カテゴリー 42025年採択

国立大学法人筑波大学

対象者数 60名  | 助成額 100万円

Program 研究学園都市全体で構築する人材育成・交流モデルの提案
~つくば型チュートリアル学修の実装による知の連鎖と循環~

  時代の趨勢を受けて本学では、イギリスをはじめとする教育事例調査を蓄積しながら「つくば型チュートリアル学修」を構想し、初年次向け授業として2024年4月、伝統的なチュートリアルと現代的なアクティブラーニングのメソッドを組み合わせた新たな初年次向け全学科目「学問探究チュートリアル」を開設した。この中で、批判的思考力を鍛え上げるチュートリアルとチュートリアルのみでは鍛え上げることのできない協働力を育むための学修方法を両立させた。この授業では、学生それぞれの内なる問題意識を出発点とし、探究したい問いをみずから定め、その問いの周辺領域まで学ぶことで視野を広げ、複眼的な思考過程(how to think)を修得することをめざす。その肝となるのは、ソクラテス的問答法を用いた対話型学修であるチュートリアルセッションである。自然科学から人文・社会科学そして体育・芸術といった幅広いディシプリンを網羅する国立総合大学の強みを活かして、全学一丸となってプログラムの運用にあたる。

  本助成を得ての今後の展開として、研究学園都市全体の資源を活用した地域一体型の人材育成・交流モデルの構築をにらみ、学内の人材育成および学外との人材交流に力点を置いて、運用体制を強化していく。

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履修者が年々増加をたどる「学問探究チュートリアル」

 筑波大学が今後約10年間をかけ、全学的な実装を図る「つくば型チュートリアル学修」は、学生一人ひとりの学修をサポートする個別指導により、未来をデザインし社会を変革できる人材の育成を目指す新しい教育モデル。そして「学問探究チュートリアル」(以下本プログラム)は、その第一歩として開設された1年次向けの選択履修科目で、ワークショップや教員との個別の対話を通じて学生の興味関心を見定め、多様で奥深い学問に導いていくことを目的としている。

 パイロットプログラム的にスタートした2024年度は、36人の履修生に対して全学群(学部に相当)から選出されたチューター教員が約30人という体制で臨んだ。履修生の反応は好評で、履修生の数も助成が開始された2025年度には41人、2026年度は71人と順調に増加している。

「新入生オリエンテーションや学生主体の新入生歓迎祭での周知が図られたことが大きな理由でしょう。特に後者の歓迎祭では、受講経験者である先輩学生の生の声を聞けたことが効果的だったと思われます」と語るのは、チュートリアル学修推進委員会の委員長を務める坪内孝司特命教授。履修後にSA(ステューデント・アシスタント)になる希望者は、2026年度は20人と2025年度履修者の約半数に達し、履修生が次年度以降の運営に関わる循環も着々と育ちつつある。

「グループワーク+少人数チュートリアルセッション」が特徴

 そもそも「チュートリアル」とは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学といった英国の大学で行われている、教員との徹底した対話や議論を中心とした少人数の教育方法。本プログラムでは、そうした個別対話セッションの前にグループによるワークショップを配置した点が特徴となっている。「対象が1年次の学生ということもあり、教員や学生同士の対話への心理的ハードルを下げていく狙いがあります。入学早々『あなたはどんなことを学びたいですか?』と問われても即答できる学生はなかなかいないと思われます」と坪内特命教授はその理由を語る。

 初回と2回目の授業では、ガイダンス、サイコロトークによるアイスブレイクセッションを経て、チューター教員が自らの学問の道のりを語る「学究人生紹介」のワークショップが行われる。普段なかなか耳にする機会のない研究者のパーソナルな話題に触れ、履修生はこれから自分が歩む学究の世界を思い描く。

 3回目の授業では、前半のメインとなる「地球規模課題 de How to Think」というワークショップが始まる。まず5~8人ずつのグループに分かれ、それぞれのチューター教員から話題が提供される。「その時点では、教員の専門分野に基づいて、例えば貧困や戦争、平和、幸福、愛といった範囲の広い話題を提供しています。それに対して思いついたアイデアを各人が付箋に書いてホワイトボードに貼っていき、その内容を基にディスカッションをしてグループ全体で扱うテーマを絞っていきます」と、本プログラムを設計・運用するコアメンバーの一人である棚橋沙由理准教授は語る。重要なのは、各グループがさまざまな学類の学生で構成されている点だ。多様なバックグラウンドを持つ学生が対話することで、同じテーマでも見え方がまったく異なることを体感的に学ぶ。

 4回目の授業では、各人が考えてきたアイデアをA4判用紙にそれぞれ素早くまとめ、グループ全員分を、ポスター(A0判イーゼルパッド)上にレイアウトする。続いて行われるポスターツアーでは、各グループから1人ずつで構成される新たなツアーグループで各ポスターを巡り、自分のグループが作成したポスターの前に来ると、ツアーグループ内で他のメンバーに対してプレゼンテーションする。「その際、自分が書いた内容だけでなく、他のメンバーが書いた内容も自分の言葉で紹介します。他者の考えに傾聴し、それを言語化して伝えることも、内容理解に効果があるからです」と棚橋准教授は語る。

「地球規模課題 de How to Think」の様子。学生たちは地球規模の課題にアプローチするアイデアを付箋に書き出し、グルーピングしながらテーマを絞っていく。

ポスター完成後には、新たなグループを作って、クラス全体のポスターを見て回るポスターツアーを実施。自分のグループが作成したポスターの番では、その内容について発表を行う。各回、プレゼン5分+質疑応答10分の計15分で行った。

 次の5回目の授業では、大学生活でどんなことを究めたいかをデザインする、初めての「学修プラン作成」にとりかかる。ただし、ここでプランを完成することを強く求めてはいないと坪内特命教授は語る。「むしろグループワークでの発散と、その後のチュートリアルセッションでの収束を繰り返しながらプランを醸成させていくことで、2・3・4年生、さらには大学院に至る学修プロセスを思い描いてもらいたいと考えています」(坪内特命教授)。

 7月になると、学生それぞれが選んで参加する「選択制アクティビティ」が始まる。2025年度までは少人数によるチュートリアルセッションが行われていたが、2026年度に内容を一新した。7月になると全学生に共通した時間割の設定が難しく、運用上の困難に直面したという事情もあるが、本プログラムの目的の一つである、研究学園都市全体の資源を活用した地域一体型の人材育成・交流モデルの構築という点においても、非常に良い試みになったと坪内特命教授は振り返る。「ミュージアム・ビジット」と名づけられたアクティビティは、2026年度は4カ所で行われた。国立科学博物館の筑波実験植物園、農研機構の食と農の科学館、高エネルギー加速器研究機構、産業技術総合研究所では地質標本館とAIST-Cubeを見学して、各施設の研究員の学究人生や生活などについてもお話を伺った。その他、学内においても4つのワークショップを新たに企画し、学生はこれらのアクティビティの中から150分×2回分のコマ数(ミュージアム・ビジットは150分、ワークショップは75分)を受講する。「設定コマ数を超えた履修も可能にしたところ、大半の学生が設定以上の受講をしていました。多くの学生が、異なる分野の学生と学び合う魅力や意義を感じてくれた結果だと思います」(棚橋准教授)。

6~7月の水曜日に行われた「ミュージアム・ビジット」。2026年にリニューアルされた農研機構の「食と農の科学館」でのワークショップの様子。

加速器を使って基礎科学を推進する「高エネルギー加速器研究機構」でのワークショップ。「BellⅡ測定器」や「フォトンファクトリー」といった最先端大型機器を見学しながら、研究員のお話を聞いた。

「産業技術総合研究所」では「地質標本館」と「AIST-Cube」という2つの展示施設を見学。同大学卒業生の研究やサイエンスコミュニケーションに関する説明を聞いた。

学内では、図書館の大学院生ラーニング・アドバイザー(LA)から大学院生活や研究活動などのお話を聞く「ワークショップwith図書館LA」(写真)、学修プランのブラッシュアップを行いながら夏休みのアクティビティを考える「学修プランブラッシュアップワークショップ」、企業に勤務する社会人大学院生から大学での学びを職場でどう活かすかを聞く「チュートリアルとキャリア」、哲学を基盤とした対話法を体験する「哲学対話deチュートリアル」の4つのワークショップ(75分枠)が行われた。

2対2のチュートリアルセッションが行動・意識変容のきっかけに

 夏休み明け最初の授業では、改めて学修プラン作成のワークが行われる。選択制アクティビティでの体験や、夏休み中のさまざまな経験を踏まえて、再び自らの学びに向き合うわけだが、ここでもまだ決めきる必要は全くないと棚橋准教授は語る。「バックキャストして、自身の学びを設計する思考の習慣をつけることを期待しています。与えられた課題をこなすという高校までの学習経験の延長線上にある1年生のうちは、やりたいことが固まらない状態を否定せず、他者との対話などで自分の関心を見つけ直す支援をするのが、本プログラムにおける我々のスタンスだと考えています」。

 2度目の学修プラン作成が終わると、いよいよ教員2人と学生2人によるチュートリアルセッションが始まる。2対2という形にしたのは、1年生であることを考慮し、1対1では緊張して対話が進まない恐れがあると考えたからだ。学生のグルーピングに関しては分野が近い2人を組ませ、教員は学生の関心に近い分野から1人、あえて少し遠い分野から1人を組み合わせている。異なる角度からの視点を入れることで、対話に膨らみを持たせるためだ。そうしたことで、学生も安心して対話に参加し、話が盛り上がるケースが多かったと棚橋准教授も語る。「1人が話をしている脇から、もう1人が疑問を呈したり、異分野の先生から意外な見え方を提供されたりしていて、このグルーピング方法は成功だと感じています」。

 本プログラムの履修を希望した学生へのアンケートによると、その動機は「大学入学前から興味を持ってきた分野についてさらに深い学修を進めたい」、「大学での学び方の方向性を見つけたい」、「複数の分野に興味があり学際的な学び方を組み立てたい」という、およそ3つの類型に分類されると坪内特命教授は分析している。そして、受講後の学生からは「物事を具体的に考える癖がついた」、「多様な視点があることが分かった」などという声などが聞かれ、「研究における成果よりも、行動や意識の変容に対する感想が多く、そういう点では狙い通りの結果が生まれています」(棚橋准教授)。

「本プログラムにおいて、学生の内発的な動機を醸成して創発を促すことが、通底するフィロソフィーです。また、そうした学びの姿勢を1年次のうちに促進させることが、学士課程を通貫する『つくば型チュートリアル学修』という最終形の実装に向けて非常に重要であり、良いスタートを切れていると感じています」と、坪内特命教授。

 次年度以降の展開として、「外的な環境は醸成されつつあり、コラボレーションを順次増やしていこうという全学的動きが始まっています」と坪内特命教授。実際に研究機関側から、個別に1年生向けの研究紹介をしたい旨のリクエストがいくつか来ているという。また、「筑波研究教育機構(仮称)」の立ち上げに向けた覚書が3月に締結されたこともあり、「つくば型チュートリアル学修」の実装だけでなく、筑波研究学園都市の各機関との研究的な結びつきの強化を進める入口として、本プログラムに期待する機運は学内外で高まっている。

「全学導入を予定している『つくば型チュートリアル学修』は、ステップ1から6までの段階で構成されており、本科目はそのうちのステップ1・2に位置づけられます。今後10年かけてこの学修法を筑波大学全体に実装していく過程で、教育改革によって生まれた成果や変化を積極的に社会へ発信し、筑波研究学園都市内の企業や研究機関からの支援が得られるような環境づくりにも取り組んでいきたいと考えています」と、坪内教授は10年後を見据えた構想を語る。

教員2人と学生2人によるチュートリアルセッション。新入1年生であることを考慮し、1対1では緊張して対話が進まない恐れがあると考え、2対2という形にした。

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