カテゴリー 52025年採択

東京大学大学院教育学研究科附属
学校教育高度化・
効果検証センター

対象者数 50名 | 助成額 865万円

Program 高等学校において生徒の個人研究型探究学習を指導する教員の育成開発

 本センターでは、生徒が個人研究として実施する探究学習を推進しようとする高等学校に向けた教員の職能開発プログラムを行う。これまで研究交流などを通じて関係を形成してきた教育委員会・高校の中から5件程度を募り、高校教員が現状の探究学習指導において感じている課題を把握・整理して、伴走型の支援とアドバイスを行う。
 本プログラムは、CASEERが共同で研究蓄積してきた東京大学教育学部附属中等教育学校  (以下、東大附属)における探究学習の実践と、スタンフォード大学FSI国際研究所国際・多文化教育プログラム (SPICE)を、教員の育成開発と実践支援のモデル例として活用する。プログラムの参加教員には、実践見学の機会および実践モデル例を、それらを開発した教員を交えたディスカッションやメンタリングを通じて提供する。
 最終的に、探究学習を指導する際に求められるスキル、スタンス、ノウハウ等を汎用化可能な体系として集約し、日本全国の教育現場に適用可能にする。

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活動レポートReport

教育現場で高まる課題意識に、
実践と効果検証を通じて培った知見で応える

 東京大学大学院教育学研究科の附属組織として2006年に発足した学校教育高度化センターでは、学校教育の現場における課題解決に向けて、全国の学校や教育委員会、教員養成機関と連携しながら、教員の力量向上やカリキュラム改善、教育行政の高度化などに関わる研究活動を続けてきた。2017年には、教育現場での実践データに基づく効果検証機能を強化する目的で「学校教育高度化・効果検証センター(略称CASEER)」に改組された。

「2025年度から、高等学校において個人研究型探究学習を指導する教員向け研修プログラムを開始した背景には、CASEERが積み重ねてきた実践データの分析成果が出始めたタイミングと、教育現場での探究学習の指導に対する課題意識の高まりが合致したことがあります」と語るのは、CASEERのセンター長を務める本田由紀教授だ。

 CASEERでは、中学・高校の生徒たちが経験する探究的な学びが、大学や社会での活動にどうつながっていくかを実証的に検討するため、東京大学教育学部附属中等教育学校(以下、東大附属学校)との連携のもと、在校生および卒業生を対象とした継続的な調査を実施してきた。同校では、「総合的な探究の時間」が必修化される以前から、生徒一人ひとりが自ら問いを立て、卒業研究へとつなげていく探究学習に取り組んできた。「CASEERが約10年にわたって蓄積してきた同校での実践データは、探究学習に関する教育現場の課題を解決するうえでの貴重かつ希少な資源だと思います」と本田教授は語る。

 一方で、CASEERは探究学習に取り組む学校に対する質問紙調査を広く実施するとともに、他の研究機関による調査結果を分析するなど、教育現場との幅広い接点を駆使して探究学習の現状把握に努めてきた。その中で必要性を痛感したのが、個人研究型探究学習に対する教員・学校側の伴走体制の強化だったという。「個人研究型探究学習では、生徒ごとにテーマも関心も進度も異なるため、担当教員の伴走力が問われます。しかし実際の教育現場では、生徒一人ひとりに寄り添うことが難しく、調べ学習にとどまったり、“やらされ探究”になってしまったりといった課題が指摘されています。その背景には、教員一人で多人数を指導する難しさもさることながら、探究学習、特に個人研究型に対する教員の理解不足・ノウハウ不足があると考えられます。私たちCASEERには、東大附属学校における教育実践リソースに加え、全国随一の研究大学である東大のリソースが蓄積されており、これらの知見を全国の教育現場に還元したいとの想いでプログラムを開始しました」と本田教授は語る。

CASEERのロゴとマスコットキャラクターの「きゃしゃん。」。東京大学の教育学部および大学院教育学研究科は、国内における教育学研究の中核拠点として、教員養成にとどまらず、教育学そのものの研究者・専門家の育成を重視している。同研究科に附属するCASEER内には、教育効果の実証的検証を通じてより効果的な教育を模索する「効果検証部門」と、学校教育の発展を促進する研究および実践活動を推進する「教育高度化部門」が設けられている。

教員の参加と対話を重視した定例会を通じて、
学校全体に変化をもたらす

  初年度となる2025年度の研修プログラムは、9月から翌3月まで月1回、全7回のオンライン定例会を軸に進められた。前半の2回は「探究の基礎形成(マインドセット)」として、参加各校の課題共有や、探究の段階設計と学びの接続などをテーマに実施。中盤の3回は「実践手法の獲得(スキルとリソース)」として、テーマ設定と問い立ての支援方法や、文献など既存リソースの活用法、探究手法のバリエーションなどを学んだ。最後の2回は「見取りと自走(評価と次年度計画)」として、生徒の評価方法を学ぶとともに、次年度のアクションプランをとりまとめた。「基礎から応用という形で3つの段階に整理されていますが、それは結果論であって、各回のテーマは現場の先生方が何に困っているか、何を必要としているかを都度探りながら設定したものです」と本田教授は振り返る。

  プログラムを実施するうえで重視したのが「単に講義を聞く場ではなく、先生方が主体的に参加する場にすること」だったという。そこで、まずは定例会に先立ち、参加者に事前課題として、それぞれの悩みや工夫などを自由形式で記述・提出してもらっている。定例会の構成は、前半1時間は各回のテーマに基づくレクチャー、後半1時間は質疑応答およびディスカッションの2部構成になっている。後半のディスカッションでは、事前課題の結果をCASEER側でスプレッドシートに整理・分析した上で共有することで、教員同士が課題やノウハウを共有し、気づきや刺激を与え合う場としている。

  もう1つの特徴が、「先生個人を変えるのではなく、学校を変えること」を目的に、参加各校には管理職を含む3名以上での参加を条件としたことだ。「探究学習に熱心な先生が一人いるだけだと、学内で浮いてしまったり、負担が集中したり、その先生が異動・転勤すると探究の灯が消えてしまうといった事態が起こりがちです。教育現場での課題を解決するためには、先生単位ではなく、学校単位で組織運営や指導体制、カリキュラムなどを改善する必要があります。本プログラムに参加された先生方が、それぞれの学内で牽引役となって、学校全体に成果を波及させていただければと期待しています」(本田教授)。

オンライン定例会の様子。本プログラムでは地域や学校を越えた教員間のつながりを生み出すことも重視しており、オンライン開催を基本としつつ、初回のキックオフミーティングと最後の発表会は対面をメインとするハイブリッド形式で開催された。同じ悩みや課題意識を持つ教員同士が直接対話する機会を設けることで、ディスカッションの活性化はもちろん、教員同士のネットワーク形成につながることが期待されている。

定例会の終了後は、毎回、希望者を対象に自由参加の「延長戦」を実施。時間の許す限り、学校ごとの悩みや試行錯誤を共有し合う場として機能している。「この時間が最も学びにつながる」という声も参加者から寄せられており、「他校も同じことで悩んでいると知ること自体が、大きな支えになっているのだと思います」と本田教授は語る。

次年度の指導計画を変える手応えを得て、
地域に広がる探究学習の基盤づくりへ

 初年度となる2025年度は、これまでの活動で接点のあった学校を中心に告知したところ、当初想定していた5校・50名程度を大きく上回る反響があり、実際には9校・69名が参加した。事後アンケートでは各回平均で約95%が満足を示すなど、参加者の高い評価を受け、2026年度はさらに参加者が増加。26校・129名にまで拡大している。「CASEERのWebサイトで毎回の定例会の内容や成果を報告するとともに、初年度の活動報告を兼ねたオンライン説明会を開催するなど、広報に注力した成果でもありますが、それだけ教育現場における課題が切実なものになっていることを改めて痛感させられました」と本田教授は語る。

 参加者数だけでなく、プログラム自体も拡大している。初年度は準備期間もあって9月からの7回開催だった定例会を、2026年度は5月からの11回に増やすことができた。これを踏まえ、各回のテーマをより網羅的かつ詳細にするとともに、参加校ごとの状況差に対応するため、前半を基礎篇、後半を発展篇とする2段階構成に再編。これから探究学習を本格化したい学校と、すでに実践を重ねたうえでより高度な支援を求める学校、双方のニーズに応えられる形にした。結果として、新規参加校は通年参加、2025年度からの継続参加校は後半中心に参加するといった形で、多様なニーズに応じた受講が行われている。

 将来的には、定例会の内容をテキストや動画などの教材にまとめ、広く活用できる形にしていく構想もあるが、「単に教材化するだけでは十分ではない」というのが本田教授の考えだ。「本プログラムの最大の魅力は、他校の先生方とのディスカッションを通じて、自分の悩みを相対化したり、新しい見方に気づけたりすること。生徒の探究学習に対話が必要なのと同様、教育現場を変えるためにも先生同士の対話が必要です。本プログラムに参加された先生方が、それぞれの地域で探究指導の中核を担い、新たな対話の場を生み出していくような広がりが理想です」と、本田教授は未来へのビジョンを語った。

2025年度の最終回では、参加各校が2026年度に実施する探究学習の指導案を発表。学校図書館との連携強化や、教員間の温度差を埋めるための全校的な組織づくりなど、プログラムの成果が反映されていることが見て取れたという。東大附属学校での進め方を参考に、生徒が探究を始める前に教員とテーマについて対話する仕組みを取り入れる学校も見られるなど、教員個々のスキル向上にとどまらず、学校全体の探究指導体制の変化につながっている。

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