「できた!」の成功体験が、AI時代を生き抜く創造力と自信を育む

株式会社 ミエタ(カテゴリー2 │ 2022年度)

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株式会社しくみデザイン(カテゴリー2 │ 2023年度)

 カテゴリー2の株式会社しくみデザインは“テクノロジーとデザインの力で、課題やコンプレックスを「楽しい体験」に変えていく”という理念を掲げ、人の心を動かす「しくみ」を探求しています。同社が主に高校生に提供している探究のプログラムが「みらクリ」。プログラミングなどの専門知識を必要とせず、直感的な操作だけでアプリを開発できるビジュアルプログラミングツール「Springin’ Classroom(スプリンギン・クラスルーム、以下スプリンギン)」を活用しながら、課題設定から解決を実現するアプリ制作までを体験できる内容になっています。2024年度から同じくカテゴリー2の株式会社ミエタとタッグを組んで全国の学校で「みらクリ」を展開しています。しくみデザイン代表取締役の中村俊介さんとミエタ取締役・カリキュラムデザイナーの段原亮治さんに、タッグを組むことでどのような相乗効果があったのか、その結果どのようなプログラムを学校に届けることができたのかなどについて伺いました。

 

タッグで進化した「みらクリ」。協業が生んだ相乗効果とは

財団: コラボレーションのきっかけを教えてください。

段原さん: 共通の知り合いがいて、その方に紹介していただいたのがきっかけでした。4年ほど前に福岡で会い、その時は特に何か一緒にしようという話はなく、楽しく会話して。

中村さん: 一緒に仕事ができないかと考えたのは、2024年の2・3月頃です。実は当時、社内の人手が足りず、講師の役割は果たせても、プログラムを実施する学校を見つけて交渉して、授業の準備をする、までを全部一人でやるのは無理な状況でした。その時に段原さんのことを思い出したんです。

段原さん:私の方でも、ちょうどプロトタイプまで作れるような探究学習プログラムを作りたいと思っていたところでした。それまでアプリ開発関連のプログラムはあったのですが、実際に作るところまでは時間の関係でなかなかいけないという課題がありました。

中村さん: 状況を説明したら「ちょうどそういうプログラムを作りたかった」と言ってもらえて。しかも同じ財団の助成先だったというのは、実は財団にミエタさんと連携するという報告をした際に知ったんです。本当に運命的でした。

財団:ミエタさんとタッグを組む際に、どのような点にポイントを置きながら 新たなプログラムをつくられましたか?

中村さん: 現場のファシリテーションという、私が苦手なところを全部ミエタさんがやってくれるので、プログラムの中身を考えたり授業を作ったり、講師として教えたりすることに集中できました。また進行スライドやワークシートをシンプルにしてくれて、テーマや内容自体は大きく変わっていないのに、すごく分かりやすくなりました。

段原さん: 元のプログラムが良かったので、カスタマイズしやすかったです。各学校のコマ数や学年、レベルに合わせて調整しました。

財団:ミエタさんは探究プログラムを実施するうえで、「社会実装」という点を重視されていますね。

段原さん: はい。社会の課題や身の回りの「モヤモヤ」を起点に考えるということをしっかり掘り下げられるワークにしています。手を動かして何か作り出す前の段階が大事だという認識はお互い共通していました。

中村さん: プログラミング学習って、ツールの使い方を学ぶだけで終わってしまいがちなのですが、「みらクリ」はプログラミングの勉強をすること自体が目的ではありません。大切なのは、課題を見つけ、それを解決するためのアイデアを考え、動くプロトタイプを作ってみる、という一連のプロセスを体験することです。アイデアが「動くもの」として目に見えるだけで、生徒たちの実感は全く違いますから。この「課題発見からプロトタイプ制作までが繋がっていること」が重要だという認識が、僕と段原さんとで完全に一致していたのが大きかったですね。

「みらクリ」の授業の様子。ミエタのスタッフが現地にファシリテーターとして入り、中村さんの授業をサポートする。

2026年3月22日の「みらクリAWARD」の出場に向けた校内の発表会に駆け付けた中村さん(中央)。大阪から東京での本選に出るということで、生徒のモチベーションも高かったという。

もともとあった「みらクリ」のワークシートをミエタが再編集。大きく「オリエンテーション・講義・導入ワーク」「企画設計の個人・グループワーク」「制作・実装・テストのグループワーク」「最終プレゼンテーション」という四つの段階で進める内容になっている。

AI時代だからこそ、完成品よりプロセスが重要になる

財団:2024年度、2025年度の実績はいかがでしたか?

段原さん:2024年度は5校305人、そして2025年度は6校474人の生徒さんに参加していただきました。「総合的な探究の時間」などの正課の授業で導入していただくだけでなく、学年横断で希望者を集めて実施した学校さんもありました。モチベーションの高い生徒たちが学年を超えてチームを組むケースでは、非常に面白い化学反応が生まれていましたね。

中村さん:最初は「自分にアプリなんて作れるわけない」と思っている生徒がほとんどです。でも、最終的には何かしらの形になる。その「できた!」という体験が、彼らをすごく楽しそうな表情に変えていくんです。最初は話も聞いてくれなかったようなクラスが、作り始めた途端に夢中になっていく姿を見ると、やはり「手を動かして作る」ことの価値を実感します。

段原さん:特にプレゼンテーションの時には、自信がみなぎっていますね。自分たちで課題を見つけ、悩み、試行錯誤しながら手を動かして作ったものだから、思い入れが違う。「これ、面白いでしょ?」「この課題をみんなに知ってほしいんだ」という熱量が伝わってきます。自分の手で作り上げたという経験が、自己肯定感や自信に繋がっているんですね。

財団:個人だけでなくチームワークもあるという点も特徴的ですよね。

中村さん:そこもミエタさんの素晴らしいところで、グループワークの際に「MC」「メモ係」「タイムキーパー」「フォローアップ」という4つの役割を明確に決めるんです。これによって、誰一人として傍観者になることなく、全員が主体的に関われる仕組みになっている。僕が一人でやっていた時にはなかった仕組みで、非常に勉強になりました。

財団:先生方からの反応はいかがでしたか?

段原さん:プログラミング教育にはハードルを感じている先生が多く、スプリンギンのような直感的なツールは分かりやすいと高評価を頂きました。また、生徒たちの新たな一面を発見する機会にもなっているようです。グループでやると、自分の得意なことを活かせる役割が必ずあるんですね。例えば勉強は苦手かもしれないけど、ゲームが好きな子が活躍できるとか。先生方からは「あんなに生き生きしているあの子を初めて見ました」といった声も頂きました。普段の授業では見えない生徒たちの「強み」が輝く場になっていると感じます。

中村さん:そうですね。ある先生が「うちの子たち、すごいんだな。こんなことができるんだ」と、本当に嬉しそうにおっしゃっていたのが印象的でした。先生自身が、生徒たちの可能性に改めて気づかされる。それも、このプログラムの大きな価値だと思います。

段原さん: 特に今の時代、AIである程度のものは作れてしまいますよね。でもスプリンギンは、自分たちでどこにどのボタンを置くか、どのアイコンにするか、どういう順番で場面を遷移させるかなどの作業を一つ一つ積み上げていくので手作り感があり、それだけに達成感はすごくあるんだと思います。

中村さん: AIが進化すればするほど、AIが使えないことの価値が上がってくると考えています。教育の場面では特に完成物が出てくることの価値はそんなになくて、そこへ行くまでにどうしたかの方が重要ですよね。これからは「AIが使えない」ということが一つの価値になるだろうなと思っています。

 

アワードは生徒の「やりたい」と社会を繋ぐ扉

財団:2026年3月22日は、ミエタさんが独自で行われている探究プログラム「MIETAN」と「みらクリ」参加校の「みらクリAWARD」で構成される複数校合同発表会「MIETAN フェス」を開催されていますね。
(詳細は下記【MIETANフェス・みらクリAWARD 開催レポート】を参照)

中村さん:複数の学校が集まることで、良い意味でのライバル心が生まれるので、こうしたイベントはとてもいい機会だと思っています。他の学校がどんなことに取り組んでいるのかを知る機会は貴重ですし、刺激になりますよね。また、意図的に「賞」を設けているのですが、これは生徒たちにも学校にも、「賞を取った」という実績を持ってほしいからです。どんなに小さなものでも、認められたという経験は大きな自信になります。

段原さん:今回グランプリを受賞した羽衣学園高校のチームが、実は校内選考で一度落選して敗者復活で出場したんです。悔しい思いをした分、アワードに向けてプレゼンを磨き上げ、見事にグランプリを勝ち取りました。そうしたドラマが生まれるのも、アワードの醍醐味ですね。

中村さん:発表の場があることで、生徒たちは自分たちの取り組みを客観的に見つめ直し、どうすればもっと伝わるかを考えます。そのプロセス自体が、大きな学びになっているんだと思います。

段原さん:僕らにとっても、アワードは単なる発表会ではなく、生徒たちが社会に対して「私たちはこれをやりたいんだ」と宣言する場だと考えています。その宣言を聞いた大人や企業が「それなら協力できるよ」と手を挙げたり、学校の垣根を越えた連携が生まれたりする。そんな社会実装へのきっかけとなる場にしていきたいと考えています。

財団:今後の展開についてお聞かせください。

中村さん:しくみデザインの助成金事業としては今年度で一区切りとなりますが、これは終わりではなく、新しい始まりだと考えています。今後はミエタさんの正式なプログラムの一つとして、この取組みを継続していく予定で、すでに有償での導入も決まってきています。

段原さん:「みらクリ」がきっかけで、学校さんに価値を認めていただき、きちんと費用をご負担いただいて導入するという理想的な形が生まれ始めています。また東京都のアントレプレナーシップ関連事業など、新しい案件も始まっています。起業や社会行動を起こす生徒の支援を通じて、社会実装のレベルをさらに上げていきたいと考えています。

中村さん:先ほども話が出ましたが、AIの時代だからこそ、必要なクリエイティビティがあります。AIは100%正しいと誤解している人も多いですが、実際には間違えることもある。どんどん進化するAIに振り回されない考え方をいかに持つかが大事です。そのために、自分の手で作る経験はとても重要だと思っています。AI時代に本当に必要な創造性を育む機会として、「みらクリ」を活用いただきたいですね。

段原さん:この2年間、しくみデザインさんとご一緒させていただき、僕たち自身も多くのことを学びました。学校現場でも、生徒たちが社会課題に目を向け、行動を起こすことへの理解が確実に深まっています。僕たちは、それを実現するためのノウハウ、カリキュラム、そして情熱を持った講師やファシリテーターという体制を整えてきました。生徒たちの「やってみたい」という思いを形にし、これからも社会に繋げる機会をさまざまな方と協力しながら一緒に作っていきたいと思っています。

【MIETANフェス・みらクリAWARD 開催レポート】

 2026年3月22日、Tokyo Innovation Base(東京都千代田区)にて株式会社ミエタ主催の「MIETANフェス~未来をつくる「自分」が動きだす~」が開催されました。同社が提供する探究学習プログラム「MIETAN」を受講した高校生たちが、日々の探究活動を通して積み重ねてきた成果を発表する場として開催され、全国から8校・13チーム・36人の生徒たちが参加しました。「MIETAN」の探究発表と併せて開催されたのが、「みらクリ」を受講した生徒たちの発表「みらクリAWARD」です。3校・6チーム・18人が、自ら開発したアプリをプレゼンしました。しくみデザインの中村俊介さんとオンラインで結び、プレゼン後には中村さんによる講評や会場との質疑応答が行われました。

 トップバッターの京都府立桃山高校は、AIが急速に進化する現代に「人間の“過程”の価値」を再定義するタイムラプス(写真をつなぎ合わせて動画にする手法)SNS「プロラプス」を発表しました。AIが瞬時に完成品を生み出すのに対し、人間が葛藤や努力を重ねる「過程」にこそ価値があるという洞察に基づき、勉強や創作活動のプロセスを映像で共有するアプリを提案しました。中村さんからは「AI時代に過程に着目するのは絶対に大事」と高く評価されるとともに、「絵を描く過程など、テーマを絞ることでコンセプトがより鋭くなる」という、さらなる発展に向けたアドバイスが送られました。

 同じく京都府立桃山高校から提案されたのが、高校生が抱える小さな悩みに寄り添う「NEW お悩み相談室」です。友人や先生には打ち明けにくい心の内を、選択肢をタップしていくだけで気軽に吐き出せる仕組みが特徴です。中村さんからは、人の悩みに寄り添う優しい着眼点と、使ってみたくなる可愛らしいデザインが高く評価されました。

 続いて京都府立桃山高校から提案されたのが「初心者麻雀」。「麻雀のルールが複雑」という課題に向けて、図やヒント機能を多用し、ゲームをプレイしながら直感的に役を学べる設計です。中村さんからは「ルールを知らないから遊べない、という問題をビジュアルとインタラクションで解決するアプローチは、新しい遊び方マニュアルの形」と、その発想が絶賛されました。

 東海大学付属高輪台高校(東京都)は、「やらされ感」を「やりたい」に変える「悟るカレンダー」についてプレゼンしました。小中学生の宿題が続かないという問題に対し、親子で使うカレンダーアプリを提案。親が設定した課題を子どもがクリアするとコインが貯まり、ご褒美と交換できるゲーミフィケーションを導入し、子どもが報酬設定にも関わることで、「自分で決めたルール」として自主性を育むことも狙いとしています。中村さんからはアイデアの面白さが評価され、会場の参加者から「高校生も使えるようにしてほしい」という感想が上がりました。

 羽衣学園高校(大阪府)から紹介されたのが「ランダムハート」です。1・2年生混合でチームが組まれた際に「初対面の会話に困る」という実体験からヒントを得て、スロット形式で表示される質問や「究極の2択」で、自然な会話のきっかけを生み出すアプリを開発しました。実際に他校の高校生にアプリの質問に答えてもらうなど、会場を巻き込んだデモンストレーションとなりました。中村さんからは、学生から社会人まで使える汎用性の高さと、プレゼン手法の巧みさが称賛されました。

 最後に寸劇を交えたエンターテインメント性あふれる発表で会場を沸かせたのは、羽衣学園高校の「自己成長記録アプリ」。失敗も記録する育成ゲームで、早寝早起きなどの「良い行動」でキャラクターが成長するだけでなく、「悪い行動」を記録すると逆方向に進むというユニークな発想が光りました。中村さんからは「悪いことも記録するというアイデアは他になく、記録自体を楽しませる優れたアプローチ」という講評が送られました。

 休憩を挟み、中村さんから優秀賞として京都府立桃山高校の「初心者麻雀」、最優秀賞として羽衣学園高校の「ランダムハート」の選出が発表されました。中村さんは「どのチームのアイデアも解決策も面白く、実際、社会に出てもアイデアを形にするのが仕事になったりするので、高校生の時点でここまでできているというのはとてもすごいことだと思います。まずはここまで来た時点で皆さん素晴らしいので、お互いと、頑張った自分自身に拍手をしてください」と会場の高校生に呼びかけました。

 短期集中3日間で「みらクリ」を受講した東海大学付属高輪台高校の野口大輔先生は、生徒たちの変化について「探究のテーマとして難民問題や飢餓などを設定しても、やはりどこか他人事のように感じているところが見受けられましたが、『みらクリ』ではアプリに実際に触れ、『自分たちが開発したもので何かの課題を解決したい』という発想に変わり、身の回りの課題を自分のこととして捉えられるようになったと感じます」と話しました。希望者のみが参加する放課後の特別講座として6週間にわたって「みらクリ」を実施した桃山高校の鳥本昂平先生は、「『ただアプリを作りたい』という段階から、対象を絞り込み、課題解決の視点を持つという深い思考へ発展していく生徒たちの成長の過程が見られました」と手応えを語りました。「また、中村講師のような職業・働き方の実例を身近に知ることで、生徒たちが将来のキャリアへの意識を高めるきっかけにもなりました」と、キャリア教育面でも貴重な機会になったとも話しました。さらに、1・2年生混合の280人・40チームで「みらクリ」に取り組んだ羽衣学園高校の年光良太先生は、「課題解決のためのアプリ化という工程は、これまでの探究活動にはなかった『生みの苦しみ』を生徒にもたらし、非常に充実し、かつ良い意味で疲労度の高いプログラムとなりました。どのグループもオリジナリティに富んだアプリを生み出すことができ、担当教員からも『普段の授業とは異なる生徒の様子が見られた』と高評価でした」と振り返りました。

 最優秀賞「ランダムハート」を開発した羽衣学園高校2年生の吉村未優さんは、「アプリにスロットの動きを取り入れるのがとても難しかったのですが、中村講師に教えてもらってできた時は大きな達成感がありました。校内の選考ではずっと2位どまりだったので、『みらクリAWARD』で最優秀賞を取れたことは本当に嬉しいです。プレゼンテーションには特に力を入れてきたので、そこも最優秀賞に結び付いたのかと思うと、新しい自分を発見できたようで、その点もすごく嬉しいです」と受賞の喜びを語りました。

「初心者麻雀」のプレゼンをする桃山高校の生徒たち。優秀賞受賞の理由として、中村さんは「『これが欲しい』という身近な課題からスタートしているので、全体的にすごく解像度が高い。これまでにない『動きがある説明書』という着眼点が素晴らしい」という講評が送られた。

最優秀賞を受賞した羽衣学園高校のチーム(一番右が吉村さん)。「ランダムで質問を出すだけでなく、究極の2択だったり、時間制限があったりと、強制的な面もあるのが特徴的。方法としては今までなかったわけじゃないんだけど、それをすごくわかりやすく、楽しくやりたくなるような形で解決するアプリとして提供しているところが素晴らしい」と中村さんも絶賛しました。

参加者は各チームのプレゼンやアプリへの感想を付箋に書いて、会場のホワイトボードに貼っていく。

付箋と共に各チームのアプリのQRコードもホワイトボードに貼られ、実際にアプリを体験する場も設けられた。

「みらクリAWARD」の後は、「MIETAN」発表の生徒たちと合流し、生徒・教員・ミエタのスタッフで自由にグループを作りながら今日の感想や一番の発見、今の悩みやこの先やってみたいことなどについて話しながら交流を図った。

高校生と発表を振り返る段原さん(左)。フェス当日は「MIETAN」探究発表の審査員を務めた。

コラボレーションに関わった皆さん

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