広島市立舟入高等学校×一般社団法人ELAB
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鹿児島県立大島高等学校×青森県立大湊高等学校
広島市立舟入高等学校×一般社団法人ELAB
×鹿児島県立大島高等学校
×青森県立大湊高等学校
“出会い”が学びを変える
学校と地域を越えたつながりが、 生徒と教員の可能性を開く 学校と地域を越えた つながりが、生徒と 教員の可能性を開く
2020年度からスタートした三菱みらい育成財団の助成事業は7年目を迎えています。
財団が助成とともに注力してきたのが、助成先同士のネットワークの場づくりです。
助成先やアルムナイの皆さまからは、交流会やアワードを通じて、学校の中だけでは得られなかった視点や
実践のヒントを得ることができたといった声を多数寄せていただいています。
今回は、地域性も活動テーマも異なる4つの現場の実践者の方々にお集まりいただき、
学校の枠を超えたつながりが生徒や教員にもたらす変化、
そして財団のネットワークから得た学びについて語っていただきました。(以下、敬称略)
妹背まずは自己紹介を兼ねて、皆さんが取り組まれている活動について教えてください。
中渡瀬(鹿児島県立大島高校)本校では、この6年間、奄美群島全体を巻き込んだ探究の仕組みづくりを進めてきました。奄美群島には高校が9校ありますが、大学がないため、探究を支えてくれる人材が少ないという課題がありました。そこで奄美群島全体の高校でスクラムを組み、県内外の大学、自治体、企業、研究者とつながるコンソーシアムをつくって、地域振興と人材育成を同時に進める体制を築いてきました。今は、築いてきたネットワークを土台に、高校生が地域行政の現場や最前線で活躍する人たちと出会い、地域づくりの当事者として関わるフィールドワークにも取り組んでいます。
石井(一般社団法人ELAB)アーティスト谷澤邦彦が立ち上げた当法人は、アートの創作や鑑賞を通して、自己理解、他者理解、主体性、多様性受容といった、探究の土台になる力を育むメソッド「EGAKU」を展開しています。パステルを使って、大切にしている価値観や未来への思い、感情などを指で描き、その後、作者の意図を伏せたまま対話し、最後に自分の思いを言葉にしていく。そのようなプロセスを通して、自分の内面に向き合い、他者の感性に触れる場をつくっています。財団の助成カテゴリー2の高校生向けプログラムだけでなく、カテゴリー5の教員向け研修にも力を入れており、先生たち自身が“正解のない学び”を体感することで、探究の推進や学校全体のチームビルディングにつなげる取組みも進めてきました。
柏原(広島市立舟入高校)本校では、「平和」「国際」「探究」の3つを学校の柱にしています。広島という土地柄、平和学習は学校の重要な使命ですが、本校は被爆による犠牲者数が非常に多い学校でもあり、その歴史を受け継ぎながら、世界に向けて被爆の実相をどう伝え、平和を構築していくかを考えてきました。助成を受けた当初は「探究」という言葉自体がまだ浸透しておらず、まず学校全体に探究的な学びを根づかせることに力を注ぎ、その後はつながりを生かした実践を広げてきました。財団の助成先でもある長崎県立長崎東高校との姉妹校提携や合同探究、国連本部への派遣、模擬国連の実施などを通して、広島・長崎だからこそできる学びを模索しています。
南澤(青森県立大湊高校)本州最北端の下北半島にある本校では、下北地域の5つの県立学校で「下北BOUSAIネットワーク」をつくり、防災を軸にした実践を進めています。災害は学校を選んで来るわけではありません。ですから一校だけが頑張っても地域は守れない。そう考えて、普通高校、工業高校、定時制高校、特別支援学校まで含めた連携を進めてきました。今の高校生にとって東日本大震災は “教科書で学ぶ遠い歴史”になってしまっています。そこで、被災地訪問や講演会を通してまずは自分事にすること、そのうえで、避難所体験や原子力災害を想定した学習、教室避難訓練、垂直避難訓練など、新しい防災教育を生徒と一緒につくることを大切にしています。戦争の問題もまた、人が引き起こす災害の一つとして位置づけています。
越境する学びが、学校の「当たり前」を揺さぶる
妹背皆さんはそれぞれ、学校の外とつながる実践をされてきたと思います。そうした交流によって、生徒や先生方にはどのような学びや変化が生まれているのか、教えていただけますか。
柏原長崎東高校と平和学習に取り組んだ際、同じ被爆地であっても、さまざまな違いがあることが分かって生徒も教員も驚いたことがありました。長崎ではGHQの方針もあり遺構があまり残っていない一方、広島には多くの遺構があります。爆心地周辺の地理的条件も違えば、遺構の残り方も違う。原爆投下日に合わせて、生徒がお互いの現地を訪ね、1週間過ごすという取組みの中で、こうした違いに気が付きました。交わらないと見えてこないことがあり、その発見を出発点に何を自分たちはしなければならないのかという思いが生徒たちに芽生えたのではないかと思います。
南澤防災でも同じですね。東日本大震災は、私たち大人にとってはリアルな経験ですが、今の高校生にとっては、すでに教科書で学ぶ出来事になりつつあります。だから、被災地に何度も足を運び、被災した方の声を聞くことで、自分事にしていく必要があります。さらに、過疎化と高齢化が進む地域では、災害時に高校生や中学生が果たす役割は非常に大きい。だからこそ、地域の外ともつながりながら、自分たちの実践を他地域とも共有し、同じ課題を持つ学校と知恵を持ち寄りたいと思っています。生徒も、自分たちの活動が日本中の誰かのヒントになるんだ、という思いが強くなってきています。
中渡瀬奄美群島内や県外の高校が集まって、「高校生サミットin奄美」という課題研究発表会を実施しているのですが、そこでの交流は高校生たちにとって大きな刺激になっています。一口に「奄美」といっても、南北に長い群島では島ごとに文化も自然も地理条件も違います。群島の仲間同士で話すだけでも「同じだと思っていたのに、全然違う」と気づく。そこに県外の生徒の視点が入ると、さらに自分たちの地域を見つめる角度が変わるんです。近い相手とつながっても、遠い相手とつながっても、「自分の当たり前が当たり前ではない」と知ることが、生徒の視座を高めていく。教員にとっても、その変化を間近で見ることで、交流の価値を実感しています。
石井私たちも自治体や大学、地域の教育団体など多様な関係者と協働しながら、学校の枠を超えた活動を行っていますが、例えば複数の学校から生徒が集まる時や、地域の方々や他校の先生といった普段交流のない大人と一緒にEGAKUに取り組む時は、学校での授業とはまた違う刺激を生徒たちが吸収してくれているという実感があります。全然知らない相手とでも対話できる、自分の言葉で思いを伝えられるということを一度経験すると、もっといろいろな人と話してみたい、もっと外とつながってみたいというエネルギーが生まれているのを感じます。大人にとっても同じように高校生から活力をもらえるという感想を多く聞きます。学校を越えた交流は、関わる全員に作用する学びだという実感はあるのですが、その一方で、今の皆さんのお話を聞いて思ったことは、こうした多方面の活動をどのように維持されているのかということでした。ただでさえ先生方はお忙しいと思うのに、何か工夫されていることはあるんでしょうか。
南澤それは私も聞きたい点ですね。よく探究活動を回すのに孤軍奮闘していた先生が異動になると活動自体もなくなってしまうという話も聞きます。どうやったら持続可能な形にできるのか……。
中渡瀬本校では、校長が明確なビジョンを描き、それに基づいて各部署に役割を割り振ったことで、負担が軽減され、推進できる体制が確立できたと思います。事務長をはじめ事務職員の協力も大きく、県庁や自治体との関係づくりも学校全体で進めてきました。学外の面では、地元企業からの協賛や奄美群島12市町村からの支援を受けられるようになったことが、活動の継続面では大きな要素だったと思います。高校生の成果を冊子やプロモーションビデオにまとめて発信するなどの努力を積み重ねてきたことも功を奏したと考えています。最初は苦労しましたが、今では企業や自治体から「今年もやるんですよね」と声をかけていただけるようになりました。一方的な支援ではなく、大学や自治体にとってのメリットも提示しながら、互恵関係を志向していくことが肝になると考えています。
柏原長崎東高校との連携については、2024年度に姉妹校提携のための調印を両校の校長の下で交わしました。公立高校同士の提携は珍しいと思うのですが、窓口や担当の教員が代わっても関係性を続けられるようにするための重要な枠組みだと考えています。また今年度から卒業生による自治的な団体づくりに取り組んでいます。在校時に探究活動の中心となっていた卒業生が探究団体を立ち上げ、クラウドファンディングで現役高校生たちの遠征費用を集めるという仕組みです。うまく自走できるかはまだわかりませんが、一つのチャレンジとしてスタートしています。
南澤今の話で、大島高校さんがしっかりとゴールを定めてそれに向かって戦略的に取り組んでいる点に感銘を受けました。学校全体でネットワークを推進していく体制をしっかりつくっていく点はぜひ本校でも取り入れたいと感じました。また舟入高校さんの卒業生のネットワークも実は本校でも取り組みたいと思っていたことです。大学進学後も防災に取り組みたいという卒業生が出てきたので、そうした大学生たちとつながれる枠組みはないかと考えていたところでした。また防災のイベントを行いたいという構想もあったので、本校の生徒たちにもクラウドファンディングについて投げかけてみたいですね。
出会いの場から突破口やヒントが生まれる
妹背今まさにこの場でも取組みのヒントが生まれていますが、助成先の皆さまが互いに学び合える場として財団では年に4回、オンラインや対面での交流会を実施しています。また、毎年9月に、前年度採択で2年目にあたる全助成先から各お一人、東京にお集まりいただき、知見やノウハウを共有する「みらい育成アワード」を開催しています。皆さん自身がこうした場にご参加いただいて得られた気づきや、実際の活動に反映したことがあれば教えてください。
中渡瀬交流会の価値は、教員だけでなく、学校外の立場の方と同じ目的で語り合えることにあると思います。学校の先生だけが集まる場だと、成功事例を聞いて終わることも少なくありません。でも、財団の交流会では、教員もNPO法人など事業者の方々も、同じ「子どもたちを成長させたい」という思いで集まっていて、しかも心理的安全性が高い。悩みや愚痴も出しやすいし、そこに異なる視点が入ることで、「そんな方法があるのか」と発想が開けるんです。学校はどうしても内向きになりがちですが、その殻を破るブレイクスルーの場として、非常に貴重だと感じています。
南澤そうですよね。交流会に行くと、「自分たちは突破できない」と思い込んでいただけだったと気づかされることが多々ありますね。誰かの話を聞くと、「そういうやり方があるのか」「それなら自分たちにもできるかもしれない」と思えるようになります。特に地域別の交流会(※1)は、地域で抱える課題も似ていて、より実践的なヒントが多いですね。例えば東北なら震災、防災、人口減少といったテーマが共有されやすい。似た悩みを持つ人が頑張っていると分かるだけでも、元気をもらえます。
石井私たちのような教育団体にとっても、交流会は非常に学び多い場です。交流会では、肩書を伏せて自己紹介したり、最初から正解を示さない設計がされていたりして、まっさらな人と人として対話できる。その中で、「こういう取組みに興味がある」「校内の先生方の巻き込みに課題がある」といった本音をお互いに共有できるんですね。私たちの場合は、そこから高校6校、大学2校、NPO・事業者2団体との協業につながるという成果が生まれました。
柏原私は初期の頃は交流会に参加させていただいていたのですが、今は若手にその機会を譲るようにしています。というのも、自分が交流会に参加してみて、広島だけを見ていた視野が、日本全体へ広がったという実感を強く得られたからなんです。全国の実践を知ることで、広島にいる自分たちが何をするべきかを逆算して考えられるようになりました。例えば卒業生のつながりの枠組みも実は、大島高校さんのコンソーシアムの事例がヒントになっています。広島市の中で同じ取組みをするのは難しいけど、平和学習に関して協力してくれる方は必ずいるはずだというところから着想を得ることができました。そうした学びや気づきを若手にもぜひ感じてほしいと思って、交流会への参加を促しています。その他にも財団のWebサイトで掲載されている活動レポートや成果発表動画から、防災教育に取り組んでいる全国の学校の情報を得て、修学旅行先を切り替えることもしています。財団のネットワークは、ただ情報を集める場ではなく、自校の実践を組み替えるためのヒントを得る場になっています。
南澤私も成果発表動画はよく参考にさせてもらっていますが、膨大な量なので探すのが大変で……。
妹背そうしたお声を踏まえて、今夏からWebサイト上でキーワード検索を可能にします(※2)。ぜひ探究活動のヒントや視察先の検討などにご活用ください。
※1 全国6地域に分かれて対面で開催される交流会
※2 財団Webサイトリニューアルを2026年7月にリリース済み
互いの実践に触れて見えた、新しい可能性
妹背今回お集まりいただいた皆さんは互いにほぼ初対面に近いと思いますが、今日のこの出会いから得られた学びや気づきがあれば、お聞かせください。
中渡瀬特に印象に残ったのは、舟入高校さんの卒業生による自発的な団体やクラウドファンディングのお話です。本校の取組みから発案されたということにも驚きました。奄美では、大学生の年代のロールモデルに出会う機会がほとんどないという課題があります。だからこそ、卒業した先輩たちが戻ってきて、今の後輩たちを支える仕組みはとても面白い取組みになるだろうなと聞いていてワクワクしました。
南澤今日は学びがたくさんありました。私たちはもともと、できることを、できるときに、無理なく楽しくやるという、ゆるやかなネットワークでやってきましたが、長く続けたり、卒業生も含めて関わりを広げたりしていくには、やはり持続可能な仕組みが必要だと改めて感じました。本校は来年むつ市内にある工業高校と統合します。統合校でも防災を探究活動の一つにしていく構想があります。その中でどう運営体制をつくるのか、どう関係人口を増やすのか、今日のお話からたくさんのヒントをもらいました。
柏原私は、県外とのコンソーシアムだけでなく、もっと広島県や広島市全体に目を向けなければならないと感じました。地域の課題と言えば、本校ではやはり「平和」というテーマになりますが、それを学校全体、地域の学校全体でどういうことができるのかをもっと深掘りしていかなければならないと改めて感じました。また今年度から進路指導にも携わるようになったのですが、進学校にこそ芸術や家庭科、体育のような、自由に発想し、何かを生み出す学びが重要だという思いを持っていたので、ELABさんのお話はとても勉強になりました。
石井私は先生方の実践に感銘を受けました。離島で地域振興に向き合うこと、平和を世界の課題として伝えること、防災を人づくりとして考えること。どれも、学校の授業という枠を超えて、社会全体を動かす活動だと感じました。先生方はもはや教育者であると同時に、地域や社会を動かすキーパーソンでもあるのだと思います。こうした方々が全国にいること、そしてそれを支えるネットワークがあること自体を、もっと社会に伝えていく必要があると感じました。
最初の一歩が、学校の未来を変えていく
妹背これから財団の助成に応募しようとしている学校や団体の皆さまにメッセージをお願いできますか。
中渡瀬助成を受けることで、やりたかったことを実現しやすくなるのはもちろんですが、それ以上に大きいのは、人とつながることで、自分が思っていた以上のところまで実践が広がっていくことです。私たちも、最初は発表会を立ち上げることから始まりましたが、気づけばコンソーシアムづくりまで発展していました。応募した時点では想像していなかった場所まで、実践の積み重ねが連れていってくれる。それが、こうした助成やネットワークの面白さだと思います。
柏原最初は一人の先生から始まることが多いと思いますし、しんどい時期もあると思います。でも、その姿を見てまず生徒が変わり、生徒の変化を見て教員が変わっていく。そういう順番で学校は動いていくと、視察先の先生に言われたことがありますが、まさにその通りだと感じています。どの地域にも、その場所にしかない歴史や文化、課題があります。何もない地域なんてありません。大事なのは、そこにあるものを見つめ直し、学びにつなげていくことです。地域や学校への愛、生徒への想いがあれば、探究活動は回るようになると思っています。ぜひ一緒に日本の教育をよくしていければと思います。
南澤一歩踏み出さなければ、何も変わりません。柏原先生がおっしゃるように、最初は大変でも、やってみると生徒が変わり、教員が変わり、やがて学校全体が変わっていきます。探究は「総合的な探究の時間」だけを改善するものではなく、教科や進路、学校文化そのものにも波及してきます。続けていくことで、それは学校のプライドになり、文化になり、伝統になっていくはずだと感じています。
石井助成応募に関して最初のハードルの一つは申請書を書くことかもしれません。でも、そのプロセス自体が、「自分たちは何をしたいのか」「どんな未来をつくりたいのか」を言葉にする貴重な機会になります。実際、「申請の最初の段階でみんなを巻き込めばよかった」と後悔している先生もいました。申請書を単なる手続きで終わらせず、想いを同僚や生徒、仲間と共有する入り口にできると、その後の実践を支える土台になるのではないでしょうか。
妹背今日の座談会では、地域もテーマも異なる実践が、出会いによってつながり、新しい学びへと広がっていく様子を実感することができました。ありがとうございました。
2026年6月28日 東京・丸の内にて