株式会社BYD
対象者数 100名 | 助成額 700万円
Program 「ふるさと」を起点にした価値創造型アントレプレナーシッププログラム
高校生の心のエンジンを駆動させるために最も重要なものは、エンジンを持つ生徒一人ひとりにある「原体験」と、それを社会と結びつける「問いや気づき」、持続的なサイクルを支える「コミュニティ・同志・ネットワーク」だと考えている。
本プログラムの特徴は、誰しも関心の中核にあり、原体験を多く持つ「ふるさと」をきっかけに、アントレプレナー教育・PBL、コミュニティ教育を掛け合わせることで、最大限に潜在能力を引き出すことにある。
【ステップ1:「ふるさと」を問い直す旅】
・地域の人に話を聞いたり、フィールドワークで探索し、「ふるさとの良さと課題」を言語化
・地元のキーパーソン(農家、商店主、福祉施設職員など)との対話に挑戦
【ステップ 2:「ふるさと」と自分を繋げる】
・自分の興味・関心領域を深堀し、 「ふるさと」に関する原体験を探索し、自己理解を深める
【ステップ 3:ふるさと起点の社会探究プロジェクト立案~初期実施】※1~1.5 か月
・アントレプレナーシップ基礎(価値創造・顧客視点・課題解決思考など)を学ぶ
・チームごとに探究テーマを設定 。仮説を立て、ビジネスアイディアの企画~実際に行動・実践をしてみる
【ステップ 4:プロジェクト報告・発表会(ふるさとイノベーションサミット) 】
・実際に行動・実践してみた結果、気づきを報告

活動レポートReport
ふるさとへの想いを起点に地域課題に挑む、
高校生向けプログラムを創設
「大学時代に予備校講師のアルバイトをしていた際に、生徒の成長を後押しする楽しさを知って仕事にのめり込む一方で、偏差値だけが重視される社会に違和感を覚えました。生徒それぞれに得意分野は異なるし、実際に社会で求められる力は偏差値だけでは測れません。一人ひとりが夢中になれることを見つけて、そこで価値を生み出せるよう支援する教育こそ、より良い社会に近づくために必要ではないかと考えたのが、私の教育事業における原体験です」と振り返るのは、大学卒業後に株式会社BYDを創設した井上創太氏だ。
2015年の設立以来、探究学習の出張授業を軸に多彩な学習プログラムを開発してきた同社が、新たに「ふるさと」をテーマとする本プログラムを立ち上げた背景には、大きく3つの理由がある。1つ目は、都市への一極集中に対する危機感だ。同社は全国約300校、延べ4万人以上の生徒に出張授業を行う中で、地域ごとの魅力を感じてきたものの、卒業後は都市部に進学する生徒が多いことから、地域を活性化させる必要性を感じたという。2つ目は、探究授業が必須化されたとはいえ、学校の授業という枠内ではどうしても制約があるため、「本気で挑戦したい高校生に、より大きなことに挑む機会を提供したい」と感じたこと。そして3つ目が、「将来の地域社会を先導する若者たちを全国規模でつなぎ、これからの日本を支えるコミュニティを築きたい」との想いだという。
「生徒一人ひとりの原体験となる“ふるさとへの想い”を起点に、当事者として地域課題を見据えたり、地域を盛り上げたりする経験を持つことは、将来の成長に大きな意味を持つはずです」と、井上氏は本プログラムに込めた意欲を語る。
株式会社BYDは、大学生向けのスクール事業を皮切りに、中学・高校向けの探究学習プログラムの提供や、教材開発、教育事業に関する法人向けコンサルティングなど幅広い教育事業を展開。特に注力しているのが探究学習の出張授業で、大手企業と連携したアントレプレナーシップ講座やドローン・VRを活用したデジタル探究など多彩なプログラムを提供している。
予備校のアルバイトで教育の面白さに触れた後、大学生向けにワークショップを提供する学生団体を立ち上げ、教育事業への第一歩を踏み出した井上氏。「周囲に起業を志す仲間が多かったことに背中を押され、自分も教育事業を通して大きな社会課題に挑みたい、との想いが芽生えました」と創業の経緯を振り返る。
全国から集まった約100名の高校生が、
メンターの伴走のもと地域課題に挑む
初年度となる2025年度は、すでに出張授業などでつながりのあった高校をはじめ、全国数千校へのチラシ配布やSNSでの告知などを通じて参加者を募集。北海道から沖縄まで、全国から約60チームの応募があり、面談を経て18チーム・約100名の高校生が採択された。応募主体はあくまで生徒自身だが、学校内の探究活動だけでは満足しきれない生徒を教員が紹介するケースも多く、「各学校の探究のエースが集まってきたという印象です」と井上氏は語る。
実際のプログラムは、11月から翌年3月までの5カ月間にわたり、4つのステップで実施された。まずステップ1では、地域のキーパーソンとの対話やフィールドワークを通じて「ふるさとの良さと課題」を言語化。ステップ2では、ふるさとに対する自身の興味・関心を深掘りする。ステップ3では、アントレプレナーシップの基礎を学びながら、チームごとに探究テーマを設定して仮説検証と実践を繰り返す。そしてステップ4として開催される「ふるさとイノベーションサミット」において、5カ月の成果を発表するという流れだ。「実際にプログラムを運営して感じたのは、事前準備の重要性です。事前にある程度、ふるさとの課題について考えてきたチームほど方向性が明確になり、確かな成果を導くことができます。そこで2年目からはステップ1と2をまとめて事前課題とすることで、ステップ3での実際の探究活動に充てる時間を増やし、そこにリソースを集中します」(井上氏)。
本プログラムの大きな特徴が、伴走の手厚さだ。各チームには専属のメンターが付き、2週間に1度のオンライン面談やSNSを活用したコミュニケーションを通じて、生徒の悩みに寄り添い、きめ細かなサポートを行う。とはいえ、決して至れり尽くせりではなく、あえて負荷をかけることも重視しているという。「テスト期間中でも打ち合わせの準備をしなければならない、チラシを何百枚も仕分けして配らなければならない。そんな大変な経験を乗り越えたとき、生徒たちは明らかに変わります。そうした経験が、将来大きなことを成し遂げるための土台になるはずです」と井上氏は語る。
伴走するメンターの多くは、BYDの教育プログラムで学んだ大学生や社会人が「恩返し」として参加しているという。「10年以上にわたり培ってきたコーチングやファシリテーションに関するメソッドを、実際に体験して身に付けたメンターの存在は、当社の大きな財産であり、強みだと考えています」と井上氏は語る。
3月に東西2会場で開催された「ふるさとイノベーションサミット」では、地域ごとの課題やテーマに応じて「イベント」「ものづくり」「Webクリエイティブ」の3タイプの成果物が発表された。互いの発表に刺激を受け合う中で芽生える「全国の仲間とつながっている」という実感が、さらなる取組みへの原動力となっているという。
初年度の手応えを糧に、地域を動かす持続可能なモデルへ
初年度を振り返って、井上氏は「全てのチームが“絵に描いた餅”ではなく、ソーシャルインパクトを伴うプロジェクトをやり切ることができた」と確かな手応えを感じていると語る。地域の魅力を伝えるスタンプラリーアプリの開発や、地域特性を活かした新たな名産品の開発、鉄道会社に対する観光列車の企画提案など、地域への貢献度が高いプロジェクトが多数生まれており、地域の関係者から好意的なフィードバックを獲得しているという。
参加者からの評価も上々で、実施後のアンケートでは、10段階評価で8以上の評価が約75%を占めている。「自分自身のことを何日間も考え抜く経験は初めて」「やめたいと思う瞬間もあったが、やり切って良かった」「5カ月間が一瞬に感じられた」など、メンターや参加者同士の対話を通じて内面を深く掘り下げた経験が、確かな成長につながったことを実感する声が多く寄せられた。
一方で、課題を踏まえた改善も進んでいる。運営面では、メンターの負担が想定以上だったことを踏まえ、初年度の経験を形式知化してメンター向けマニュアルやFAQを整備し、将来的なキャパシティ拡大につなげていく。広報面では、四国や離島など応募が少なかったエリアへの情報発信を強化しており、すでに初年度を上回る反応を得ているという。
長期的なビジョンとして、井上氏は「高校生のアクションが地域の大人を動かし、自治体や企業が主体的に支援に乗り出すような仕組みを作りたい」と語る。その兆しはすでに現れている。例えば茨城県の高校では、地域おこしのクリスマスマーケットを成功させたことで、地元のNPOや企業がスポンサーに名乗りを上げ、規模を拡大しての継続開催が決まっている。「こうした事例が全国に広がれば、助成終了後もサステナブルな事業として自走できるというだけでなく、本当の意味で地域を変える活動を生み出していけるでしょう。そのためにも、生徒の支援に加えて、地域の自治体やメディアへの働きかけも強化していきたいですね」と、井上氏は将来への意欲を語った。
茨城県の高校生が地域おこしのために企画・開催したクリスマスマーケットは、教育委員会の協力を得て市内全小学校へチラシを配布するなど、地道な努力を重ねたことで、目標を大きく上回る集客を達成。2026年度は自治体や地域の企業・NPOの支援を得て、にぎわいづくりプロジェクトに発展して活動を継続している。
定期的なオンラインスクールによって全国の参加者が交流を重ねたことで、プロジェクト修了後も地域課題に挑戦する高校生同士のコミュニティが形成されている。「次年度もOB・OGとして参加したい」との声も多く寄せられており、参加者によるアルムナイを形成・活用して、より強固なコミュニティを築いていく方針だという。

成果発表動画Presentation
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