カテゴリー 52025年採択

一般社団法人 共感結社モルタル

対象者数 30名 | 助成額 684万円

Program 教員・地域伴走者版 地域探究体感・実践プログラム

「まず、私たちもやってみよう!」を合言葉にしたプログラム。探究活動を支えるには理論だけでなく、自分自身が探究を体験し、その楽しさと学びを知っていることが何よりの土台になる。しかし、高校の先生や社会人には、過去・現在において、その経験を積む機会が提供されなかった。さらに、高校生の探究が校内発表にとどまらず、実際のアクションへ発展したり、校外に発信して仲間を増やしたりするには、伴走者自身も同じ道を歩いた経験がないと十分に後押しできないのが現状である。

  そこで本プログラムでは、❶経験豊富な講師が最新メソッドと地元・フィールドワークで学ぶ STEP1、❷地域の高校生有志団体を実際に伴走しアウトプットを創り出す STEP2、❸運営側としてプログラムやコミュニティをマネジメントする STEP3 を用意。参加者同士をコミュニティで結び、地域全体で探究活動を後押しできるモデルを共に育てていく。学年や職種の垣根を越えて学び合い、新たなコラボレーションを創出。すべての STEP を通じて「自分がやったからこそ言える言葉」と「支え合うネットワーク」を手に入れ、持続可能な探究文化を広げるリーダーになっていただく。

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活動レポートReport

教える前に、大人がまず探究する

 本プログラムを主催する一般社団法人共感結社モルタルの古川拓也代表理事が、故郷の長崎県佐世保市に関与する活動を志したのは、会社員生活が10年近くを経過し30代を目前にした頃だった。ただそれは、強い郷土愛に突き動かされてのことではなかったと振り返る。「離れていた10年間でまち全体の活気が想像以上のスピードでなくなっているが、これを放っておいていいのか?そこに着手する人がいるのか?という問い」からだったと語る。とはいえ、徒手空拳で新規事業を立ち上げられるほど甘い世界ではない。会社勤めの傍ら大学院に通って公共政策や政治・行政を学びながら、時間の許す限り佐世保に戻り、若者のキャリア教育に関わるボランティア活動を始めた。当時トライアル的に始まっていた高校の探究学習にも、精力的にコミットしていった。

 そうした活動の中で出会った仲間と共同で共感結社モルタルを立ち上げたのが2022年。2024年には民間の立場から佐世保市役所内の「若者活躍・未来づくり課」新設に携わり、アドバイザーに就任した。会社員、社団法人代表理事、自治体政策アドバイザーという三足の草鞋を履きながら、今も首都圏と地方都市を行き来している。「佐世保に拠点を完全に移すという選択肢もありますが、圧倒的に情報量が多い都会と地方都市を繋ぎ合わせる役割も果たしたい。そして、若者の流出は防ぎきれなくても、佐世保の関係人口を日本中に創出することはできるということを、自らがロールモデルになって示したいという思いもあります」(古川代表理事)。

 現場に関わって数年が経つ頃、街の風景が変わり始めた。探究学習を切り口に、高校生がどんどん外へ出ていくようになったのだ。商店街で聞き取りをする。事業者に企画を持ち込む。イベントに顔を出す。それは古川代表理事が望んできた光景そのものだった。

 だが同じ時期に、別の景色も見えてきた。同じ店に、別々の学校の生徒が次々とアンケート用紙を持ち込む。地域の側は善意で応じるが、生徒の問いが十分に練られていないため、対話は表面をなぞって終わる。受け入れた大人には手応えが残らず、負担感だけが積み上がっていく。いわゆる「探究公害」——探究という学びが地域を疲弊させてしまう状態である。

「生徒がまちに出ること自体は、もっと増えていい。ただ、送り出す側の大人が探究を分かっていないと、受け止める地域のほうが先に疲れてしまう。また、受け入れる側も探究を理解すれば、もっと学びを深められるはず」と古川代表理事は話す。高校生の探究を導く大人が、探究を経験していない。この課題を解かない限り、現場は広がるほど摩耗していく。探究の伴走者を育てるには、その大人たち自身が探究をやってみるしかない——そう考えて設計したのが本プログラムだ。

 骨組みは、「自己探究・アクション支援・自主運営」の3ステップを3年で身につけるというもの。財団の3カ年継続助成の期間と、そのまま重なる設計である。対象は高校教師に限定せず、広く一般にも門戸を開いた。探究授業は学校内で完結するものではなく、社会との連携の中で展開されるべきものだからだ。最終目標は伴走者の育成にあるが、募集ではその面をあえて前面に出さず、「自身の興味・関心事を棚卸しして、探究を体験してみませんか」と呼びかけ、参加者を集めていった。探究授業に悩みを持つ高校の教師、地元のフリーペーパーを発行する会社の社長、介護施設のケアマネージャー、NPO代表者、ウェブライター、一般企業の社員と、あらゆる業種の人が名を連ねた。

他校の教室で、大人の心のエンジンが動き出す

 プログラムは2025年7月の説明会から始まり、以後は月に2回程度の頻度で、対面/オンラインのハイブリッド形式で進行した。自己分析やアクションの設計から始まり、地域のフィールドワーク、行政・政策に関する講義、AIの活用、チラシなどのデザイン演習と、内容は多岐にわたる。ゲスト講師を招く回もあったが、多くは古川代表理事をはじめとする共感結社モルタルのスタッフが担当した。終盤には「佐世保市若者アワード」や高校生の探究活動発表会「高校生マイプロジェクトアワード地域サミット」といった場に、高校生に交じって参加者が成果を発表。探究活動を自分ごととして実感できるようにした。2026年2月にはブラッシュアップした最終成果を発表し合い、その後、佐世保市長との懇談会も開催された。

 そして1年目の後半、本来は2年目のステップであるはずの現場での伴走支援が、自然発生的に始まった。参加者同士の交流をきっかけに、他校の教師を自校の探究授業に招き、生徒の壁打ち相手を務めてもらうケースがいくつも生まれたのだ。例えば、初めて他校の教室に立った教師は、その場で起きたことに驚いたという。自校で同じことをするときとは、対話の広がり方がまるで違う。生徒は初対面の大人だからこそ、かえって率直に自分の問いを差し出してくるのだ。その教師からは、「プログラムで学んだことを、そのまま活かすことができました。ただ同時に、この子たちの学びはもっと深められるはずだとも感じました。そのためには、私たち大人のほうがもっと学ばなければいけない」という感想が聞かれたという。

 古川代表理事は、「探究活動に画一的なアプローチなどなく、目の前の生徒ごとにカスタマイズが必要です。参加者の言葉には、そうした認識の変化がはっきりと表れています。大人の心のエンジンが駆動する音は、こうした場面から聞こえてくるのだと思います」と話す。

 伴走支援を実際に行うには、現場のニーズを吸い上げてマッチングさせる仕組みが要る。モルタルと並行して古川代表理事が佐世保市内に設立した一般社団法人「Tsunagas(ツナガス)」が、佐世保市内の12の高校と連携協定を締結。モルタルが伴走者を育て、Tsunagasが学校からの依頼を受ける窓口となることで、公立・私立の別なく伴走支援の依頼が届く導線が整った。加えて市役所との協働により授業や講演に赴き、各種発表会の審査員も務めながら、各校へのPRを重ねている。課外活動においても、市内4校の有志生徒によるコミュニティ「Sasebo Change」の運営支援や、佐世保市の「若者活躍プロジェクト活動費補助金」に応募した高校生への支援など、伴走が求められる場面は数多い。

 1年目から2年目へのステップアップは強制されることなく、参加者は本格的な伴走支援の実践準備に入っている。「実践編では、市内12校に加え、スポットで入ってくるイベントなど頻繁に伴走の要請があり実践を重ねています」と古川代表理事は語る。参加者主導の企画も動き始めた。1期生であるフリーペーパー発行会社の社長は、自社が制作するフリーペーパーに高校生を編集メンバーとして迎え入れるアイデアを構想している。伴走支援を受けた高校生からは「私たちの活動を応援してくれる大人が、こんなにたくさんいることに驚いた。安心して活動できると思った」という声が届いた。

ファシリテーション演習の様子

高校生マイプロジェクト長崎サミットで発表した際の様子

佐世保市の宮島大典市長への活動の報告を行った

長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町でフィールドワークを実施

佐世保を「探究」が共通言語となる街に

 2027年度には、プログラム設計力とコミュニティ運営能力を身につけ、新たな参加者を自ら募集・運営する3ステップ目が始まる。このサイクルを回し続けることで、地域全体の探究支援のすそ野は広がっていく。地域の大人たちの支援を受けた高校生は、卒業して佐世保を離れても、その関係性が完全に途切れることはない。

 「今はまだ、大人の大多数が『探究』という言葉すら知らないのが現実です」と古川代表理事は言う。しかし数年後、高校生が街に出て「探究活動をしたい」と願い出たときに、「あ、探究ね。どんな問いを考えているのかな」という言葉が自然に行き交う——そんな街に佐世保を変えることが、目に見える最終目標だ。そのためには、カスタマイズが必要な探究活動と、手順が決まっている従来の学校教育との根本的な違いを理解し、高校生の主体性を引き出せる大人を、教師を含めて地域の中に増やしていく。そして学校や地域の文化として定着させていく必要があると同法人では考えている。

 今後は成果をより可視化することで、学校・自治体・企業などとの共同事業や委託事業、協賛を増やすなどの体制基盤の充実を目標としている。「年々、伴走を求める高校生が増えています。伴走者のメンタリングや振り返りの場なども整え、活動を拡張させながらも質は担保する方向へ進めたいですね」(古川代表理事)と、探究を街の文化にする取組みが続いている。

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