カテゴリー 42021年採択

国立大学法人 大阪大学

対象者数 3400名 | 助成額 800万円

https://gakumon.celas.osaka-u.ac.jp/

Program「対話」で開く「学問への扉」
~少人数セミナー型初年次導入科目の挑戦~

 大阪大学では、2019年度より1年生(約3,400人)を対象とした必修科目として少人数セミナー型初年次導入科目「学問への扉」を実施しており、250コマ程度の授業を開講している。

 大阪大学に所属する一流の研究者が1年生を対象に教養教育として学問の面白さを伝える授業で、授業担当教員の専門分野や研究に基づいた、人文科学・社会科学・自然科学を網羅した多様な授業を提供できることが特徴である。

 「学問への扉」は、(1)高校までの受動的で知識蓄積型の学びから主体的で創造的な学びへの転換、(2)異分野の学生らと興味ある内容を学ぶ中で、異なったものの見方や課題解決の道筋の意識、(3)アカデミック・スキルズの学習、の3点を目的として、アクティブ・ラーニングの手法を取り入れて実践されている。学生には自身の専門分野、理系、文系にこだわらず、授業を選択することを推奨しており、一つの授業をいろいろな学部の学生が受講することによって、授業で与えられる同じ課題に対して多様な考え方、解決方法があることを知ることができる。

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研究大学ならではのハイレベルな初年次教育を実現する「学問への扉」

 2012年に文部科学省中央教育審議会が取りまとめた答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」を機に、大学教育、特に初年次教育において、高校までの受動的で知識蓄積型の学びから、主体的で創造的な学びへの転換が進んでいる。

 大阪大学においても、従来から「基礎セミナー」の開講など、初年次教育改革を進めてきたが、さらなる充実を図るべく、2019年度から新たな少人数セミナー型初年次導入科目「学問への扉」を全学必修科目として導入した。その狙いについて、全学教育推進機構の村上正行教授は次のように語る。「効果的な教育を実施するには、大学ごとの特色や固有の文化に沿った授業設計が必要です。これまで初年次教育と言えば、大学での専門的な学びに必要なアカデミック・スキルズの習得が主体的でしたが、大阪大学には“とんがった学生”を育もうとする風土があり、入学する学生たちの学習意欲や学習レベルも総じて高いものがあります。そこで、一般的な初年次教育の内容にとどまらず、11学部を有する研究大学ならではのハイレベルな学びを提供したいと考えたのです」。

 こうした考えのもとにスタートした「学問への扉」の大きな特徴が、学部や研究科のみならず、研究所も含めた大阪大学に所属するすべての教員が持ち回りで担当する、多様かつ専門的な授業だ。人文科学、社会科学、自然科学を網羅した約250コマの授業から、新入生は所属学部や専攻に捉われず、自分が興味を持った講義を自由に選択できる。これにより、「研究者との直接対話により喚起される、新たな学びへの意識」「専門外の研究に触れることによる視野の広がり」「他学部の学生や先生と接する体験が育む、分野の壁を超える学習意欲の向上」といった効果が期待できる。

「高等学校で探究学習が本格化するなか、そうした学びを経験し、しかも厳しい受験勉強を乗り越えた新入生たちが、旧態依然とした教養教育を受けるようでは、モチベーションを下げてしまいかねません。本学ならではの多様かつハイレベルな研究陣による講義を通じて、“学問の面白さ”を体感してもらうことで、阪大らしさを備えた優秀な学生の育成につなげたいと考えています」(村上教授)。

「学問への扉」というネーミングについて、同大学では「扉を開ければ学問があるのではなく、学問の道に進むためのきっかけにして欲しいという意味を込めて、科目名に『へ』を入れています」としている。その姿勢は、軽やかに開く扉を図案化したロゴマークにも表現されている。

大学教育を対象に、授業改善を支援するためのデータ分析や映像分析などに関わる研究に従事し、情報学の博士号を取得した村上教授。全学教育を担う全学教育推進機構において、「学問への扉」部会長として、「学問への扉」の企画・運営や評価・研究を行っている。

財団の助成を受けて「学問への扉」のさらなる充実を図る

 2019年度からスタートした「学問への扉」は、授業を実施する教員の工夫もあって、これまで受講した学生から概ね好評を得ている。ただ、まだ始まったばかりの取り組みのため、試行錯誤の部分も少なくないという。運営側や教員の間では、いくつかの課題が浮上していたことから、2021年度から三菱みらい育成財団の助成を得て、「学問への扉」の改善を進めている。

 改善の方向性は、大きく三つ。まずは「授業への直接的な支援」だ。「授業を担当する先生方の意欲は高く、『学生たちに現地でのフィールドワークを経験させてあげたい』『文系出身の学生にも実験の楽しさを伝えたい』との声も上がっているものの、予算の都合で実現できない場合もありました。そこで、授業支援費の申請制度を設けることで、授業の充実化と学生の満足度向上を図っています」(村上教授)。

 第二の方向性が「本プログラムを対象とした研究支援」だ。同大学では、「学問への扉」の成果を検証するとともに、その結果を他大学への波及も含めて初年次教育のさらなる充実に役立てるため、「学問への扉」そのものを対象とした評価研究を実施。財団からの助成を特任研究員の雇用などに活用している。

 三つ目が「学内外への情報発信」だ。2022年7月にオープンした「学問への扉」Webサイトでは、継続的な情報発信・更新により、学生の興味・関心を喚起するとともに、スムーズな情報共有を可能にしている。また、学生の声や授業の成果も発信するなど、学外からの関心にも応えている。これに加えて、2022年度末には、これまでの成果をまとめた報告書の作成や、他大学の取り組みも含めた初年次教育シンポジウムの開催も計画するなど、積極的な情報発信を行っていく考えだ。

「学問への扉」サイト運営を担当するのは、特任研究員として雇用された同大学大学院人間科学研究科の岡田玖美子さん。「分かりやすさ、伝わりやすさはもちろん、学生に魅力を感じてもらえるよう、シックで優しい色合いなどデザインにもこだわりました」とサイトに込めた想いを語る。サイトでは、多種多様な講義の中から興味ある分野の授業を容易に選択できるよう、分野やカテゴリー、シラバス検索などをができるようになっている。

学生や教員からの評価を分析し、さらなる改善や社会への貢献につなげていく

 全学教育推進機構の特任研究員として、「学問への扉」の成果を検証する岡田玖美子さん(同大学大学院人間科学研究科 博士後期課程3年)は、受講した学生の声を次のように分析する。「受講者が授業を選択した動機は、『専攻分野の最先端に触れたい』といった①自分野先取型、『これまで接点のなかった新しい世界を知りたい』という②異分野好奇心型、そして『抽選の結果、希望していなかった講義に配属された』という③セレンディピティ(偶然の産物)型の3タイプに分類できます。少人数によるゼミ形式の授業のため、③のケースも避けられませんが、一方で、希望外の講義を受けた学生から『最初は戸惑いもあったが、授業を受けるうちに興味が高まり、意外なほどに楽しかった』『苦手分野を毛嫌いせずに挑戦できるようになった』との声も挙がっています」。こうした分析を受けて、同大学では、本人の希望を優先しつつも、未知の分野との出会いを後押しできるような環境の整備も検討しているという。

 また、学生だけでなく教員に対するアンケートも実施しており、「フレッシュな新入生との交流の中で、研究や教育へのモチベーションが上がった」「専攻の異なる学生ならではの、先入観のない素朴な疑問が刺激になった」との回答があり、「学問への扉」が初年次教育の充実だけでなく、大学全体の学びの活性化にもつながっていることが分かってきている。「『学問への扉』を有意義なものにするためには、授業を担当する教員の意欲をいかに高めるかが重要です。そこで、担当者便覧や授業実践ガイドの作成・配布に加え、報告会・研修会などのファカルティ・ディベロプメント(FD)を継続的に実施しています。『学問への扉』の担当は持ち回りとなることが多いため、継続的に授業の質を高めていくのが難しい面もありますが、年次を重ねるごとに、『学問への扉』の意義や、そこで学び・教える喜びが、学内全体に広がっていることを実感しています」と村上教授は確かな手ごたえを語る。

「学問への扉」は他大学からも注目を集めており、2023年3月に予定されるシンポジウムでは、キャンパスでの開催とライブ配信の双方に多くの参加が見込まれている。大阪大学の取り組みをヒントに、国内多くの大学で初年次教育が充実し、より多くの学生が、より深い学びへの扉を開き、社会に貢献していく未来が見えるようだ。

※「大学教員の教育能力を高めるための実践的方法」のこと。大学の授業改善のための組織的な取り組み方法を指す

少人数による対話型授業では、教授とフランクに対話でき、学生たちに大きな気づきと成長をもたらしている。学生からは「先生と学生の距離が非常に近くて、自分が疑問に思ったことを気軽に質問できる環境にだった」との声も。

文系・理系の枠を超えた授業を通じて、異分野に触れる喜びを感じている学生も多い。「文系なのであまり実験の経験がなかったが、専門的な実験を体験して、理系の面白さを知ることができた」など、学びの幅を広げることにつながっている。

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