カテゴリー 32020年採択

国立大学法人 大阪大学

対象者数 150名 | 助成額 1800万円

https://www.seeds.osaka-u.ac.jp/

Program大阪大学の教育研究力を活かしたSEEDSプログラム
~未来を導く傑出した人材発掘と早期育成~

 SEEDSプログラムは、大阪大学の広い分野の講義と多彩な科学技術の研究体験を通じて高校生の視野を広げ、受講生間やプログラムの修了生(OBOG)、留学生を含む大学の院生、学部生との縦横の交流を図ることで人材の力強い成長を促し、広い視野を持った国際的に活躍できる人材育成を目的としている。

 2015年度にプログラムを立ち上げてから、多くの同窓生を著名な大学に送り込んできたが、2020年度からはさらに総合大学の強みを活かし、大学内に新たに立ち上げたELSIセンターに協力を仰ぎ、理系文系の垣根を取り払った教育に進化させている。学内にある約100企業の協働研究所、共同研究講座との連携を強めて産学協同による新しい形の高大接続プログラムを実施し、 さらなる視野の広い傑出した人材の育成を目指している。特徴は大学レベルの講義直後に少人数で講義内容を議論する「めばえ道場」を開発実施した点で、講義内容の丸のみを防ぎ、議論ができる人材育成に成功している。

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大学の持つ教育資源を最大に活用し、自主的な学びが育つ環境を提供

  高大接続プログラムを実施している大学は数多くあるが、2015年度からスタートした大阪大学のプログラムSEEDSは、一部の学部にとどまらず大学横断で教育資源を活用している点、そしてそれを支えるしっかりとした運営基盤が整備されている点に大きな特徴がある。大阪大学スチューデント・ライフサイクルサポートセンター※の高大接続部が中心となり運営委員会を組織、プログラムの主な活動の場となる工学研究科・基礎工学研究科・理学研究科の3分野からも委員会にメンバーを出してもらい、多数の部局の協力を得ながら推進している。

 現在、SEEDSプログラムは、①大学教員の講義とそれに関連するディスカッション「めばえ道場」、②研究室で教員・大学院生と共に行う研究体験・学内に研究室を構える企業との共同研究講座・協働研究所の見学会、③大阪大学の留学生との国際交流、の三つが柱となっている。①②では、70の研究室と100人を超える教員、またファシリテーター役の学部生と大学院生は年間延べ300人、③においては年間延べ100人の留学生が関わっている。高校生は2020・21年度に約500人が応募、考える力を見る独自の評価基準による選考を通った150人の受講生を受け入れている。またプログラムの半ばには150人の受講者全員に個人面談を実施。これだけの数の関係者が関わるプログラムを運営委員会がコントロールしており、内容についても事前調整を綿密に行っている。「例えば教員の講演では、一般的には最先端研究をテーマにすることが多いのですが、ここでは受講生たちに大学でのイメージを具体化し、自身のキャリア形成や現在の学習のモチベーションにつなげてもらうことを目的としているため、大学の先生がどのような思いで、どんな研究に取り組んでいるのか。それが伝わるような内容にしてほしいとお願いし、講義内容の吟味と講師との打ち合わせを入念に行っています」と運営委員会(大阪大学スチューデント・ライフサイクルサポートセンター)の阪口篤志さんは話す。

 講義後には、受講生を5人程度のグループに分け、講演テーマに即して大学生・院生とディスカッションを1時間行う「めばえ道場」を実施。単なる知識の獲得にとどまらず自身で考える力を養う場としている。また研究体験では研究室から42のテーマを出してもらい、受講生はそのうち二つのテーマを受講することができる。その他、大阪大学COデザインセンター(知と社会の統合を目指す教育研究拠点)主催の企業人による大学生向け講義の参加、大阪大学ELSI(社会技術共創研究)センターと連携したワークショップ実施など、まさに大阪大学のあらゆる教育資源を活用したプログラムを約9カ月間にわたって実施している。

※デジタル技術を最大限に活用して学習者本位の教育の推進と教育の質保証の更なる充実を企図して、SEEDSオフィスを含む高大接続部、入試広報・入試開発部、教学DX部、教学支援部、教学質保証部、キャリア教育部および教学IR・教学データ基盤部の7部からなるスチューデント・ライフサイクルサポートセンターを2022年4月に設置。

めばえ道場で、ホワイトボードに考えをまとめつつディスカッション中のグループ。

日本人とは異なる文化や問題意識を持った留学生との交流で、多様さの重要性を体感してもらう。

SEEDSの外に向けても高校生の研究を発信

 SEEDSのもう一つの特徴が、個人研究に特化した2年目のコースを設置していることだ。大学の研究室で教員の指導の下、自身の関心のあるテーマ、または教員から提案されたテーマについて研究活動を行う。2年目のコースを希望する受講者に対しては、1年目の講義レポートやディスカッション、研究体験、また2年目の研究活動に対するポスター発表を評価する選考を行う。2021年度は、希望者50人に対し20人を選考。1年目の研究体験では一つの研究室で4~10人を受け入れるが、2年目コースの場合には基本受け入れは各研究室1人のみ。教員・学部生・院生と共に4月から12月にかけて、中身の濃い研究活動を行う。研究室にとっては負担が多いプログラムではあるが、高校生の熱意に応えて、翌3月まで研究活動を継続させているところもあるという。

 SEEDSは2021年度で7年目の開催となり、応募人数や所属高校の数も約130校と最高となっている。応募は主に個人でしてくるが、過去に参加した先輩や教員を通してSEEDSを知るケースが増えてきており、プログラムの認知度・評価が、この7年間で周辺の高校に確実に広がっていることが分かる。同じことの繰り返しではなく、個人面談でプログラムへの満足度や改良点を聞き取りし、常にプログラムをブラッシュアップしていること、また新しい試みにもチャレンジしていることが着実な実績の積み上げにつながっている。

 2020年度には初めて一般の人に対して自分の研究を発表する機会を設けた。京阪ホールディングス(株)・大阪大学・NPO法人ダンスボックスの三者協働で運営するコミュニティースペース「アートエリアB1」(大阪・中之島)で、大阪大学は「ラボカフェ」という社学連携事業を展開。平日夜を中心に、哲学、アート、サイエンス、音楽、医療など多岐にわたるテーマで、対話やレクチャー、ワークショップ等のプログラムを実施している。その場で2年目の受講者から希望者を募り、「SEEDSカフェ・高校生が大阪大学で研究をしてみた~研究発表~」を9回実施した。2年目コースでも2回成果発表会を行うが、そこでは研究内容の発表だけになる。しかしSEEDSカフェでは、研究に対する思い入れやその過程で感じたことなどを主に話してもらうという。

「発表会で評価される場合は、評価する側の教員たちの価値観に沿って『先生の言う通りにやればいい』という考えになりかねません。しかし研究や学びは本来もっと自由であるべきで、自分は頑張った、を話すだけでいいと考えています。そうした姿をSEEDS受講生だけでなく広く高校生に見てもらうことで、何かしら感じてもらえることがあればいいと思っています」(阪口さん)。併せて、一般社団法人が行ったアントレプレナーシップのイベントとも連携。どちらも2022年度も継続する予定だという。

 「SEEDSの狙いは、高校生に広く学びや体験の場を提供すること。高校でやっていることを繰り返すつもりは全くありませんし、またそれを大学が実施すれば高度化できるということも考えていません。とにかく大学だからできる全く新しいことで、高校では得られない学びの場・体験を提供していきたい」と話す阪口さん。大学にある潜在的な教育資源を有効的につなげて活用していく力、また外部との連携を企画し推進していく力。大阪大学関係者の並々ならぬ熱意が、SEEDSのクオリティー向上と継続の原動力となっている。

2年目コースのメンバーによる研究成果発表会は2回行われた。閉会後の集合写真。

ラボカフェでの発表では、阪口さん(手前)がカフェマスターを務め、同席する大学教員は高校生と一緒に参加者の質問にも答える。オンライン配信も行い、社会に広く発信している。

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