カテゴリー 22025年採択

株式会社イツノマ

対象者数 100名 | 助成額 948万円

Program 自分たちのまちは、自分たちで創る
まちづくり × 起業家教育 × 映像発信

  人口減少が加速する宮崎県高鍋町で、高鍋高校、高鍋農業高校の2校が連携するまちづくりチーム「NABEGO」を結成。高校生が地域資源を活用した事業企画力、起業家精神、情報発信力を身につけることを目指す。 自分ごとで未来のまちづくりを探究、起業家の協力を得てつくる企画を、高鍋駅、蚊口浜で実現させる。実現プロセスから専門家と映像を共創、発信。2校の高校生とまちづくり会社で一般社団法人を設立、探究から実現、経営まで継続実施できる先進的な体制をつくる。

【特徴】
1 未来のまちづくり企画を、まちづくりのプロと考え、高鍋駅・蚊口浜を拠点に実現
2 若者世代に共感性の高い映像制作会社と高校生で「NABEGO MEDIA」を立ち上げ、映像制作、全国に発信
3 高校生とまちづくり法人を設立、自ら企画した商品・サービスを販売、経営する

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活動レポートReport

起業家と高校生が取り組む人口減少地域の持続的なまちづくり

  宮崎県児湯郡都農町に拠点を置く株式会社イツノマが、近隣の高鍋町と連携をスタートさせたのは2023年のこと。町がJR九州から取得した高鍋駅を地域活性化の拠点として再生する構想が進む中、イツノマが駅の指定管理者である高鍋町観光協会より委託を受け、高校生と駅のにぎわい創出企画を担うこととなった。同社の代表取締役を務める中川敬文氏は、30代から建築の設計・不動産開発・ホテル運営を手がける会社の共同代表として活躍。その在職中に関わったプロジェクトは多岐にわたり、キッザニア東京の立ち上げや、イエナプラン教育を日本で初めて導入した学校のリノベーションを担当するなど、教育や地域づくりに関わるプロジェクトに携わってきた。都農町の町制100周年のグランドデザイン策定業務を請け負ったことを機に、2020年に同町へ移住し、イツノマを設立。現在は町のグランドデザイン、公共施設の企画・デザイン、公共空間を活用したマルシェ事業などを展開するとともに、その実践を小中学校の総合的な学習や地域クラブ活動の中で行うなど、「まちづくり」と「教育」を往還する独自の事業を推進している。

  こうした実績を見込まれて高鍋町から声をかけられた際、中川氏が提案したのが「高校生と一緒に取り組むまちづくり」だった。高鍋駅の乗降者の多くを高校生が占めており、「駅を日常的に使う高校生が居心地よく関われる場」をつくることが、にぎわい創出の最短ルートだと考えた。また都農町では中学生と地域づくりを実践してきた一方、高校が2021年に廃校になったことから、高鍋町では高校生を主体とした新たな挑戦を描いたという。

  高鍋町には、高鍋高等学校と高鍋農業高等学校の2校がある。高鍋高校は伝統ある進学校として知られる一方、近年は私立高校の実質授業料無償化や学区撤廃などの影響で定員割れが続き、高鍋町出身の入学者が減少している。高鍋農業高校もまた、生徒の獲得に苦悩している。両校の校長との話し合いを経て、町、学校、地域、イツノマが連携し、高校生が地域課題の解決や地域資源の活用に挑戦するまちづくりチーム「NABEGO(ナベゴー)」が2024年7月に発足した。

※ドイツで始まり、オランダで広く発展したオープンモデルの教育法。子ども一人ひとりの個性を尊重しながら、自律と共生を学ぶことを目的としている。

大人との対等な関係性が新たな事業を興す土台となる

  本プロジェクトは、イツノマの伴走のもと、高校生が地域資源を生かした事業企画やイベント運営、映像発信に取り組みながら、企画力や情報発信力、起業家精神を身に付けていくことを目的としている。将来的には一般社団法人を設立し、探究活動から事業化、運営まで高校生が継続的に活動できる体制を目指す。「AIやECを活用すれば人材不足や地方というハンデを克服できる現代において、問われているのは自分で何とかやってみようという起業家精神が持てるかどうかです。起業家というとハードルが高くなりますが、私は自分の責任で稼ぐ『自営業』も起業家であるととらえています。リアルな起業家と接する中でそのマインドを伝承していくことが狙いの一つです」と中川氏は話す。

  助成初年度の2025年度は「NABEGO」の高校生14人が、高鍋駅での月1回のマルシェ「月市」の企画・運営を中心に活動。高鍋町観光協会や地域の飲食店の協力の下、毎月第2日曜日に開催し、毎回200~300人が来場、平均売上は約40万円を記録している。高鍋農業高校による農産物や加工品の販売に加え、「パン祭り」や「学食で人気だったチキン南蛮パン復刻販売」など、高校生の発案による企画も好評を博した。このマルシェを通じて高校生に伝えたいのは、「稼ぐ」という体験だと中川氏は話す。「宮崎県では多くの高校がアルバイトを禁止していることもあり、高校生が自分の力で価値を生み出して対価を得る機会が少ないのが実態です。毎週定例ミーティングを重ねながら、企画・準備していき、協力してくれる大人たちと共に、高校生が交渉や仕入れ、事前打ち合わせなどの裏方も経験するという一連のプロセスは、教室では得られない学びだと考えています」。

  活動のもう一つの柱である情報発信では、動画プロジェクト「ナベゴーメディア」を展開。2025年度は映像制作会社の企画・伴走のもと、高校生が出演し、月市の告知や運営の裏側をユーモラスに紹介する動画をInstagramにて10本公開。1本あたり平均約5万回再生され、「ナベゴーメディア始動」と題した2本目は13万回再生、190件以上のコメントを記録するなど、大きな反響を呼んだ。助成2年目の2026年度は、高校生自身がテーマ設定から原稿作成、撮影、編集まで制作に深く関わる段階へと移行しつつあり、3年目の最終年度には、企画から配信まで高校生だけで自己完結できる体制を目指している。

  今や町の公式SNSと並ぶ注目度を集めているナベゴーメディア。中川氏は動画配信にこだわる理由を、「町で最も影響力のある媒体に育て上げたという『成果』を高校生が出していけば、大人は高校生を対等な存在として見てくれます。職場体験の延長で中高生に何かやらせる、中高生も言われたからやってみたでは、思考が停止してしまうだけです。成果を起点に高校生と大人をフラットな関係性にしていくことで、新たな事業を起こす土壌が生まれると考えています」と語る。

  その成果を出すうえでイツノマが大切にしているのが、「プロから学ぶ視点です」と同社COOの二川佳氏は話す。「高校生たちが一から考えたものでなければ楽しめないのではないかという議論も最初はありましたが、自分が少しでも関わったものに反響があると自信や次なる活動への興味につながることがわかってきました。すべてを高校生任せにするのではなく、プロと一緒に経験値を積んでいくことが大事だと考えています」。

高鍋駅で月1回行われる「月市」マルシェ。地元で採れた野菜を販売するNABEGOメンバー。

毎月のマルシェを楽しみにしてくれる常連さんも多い。

映像制作会社のプロから、SNSにおける動画配信のコツを学ぶ。

InstagramやYouTubeなどのSNSで展開するナベゴーメディア。高校生が地域の課題に本気で向き合う日々を発信している。

ターゲットは、「何かしたいけれど、居場所がない」高校生

  成果に対するハードルを高く設ける一方で、参加に対するハードルは下げているのも本プロジェクトの特徴と言える。そもそもこの活動のターゲットは、起業したいと自ら手を挙げたり、外部のコンテスト等に積極的に参加するような高校生ではなく、勉強や部活にあまり身が入らず、「何かしたいけれど、居場所がない」という高校生だと中川氏は話す。「参加は全くの自由で、動機は『暇だから』『友達に誘われたから』という子もいます。ふらっと立ち寄っては、やる気が出たり、出なかったりという波もあります。しかし、私たちはそのことに対して一切口を出しません。どんな切り口でも良いから活動に参加して、一つでも得る物があれば良いという思いでやっています」。その中でリーダーとしての資質を発揮し、学校で生徒会長を務めるようになった子もいれば、「それはできない」が口癖だった子が「こうすればできると思います」という言葉を使うようになった例まで、この1年間でさまざまな変化と成長が見られたと中川氏は話す。

  一方で課題もあった。定例ミーティングを行う高鍋駅まで距離がある高鍋農業高校の生徒はミーティングの参加率が低く、また農産物の収穫次第でマルシェへの出店が左右されたことが多かった。そこで2026年度は、同校のフードビジネス科3年生の課題研究と連動し、毎月1回の月市で、農産物の販売だけではなく農業体験や試食会など、自主的にイベントを企画・実施する取り組みをはじめている。

  2025年度の活動が話題になったことや、校内での周知に力を入れたこともあり、2026年度には新たに高鍋高校1年生12人がNABEGOに参加。従来の活動も加速化させたうえで、2026年度後半からは自走化に向けた取組みを本格化するという。これまでイツノマが中心となって進めてきた蚊口浜の藻場再生プロジェクトにも高校生が参画する予定だ。当初の予定通り、一般社団法人の設立も進めていく。「月市や藻場再生に関わる事業者を巻き込んで、協賛金など少しずつ支援を頂きながら、2027年度の法人設立に向けて動いていくつもりです」と中川氏。高校生が地域課題に向き合い、起業家や地域住民と協働しながら学びを実践するNABEGO。その経験は、地域への愛着や主体性を育むだけでなく、人口減少地域における新たな人材育成のモデルとしても、大きな可能性を秘めている。

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