく構造だ。
最初の「頭パート」では、さまざまな画像や出来事をあらゆる視点から眺め直す。論理的に考えるのではなく、自身の関心の方向に気づくことで視野を広げるイメージだ。次の「心パート」では、さまざまな価値観が書かれたカードから自身が大事にしたいものを数枚選び、友達と語り合ったり、カードを贈り合ったりすることで価値観を映し合う。最後の「身体パート」では、自分自身に意識を向けるマインドフルネスの要素を取り入れた「リセットワーク」や、素材の画像を手が動くままに貼っていく「コラージュづくり」など、身体の力を借りて言葉になっていない願いを形にしていく。これら3つのパートを全て完璧にこなす必要はなく、どれか一つでも気づきにつながればよいという前提で設計されている。
プログラムは、当初ここまでの12コマで完結する予定だったが、輪郭が見えてきた願いと社会を接続させるフェーズまで扱う必要性を感じて22コマにまで拡張した。後半10コマでは、自身の願いに基づいてどんなことをやりたいのかを書き出し、それを基に、仲間を集めてプロジェクトとして実際に誰かに届けるという構成になっている。「社会からの要請に適応するだけでも、自分の願いだけを声高にアピールするだけでももったいないと感じています。そのため、この二つを適合させて、社会との関係性の中でわたしの願いをどう築いていくのかという視点を取り入れました」と佐藤氏は語る。
「頭パート」では、概念のレンズカードをもって、いつもの景色を見てみる。普段は意識していなかった公園の様子もレンズを通してみることでまた違って見えてくる。
「心パート」の授業の様子。価値観カードを用いて、「わたしが今大切にしたいこと」を5枚選ぶ。さまざまな価値観に出合うことで、自分がどんなことを大切にしているのかに気づくような仕組みになっている。
「身体パート」で取り組んだコラージュづくり。手が動くままに丹念に素材を切り貼りして自分の世界を表現していく。
学び直しの現場で見えた予想外の可能性
2024年度は4校で実証授業を実践したところ、教員から毎回の授業の振り返りの質が変わったという感想が寄せられた。「活動がどう楽しかったか」という表面的な感想から、「私はこんな発見をした」とか「私はこういうことが好きなんだと分かった」というように、“わたし”が主語になって、学んだことと私の結びつきから物事の振り返りができるようになったという。佐藤氏は「内省プログラムを経たことで、それ以降の学びが変わろうとしている兆しだと考えています」と話す。
また同社がチャレンジングだったと話すのが、学校に登校しないことを選んだ生徒含め、さまざまな状況に置かれていた生徒が通う「学び直し」に力を入れている高校での実施だった。心にトラウマを抱える生徒に内省を促すことのリスクを考慮しながら慎重な姿勢で臨んだが、反応は予想外だった。書くことが苦手だった生徒が、活動の振り返りを自発的に書いたり、ほとんど発言することのなかった生徒が、仲間と協働して提案を行う場面が見られたという。またわたしの願いに基づくプロジェクトでは、「クラスでゲーム大会をしたい」という提案が出されたが、先生方は肯定的に捉え、結果的にクラスメイトにやりたいゲームのアンケートを取ったり、校内での許可を取るために副校長に直談判に行ったりと、願いを起点に行動が伴った変容が見られた。佐藤氏は「ゲームはダメだと先生が安易に判断せず、生徒を信頼して任せたことが大きかったと思います。安心安全な環境さえ整えられれば、本プログラムで願いを発露させることは可能だという実感を得ました」と語る。 生徒の変容に留まらず、教員の意識変革にも作用するという声も届いている。実証授業を行った学校の教頭は、このプログラムを「遠回りのように見えて実は一番の近道」と評した。一見合理性が見えづらいプログラムのように思えるが、このプログラムがベースになってその先の学びに繋げることができる。「これまでにないプログラムを体験することで、教員自身の“学びとの向き合い方”に気づきをもたらす契機にもなると考えています」と佐藤氏は語る。
一方、学校側からは運用についての不安が聞かれたため、同社では詳細なチュートリアル動画を作成した。実際の授業風景を撮影し、生徒の声も交えながら、各ワークで何に注意すべきか、どのように学びを見取ればよいかを具体的に示している。また、導入時には教員向けの研修を実施し、生徒が体験するワークを実際に体験してもらうことで、プログラムの意味や価値を実感してもらう工夫も加えた。本格的な実践に取り組んだ2025年度には、12コマのベーシックなプラン、それぞれの願いをもとにプロジェクトを立ち上げる22コマのフルパッケージ、クラス開きのHRやオリエンテーションで気軽に試せる4コマのプランという3つのプランを用意し、各学校が考える目的や環境に合わせた選択を可能にした。
全国各地で教員向けのワークショップを実施。教員のみなさんに実際にプログラムを体験してもらっている。
社会に出ても向き合わなければならない本質的な問いとは
こうした内省的な学びの評価に関し、「数値化して定量評価することは難しい」と佐藤氏は語る。プログラムでは3ステップごとに中間リフレクションを設け、活動で印象に残ったことと自分自身について発見したことを記録するようになっている。生徒がどのような思考のプロセスを経て学びを紡いでいるか把握できるような仕組みにしている。しかし重視すべきは、プログラム終了時にどんな発表ができたかではなく、その後の学びがどう変わったかをしっかりと見取ること、つまりアウトカムズの視点が重要だと佐藤氏は話す。
授業や高校という枠を超えてその先の学びに繋げたいという同社の思いに共鳴するかのように、社会人向けの研修も実施している同社に、企業から本プログラムを社員研修として導入したいという問合せがあったという。従業員のエンゲージメントを高め、離職率を下げるという企業の目的の背景には、社員一人ひとりが自分の願いと仕事を結びつけて働ける環境をつくりたいという思いがあると、佐藤氏は話す。10代の時に直面する、自分の願いを実現するためにどのようなキャリアを描いていけばいいのかという本質的な問いは、社会に出ても、いくつになっても、ついて回る問いでもある。「本プログラムの学びは、探究学習の時間だけで終わるものではありません。むしろ、その後のさまざまな局面で何度でも立ち返れる思考や感情の回路を身につけることが学習の目的だと考えています」と佐藤氏。十代で芽吹いた願いは、社会との接点を探すフェーズで何度も問い返され磨かれていく。“願い”を中心に据えながら、同社がプログラム名にwishでもhopeでもなく、目的や存在意義を表すpurposeを当てた理由がそこに見える。

