カテゴリー 42025年採択

岡山大学教育推進機構
外国語教育部門

対象者数 160名  | 助成額 159.8万円

Program 多読と対話による学びのコモン創出プログラム
~図書館を拠点に学生と地域が共に学び、未来を拓く~

  本プログラムは、大学図書館を「学びのコモン(共有地)」として再構築し、学士課程を通じた複数の英語科目を繋ぐ読書および対話型の教育プログラムである。図書館を拠点に、学生・留学生・地域住民が交流し、正課内外の学びを有機的に接続することで、学部学科を越えた学びのコミュニティを形成する。英語多読と対話活動を組み合わせ、学生が読書体験を他者と共有する中で、自らの内面を深め、思考を広げる機会を提供する。

  2025年度に始動した新カリキュラム「Target2025」では英語科目が一般教育の中核を担っており、本プログラムはそれらを結び、学びの断絶や孤立を防ぎながら、学びの継続性と協働性を高める枠組みを提供する。不確実な社会を生きる若者たちの成長を支える新たな学びのモデルとして、大学における教養のあり方を築くことを目指す。

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学内の大きな資産を活用し、
「英語多読と対話」というスタイルを浸透させる

 10学部・1プログラムを擁する岡山大学では、教育推進機構が共通教育や外国語教育など全学的な教育機能を担っている。その教育推進機構は2025年度に、高校の新学習指導要領の下で3年間「主体的・対話的で深い学び」に触れた学生の入学にタイミングを合わせて、新たな学士課程教育カリキュラム「Target 2025」を導入した。1プログラムを除く10学部において英語科目9単位が卒業要件となっているという事実は、同大学がいかに英語教育を重視しているかの表れではあるが、「授業の中だけで終わってしまっては、学習者の主体的な学びは生まれません」と構想段階から本改革に携わってきた教育推進機構外国語教育部門長の寺西雅子教授は語る。寺西教授は、複数の英語科目をシームレスに繋ぎ、授業外にも学びの場が広がるような学生たちのコミュニティを形成する必要があると強調する。

 そうした考えから、寺西教授と同部門の吉田安曇講師が本プログラムの中心に置いたのは、「英語多読と対話」という学習スタイルだ。英語多読とは、やさしい英文を、辞書を引かずに、たくさん読み進める学習法だ。日本では2000年代以降、さまざまな教育現場に広がり、現在では、英語教育における主要なアプローチの一つとして定着している。

 本プログラムにおいては、多読だけで終わるのではなく、その内容を共有し合い対話につなげる「Book Talk」を加えている点が特徴と言える。同大学の図書館には10数年かけて蓄積された1万冊以上にも及ぶ多読用の英語書籍が所蔵される「語学学修スペース」があり、そこに隣接する「ラーニングコモンズ」、一般教育棟には「L-café」や「A12教室(自学自習室)」など、学生の学習や交流に活用できるスペースもある。こうした長年にわたって学内に整備されてきた図書や学修スペースを有機的につなぎ、学生の学びと交流の場として活用する形で設計されている。「図書館を学びの拠点として再構築し、キャンパス内に学生たちの学びのコミュニティを形成すること。さらに留学生や地域社会も巻き込みながら、継続的な対話の場を創出することを目指しています」と寺西教授は本プログラムの目的を語る。

本プログラムでは、図書館を多読と対話による学びの拠点として活用。図書館内には1万冊以上の多読用英語図書を所蔵する「語学学修スペース」などがある。

図書館で実施している授業の様子。グループに分かれて、多読とBook Talkを行う。

正課外の学習・交流スペース「L-café」で、読んだ本について共有し合っている学生たち。

必修科目を入口に、選択科目、L-café、ワークショップへ

 2025年度は、1年生の必修科目「コミュニケーション英語」の履修者約2,300人が、自律学習の課題として多読に取り組んだ。またこの取組みに伴い、図書館の貸出冊数が前年の約2.2倍に増加した。この中からさらに一歩踏み出した学生たちは、3学期から選択科目「キャリアパス英語」をはじめ、「多読と対話」を取り入れた授業に参加し、読むことから対話へと学びを広げていく。また正課外では「L-café」で週に2回開催された多読レッスン、年間10回開催されたワークショップに参加した。「ワークショップは、電子書籍にフォーカスした回や、冬の物語を集めた『クリスマス編』など、毎回テーマを設けて開催しました。クリスマス編では、欧米の子どもたちの冬の過ごし方を一緒に読み、ドイツの伝統菓子シュトーレンを味わいながら感想を共有しました。大変盛り上がり、参加者からは『来年もぜひやりたい』という声が上がっていました」と吉田講師は振り返る。

 選択科目、L-caféでの多読レッスン、ワークショップのいずれかに参加した学生の総数は約100人。当初目標とした160人には届かなかったが、その中から学びのリーダーとして活動する学生が育ってきたことは次につながる成果と捉えているという。初年度は教育学部の学生が中心となり約10人が手を挙げてくれた。中でも大学院生を中心とするコアメンバー3人は、教員志望という背景もあり、L-caféでのレッスンを自ら設計して実践、ワークショップの企画や司会、ポスター制作まで自発的に行った。定期開催の作戦会議では、参加者を増やすアイデアを出し合い、レッスンの運営も自分たちで調整した。吉田講師は「ワークショップでは、最初の1、2回は私が司会をしていましたが、その後はコアメンバーにお願いしました。作戦会議でワークショップの周知方法を話し合った際は、『Instagramを立ち上げましょう』という提案があり、あっという間に実行してくれました。私には全くなかった発想だったので、とても感心しました」と学生リーダーの成長を語る。

 1年を通して多読を学生に促した結果、多読の量や質にも深まりが見えてきたという。「恐竜の本ばかりを選んで読んでいた学生がいました。恐竜の種類から生態、絶滅の謎、化石発掘者のドキュメンタリーへと読書の世界が広がるにつれ、Book Talkでの語りも生き生きとしていきました。その熱は周囲の学生にも伝わり、恐竜の本を手に取る学生が現れ、読書の輪が広がっていきました。本の選択と他者との対話は自己決定力を育むことにつながっていきます。多読と対話という活動は単に英語力を上げるためのものではなく、そうした自己決定の積み重ねの場でもあるのです」と寺西教授。 「多読と対話」では、短時間で読める本も大切にしている。L-caféのレッスンに参加した学生からは「すぐに読めてしまう本であっても何かしら発見があり、人と話すのが楽しくなった」という声が聞かれた。

英語多読ワークショップを進行する学生リーダー

冬やクリスマスをテーマにした多読ワークショップの様子。シュトーレンを囲みながら、クリスマスの本を読み、感想を共有した。

学内から地域へ、多読と対話がつながる未来図

 2年目を迎え課題として浮かんで来たのが、リーダー育成の質的な深化だ。イベント運営は担えるようになってきたものの、次の段階として他の学生を本格的に支援するためには、自身の経験を基に助言ができる力量が必要となってくる。そうしたハードルをクリアするため、2026年度にはリーダー対象の読書会や研修的活動を定期的に設け、役割の遂行から活動への深い理解へと段階的に高めていく計画だという。また、リーダーが教育学部の学生に偏っていた点に関しては、既に経済学部の学生が新たなリーダー候補として活動を始めたほか、学部を越えて集まるリーダー同士の繋がりづくりにも取り組んでいる。コアメンバー3人は継続して活動するが、そのうち2人は年度末に卒業を控えており、次世代の育成も急がれる。

 2026年度は、2年生の必修科目「アカデミック英語」の履修者も合わせて約4,500人が多読を必修科目内で体験することとなった。また共通科目「市民性と異文化理解」でも多読と対話が取り入れられるなど、英語科目の外にも広がりが生まれつつある。L-caféのレッスンは週3回に増え、9月には英語教員だけでなく、工学部などの専門分野の教員や図書館スタッフも対象に含めた大規模なイベントが開催された。「専任教員が授業で関われる学生はほんの一握りです。多読や対話を一部の授業や教員だけの取り組みにするのではなく、非常勤の先生方や職員の方々ともその意義を共有しながら、学生がさまざまな場所で本と出会い、人と語り合える環境をつくっていきたいと思っています。一人ひとりの学びを深めることと、その学びを支える場や人の輪を広げること、その両方を進めていきたい」と寺西教授は語る。

 また、文部科学省の「大学の国際化ソーシャルインパクト創出支援事業」との連携により、留学生と日本人学生が共に多読と対話を行う「共修多読」の取組みも始まっている。「留学生と一緒に多読と対話を行うことは、英語を使うモチベーションを高めるとともに、異文化理解の実践の場としても機能します」と寺西教授。共修多読を選択科目として正式に位置づけるカリキュラム整備も進んでおり、多読活動の裾野はさらに広がりつつある。さらに多読本が充実する岡山県立図書館や公民館など、地域との連携も長期的な視野に入っている。その担い手として期待されているのが教育学部の学生たちだ。教育実習で中学校を訪れる際に多読の本を持参し、生徒たちに実践してみせる学生も現れている。多読を授業に取り入れている中学校・高校も現れ始めており、学内で育まれてきた多読と対話の取組みをキャンパスの外へとつなぎ、中学生や高校生、さらには地域へと循環させていくことが、長期的な構想として描かれている。

「とにかく多くの人に多読を知ってもらい、楽しいという印象を持ってもらいたい。そういう人が増えるほど、この活動は大きなものになっていくはずです」と吉田講師。英語の本を選び、読み、語り合うというシンプルな活動が、学内外の図書館を拠点として広がっていく未来図を描いている。

 

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