Institution for a Global Society株式会社
対象者数 200名 | 助成額 674.4万円
Program 先生自身が楽しむ!探究型学習実践プログラム
VUCA時代には、「答えのない問いに向き合う力」「自ら問いを立て、考え抜く力」「他者と協働しながら創造する力」が、ますます重要になっている。こうした力を育む探究型学習は、多くの先生方が日々工夫を凝らして実践されており、特に「総合的な探究の時間」を中心に広がりを見せている。
一方で、教科の学びの中でこうした力をどう育んでいくかは、今後さらに注目されるテーマである。
本プログラムでは、先生方や教職を志す方々と共に「心のエンジンが駆動する」学びを体験しながら、非認知能力や探究スキルの育成について考えていく。アセスメントによる「育てたい力」の可視化や理解、社会課題に挑むPBLワークショップ、教科別ディスカッション、実践共有などを通して、教科横断的な学びのヒントを得る場を目指し、生徒の「未来を生き抜く力」の育成に貢献していく。

活動レポートReport
テストでは測れない非認知能力の評価で培った知見を、
教科と探究をつなぐ教員研修へ
本プログラムを提供するInstitution for a Global Society(以下、IGS)は、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる」をビジョンに掲げ、「幸せをつくる評価・教育ソリューション」を学校や自治体、企業のHR(Human Resource:人的資源)部門に提供している。同社の創業のきっかけは、創業者である福原正大氏がフランスにてMBAを取得した際に360度評価を受けたことにある。360度評価とは、複数の立場から対象を評価する手法で、一方向からの評価に比べて公平性や客観性が高まり、対象自身が気づいていない強みや改善点を把握できるメリットがある。福原氏は初めて受けた360度評価に驚きつつも、その内容を真摯に受け止めることで確かな成長を実感できたという。こうした創業者の実体験が、「評価は人を選別するだけでなく、人を成長させるきっかけにもなる」という同社の起業哲学にもつながっている。
2010年に「答えのない問いを考える塾」の事業からスタートしたIGSは、より幅広い層へのサービス提供を目指し、360度評価と特許取得の独自アルゴリズムを用いた非認知能力評価ツール「Ai GROW(アイ・グロー)」や、数理科学的なものの見方や考え方・スキルの測定ツール「数理探究アセスメント」などを開発。探究学習や総合型選抜の浸透などを背景に導入先を拡大してきた。その開発の背景を、同社の教育ソリューション部に所属する阿部玲子氏は、「近年の社会では『答えのない問いに向き合う力』や『自ら問いを立て、考え抜く力』『他者と協働しながら創造する力』など、テストの点数だけでは測れない力の重要性が高まっています。こうした非認知能力は、探究学習の中でも大いに育まれるものだと考えています。一方で、測定の難しさや、無理に点数をつけようとすれば探究学習が形骸化しかねないことが課題となっていました。そこで、一人ひとりの非認知能力を評価し、その内容を本人に認知してもらうことで成長を促すことができるツールを開発してきました」と語る。
2024年には、アジア開発銀行や東アジア・ASEAN経済研究センターと連携し、STEM教育の効果を国際比較するプロジェクトを開始。カンボジアやウズベキスタンの高校生および教員に、同社の評価ツールを受検してもらい、日本での実施データとの比較検討を実施。あわせて両国の教員約100名を対象に、探究学習を各教科へ取り入れることをテーマとしたワークショップを開催した。その際、この取組みを共に推進し、のちに本プロジェクトの監修を務めることになる東京学芸大学大学院教育学研究科の西村圭一教授から「こうした取組みは、むしろ日本の教員にこそ必要では」と指摘されたことが、今回のプログラムの直接のきっかけになったという。「日本の教育現場では、指導する先生方自身が、探究的な学びの中で育ってきた経験が少なく、生徒に探究的な学びを提供するための知見やノウハウが充分ではありません。そこで本プログラムでは、『Ai GROW』や『数理探究アセスメント』の評価項目を手がかりに、探究学習を通じて育みたい非認知能力や探究スキルへの理解を深めることと、先生方自身が学習者として探究的な学びを体験することを両輪としています。この2つを掛け合わせることで、『探究的な学びの設計力』を身につけてもらえるのではと考えています」と阿部氏はプログラムの狙いを語る。
IGSは、非認知能力を可視化できる評価ツールを軸に、学校・自治体向けの教育事業や企業向けのHR事業などを展開するEdTech/HRTech企業である。近年は「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」をパーパスに掲げ、子どもから大人まで、社会で活躍できる人材の能力をいかに引き出し、発揮させるかを目的に事業を展開している。
IGSが2019年4月にリリースした「Ai GROW」は、自己評価に加えて、生徒同士が評価をする「相互評価」を取り入れるとともに、忖度や相性などによる不要な評価の偏りをAIが補正することで、非認知能力を可視化できる。2026年3月時点で、国内外の630校以上に導入されている。
教員自らが探究を体感し、担当教科と探究をつなぐ授業を設計する
本プログラムは、教員自身が探究的な学びを体験しながら、担当教科と探究をつなぐ授業づくりを学ぶ教員研修である。その狙いは大きく2つある。1つは、生徒が伸ばすことのできる非認知能力には何があるのか、教員に認識してもらうこと。もう1つは、探究授業の在り方を担当教科の視点から探ってもらうことだ。これらの目的を達成するため、プログラムは①身につけてほしい「力」の言語化、②学習者としてのPBL探究体験、③教科の探究的な授業づくり、④フィードバック&ブラッシュアップ、⑤狙った力を計測するアセスメントの受検という5つのステップで設計されている。
プログラムの冒頭では、探究学習で育みたい生徒の非認知能力や探究スキルについて理解を深めた上で、一人ひとりが「探究的な学びを通じて生徒たちにどんな力を身につけてほしいか」を言語化し、チームに宣言する。「自ら言語化することで、目標を強く意識しながらワークショップに取り組めるようになります。その有効性は参加者にも実感してもらえていて、『実際の授業でも取り入れたい』との声が上がっています」と、プログラムの運営を担う三上富士雄氏は語る。
その後は担当教科別のチームに分かれて、身近な社会課題を題材にしたPBLワークショップに挑む。例えばプラスチックごみ問題に対し、国語チームは「どのような表現で伝えれば削減への意識付けができるか」を考え、数学チームは自校のペットボトルごみの量から世界全体の年間排出量を推定、理科チームは風で飛ばされにくいプラスチック容器の形状を検討するなど、各チームが教科の見方・考え方をいかしながら、それぞれ独自の発想で課題解決に取り組む。「多くの学校現場では『探究は総合的な探究の時間でやるもので、各教科は知識を教える場』と分断されているケースが見られますが、本来、教科と探究はひとつなぎであるべきもの。次期学習指導要領に向けた議論でも、各教科の中で知識を『総合的に発揮』する方向性が示されています。そこでワークショップでは、先生方が自身の担当教科における学びを、どのように探究的な学びへとつなげていくかを体感的に学んでもらうことを重視しています」と阿部氏は説明する。
ワークショップを通じて、課題設定の難しさや、他者との対話から得られる気づき、そして考え抜く楽しさなど、探究学習の本質を実体験した参加者は、その体験を授業にどう生かすかを考えながら、担当教科での探究授業プランを設計。その際には、その授業を通じて生徒のどんな力を伸ばしたいかも明確にする。成果はチームごとに発表され、異なる教科の教員からポジティブなフィードバックを受ける。「こうしたプロセスを通じて授業プランが磨かれると同時に、先生方の間に『自ら体験した学びを実際の授業でも再現したい』という意欲が高まっていくことが見て取れます」と三上氏が語るように、多くの参加者が確かな手応えを感じているという。
授業プランの作成では、データの収集・解析から遅刻の原因を探る数学の授業や、生成AIが描く「民主主義」の画像からバイアスを分析する社会の授業など、ユニークな授業プランが発表された。これらのプランは「教科×探究」の実践事例としてまとめられ、全国の教員向けに参考資料として活用することも計画されている。
次年度の指導計画を変える手応えを得て、
地域に広がる探究学習の基盤づくりへ
初年度となる2025年度は、まずはプログラムの認知向上を図るべく、Webサイトなどでの情報発信に加えて、IGSの教育事業でつながりのあった学校や教育委員会を訪問しての説明を重視したという。「興味を持ってはいただけるものの、先生方の研修スケジュールは前年度末には確定しているため、いかに時間を取ってもらうかが課題となりました。そこで、当初構築した2日間のプログラムを1日で実施できるよう調整するなど、参加しやすい形での提供に努めました」と三上氏は振り返る。
そうした工夫に加え、探究学習に熱心な学校や教員への働きかけが奏功し、高校教員を対象として、9月に長崎、12月に京都・東京で開催したほか、2月には東京学芸大学の教職大学院生を対象に開催し、トータルで約70名が参加。当初目標としていた200名には届かなかったものの、参加者の評価は非常に高く、実施後のアンケートでは「満足した」が約95パーセント、「実際の授業で活かせる」が約92パーセントに達している。また「普段の授業での私たちの言葉を、生徒がどう受け止めているかが理解できた」「生徒を観察する視点が変わった」「他教科の先生の意見が、自分の教科の“当たり前”を問い直すきっかけになった」など、ポジティブな変化を示す声が上がっている。
2年目となる2026年度は、学校や教員ごとのニーズに対応できるよう、1日コース、半日コース、1時間×3回の分割実施コースなど、より多様な形式で提供している。Webサイトや教育系メディアでの情報発信を強化するとともに、初年度の成果が口コミで広がったこともあり、事前に予定に組み込んでもらえるケースも増え、すでに10回以上の開催が決まっている。「学校ぐるみで多くの教員が参加するケースもあれば、教育委員会が主催して各校から数名ずつ集まるケースもあるなど、初年度以上に多様な形式で開催できています。また、探究学習先進校が近隣の学校に参加を呼び掛けるケースもあり、地域全体で探究的な学びを活性化する動きが期待できます」と阿部氏は語る。
今後も参加者などの声を踏まえてプログラムの継続的な改善を図るとともに、そこで得られた成果を広く社会に還元していく取組みも強化していくという。「本プログラムの監修者である西村教授や、先進的な探究学習の実践者を講師としたオンラインセミナーを開催し、探究授業を実践するための知識やヒントを教育現場に提供していく計画です。また、教科の枠を超えて先生方がディスカッションできる場や、『教科×探究』のアイデアなどを共有できる場づくりも進めています。そうした活動を通じて、より多くの先生方が『生徒のどんな力を伸ばしたいか』という原点に立ち返って、探究的な学びの場を作っていけるようになってもらえればと思います」と、阿部氏は語った。
講義を聞くだけの座学ではなく、参加型のワークショップ形式としたことで、探究学習の本質を体感でき、実際の授業で再現することを強く意識したという。「それこそまさに、先生方の『心のエンジンが駆動する体験』と言えるのではないでしょうか」と三上氏は確かな手応えを語る。

成果発表動画Presentation
Institution for a Global Society株式会社
https://i-globalsociety.com/

