学校法人沖縄科学技術大学院
大学学園
対象者数 50名 | 助成額 791.8万円
Program
昆虫バイオサンプリング研究
~高校生×昆虫データベース研究プロジェクト、データでつなぐ沖縄の未来~
沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らが進める昆虫類データベース構築プロジェクトに、沖縄県内の高校生が昆虫サンプルを収集し科学試料として提供するという形で参画する。
昆虫類は陸上生態系において多様な役割を果たしており、環境保全上重要な生物群である。亜熱帯の沖縄地域には多くの昆虫が生息するが、全ての昆虫に関するデータが揃っているわけではない。本プログラムで採集された昆虫サンプルがデータベース構築に使われることで、学術研究だけでなく外来種管理や希少種保全といった環境保全につながる技術開発に高校生が参加することになる。研究者側から高校生へ科学を伝える一方向のアウトリーチではなく、高校生と研究者、双方向の協働参画により研究を作り上げるプログラム。
年間を通したプログラムの中で、高校生が自分たちで昆虫採集の方法を考え、研究者らと協議を重ねながら課題を遂行していく。本プログラムを通して、高校生は科学的な知見を広げるだけでなく、国際的な科学研究に主体的に参画する経験を積む。

活動レポートReport
生物多様性を見つめる研究と、
高校生の科学への興味を結びつけるプログラム
沖縄科学技術大学院大学(略称OIST)は、「世界最高水準の研究」と「沖縄への貢献」という二つの軸を掲げて2011年に設立された、理工学分野の5年一貫制の大学院大学だ。80以上の国と地域から幅広い分野の研究者・学生が集まる国際的かつ学際的な研究環境を活かし、沖縄におけるイノベーションを促進するとともに、学術界だけでなく産業界など多様な分野でリーダーシップを発揮できる人材の育成を目指している。
「オープンドア(開かれた大学)」を理念とする同学は、地域連携や科学教育の専門機関としてアウトリーチセクションを設け、小中学生や高校生、大学生、社会人を対象に、多様な教育プログラムを展開している。今回、本プログラムを運営するのは、同セクションではなく、野外での調査研究活動を支える海洋・陸域科学セクションである。「その背景には、生物多様性モニタリング研究を継続する上での課題がありました」と語るのは、自身もアリなど群集生態学を専門に研究を続けてきた諏訪部真友子氏だ。
OISTでは約10年前から沖縄島全域において昆虫や鳥類、哺乳類、植物など多様な生物を対象に、野外でのモニタリングを続けてきた。モニタリングを継続的に行っている調査サイトは24カ所に限られている。これまでも、県内各地で土地所有者との連携のもとにモニタリングを行い、その成果を地域のイベント等で発表するなどして還元してきたが、研究機関だけで広域かつ継続的にデータを集めるには限界があった。そこで着目したのが、沖縄の高校生との協働だったという。
「沖縄島内でも地域によって生態系が異なり、採集できる昆虫も異なります。各地で生活し、フットワークの軽い高校生と協働することで、より多様な試料を得ることが期待できます。高校生たちにとっても、私たちが蓄積してきた知見やノウハウを提供しながら、昆虫という身近な存在を通じて科学研究に触れる機会が得られるという、両者に価値をもたらすプログラムとして設計しました」と諏訪部氏は語る。
OISTの大きな特徴が「国際性」と「学際性」だ。教員や学生の半数以上を海外から受け入れ、英語をベースに文化的・知的多様性に富んだ教育研究が行われている。また、研究分野間の壁を撤廃するため、学部を設けることなく、幅広い分野の科学者が交流・連携しながら世界最高水準の研究活動を行っている。提供:沖縄科学技術大学院大学(OIST)
昆虫類は陸上生態系で重要な役割を果たしているが、近年、世界規模の環境問題により種の減少が危惧されている。OISTは生態系豊かな沖縄において継続的なモニタリングを行い、約6万点に及ぶ標本を所有。プログラムに参加する高校生たちは、その過程で蓄積された知見やノウハウを教わりながら、科学研究への興味・関心を深めている。
ワークショップから採集、そして成果発表へ。
探究を深める中で科学への関心が高まる
本プログラムは、参加希望者を集めてのキックオフワークショップで始まり、その後、参加各校を訪問しての指導を経て、学校・生徒単位での昆虫採集を継続し、最後に成果発表会を行う、という流れで進められる。
幕開けとなるキックオフワークショップは、6月にOISTキャンパスにて開催された。その際、プログラムの概要説明に加え、OISTや研究活動そのものに親しんでもらえるよう、キャンパスツアーや研究者による研究紹介も実施。高校生が科学研究の最前線に触れる貴重な機会となった。
プログラムへの参加を決めた学校や生徒に対しては、OISTのメンバーが個別訪問により昆虫採集や分類などの進め方を説明・指導。そこで得た知識を駆使して、7月から高校教員の支援のもとに各地で昆虫採集や観察、分類が進められた。OIST側も日々、メールで高校教員と連絡を取り合い、生徒からの疑問や質問に答えつつ、必要に応じて学校や採集場所を訪問して直接指導する中で、生徒との交流を深めていった。「はじめはあまり熱心でなかった生徒が、希少な昆虫を見つけたことで面白くなり、その種に興味を持ち深掘りしていくといった姿勢も見られます。何がきっかけで、どこに関心を持つかは一人ひとり異なるので、注意深く声掛けするよう心掛けています」と、同セクションの技術員を務める小笠原昌子氏は語る。
約半年の採集活動を経て、2026年1月にはOISTで成果報告会が開催された。OISTからは本プロジェクトの関係者だけでなく、幅広い研究者が出席し、生徒たちの発表結果に多くのコメントや質問が寄せられた。
さらに3月には、希望者を対象に日本生態学会への参加機会も設けている。最終日に開催されたポスター報告会では、学会に参加した第一線の研究者から直接、質問や助言を受けた。「最初は緊張していた生徒たちも、何度か説明を繰り返すうちに発表がどんどん上手になっていきました。引率の先生方からも、学会でさまざまな意見や研究に触れたことで、生徒たちが新たな視点や気づきを得たことを喜ぶ声が聞かれました」と諏訪部氏は振り返る。
キックオフワークショップでの研究紹介は、OISTの公用語である英語で行われた。同時通訳も可能だが、あえて逐次通訳とすることで、国際的な研究環境の空気に触れられる機会にしている。実際、参加した生徒たちからは活発な質問があり、「自分たちも英語で発表してみたい」という声も上がるなど、国際意識を養う機会になったという。
採集活動は学校単位で行われるが、秋口には各校の生徒が昆虫採集の方法を実践的に学ぶワークショップを企画。スケジュールの都合で4校中2校の参加となったが、普段は別々に活動する生徒同士の交流の機会になった。「生徒同士の交流は活動を継続・拡大する上で重要なテーマだと思っているので、次年度以降も様々な形で検討していきます」(諏訪部氏)。
成果報告会では、高校生が自らの調査結果をまとめ、来場したOIST研究者に向けて発表。研究者からの質問・指摘だけでなく、生徒同士での質問も活発に行われた。主催者側が意図したものでなく、他校の発表を聞いた生徒から自然発生したもので、学校の枠を超えて刺激を与え合う場となっていた。
希望した生徒は日本生態学会に参加し、ポスター発表を経験した。学会に参加した第一線の研究者から直接意見や指摘を受けたことで、自分たちの研究をさらに発展させたいという意欲が高まり、「この研究をどうすればブラッシュアップできるか」と生徒同士で語り合う姿が見られたという。
現場での気づきをもとに改善を続けながら、
将来を見据えた持続的な活動へ
初年度となる2025年度は、それまでの活動で交流のあった教員から県内の他校を紹介してもらう形で参加校を募り、キックオフワークショップには4校から計80名の生徒が参加。「総合的な探究の時間」といった授業単位で参加した学校もあれば、校内で希望者を募って課外活動として取り組んだ学校もあるなど、参加形態はさまざまで、昆虫や科学への関心度合いにも幅があったという。こうした中で、約50名の生徒が実際に採集活動に取り組み、成果報告会には25名、日本生態学会には2校から7名が参加した。
参加者からは「少しやり方を変えるだけで、より多様な昆虫を採集できる。いろいろ自分で試してみたくなった」「昆虫という身近な存在が、世界的な研究テーマになっていることが実感できた」といった感想が聞かれ、科学研究への興味・関心の深まりが見て取れるという。
一方で、初年度の活動を通じて見えてきた課題もある。高校ごと、生徒ごとに関心の深さや経験値に差があり、それぞれの習熟度に応じて必要な支援の程度・内容を変える必要があることが分かった。そこで2026年度は、生徒自ら研究を進める「自走型」と、OISTの支援を受けながら進める「伴走支援型」を選択できる仕組みに改めた。特に伴走時に重視しているのが、研究テーマ設定への支援だという。「当初は野外調査の進め方や分類など技術的な支援を中心に考えていましたが、実際には技術面だけでなく、研究テーマの設定に関しても学校から質問や相談が多くありました。ただ昆虫を採って分類するだけでなく、そこからどのような問いを立て、どのような研究にしていくかが重要であり、テーマ設定の段階から一緒に考えていくことが大切だと気づかされました」と諏訪部氏は語る。
将来的には、本プログラムを各学校の探究授業などで自走できるようパッケージ化し、県内の高校に横展開していく構想を描いており、すでに初年度の内容をもとに、教員や生徒向けの実施要項やマニュアルを整備している。「私たちの大きな目的は、沖縄での生物多様性モニタリングを持続可能なものにし、生態系保全に資する研究成果を導くこと。地域の高校生が沖縄の自然環境を見守る当事者となって、私たちとともに貴重な生態系を支え続けていく、そんな仕組みをつくっていきたいと考えています」と諏訪部氏は展望を語った。
2026年度からは、採集成果の向上と学校同士の交流促進を図る目的で、OISTが活用している捕虫トラップを参加各校に提供。地域ごとに採集されたサンプルを比較検討する場を設けることで、研究テーマ設定にも他校との連携を意識する生徒が増えているという。
参加者の中には、昆虫に対する知識が豊富で主体的に取り組む生徒もいれば、興味はあっても経験がなく「自分でもできるだろうか」と不安を抱く生徒もいるという。「私自身がもともと研究者ではないので、そうした生徒たちの不安に寄り添い、ちょっとした工夫を重ねることで、面白い結果を導ける喜びを伝えていきたい」と小笠原氏(写真中央)は語る。

成果発表動画Presentation
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